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35話 邂逅! マリリアンヌ


「……へぇ、ぇ……?」



 突如耳に届いた、力強い声。



『……! ジュウニンハッケン、ジュウニンハッケン! コウゲキテイシ!』



 ゴーレムから発せられていた熱気はピタリと止み、動きが停止した。


「な、何かよく分かんないけど、助かった……」


 ジニは恐る恐る目を開け、そしてヘタリとマーシアと共にしゃがみ込んだ。



「アンタ達、無事かい?!」



 声の主が、ジニに声をかけた。



「あ、ありがとうございます……。おかげで、何とか──?!?!」



 腰に力が戻り、立ち上がって後ろを振り返ったジニは、その目に飛び込んできた光景に言葉を失った。



 振り返った先にいたのは、筋骨隆々で()()な、二メートル近くはあるであろう大柄な女性。

 咄嗟にジニの頭にアシュリーが浮かんだ。

 だが彼女は彼とどっこい。いや、それ以上にあらゆるところが逞しそうだった。



「そうかい。怪我もなさそうで、何よりだよ」



 女性は被っている青色のサンバイザーを指でくいっと上げ、口角を緩める。


 その仕草だけみれば彼女が優しげな人物であることは大方想像出来るのだが、今のジニにそんなことを思う余裕はなかった。

 何故なら、彼女がバカデカいカジキが何匹も入った魚網を軽々と片手で持ち、左肩に堂々と担いでいるからである。しかも、まだ何匹かは生きてる。


「ああ、これが気になるかい? これはね、【ドリルカジキ】だよ!」

「い゛やあぁ!! 何それェッ!?」


 女性はジニの目の前に、ズイッとドリルカジキを掲げる。

 ドリルカジキの(ふん)は、名前の通りドリルのように螺旋を描き、先端部は鋭利に尖っている。未知なる妙ちきりんな生物に、ジニは慄き後ずさった。


「アタシはドリルカジキハンターの、マリリアンヌ・モラン。この時期が旬のドリルカジキを獲りにブルスバリー湾へ行き、たった今帰ってきたところさ」

「ひいいぃ……そ、そうなんだ……」


 よく分かんないけど、なんか色々と怖い。


「分かったから、もう行って大丈夫ですよ」

 ジニがマリリアンヌに向かってそう言おうとした時、彼女は彼の背におぶさるマーシアを見て目を丸くした。

 

