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20話 ここ掘れワンワン

 マーシアが泊まるということもあり、この日の夜は市街地のレストランへ夕食を食べに行くことになった。


 行き先は、これまでにも家族で何度か訪れている地元料理で有名な老舗の名店。

 タクシー運転手に車を走らせてもらい、家から十分ほどで店に到着した。


 年季の入った外観の店の扉を潜ると、鈴蘭の形をしたガラスシェードが優美な光を放ち、ウォルジー一家を出迎える。


 マーシアは相変わらず料理に迷い、メニュー表を何度も目で往復しては、結局いつものロブスターを使用したガンボスープを頼むことに決めたのだった。



「お待たせいたしました」



 数十分後。

 スパイシーな香りを引き連れ、注文したガンボスープがやってきた。


「いただきます」


 オクラの入ったとろみのあるスープにスプーンを潜らせ、米とともにいただく。ロブスターの旨みが口いっぱいに広がると、ほのかなニンニクの香りが鼻を抜けていった。


(はぁ……美味しい……)


 マーシアは幸せを噛み締めるように顔を綻ばせ、ガンボスープを食べ進める。


「ところで、マーシア。仕事は大変ではないかい?」


 クロウフィッシュのエトフェを丁寧にスプーンによそいながら、イライアスはマーシアにそう尋ねた。


「はい、今のところは。ただ、今月はタンゴイ遠征の関係で、いつもより国内の市場へ行く回数が増えると聞きました。ですので、より気を引き締めていかないといけませんが」

「そうか。大変だと思うが、無理だけはするんじゃないよ。毎日たくさん食べて、よく寝る。一日一日、体力をしっかりと回復させて、次の日に臨むんだ」

「はい。分かりました、お父様」


 父の言葉に、マーシアは深く頷く。

 イライアスは目を細め、娘を見遣った。


「というわけで、今日はマーシアの好きなものをどんどん注文しなさい。そして、英気を存分に養うといいよ」

「!!」


 調子の良い父の言葉に、マーシアの顔がパァッと輝く。


「お父様! い、いいのですか?!」

「はっはっは、勿論! お腹に入るのなら、デザートにベニエを頼んだって構わないさ」

「まあっ、それでは……」


 嬉し恥ずかし。

 だが、好きなものという強大な力を前に、そんな感情が勝てっこない。


 マーシアはホワホワとはにかみながら、牡蠣の香草焼きやスパイシーチキンなど、料理を次々と注文していく。


 数十分後には、ウォルジー一家の座る卓は、あっという間に皿で埋め尽くされたのであった。

 



 ****




「ご馳走様でした」



 久しぶりに味わった地元の料理は、どれも格別だった。マーシアは注文した料理を全て平らげ、満ち足りた顔でナプキンで口を拭う。



 帰宅をすると、大人数の足音が耳に入ったのかベルがふんふんと鼻を鳴らし、徐に一家を出迎える。

 皆にそれぞれ頭を撫でてもらうと、ベルは満足そうに舌を出し、横になった。

 

「マーシア。寝巻きをあなたのお部屋に出しておいたから、今夜はそれを着て寝てちょうだいね」

「はい、ありがとうございます」

 

 そう伝えると、エルザは装飾品を外すため、自室に戻っていく。

 マーシアも自分の部屋に戻るべく、階段を上がった。


 久しぶりの実家の匂いに心が安らぐせいか、部屋に着くなり眠気がやってくる。

 いつでも寝られるよう、マーシアは襟元にレースの付いたグレーのネグリジェに着替え、明日住まいへ帰る際ついでに一緒に持っていく荷物を整理する。

 勿論、パスポートは忘れずに鞄へ入れた。



 三十分後。

 


「ふわぁ……」


 いよいよ眠気に耐えられなくなりそうだったので、荷物整理は明日に回すことにし、今日は早めの就寝をすることにした。

 父と母に就寝の挨拶をし、床につく。



 その日の夜は、夢を見た。

 若かりし頃の溌剌さを取り戻したベルと、行ったことのないはずなのに、どこか懐かしさを覚える草原で遊ぶ夢だ。



 ────


 

『キャンキャン!!』


 ベルは相変わらず、草原の芝を異次元のスピードでドコドコと掘りまくる。


『ふふっ。ベルちゃん、穴掘り楽しいわね』

 

 マーシアは微笑ましくベルを見つめ、彼に話しかける。



『ああっ!! これ、めっちゃ楽しい!!』


『へっ?!』


 

