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タンゴイ調達記 7


 ****



 残りの約十日間は、村から行ける範囲内を本当に隅々まで飛び回ることになった。


 といっても、ジェローナ以外のメンバーの体力が持たず、まず先にトリスタン。次にシェミー。残り後三日というところで、マーシアがそれぞれリタイアした。


 マーシア的には異国の地への興味もあるので、本当は最後までジェローナと共に調達に回りたかった。だが、先月の体調不良の反省もある。

 そのため二の舞にならぬよう、今回は無理せず休息を取らせてもらったのだ。



 そして、リタイア組の三人は、数日村でのんびり過ごすことに。


 その最中、マーシアは村の土産物屋に立ち寄った。

 自分用の土産が見たかったのもあるが、日頃仲良くしてもらっているジニとアデルにも、何か買って帰ってあげたいと思ったからだ。


「おやまあ。いらっしゃい、異国のお嬢さん」


 腰の曲がった店主の女性が、にこりとマーシアを見て微笑む。

 

「こんにちは。まあ、可愛らしい小物がたくさん……」

「ゆっくりと見ていってくださいまし」


 土産物屋の陳列棚には、地元名産の焼き物や箸が置かれ、壁には今の季節に涼しげな風鈴が飾られていた。

 どれも、タンゴイ情緒を感じる美しい絵が描かれている。これは選ぶのが大変だ。



「アデル様には、これにしましょう」



 悩んだ末、マーシアがアデル用に選んだものは、可愛らしい桃色の花が描かれた青紫色の扇子だ。彼女がヒラヒラと扇子をはためかせる姿が、ありありと目に浮かぶ。


 店主からは、花の名は"サクラ"と言うのだと教えてもらった。

 春になると、タンゴイの人々はサクラの木の下へ集い、飲めや歌えの宴会を開くのだそう。

 随分楽しそうな風物詩があるものだと、マーシアは内心羨ましく思う。


 

「エラ様には、何にしましょう……」



 女性同士というのもありアデルのものは選びやすかったが、男性である彼には何を選べばいいのか。

 マーシアは眉を顰め、陳列棚を吟味していく。


「うーん、うーん……」


 見れば見るほど、分からなくなる。

 元気でやんちゃ者な彼が好きそうなものとは、一体──?


「……? あら、あれは……?」


 ふとマーシアの目線が、店の隅に置かれたカゴの中に向かった。すぐさまカゴに近付き、中に入っているものを取り出す。


「おや、()()に目がいきましたか」


 店主は目を丸くし、マーシアを見上げる。


「店主様……。こちらの品、不思議と男性が好んで買っていかれるように思えてならないのですが……」

 

 手に持つ()()を、マーシアは繁々と見つめる。


 土産物としては、決して実用的とは言えないデザイン。

 けれど、それが何故か男性を惹きつけるオーラを放っていることだけは、直感的にマーシアにも分かった。

 

「よくお分かりになられましたね。ええ、こちらは男性……強いて言えば()()()()()に、特に人気の品でございます」

「! やはり、そうなのですね……! では店主様! こちらを一本、購入いたします!」


 店主の言葉を聞いたマーシアは、迷わずジニ用の土産としてそれを採用した。


 

 二人への土産が決まったところで、最後は自分用の土産を探す。


「これは……?」


 マーシアが気になったのは、薄い木箱に入れられた色とりどりの小さな紙だった。


「それは、折り紙というものです。紙を折り、形を作って遊ぶものでしてな。折り紙で折れるものは、簡単な形から複雑な形まで、豊富にございます。昔から伝わる、伝統的な遊びなのです」

「なるほど。では、こちらに置いているものも、折り紙で作られた作品なのですね」


 木箱の横に置かれた手のひらサイズのくす玉を見て、マーシアはそう呟く。

 まさか、紙で出来ているとは思わなんだ。

 折り紙の無限の可能性に、マーシアの好奇心は一気に高鳴りを見せる。



「では、こちらも購入いたします!」



 そして、マーシアは自分用に百枚入りの折り紙を購入したのであった。



 ****


 

 ワビシ村での生活に身体が順応し始めた頃、一行はいよいよ明日、帰国の途につく。

 

「うへ〜、帰ったら時差ボケが凄そうだなぁ……」

「帰国後のお休みで、頑張って治してちょうだいね。それにしても、うーん……」

「部長、どうしたんですか?」


 悩ましげな声を出すジェローナに、シェミーはきょとんと問いかけた。


「この、タンゴニース・ベルウィングの羽根……。何としても持って帰りたいのだけど、これをトランクに詰めるとなると、今度はこっちの河童のお皿六枚セットが、トランクからあぶれてしまうのよね」


 宿の部屋の片隅に山になって置かれている魔材を、彼女は厳選せず全てロドエに持ち帰ろうとしているようだ。


「あぁ〜! こんなことになるなら、【()()無限収納トランク】ではなく、ちゃんとした無限収納トランクのほうを持ってくるんだったわ!」

「も〜、移動と宿代に経費を注ぎ込んじゃうからぁ」

「だって、だってぇ! 快適な魔材調達(りょこう)をするためには、必要不可欠な出費だったんですもの!」


 愕然と落ち込むジェローナを、シェミーは後ろからやんわりと諫めた。



(……このお宿から見る景色も、今日が最後なのね……)



 賑やかな先輩二人の裏で、マーシアは窓の外に見える夕焼けの景色を、自然の奏でる音を、その脳裏に焼き付ける。


 眼前にそびえる、まさに山滴るといった青い木々の生い茂る山岳。

 宿の近くでせせらぐ小さな川。

 どこか遠くの山から聴こえる、タンゴニース・ベルウィングのさざめく羽の音──


 

「──では、皆様。約二週間、大変お世話になりました」



 次の日の朝、魔材調達部一行は世話になった村の人々に心からの謝意を表し、深く礼をした。


「ぜひまた、この村にお越しください。妖狐様も、『年々可愛さに磨きのかかるわたしに、いつでも会いにいらっしゃい』と、おっしゃっていました。次に会える時を、心よりお待ちしています」

「また、俺の作ったいなり寿司も食べに来てくれよ。気ぃ付けてな!」


 ミカゲとマサも見送りに顔を出し、皆それぞれ別れを惜しむ。


 

 そして、一行はスオウに戻るべく村を後にした。



「さようなら……ワビシ村の皆様」



 遠き地の、忘れられない数々の出来事。

 それを噛み締めるようにして、一行は後ろを振り向き、彼らを見送る村の人々に手を振り返したのであった。


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