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1話(40話) 真夏の清涼

第二部開始いたしました!

新たな登場人物も増えています。

お楽しみいただけると幸いです。


 七月下旬。

 澄み切った青空には入道雲が鎮座し、より一層夏の盛りを感じさせる、そんな季節。



「──エラ君、これは……?」



 だが、そんな空模様とは裏腹にハイネ・カンパニー魔法道具開発部の工房では、フェリクスがイヤに曇った表情で顔を顰めていた。


「はいっ! 俺が作った仮開発魔法道具、その名も【スーパー☆チャッピーちゃん人形】!!」

「スーパー……チャッピー……」


 言葉を失うフェリクスに、ジニは満面の笑みで、手に持つ人形と思わしき物体を見せつけ、作業机に置く。




 ****





 約一ヶ月ほど前、マーシアから貰ったチャーム・ガーネットの指輪を指にはめることによって、ジニは暴走続きだった自らの操作の魔法(エンピュート)を制御することに成功した。


 それから数日経過し、以前と比べると格段に操作の魔法(エンピュート)の効果が穏やかになっていると開発部員らから判断を受けたことにより、現在ようやく魔法道具開発に向けて一歩踏み出していたところだ。


 といっても、現時点でのジニの仕事状況は商品化を見据えず、ひとまず自由に魔法道具を製作していく仮開発。

 商品化に向けての練習のようなものだ。


 依然として、まだ本格的に魔法道具開発に携われているわけではないのだが、他の開発部員とは勝手が違う彼の操作の魔法(エンピュート)の効果を発揮させるのに適した魔法道具を開発していくためにも、この仮開発は必要なプロセスなのだ。


 ジニ本人もそれは重々理解しているため、文句を言わずに仮開発に励んでいる。

 むしろ自由に魔法道具を作れる分、伸び伸びと取り組んでいる節すらある。



 だが、問題は思っていたより斜め上の方向からやってきていた。



「……エラ君、このスーパー☆チャッピーちゃんは、一体どんなことをしてくれる人形なんだい?」



 ジニの操作の魔法(エンピュート)特訓の担当だったパディーに代わり、ジニの仮開発教育担当に任命されたフェリクスは、引き攣りそうになる口角を抑え、目の前の後輩に質問した。

 


「あっはっは!! 聞いて驚かないでくださいよ?! スーパー☆チャッピーちゃんは、何と炊事、洗濯、掃除、それに靴磨きに買い物!! 何でも出来る最強お手伝い人形!! ……になる予定の、今はただの人形です!!」


 以前製作したゴーレムやバトルを繰り広げたマネキンにインスピレーションを受け、ジニは人型の何かが己の魔法に適しているのではと踏んだ。

 それで、スーパー☆チャッピーちゃんを作った。


「ねえねえ! モーガンさん、どうですか? 俺、かなり頑張って作ったんですよ! もう、マジ力作!」

「…………うん」


 隣でガハガハ笑っているジニをよそに、フェリクスは机上のスーパー☆チャッピーちゃんを繁々と見つめる。気のせいか、その目はどこか哀愁を含んでた。


「過去の経験によって培われたアイデア、それを形に出来るなんて素晴らしいよ。エラ君、君は想像力がとても豊かなんだね」

「へっへー!! それほどでもぉ!!」 


 フェリクスに褒められ、ジニは有頂天になり舞い上がる。


「ただね、エラ君。一つだけ言ってもいいかい?」

「はいっ! 何ですか!」

「ああ。あのね……」


 フェリクスは片手で頭を抱えると、勢いよく口を開いた。



「ダッッッッサい!!!!」


「はっ、はあああッッ?!?!」



 猛烈にハッキリと言い切られ、ジニは驚愕を露わにする。


「エラ君!! ダサいよ、これ!! あんまり言いたかないけど、この見た目、このネーミング!! 絶妙にダサいったらありゃしないよ!!

「えぇっ!? う、嘘だああっ!!」


 初めて聞いたフェリクスの荒げた声の圧に押され、ジニは目をかっ開く。


「だって、客観的に見てくれよ! スーパー☆チャッピーちゃんの、この姿!」


 フェリクスはスーパー☆チャッピーちゃんをむんずと掴み、ジニの前にかざす。


 改めて、自作の人形をジニはまじまじと眺めてみた。

 ピンク色やら黄色やらのフェルト生地で作られた、つぎはぎだらけで歪なずんぐりした体。

 たらこ唇でギョロッと大きな目、やたらと逞しい眉毛を持つ顔、おかっぱの髪。


「……そ、そうかぁ〜? 俺には、すっごい可愛い人形にしか──」

「自作物への愛が深いのはいいことだけども!!」


 ジニの言葉を遮り、フェリクスは苦渋の面持ちでまた叫ぶ。


「いいかい!? いくら仮開発で商品化は必須でないと言えど、将来的に商品化に()()()魔法道具を考案しなくてはいけないということは、常に念頭に置いておくべきなんだ! 世間のニーズ、流行、経済! 諸々を精査した上でヒット商品を生み出すのが、俺達魔法道具開発部の仕事! それなのに……何だ、君が今作ったものは! 一般ウケどころか、コアなファンが付くかも怪しいものじゃないか! そんなことじゃあ──」

「わっ、わ゛ーーッ!! も、もう分かりましたってえぇ!!」


 生真面目なフェリクスによる長引きそうな説教を感知したジニは、慌ててそれを阻止した。



「お前ら、今日も今日とて騒々しいな」

 


