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2話(41話) 製作工房からの訪問者

 そんな二人の心臓が鎮まるのと同時に、アレイシオが再びジニらの元へとやってきた。

 彼の後ろには、一人の男性の姿が見える。


「おい、エラ。オグデンが来たぞ」

「……は、はい……」


 心臓を抑え、ジニはしゃがんでいた腰を上げ、ふらりと立ち上がる。


「そういや、お嬢さん。さっき本館でオグデン(コイツ)には会ってるか?」


 アレイシオはマーシアに、自分の後ろにいる中年男性を親指で指し示す。


「いえ、初めてお会いいたします」

「そうか、じゃあついでに挨拶しとくか。コイツはオグデン。俺らの開発した魔法製品を製作、商品化してくれる製作工房の総合部長だ」

「やあ、初めまして! ハロルド・オグデンです」


 アレイシオの後ろから、ハロルドはひょっこりと顔を出した。

 ハロルドは、人好きのする顔立ちの、見るからに朗らかそうな男性だ。気になるのは、お腹に食い込む作業着のサスペンダーが少々苦しそうなことくらいか。


「オグデン。こっちのは俺の部署の新人、ジニ・エラ。で、こっちのお嬢さんは魔材調達部所属の、マーシア・ウォルジーさんだ」

「はっはっはっ! エラ君にウォルジーさんか、どうぞよろしく!」

「よろしくお願いします!」

「オグデン部長、よろしくお願いいたします」


 ハロルドは二人に気の良い笑顔を向けると、ふと後ろを振り返り、目を丸くした。


「あれ? そういえば、()()()()()()はどこにいったかな?」

「カルリエド? ああ、さっきお前と一緒にいたヤツか?」

「ああ、正に。いい機会だから、新商品命名の瞬間に立ち会ってもらおうと連れてきたんだけど……」


 ハロルドは心配そうな面持ちで、眉尻を下げる。

 

「そんなに心配しなくても平気じゃないですか? そいつ、俺らと同い年ぐらいなんでしょ?」


 ジニは、ハロルドの様子を怪訝そうに見つめる。

 まさか、その年頃で迷子になったわけでもないだろうに。


「うん……そうしたいのは山々なんだが、彼は──」


 ハロルドが何かを言いかけた時、工房の外から複数人の女性の声が聞こえた。



「ん、何だ? 魔法服開発部んとこの女子達か?」



 外を確認するため四人が外へ出ると、アレイシオの予想通り、魔法服開発部の女性数名が木の脇で一人の男性に群がっていた。中にはアデルもいる。


「ねぇ、ちょっと! 本当にあなたハンサムね! もしかして、ハーフ? その顔立ち、ロドエの血だけじゃないでしょう?」


 見ると、女性陣の一人ミア・サントスが、困惑する男性に黄色い声を浴びせていた。


「あ、あの……」

「うわ〜、それに見て! 彼の綺麗な目! まるでエメラルドみたい!」

「え……あ……そ、その……」


 同じく女性陣のイザベラ・ファーロンが、うっとりしながら男性の瞳を見つめる。


「……ああっ、カルリエド君!」


 群がる女性陣の隙間からカルリエドなる人物を発見したハロルドは、彼に向かって大声で叫んだ。


「あっ……オ、オグデン、ぶちょ…………」

「あらっ、オグデンさん! ご無沙汰してま〜す!」


 ハロルドに気付いたミアは、一段高い声で彼に笑顔で挨拶をする。


「なあ、何があったんだ?」


 挨拶を交わす彼らの後ろで、ジニはこっそりとアデルに状況を聞いた。


「さっきね、ミアさんがいきなり『窓の外にハンサムが!!』って叫んで工房から飛び出したの。それに続いた野次馬のイザベラさんに、私まで連れ出されちゃって。だから今、こうしてそのハンサム君を見に来てるってわけ」


 アデルは苦笑を溢し、腕を組んで噂のハンサムボーイに視線を送る。


「ふーん。ハンサム、ねぇ……」


 それは、自分よりもいい男なのか。

 気に食わない素振りでジニは下顎を突き出し、カルリエドという人物をじっと見遣る。

 

