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23話 いいこと

「あぁ、またエラか? 今度は何やらかした?」


 すっかり日常に溶け込んだジニの絶叫に、アレイシオは慣れた態度で声の聞こえたほうへ向かう。

「そこで待っててくれ」と言われたが、叫び声を聞いた以上、どう考えても落ち着いては待てない。

 アレイシオに頼み、マーシアも一緒に同行させてもらうことにした。


「もおぉう、エラ君!! 早く!! 早くそれを何とかしなさい!!」

「はいぃ……!! お、お前ら!! 止まれっ!! とまっ…………フギャン!!」

「きゃああ!! ちょ、ちょっと、エラ君!?」


「毎度の如く、何だってんだ」


 辿り着くなり、アレイシオは騒動の主に向かって大声で叫んだ。

 彼の後ろから、マーシアはひょっこり身を乗り出す。


 そこで目にしたものは、ブレイクダンスをする二体のマネキンと、その横でジニをタコ殴りにする一体のマネキン。状況に追いつくことが出来ず、唖然と立ち尽くすパディーであった。


「こ、ここ、これは一体……!?」


 マーシアも、その混沌とした光景に思わず顔を引き攣らせる。

 

「……あっ、部長! い、いいところに! 助けてぇ! この状況何とかしてーーッ!!!!」


 アレイシオに気付いたパディーが、涙目で訴える。


「何とかしたいが、こんなゴタゴタしてる空間の何から片付けていきゃあいいんだ?」

「まっ、まずはエラ君を救出してあげてください!」

「確かに」


 アレイシオはジニに暴行を加えるマネキンに、操作の魔法(エンピュート)をかけた縄を投げつけた。

 たちまち縄はマネキンを拘束し、マネキンは身動きが取れなくなった。


「エラ、顔はやられてないか?」


 アレイシオはうつ伏せに倒れるジニを覗き込む。

 

「だ……大丈夫、です。今日は……ボディだけ……ぐふぅ…………」

「そうか。そりゃ不幸中の幸いだったな」


 へなへなに力尽きたジニはアレイシオに抱えられ、とりあえず壁際に座らされる。


(エラ様……いつもこんな目に合っているのかしら……)


 ジニを見つめるマーシアの眼差しには、彼に対する同情が浮かぶ。


「ふうぅ……部長、ありがとうございます」

「おう。ところで、ゴードン。何があってこんなことに? いや、聞かんでも予想はつくが」

「予想がついてるなら話は早い。そうです。エラ君の操作の魔法(エンピュート)が、また暴走しました」

「やっぱり」


 現在ジニは、自身の操作の魔法(エンピュート)に度々現れる攻撃性を何とかすべく、パディー付き添いの元、特訓に励んでいる。


 だが、今までハイネ・カンパニー内では自立型の操作の魔法(エンピュート)の使い手なぞいた試しがなく、どうすれば攻撃性が抑えられるのかが分からない。


 色々調べてみたものの大した情報を得ることが出来なかったため、ひとまずジニの性格の良いところを操作の魔法(エンピュート)に反映させられるようにしてみようと、試行錯誤をしている真っ最中なのであった。


「──で、エラ君がこの【伸縮自在マネキン】に向かって、凄くいい笑顔で紳士的に『踊ってごらん』って言い、操作の魔法(エンピュート)をかけてみたんですよ」

「し、紳士的に……?!」

「はい。嘘みたいですけど、エラ君は自分をジェントルマンのような性格だと思っているみたいです。それで、自信満々に彼は操作の魔法(エンピュート)をかけてみたんですけど……」


 パディーは語尾を濁し、縄に縛られて暴れるマネキンを一瞥する。


「やっぱり、上手くいかなかったですね。あのマネキンだって、最初はダンスだけしてたものだから害はないのかと思いきや、結局はふいに自分(マネキン)に手が触れただけのエラ君に対して、殴りにかかってしまっていますから」

「うーん。こりゃあ、まだまだコイツの特訓は手こずりそうだな」


 アレイシオとパディーは言葉の通り、頭を抱えた。


(エラ様の操作の魔法(エンピュート)がかかった物でも、絶対に攻撃性が滲み出てしまうというわけではないわ。以前操作の魔法(エンピュート)を拝見させていただいた時のように、人を楽しませる力だってあるのだから、そちらの特徴が色濃く出られれば、こんなことにはならないのに……)