 そんな二人のやり取りを見ながら、アレイシオがコーラケースを持ってこちらにやってきた。


「カロン部長。見てください、エラ君の作ったこの人形!」

「おお、何だこれ? 呪術に使う人形か?」

「ちっがーーう!! お手伝い人形だあっ!!」


 ジニはギャンギャン喚き散らす。


「ま、そんなことよりどうだ? ほれ、差し入れのコーラ。冷えてるぞ」


 そんなジニのことを歯牙にもかけず、アレイシオはケースから瓶入りのコーラを取り出し、彼に手渡した。


「うぅ……ありがとうございます」


 ジニは膨れっ面で瓶を受け取ると、栓抜きで蓋を開け、キンキンに冷えたコーラを口に入れる。


「ほら、モーガン。お前も飲め」

「ありがとうございます。それにしても、珍しいですね、差し入れだなんて。一体誰からなんですか?」

「製作工房の部長、オグデンだ。こないだドネリーが新しく開発した絶対にシンクの水垢を弾く液体の名称決めやらで、さっき来たんだ。今は本館にいるがな」


 そう言ってアレイシオも、コーラを手に取り口に運ぶ。


「そういや、一人見慣れねぇヤツを連れてたな。エラと同じぐらいの年齢だったか」

「マジ!? 俺とタメかな? カロンさん、その人達、こっちにも来ます?」


 友達が増えるかもしれないと思い、ジニは内心ワクワクしながらアレイシオに問いかけた。


「ああ、後で来るぞ、工房の見学がてらな。そうだ、オグデンが来たら、お前の紹介もしとかにゃいけねぇなあ」


 一気にコーラを飲み干したアレイシオはジニにそう告げると、口を拭いその場を後にした。


「ははっ、どんなヤツなんだろ!」


 新しい出会いにジニが想いを馳せていると、後ろから鈴の音のような声が聞こえた。



「エラ様、何だか楽しそうですね」


「あーーら、ウォルジーさんっ!!」



 振り返れば、そこにはたくさんの魔材が詰め込まれたカゴを持つ、意中の彼女。

 しかも、いつもと雰囲気が違う。


「!! 髪型変えたんだ?!」


 普段のマーシアは髪を下ろしているかハーフアップをしていることが多かったが、今日は三つ編みで結われた上品で夏らしいシニヨンヘアだ。

 ジニのテンションは上がりに上がる。


「はい、一度してみたかった髪型で……。朝、少しだけ早起きをして頑張ってみました」


 ジニに髪を見られ、マーシアは恥ずかしそうに俯き、はにかんだ。


「いいじゃん、いいじゃん!! すっげぇ似合ってる!! 涼しそうだし、最高!!」

「あ、ありがとうございます……」


 単純だが偽りのないジニの言葉に赤面し、マーシアの顔はますます下へ下へと下がっていった。

 そんな二人をフェリクスは横からただ無言で見つめ、コーラを口に含む。


「そうだ、ウォルジーもコーラ飲む?」


 ジニは自分が持つコーラの瓶を、マーシアの目の前で振ってみせる。


「コーラ、ですか?」

「そっ! 飲んだことある?」

「いえ。知ってはいるのですが、飲んだことまでは……。何だかシュワシュワしていますね」

「まあ、炭酸入ってるからな。で、どう? ちょっと飲んでみるか?」


 そう言ってジニはケースの中に余っているコーラを一本取り、マーシアに手渡した。

 マーシアは興味深そうにコーラを眺めた後、決断を下した。


「……では、貴重な機会ですのでいただいてみます!」

「あははっ! そうこなくちゃな!」


 意気込むマーシアを見て、ジニは楽しげに笑う。


「あ。でも、コップはどちらに?」

「そのままでいいの!!」

「そ、そうでしたか……」


 マーシアは瓶から直接飲むことに一瞬躊躇いを見せたが、ジニに言われた通り、そのままコーラをクイッと一口口にする。


「……どうだ?」


 初めてコーラを飲んだ者の反応が面白いことになるのを、ジニは知っている。

 マーシアはどうなるかと、ジニは口元を緩めながら、彼女の反応を窺う。


「うーん、そうですね……」


 思っていた味と違う。

 甘さの中にほんのり薬のような風味を感じる上、口内で弾ける炭酸も想像以上に刺激が強い。


「うーーーーん…………」


 マーシアの目は渦巻く。

 そんな彼女の表情を見て、ジニはおおよそ味の感想の察しが付いた。すぐさま笑って、マーシアに声をかける。


「最初は慣れねぇよな、ドンマイ! 俺も三回くらい飲んで、やっと飲めるようになったもん!」

「うぅ……。すいません、せっかくいただいたのに……」

  

 マーシアは申し訳なさそうに顔を伏せた。


「気にすんなって、残りは俺が飲むからさ。ほらっ、それちょうだい!」


 ジニはちょいちょいと上下に指を振り、マーシアにコーラを渡すよう促す。


「……えっ……?」

「えっ?」

 

 だが、どういうわけかマーシアは自分の言葉に何故か顔を赤らめた。

 ジニはキョトンと目を瞬かせる。


「で、でも、エラ様……。私、先程その瓶に口を付けてしまって……」

「…………!! はっ!?!?」 

 

 彼女の顔が赤い理由が分かり、ジニもまた顔が紅潮していく。

 

「違う違う違う違う!!!! ふっ、拭くから!! ちゃんと拭いて飲むから!! だから、安心しろ!!!!」

「そそそ、そうですか!! わ、わ……分かりました!!」


 大汗を掻きあたふたするマーシアに見せつけるように、ジニも大汗を掻きながら布巾で瓶の口を力いっぱい拭き回す。

  

 フェリクスは、只々真顔でその様子を静かに見つめた。

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