「あれまあ! アンタの後ろにいる子は、マーシアちゃんじゃないか!」

「えっ! おばさん、ウォルジーのこと知ってんの?!」

「知ってるも何も、ウチの隣に住んでる子だよ」

「な、何だってえぇ!?」


 まさかの隣人。

 衝撃の展開に、ジニは腹から驚愕の声を出す。


「おばさん、お願い! 俺をウォルジーの家に連れてってください! コイツ熱出して凄いぐったりしちゃって……だから、早くベッドに寝かせてやんないと!」

「あら! そりゃ大変じゃないか! 分かった、すぐに連れてってあげるよ」

「ありがとうございます!」


 案内人がちょっと豪快すぎるが、ともかくこれでマーシアの家が分かる。

 ジニがホッと胸を撫でていると、マリリアンヌはゴーレムの前に歩み寄った。


「警備ゴーレム。この子はマーシアちゃんを家に送り届けようとしていただけさ。怪しい者なんかじゃないから、アンタはとっととお帰り」

『ギョイ』


 住人の言葉には素直に従うようで、ゴーレムは地鳴りを起こし、石畳の下へと潜っていった。


「これで安心。この街はね、警備ゴーレムが地下に何体も配置されているんだ。有事に備えてね」

「あんなのが何体もいるのかよ……」


 なら冗談ではなく、死人が出たこともあるのではないか。そう思い、ジニは身を震わせた。


「それじゃあ、そろそろ行くかね。そういえばアンタ、名前は何て言うんだい?」

「俺は、ジニ・エラです」

「そうかい。では、ジニちゃん。マーシアちゃんの家まで出発だ!」

「はい!!」


 マリリアンヌはドリルカジキを引きずり、ジニを先導した。




 ****




「ときにジニちゃん。アンタ、マーシアちゃんとはどういう関係なんだい?」

「ぶええええぇッ?!」



 マーシアの家に向かう道中、唐突にマリリアンヌから投げかけられた質問にジニは心臓を飛び上がらせた。


「何で、急にそんなこと聞くんですか?!」

「だって見た感じ、アンタ、マーシアちゃんのこと随分と介抱してくれてたんだろう? 恋人同士なのかと思ってさ」

「ちっがいますよ!! いやまあ、そりゃ、そういう関係にはなりたいけど……!! でも、そんなんじゃなくて!!」

「おや、訳あり?」


 マリリアンヌは興味津々にジニの顔を覗く。

 

 かくかくしかじか、ジニがマーシアとの現状をマリリアンヌに伝えると、彼女は目を眇め、彼を見つめた。


「ふーん。それで、マーシアちゃんがアンタに指輪を、ねぇ」

「そーうなんです!! 見て、ほら!! 超カッコいいでしょ!?」


 そう言ってジニは立ち止まると、マーシアの足を支える左手を一度離し、サムズアップをして指輪をマリリアンヌに見せつけた。


「本当だ。良い色味の素敵な指輪じゃないか」

「でっしょーー! これ、ウォルジーが俺のイメージに合わせて作ってくれたんですよ!! 俺、太陽みたいなんだって!」


「……ほーう。マーシアちゃんから見て、アンタのイメージは太陽なのかい」


 マリリアンヌは何かを考えるように、眉根を顰める。


「俺、この指輪もらってウォルジーのこともっと好きになったんです。だってこれ、ウォルジーの優しいとこが全部詰まってんだもん」


 ジニは柔く微笑むと、その場で軽く跳ね、マーシアを担ぎ直す。

 

「でもな〜、ウォルジーは相変わらず恋愛対象としては俺のことを見ちゃいないんだよなぁ……。さっきもまたウォルジーの実家の犬に間違われて頭撫でられたし、マジ俺に振り向いてくれる時なんてくるのかね〜」

「…………」


 自嘲気味に笑いながら話すジニを横目に、マリリアンヌは真顔でますます眉を顰めた。


「……ジニちゃん。マーシアちゃんはアンタのことを、太陽みたいだと思ってくれてるんだよね?」

「へっ、そうですよ? さっき言ったじゃないですか」

「他にも、犬に見られているとはいえ頭を撫でてもらったり、アンタが夢に登場したりしてるんだよね?」

「それもさっき説明した通りですよ、そうです」

「そうかい……」


「それが何なんだ」と言わんばかりに首を傾げるジニを見て、マリリアンヌは小さな溜め息を吐く。



(……マーシアちゃん、自分の気持ちにちっとも気が付いていないのかね)



 年の功というもので、マリリアンヌには分かる。


 普通は、何も想っていない相手のことを"太陽"などとは表現しないものだ、と。

 

(ま、アタシがそれを指摘するのも野暮か)


 若者の恋愛事情は、当人達に任せよう。

 そう判断し、マリリアンヌは口を噤んだ。

 

「あ。そういえば、ジニちゃん。マーシアちゃんがいるのに、こんな話を振っちゃって悪かったね」

「え? ……ああ゛っ!? 確かに!!」


 そういえば、本人は真後ろにいるのだ。

 少しでも起きていたら、間違いなく会話が筒抜けていただろう。

 起きる様子のないマーシアを見て、ジニは心臓をバクバクと鳴らし、不幸中の幸いに感謝した。




 ****




「さっ、そこの角を曲がれば、いよいよマーシアちゃんの家に着くよ」


 

 マリリアンヌが通りの角を指差す。

 角を曲がると、オールドシャトーフェンスに囲われたタウンハウスが現れた。

 

 二階ほどの高さの住居が一棟にまとまった作りとなっているが、壁の色は各住戸ごとに分かれている。

 一際目立つ赤い壁の住戸もあれば、白で落ち着いた色合いの城のような住戸もある。

 外装の統一感はまるでないが色とりどりで、見ている分には非常に楽しい造りとなっていた。


「マーシアちゃんの家は、これだよ」


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