 ベルが喋った。

 しかも、随分と聞き覚えのある声で。



『もしかして……あなた、ベルちゃんではなく、エラ様なのですか?』

『そう!!』

『あら、それは驚きました』


 夢の中でも驚きの感覚はあるものだと、マーシアは目を丸くする。


『それよりさ、ウォルジーも穴掘ってみろよ!! ここ掘れワンワン、っつってな!! あっはっは!!』

『うふふ。では、やってみます』


 マーシアはポンッと目の前に現れたスコップを使い、ジニベルの隣で穴を掘る。


『このまま世界の裏側まで行けそう!!』


 隣でジニベルはそう叫ぶと、より速いスピードで地面を掘り進めた。

 スピードはどんどんどんどん増していき、やがて彼の姿は穴に消えていく。


『エラ様! 楽しいですかー?』


 マーシアは穴に向かって声を出す。

 深いところから、「楽しーい!」と小さくも大きな返事が反響した。


 それはよかったと、マーシアは再び自分の持ち場を掘っていく。

 掘り進められた地面からは、金や銀の延べ棒、美しい光彩を放つ眩い宝石がザクザクと出てきた。


『あら……?』


 その中で、一際マーシアの目を引く宝石があり、手に取ってみる。


 それは、赤色の宝石だった。

 燃え盛る炎のように勇猛な赤色ではなく、黄昏の空に浮かぶ雲のような静寂の赤色の。


(素敵……)


 今度はタイミングよく宙に浮かんだ鏡が現れた。

 髪を耳にかけ、さらけた耳に宝石を合わせ、イヤリングとして見立てる。自分で言うのも何だが、黒い髪に赤色が映え、まとまりの良い色合いを醸し出している気がした。



『あーーっ!! 似合う!! ウォルジー、その宝石、超似合う!!』



 いつの間にやら世界の裏側から帰還していたジニベルが、マーシアを見て彼女を褒め称える。


『えっ、あ……本当ですか?』

『ああっ!! 似合ってる!!』

『あ、ありがとうございます……』


 人から、いや、犬から褒められると何だか照れ臭い。マーシアははにかんだ。


『じゃあ俺、今度は別の場所で穴掘ってくる! またな!』

『あっ……』


 ジニベルは高らかにマーシアに向かってそう叫ぶと、彼女が返事をする間もなく尻尾を振って、草原の彼方へ駆け出していった。


(行ってしまった……)


 マーシアはポカンと口を開け、彼の去った方向を見つめたのであった。



 ────



「うーん……」



 また不思議な夢を見たと、マーシアは寝起き早々頭を抱える。


(ふふっ。けれど、おかしな夢だったわ。何と言ったってエラ様が、ベルちゃんに!)


 思い出すと、クスリと笑いが込み上げてきた。これはぜひ、ジニに会ったら報告しなくてはいけない。

 


「おはようございます」

「やあ、おはよう」

「おはよう、マーシア」



 着替えを済ませたマーシアは、一階のダイニングへ向かった。

 イライアスとエルザはすでに朝食を終えたようで、食後のコーヒーをすすっていた。

 

「はいよっ、お嬢様。お待たせいたしました!」

「ありがとうございます」


 長年ウォルジー家に勤める使用人の女性ドロシー・ローパーが、マーシアの席にお手製パンケーキを運ぶ。

 辺りにふわりとバターの香りが漂った。


 マーシアがパンケーキにナイフを入れていると、新聞を読んでいたイライアスがふと顔を上げた。


「マーシア。ウィノアの家に持ち帰る荷物は、もう全部まとめたのか?」

「それが、まだなんです。昨日は眠たくて、すぐに寝てしまったので……」

「おお、そうか。ちなみに、鞄にはまだスペースの余裕はありそうかな?」


 荷物整理が終わらないことには何とも言えないが、持ち帰るものはそんなに多くないはず。

 マーシアは父の問いかけに首を傾げて返事をする。


「はい。恐らく大丈夫かとは思いますが、一体どうしてですか?」

「いやぁ……。実は、ちょっとお前に見てもらいたい物があってな」

「見てもらいたい物? それは、鞄の空きスペースと何か関係が?」

「まあ、あるようなないような。ひとまず、朝食が終わったら、私の部屋に来てくれないか?」

「? は、はい。分かりました」


 何だか話がよく分からないが、イライアスは要件をマーシアに伝えると、新聞を畳み自室へと戻っていった。

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