閑話23.5話 黒い歴史は脳裏にて羽ばたく
微妙に本編の流れに落とし込めなかった話となりますが、読み飛ばしてしまってもさほど問題のない内容となっております。
──これは、操作の魔法の特訓を開始した直後の、ジニの話。
「ひとまず、操作の魔法について調べたほうがよさそうだな」
アレイシオはジニにそう漏らした。
今のうちから操作の魔法の詳しいあれこれを熟知しておき、あわよくば攻撃性をなくす解決策でも見つけられればという寸法である。
「でも、調べるったってどうやって調べたらいいですかね?」
「魔法書なんかで調べるしかないだろうな。【魔法図書館】に行けば、何かしら置いてあるだろう」
「うへぇ、本かぁ。頭痛くなんねぇかな……」
「仕方ないだろ。自分の目標のためにも、ちったぁ頭使ってこい」
「はいぃ……」
そんなわけで、ジニは魔法書の宝庫である魔法図書館へ足を運んだりもしてみたのだ。
だが、どの蔵書を漁ってみても、自立型の操作の魔法に関して記述されていたことは"使用者の気質により、物体の自立時の効果は変化する"というすでに周知しているものばかりで、解決策に結びつきそうなことは特段記されていなかった。
「何だよ〜! せっかく久しぶりに頑張って字ぃ読んだってのに!」
結局、その日ジニは頭から煙をひたすらに噴出させただけで一日を終えた。
「──なるほど。それはつまり、"攻撃性を完全に消すことは出来ない"ってこったな」
だが後日、彼から結果を聞いたアレイシオは、意外にもそれで大方を悟った。
「はぁっ、何それ?! 何で?! どういうことですか?!」
アレイシオの言葉を受け、ジニはあんぐりと口を開ける。
「気質ってのはな、簡単に言うと人が持って生まれる性格のことだ。エラ、お前は素直で調子の良い奴だが、操作の魔法に攻撃性が出てる以上、間違いなく何かしらの攻撃的な面も持ち合わせてる。だから、お前の気質の一つであるそれを、根絶することは出来ないんだ」
「嘘でしょう!?」
絶望した顔で、ジニはますます口を縦に広げる。
「て、ていうか!! ゴーレムの時から思ってたけど、俺、そんなに攻撃的な人間じゃないですって!! 人のこと攻撃したことなんか、一回もねぇしさぁ!!」
自分はただの品行方正なハンサムボーイ。
心当たりなど全くないという風に、ジニは顔を歪ませる。
「……本当に、そうか?」
「へっ?」
静かに真顔で問いかけるアレイシオを見つめ、ジニは目を丸くする。
「お前、本当に他人に対して攻撃をしたことがないのか? 攻撃ってのは、暴力だけを言うんじゃねぇぞ。罵倒や煽りも含めて"暴力"、だぞ」
「……え゛、えぇっ!? そ、そそ……そんな、ことは……な、ななな…………」
そういうこととなると、心当たりがあってしまう。
ジニは慌てふためく。
(はっ……!)
