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タンゴイ調達記 1

全8話の短編です。

ゆるりとお楽しみいただければと思います。


 タンゴイ──。


 それは、ロドエより海を挟んで遥か東に位置する、小さな島国。

 古くより独自の進化を遂げた魔獣や妖精が多く棲む地であり、それらは俗に【精霊】や【神】なんかと崇められたりする。


 そんな地に、この日マーシアは生まれて初めて、足を踏み入れたのであった。




 ****




「はあ……」


 

 タンゴイは首都スオウにある旅客ターミナルを出たマーシアは、その目に飛び込んできた景色に思わず感嘆の溜め息を漏らした。


「これが、タンゴイの街……」


 さすがは首都。ブルスバリーの摩天楼ほど高い建物はないが、大通りは車の往来が盛んで、辺りには丈夫な石造りの建物がそこかしこに見受けられる。


 特にマーシアが驚いたのは、その建物がロドエにある建築物と似通ったデザインであること。

 聞けば、ロドエよりも西にある国々の建築デザインを元に造られたのだそうだ。

 ということは、ロドエにある建物もそれらの国の建築を参考にしていることになる。


 まさか、ロドエ特有の建築様式でなかったとは。

 着いて早々、マーシアは勉強になる話を聞いた。



「皆さん! まだお疲れではいないかしら?」



 高らかに声を上げたのは、我らが魔材調達部部長、ジェローナ。


 長時間の移動疲れも感じさせないフルパワー……と言いたいところだが、実はタンゴイ(ここ)に来るまで、そんなに時間はかかっていない。


 通常、ロドエからタンゴイへ向かうには約二週間ほどの長期間渡航をせざるを得ないが、今回魔材調達部ご一行は、なんと()()でタンゴイまでやってきた。


 ふざけているのかと言いたくなる数字だが、これも大枚をはたいたゆえ。

 そう、経費を利用して移動距離をスーパーショートカットしたのである。


「便利よね。【移動鏡(テレポール)】のおかげで、あっという間に異国の地へと辿り着けちゃうんだから」


 移動鏡(テレポール)とは、通り抜け可能な大型の魔法の鏡のことであり、目的地への移動を瞬時に行える便利グッズだ。

 

 出発地点の移動鏡(テレポール)から目的地にある移動鏡(テレポール)に瞬間移動する仕組みとなっているため、良くも悪くも、行きたいところに移動鏡(テレポール)が置いていなければ、目的地を訪れることは出来ない。

 けれど、大体どこの国でも主要の駅や港のターミナルに設置されているので、前述の通り莫大な使用料さえ払えれば、瞬時に遠方の土地まで辿り着ける、ということなのだ。



「さあて。ラスさん、グレンダさん、ウォルジーさん! この後は、いよいよ妖狐を崇め奉る【ワビシ村】に移動していきます。勿論、山奥の村に移動鏡(テレポール)など置いているはずもないので、ここからは自力で向かっていくわよ!」


「はぁ〜い……」

「はい〜」

「はい!」


 あからさまに山奥へ向かうのを嫌がっているトリスタンの声。

 苦とも楽とも思っていなさそうなシェミーの声。

 やる気に満ち溢れているマーシアの声。

 皆、仕事への意気込みが分かりやすく違って大変よろしい。



「では、しゅっぱーつ!」



 そして、魔材調達部ご一行はスオウより北西にある村、ワビシ村へ向かう第一歩を踏み出した。



「へい! では、出発しやっす!」

「助かるわ〜!」


 

 人力車で。



「凄いです。お一人の力で、私達二人のことを運べるだなんて……。とっても力持ちなんですね」

「タンゴイの男は逞しいんだなぁ〜。カッコいいだよ」

「へへ! 嬢ちゃん達、嬉しいこと言ってくれるねぃ!」


 一緒に乗車しているマーシアとシェミーは、俥夫を褒めに褒めまくる。


 ちなみに、二人が公用語の違いによる言語の壁を易々と乗り越えているのは、他社製の魔法道具【順応サンオイル】をつけているおかげだ。

 これを肌に塗ると、身体がまるで生まれた時からその地域に住んでいたかのように順応していき、言葉が分かるようになる。

 本来の用途は日焼け止めだが、そっちがおまけに感じるほど、世界各国を旅するには欠かせない便利道具なのだ。



「うふふ、貴重な体験ね! 見て、ラスさん!

 私達、馬車よりも速く道路を走っているわ!」


 横を通る馬車を見て、ジェローナが嬉々としながら、隣に座るトリスタンに話しかける。


「本当だ、爽快ですね。ところで、部長。俺、常々思っていたんですけど……」

「? なあに?」


 トリスタンは突如眉間に皺を寄せ、神妙な面持ちで口を開いた。


「こんなに移動代に経費を割いてしまって、大丈夫なんですか? 人力車(これ)だって、結構いい料金しますけど。まあ移動代に限らず、宿代や飯代、その他にも言えることなんですが」

「おほほほほ!!」

「部長、だいじょうぶなん」

「おほほほほほほッ!!!!」


 トリスタンの声を掻き消すように、ジェローナは高く大きく笑う。

 その後、トリスタンが何を言っても、彼の声は部長様の哄笑により掻き消され続けた。


(ダメだ、こりゃ……)


 トリスタンは疲弊し、追求を諦めた。

 結局、経費の謎は一切解き明かされぬことなく、蓋を閉じるのであった。




 ****




 一行は人力車を経由し、ジリジリとワビシ村までの距離を縮めていく。

 スオウを出てから、かれこれ数時間は経過している。


 辺りに木々が多くなり、山の中へ突入した。

 いよいよ、到着の兆しが見えてきたようだ。

 

「おそらく、明日にはワビシ村に到着出来るわ。今日はこのお宿で一泊して、明日の朝六時にここを発ちましょう」


 一行は山あいの宿に泊まり、明日への英気を養う。


「ひょっひょっひょっ!! お客人方、今朝ワシが素手で仕留めた熊を使った、熊鍋はいかがかね?」

「素手で?!」


 宿の主人からもてなされ、一行は熊鍋をいただく。熊肉の他には平茸や舞茸などのきのこ類や、牛蒡に長ネギ焼き豆腐など、具材がどっさり入っている。

 どれもロドエでは馴染みのない食材だ。むしろ、初めて存在を知ったもののほうが多い。


 というわけで皆、慣れない箸を頑張って掴み、熊鍋に挑む。


「あらっ、臭みが全くなくて美味しい!」


 早速熊肉を口に入れたジェローナは、目をまん丸にして驚愕する。


「ひょっひょっひょっ! しーっかり血抜きしとるでな。味噌の味と絡むと、抜群じゃろ?」

「確かに、美味しいだな〜」


 少し甘めに作られた味噌仕立ての鍋つゆが、熊肉の味を引き立てる。

 野菜にもたっぷりと旨味が染み込み、同時に食べると尚美味しかった。


 大人数で囲む鍋は楽しく、箸が進む。

 一行は、あっという間に鍋を完食した。

 

「明日の朝は、ドデカオオサンショウウオの干物じゃ! 楽しみにしておってな!」

「わ〜!」


 熊鍋が想像以上の美味しさだったので、皆は朝食への期待が高まり、歓喜する。

 ドデカオオサンショウ"ウオ"とは、一体どんな魚なんだろうか。時点で四人とも、そう思っていたに違いない。


 まだ、何も知らなくていい。

 そのビジュアルに腰を抜かすのは、夜が明けてからで充分だ。


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