 目を回しているジニを見つめ、マーシアも彼の現状の解決策を思案してみる。


 要するに、彼の操作の魔法(エンピュート)の効果に現れてしまう攻撃性をなくし、愉快な部分だけが抽出出来ればいいのだ。

 そうするとなると、ジニが常に楽しい操作の魔法(エンピュート)を発揮出来るよう、効果の安定化を図ればいいのではないか。身体を流れる魔力が穏やかになれば、使用する魔法も自ずと安定していく。

  


 身体の魔力を穏やかにし、魔法の効果を安定させる。



「あら? それって……」



 マーシアは、重くて床に置いていたカゴにふと目をやる。


 

「とりあえず、また違う方法を試してみるしかないな」

「そうですね。エラ君が目を覚ましたら、もう一回策を練ってみます」


「あ、あのぅ」

「ん? どうした、お嬢さん」


 マーシアは、アレイシオとパディーの二人に声をかけた。


 

「もしかしたら、これが役に立つかもしれません」




 ****




「ハッ!!」



 ジニは飛び起きた。

 どうやら、いつの間にか寝てしまっていたようだった。


「あっ、エラ様! お目覚めになられたんですね!」

「ッ?!」


 開眼一番にして目に飛び込んできたのは、満面笑顔のマーシアだ。 

 ジニの寝起きの頭は一瞬にして冴え渡る。


「え、あっ、ウォルジー!? 何でここにいんの?! おはよう!!」

「おはようございます。うふふ、今ですね、カロン部長とゴードン副部長と、とてもいいことを思いついたのです!」

「は? い、いいこと?」

「ふふっ、はい!」


 よく分からないが、マーシアはこれから遊園地にでもいくのかというくらい、いたく楽しそうにはしゃいでいる。


(はああん、何もう!! 可愛いんですけど!!)


 そんなマーシアを見たジニは、彼女の尊い笑顔に思わずその場を転げ回りたくなる。

 何とかして荒ぶる衝動と心臓を抑え、たった今マーシアの言っていた"とてもいいこと"とやらについて本人に聞いてみた。


 

「秘密です!」

「秘密かぁ〜〜!!♡♡」



 ニッコニコの顔で人差し指を口の前に当てられてしまったら、もう内容が気になるとかそんなものどうでもよくなる。

 むしろ、そのポーズもっと見せてくれとすら願ってしまう。


「いずれ分かりますので、それまでもうしばらくお待ちくださいね!」

(キャーーーーッ!!!!)


 護るべし、その笑顔。

 ジニは今、マーシアに向かってもの凄く紙吹雪を舞わせたかった。


「エラ様。では私、そろそろ……あっ、いけない。危うく忘れてしまうところでした」

「ん? どうした?」

「はい。あなたに、ご伝言がありまして」

「伝言?」


 マーシアは、つつっとジニの元へ歩み寄っていく。

  


「エラ様、お仕事頑張ってください♡」


 

 ヴィセルに言われた通り、マーシアは手を胸の前で握り、顎を引いて上目がちになるようにして、気恥ずかしそうにジニを見上げる。

 

「今のは、匿名の方からのメッセージです。どうか、受け取ってくださいね」


 そしてマーシアは照れくさそうにジニにお辞儀をすると、そのままてくてくと本館へ戻っていった。



「…………」



「……エラ、エラ。おい、大丈夫か?」

 


 アレイシオは、あんぐりと口が開きっぱなしのジニに対し、真顔で声をかける。



「…………〜〜〜〜ッ!! だあああああっ!!!!」



 我に返ったジニは奇声を上げ、辺りをゴロゴロのたうち回った。



「ああああ゛!! ありがとう、匿名の人!! ありがとう!!!!」



 今のやつ、ブロマイド化してくれ。



 そう叫び床で暴れまくるジニの姿を、アレイシオとパディーは只々ジッと、新雪よりも白く冷ややかに見つめたのであった。


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