その時、突如ジニの脳裏に流れる、十四歳の記憶──
────
…
……
………
『──いってぇなぁ……おい、テメェ!! ぶつかったんなら謝れよ!!』
目つきの悪い少年が、道のすれ違いザマに自分の肩にぶつかってきたこれまた目つきの悪い同じ年頃の少年に向かって、大きく声を荒げる。
『あぁん!? なーんでオメェみてぇな奴にこっちが謝んなきゃなんねーんだよ!! このスーパーボケ!!』
肩にぶつかったほうの少年は謝りもせず、むしろ相手を挑発する。
『な、何だとぉっ?! ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ!! ちゃんと謝りやがれ、このアホ!! マヌケ!! 水虫!!』
肩にぶつかられたほうの少年も、負けじと言い返す。それが、相手の怒りを買ったようだ。
『ああッ?! 毎日毎日水虫の薬塗りたくってる俺に向かって、随分と言ってくれんじゃねぇかよ!! お前、覚悟は出来てんだろうなァ!!』
『望むところよ!! 奥歯ガタガタ言わせて全部引っこ抜いてやらぁ!! あと、本当に水虫だったんだなテメェ!!』
両者は拳を固めると、火花を散らし、男の闘いへと突入した。
『オラアアァァッ!!!!』
『どりゃああぁぁ!!!!』
運河の流れる街中で、若者二人はボッコボコに殴り合う。
通行人が彼らを遠巻きに傍観する最中、ただ一人、大きな声援を発する者がいた。
『先輩!! そんな水虫野郎、とっととぶちかましちゃってください!!』
コイツである。
当時、肩にぶつかられたほうの少年の腰巾着をしていた。
『おい、水虫!! お前なんかが先輩に勝てるとか思うんじゃねぇぞ!! 先輩めっちゃ強いんだからな!! バーカバーカ!! 痒み大王!!』
『ぎっ……! こ、このクソ坊主が……!」
腰巾着は、戦闘に参加しない。
ひたすら後方で相手を煽って罵倒し、先輩を立てるのだ。
そして、闘いが続くこと数十分。
『……そこだっ!!』
『…………グハ、ァ…………ッ!!』
やがて、相手は先輩の一撃でよろめき、そのまま運河へ落下した。
『だーっはっは!! やーいやーい!! 見たか、先輩の力!! そのまま泳いで本物の水虫になってろ!!』
運河の中から捨て台詞を吐く少年を見て、ジニはケラケラ笑いながらさらに彼を煽った。
『おい、ジニ。水虫は水ん中に棲んでるわけじゃねぇぞ』
『えっ、そうなんすか?!』
『そうだ。あれは、カビの一種だからな』
『はー、知らなかった! 先輩のおかげでタメになりましたよ!』
『そりゃよかった! また一つ利口になったな! なっはっはっは!』
『あはははは!』
『なっはっはっは──!』
………
……
…
────
そんな学生時代を、彼は思い出したりなどした。
「……ダサいな……」
「そんなハッキリ言わなくても!!」
ジニの白状に、アレイシオは思わず本音が漏れる。
「随分としょうもない青春を送ってたのね……」
隣にいたパディーまでも、呆れた声を出す。
「い、今は完全に丸くなったんですって!! 信じてくださいよぉ!!」
ジトッと自分を眺めるアレイシオとパディーを見て、ジニは半泣きで訴える。
「うんまあ、それはそうなのかもしれないけど……。ただ、どのみち君が今もダサめな攻撃性を持ってるってことに変わりはないからねぇ」
「自分から喧嘩を仕掛ける度胸はないが、強者の盾があるとめっぽう煽る……。だからなのか? 操作の魔法をかけた物体が、基本的にエラだけを攻撃するのは……」
「ええぇ……そ、そういうこと……?」
そう考えると納得出来なくもないが、となると同時に、己の操作の魔法のしょうもないメカニズムが露呈されたことになる。
「兎にも角にも、お前の攻撃性は消せないと判明出来たことに関しては一つの進歩なんだが、だとしてこの先どうしていくか……。これがまた、新たなる課題だな」
解決策は現状なし。
手探りで見つけていくしかなさそうだ。
「今出来ることは、せいぜい攻撃性の鳴りを潜めさせるってことくらいですもんね」
「そうだな。ただ、そうするにせよ、ある程度方法を絞って特訓していかんとだしな」
パディーとアレイシオは真剣に意見を交わす。
「あ。てか、俺の性格が反映されるんだったら、俺の性格の良いところばっかりを操作の魔法に詰め込めれば、それで解決じゃないですか?!」
真剣な大人達の横で、ジニは大きく手を挙げる。
フレンドリーで優しく快活、おまけにハンサム色男。何て素晴らしいよくばりセット。
「…………そう、だ、な…………」
「歯切れ悪いな!!」
側から見れば、彼はお調子者のトラブルメーカー。
アレイシオは眉根を寄せ、苦い顔で渋々頷いた。
「いや、しかし悪くない考えだとは思う。とりあえず、その方法で試していこうか」
「はいっ!」
ジニはやる気満々に拳を握り、返事をした。
こうして、ジニの操作の魔法から攻撃性を取っ払う特訓が開始したのであった。