 女性に囲まれ狼狽えている彼は、癖のある黒髪に褐色の肌が特徴的で、イザベラが騒いでいた通り、その双眸は美しい翠色。

 極め付けはスッと通った鼻梁に、均整の取れた顔立ち。確実に一八〇センチ近いであろう高身長。作業着ですらサマになっている。


 ジニはがくりと項垂れ、歯を軋る。


「や、やるじゃねぇかよおぉ……」


 これはさすがに認めざるを得ない。

 まごうことなき色男。完敗である。



「おーい、君達。ちょっと前に来ておくれー」

 


 その時、ハロルドがジニら若者(ティーンズ)三人組を呼びつけた。


「君達、紹介しよう。彼はファビオ・カルリエド君。二ヶ月前に入社した、製作工房の新人だ」

「…………」


 ハロルドに肩を持たれ、ファビオは身体を竦めながら棒立ちしている。


「二ヶ月前に入ったんだ。じゃあ、マジでお前、俺らと同い年っぽいな。あっはっは、よろしく! 俺、ジニ・エラ」

「マーシア・ウォルジーです。よろしくお願いします」

「…………よ、よろしく、お願い、しま、す…………」


 ファビオは横に視線を逸らし、もごもごと二人に挨拶を返す。


「私はアデル・ブラウナーです。よろしくね、カルリエド君!」


 アデルは自慢の快活な笑顔をファビオに向け、彼に挨拶をした。


「…………ッ?!?!」


 ふいにアデルと目が合ってしまったファビオは、突如として全身石のように固まる。

 アデルは彼の反応に、思わず首を傾げた。


「あっ! もしかして、緊張してる?」

「…………! や、そ……そん、な……」

「あははっ、人見知りなんだ! 大丈夫だよ! ほーら、リラックスリラックス!」

「…………ッ!?」


 アデルに肩をバシバシ叩かれ、ファビオはたちまち顔を真っ赤にし──



 ボンッ!! と、その場から消えた。



「……へ?」



 そう。消えたのだ、ファビオは。



 当然彼がいなくなり、目の前にいたアデルを始め、その場に居合わせたハロルド以外の全員が、呆然としてその場に立ち尽くす。

 

「……い、いなくなった……?」


 最初に怖々と口を開けたのは、イザベラだった。


「どういうこと? 透明の魔法(タルペント)でも使ったっていうの?」

「まさか。あれは、十代の若いヤツに使いこなせるような魔法じゃないだろう」


「……いや、違うんだ。カルリエド君は、魔法を使って消えたんじゃない」


 ハロルドは頭を掻き、ざわつく一同を冷静に見渡す。

 

「じゃ、じゃあ、彼は一体どこに……」

「ああ。多分、この辺の……」


 彼はそう言うとしゃがみ込み、近くにある木の後方を覗く。


「お、やっぱりそこだったか。おいで、カルリエド君」


 ハロルドはファビオに向かって手招きをした。

 だが、木の後ろから出てきたのはファビオではなく、小さな小さな生き物だった。

 生き物はハロルドの手の中へ収まると、そのまま彼に運ばれ皆の元へとやってくる。



「……カルリエド君? これが?」


 

 その生き物を見るなり、皆は目を見開き、唖然とする。

 

 それは、蝙蝠(こうもり)だった。

 どこから何をどう見ても、正真正銘のザ・蝙蝠。


「にわかには信じられないけど……。本当にこの蝙蝠、さっきの男の子なんですか?」


 ファビオだという蝙蝠は、四方八方から視線を送られ、体を震わす。



「あっ!」



 注目を浴びることに耐え切れなくなったのか、蝙蝠はハロルドの手中から電光石火の如く飛び立つと、ピィピィと鳴きながらあっという間に工房の屋根の陰に隠れてしまった。


「……行っちゃった」


 皆が屋根を見つめ佇んでいると、ハロルドが徐に口を開いた。



「カルリエド君はね、【交じり者(バインシー)】と呼ばれる、特異体質の人間なんだ」


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