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タンゴイ調達記 8


  ****



 ここは、ロドエはケンドラ州にある平凡な街、ウィノア市。にある、魔法製品製作会社ハイネ・カンパニーの本館。


 そこに、顰め面でイーノックに話しかける少年が一人。


「ねぇ、マーレイさん。魔材調達部って、いつタンゴイから帰ってくるんですか?」


 誰かと言えば、ジニ(このおとこ)である。


 彼はもうかれこれ二週間以上、タンゴイ遠征に行ってしまったマーシアと顔を合わせられていない。


 彼女に会いたすぎて、話がしたすぎて。

 とうとう痺れを切らしたジニは今日、本館にある魔材調達部の執務室に向かい、イーノックをとっ捕まえてタンゴイ遠征組の話を聞こうとしていた。


「そうだなぁ。皆んながタンゴイに行って、今日でちょうど二週間だろ? 部長からは()二週間の滞在って伝えられてるし、そろそろ帰ってくるんじゃないか?」

「えー、アバウトだなぁ! じゃあ帰ってくんのに、もう何日かかかる可能性もあるってことですか?!」

「まあまあ、そんなに焦るなよ。遅かれ早かれ、ウォルジーちゃんは必ず帰ってくるんだからさ」

「べっ!? べべべ!? 別にウォルジーのこと待ってるとか、そんなことねぇし!! ってこともねぇけど……。いや! ねっ、ねぇし!! ねぇし!!」


 イーノックに内兜を見透かされ、ジニは狼狽え舌を噛みながら、必死で誤魔化す。


 と、その時。

 執務室の奥から電話の音が聞こえてきた。


「……はい、こちらはハイネ・カンパニー魔材ちょうた……おや、部長。ええ、ええ……おや、そうですか。ええ……」


 電話に出たアシュリーは、時折相槌を打ち、相手の話に耳を傾ける。

 そして、電話が終わると彼はジニとイーノックの元にやってきて、内容の報告をしてくれた。


「エラさん。たった今、モンド部長から連絡がありました。遠征に行かれている皆は、明日、ロドエに帰国するそうです」

「マジっすか!」


 ジニは拳を振りかざす。


 ようやく、マーシアに会える。

 そう思うと、彼の心の中でファンファーレがやかましいくらいに鳴り響いた。


「ですが、皆遠征で疲れているので、休みを取ります。出社は、早くて三日後くらいですかね」

「へええぇ…………」


 心のファンファーレが、途端に悲哀に満ちた音楽に変わる。



 ****



 そんなこんなで、数日後。

 本館の通路にて。



「ウォルジーーーー!!!!」

「! エラ様、おはよ……」

「ウォルジー、久しぶり! 元気だったか? タンゴイいる間、風邪ぶり返さなかったか? 飯はちゃんと食ってたか? よく眠れたか? 疲れは溜まってないか?」

「あわわわ……え、えぇと……」


 出会い頭にジニから矢継ぎ早に質問され、マーシアは困却した笑みを浮かべる。


「大丈夫です。諸々、何も問題ありませんでした」

「そりゃよかった!」


 ジニは大いに息を吐き、安堵の表情を見せる。


「マーシア、戻ってきたの!?」

「アデル様! お久しぶりです」

 

 ちょうど、アデルもやってきた。


「そうそう! お二人に、お土産があるんですよ。今、お渡ししますね」

「えっ、本当!? やったぁ!」

「えー! いいのかよ!」


 キャッキャと沸いている二人の横で、マーシアは手に持つ大きな手提げ袋をキャビネットに置くと、中の土産物を取り出す。


「アデル様には、こちらを」

「わっ、素敵な扇! こんな良いものいただいちゃっていいの?」

「うふふっ、勿論です。日頃の感謝も込めていますので」

「わーい! マーシア、ありがとう! あ〜、仰ぐといい風来るよ〜!」


 アデルは早速扇子をはためかせ、気持ち良さそうにうっとりと目を細めた。


「そして、エラ様にはこちらのものを」

「えっへー! 超楽しみ!」


 ジニは、ワクワクと胸を高鳴らせる。


 

「よいしょっ、と……」


「……ん? ウォルジー……何、それ……?」


 

 マーシアが手提げ袋から取り出した物を見て、ジニは顔を顰めた。



「はい。こちらは、【木刀】です! 土産物屋の店主様から十代の男性に人気が高いとお聞きし、即決で購入してしまいました!」

「ぼ、ぼぼぼ、ぼくとう……?!」


 ジニは呆然と、ニッコニコ笑顔のマーシアから木刀を受け取る。



「エラ様、いかがでしょうか?」

「え、ああ……凄いな、これ……。表面スベスベでね……しっかり丈夫そうでね……」


 心ここにあらずな面持ちで、ジニは木刀を無心で撫で付ける。


「実は、木刀を一目見た瞬間に、エラ様のお好みなのではないかと直感が働いたのです! うふふ、お気に召してもらえたようで、よかったです」

「……あ、そう……。俺って、木刀好きそうな男に見えるんだあぁ……」


 遠い目をするジニの横で、アデルは必死で笑いを堪え、プルプルと肩を震わす。



(そういうの、十四歳で卒業したんだけどな……)



 自分はまだマーシアに、木刀を手にしてはしゃぐ年頃の少年だと思われているらしい。

 ヒュルリラと、冷たい風が身体を吹き抜けたような気がした。

 

「エラ様。こちらは思わず決闘心を焚き付けてしまう見た目をしていますが、いつかのゴーレムちゃんのように、決して乱暴なことに使ってはいけませんよ」

「使いませんとも…………」



 もっと、大人の男になろう。

 ジニはそう心に決めたのであった。



 ****



 その日の仕事終わり。

  


「ところで、ウォルジー。タンゴイ調達はどうだった?」


 ジニはマーシアの顔を覗き、目を輝かせながらそう問うた。

 

「はい。それはそれは……色々なことがたくさんありました」


 マーシアは楽しかった旅の思い出に記憶を馳せ、空を仰ぐ。

 つい先日帰国したばかりなのに、すでに懐かしい気持ちが溢れてくる。


「マジ? どんなことがあったのか聞きたい! 聞かせて、聞かせて!」

「うふふ、勿論! ではまず、どれからお話しましょう……。人力車に乗った時のお話か、一日目のお宿でいただいた、熊鍋のお話か……」


 サラッととんでもないワードが聞こえ、ジニはギョッと目を開く。


「はっ、クマ?! クマって、あの熊?!」

「はい! 森に棲んでいる、あの熊です!」

「ちょおおっ!? おっ、お前! なんちゅうもん食ってんだよ!!」

「ええっ?! で、ですが、とっても美味しかったですよ……?」

「いや、美味いとか美味くないとか、そんなんじゃなくって!!」


 自分の目の前にいるお嬢様が、珍味を食べることに慣れすぎている。

 ジニは、開いた口がしばらく塞がらなかった。

 

 ちなみにこの直後、マーシアはジニに、朝食に出たドデカオオサンショウウオの干物の話も()()()()としてあげた。

 彼が卒倒寸前になったのは言うまでもない。



 そしてその後も、ワビシ村での一時に、いなり寿司作り、妖狐の櫛がけイベント……。

 積もる話を、マーシアは終始楽しそうにジニに語った。

 

 ジニもまた、彼女の話を聞いて困惑したり突っ込みを入れたりしながらも、大口を開けてずっと笑っていた。


  

 異国の地、タンゴイでの思い出。

 

 それはマーシアの心にいつまでも残る、甘酸っぱくてもふもふな、何とも愉快な旅の記憶。



【タンゴイ調達記・完】


ここまでお読みいただきありがとうございます!

次話より、本編第二部開始となります。

新しい登場人物も出てまいりますので、お楽しみいただけると嬉しいです⭐︎

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