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11話 不良ゴーレムを更生せよ


 ****




「不良ゴーレム更生のため、"真面目で心優しい人"に、清く正しい生き方の模範となってもらいたい……?」

「その通りですっ!!」


 ジニに言われた言葉を反芻(はんすう)し、マーシアはようやく少しだけ彼の説明が理解出来た。


「た、確かに、よく真面目と言われるとはお話ししましたが、だからといってそんな……私が行っても、お役に立てるかどうか……」


 勿論人に優しく誠実に、とは常々心がけているが、果たして自分はその模範的人物にたり得るのだろうか。 

 あまり自分に自信のない性格ゆえ、マーシアは俯き、困惑の色を映す瞳を伏せた。

 

「なーに言ってんだ! 俺、真面目で心優しい人っつったら、ウォルジーしか思い浮かばなかったぞ! だから、な? お前、もっと自信持てって! ウォルジーはすげぇ良いヤツだよ!」

「エラ、様……」


 粗暴で軽い物言いだが、ジニの言葉はマーシアの心にスッと染み込むように入ってくる。

  

(そういえば、以前にもこんなことがあったような……)


 どんなに言葉遣いが悪くとも、その言葉に乗せられた彼の心には淀みがない。

 なぜか不思議と、素直な気持ちが伝わってくるのだ。


(ということは、エラ様は私がその状況を解決出来ると信じてくださっているのね)


 それならば、ぜひ力になってあげたいと、マーシアは頷き、決意を果たす。


「……分かりました! 私、ゴーレムを更生させてみせます!」

「本当っ!? やったーー!! ウォルジー、ありがとう!!」

「ふふっ、頑張ります!」


 ジニはブバッと涙を飛ばして喜んだ。



 

 ****




「おおっ、戻って来たか」

「はいっ!! 連れてきました、救世主!!」


 早速、ジニはマーシアに紙芝居を用いて作戦内容を伝える。


「まず、俺が先に工房に入る。そうすればアイツらは絶対俺に攻撃してくるはずだから、その隙にウォルジーは気付かれないように工房に入って、物陰に隠れててくれ。そんで、ある程度ゴーレムの気が済んで俺への攻撃が弱まったら、すぐさまウォルジーは物陰から飛び出して、俺のとこに駆けつけるんだ」


 マーシアはふんふんと頷きながら彼の説明を聞いていたが、紙芝居に描かれているとある絵を見て、「ん?」と、怪訝そうに眉根を寄せる。


「エラ様。こちらの絵の状況は、一体……」


 紙には人間の形をしたジニらしきものが寝そべり、それに覆い被さるようにして上半身を触る、これまたマーシアらしき人間の形の何かが描いてあった。


「これは、ゴーレムにウォルジーの優しさを見せるための"俺に介抱"をする場面! 俺は気絶したフリをしてるから、ウォルジーは俺を介抱するフリをして、俺に()()()()()をしちゃって!」

「色々、と言いますと?」


 マーシアは無垢な表情で首を傾げる。

 

「そりゃあ、色々は色々だよ」


 ジニはイタズラな顔ですっとぼけ、言葉を濁す。

 

「そ、そうおっしゃられても分からないです……。もう少し、具体的に教えてはいただけませんか?」

「……言っちゃっていいの? えっへへぇ! 恥ずかしいなぁ!」

「? 恥ずかしい……?」


 ジニはマーシアにニヤけた笑みを向け、コソッと耳打ちした。


「服を胸元まで脱がしたり、膝枕してくれたり、あとはもっと………………をしたり、とか」

「っ?!?!」

 

 想像以上に大胆なことを囁かれ、マーシアの頭はボンッと煙を上げて噴火する。


「…………〜〜〜〜っ!!?? そ、そそ、そんなこと!! で、ででで、出来ません!!」

「そう? 俺は全然構わないけど」

「わっ、私は構います!!」


 マーシアは視界が揺れるほど力強く、顔を真っ赤にしながらブンブンと首を横に振った。


「あっはは、残念! じゃあさ、せめて──」

「エラッ!! ふざけたことでお嬢さん困らせてねぇで、さっさと次進め!!」

「は、はぁい…………」


 とうとうアレイシオに怒鳴られ、ジニは萎縮した。


「……えっとまあ、とにかく! 介抱するフリしてゴーレムにウォルジーの優しさ、真面目さを見せつけるんだ! そうしたら、何だかんだでゴーレム達は素直でいい子になる! それで全て解決! 完璧な作戦ってわけよ!」

「は、はぁ……」


 想像していたよりも雑把な作戦に、マーシアは若干不安を覚える。


「でな、俺はアイツらがウォルジーを襲うことはないって踏んでるんだけど、万が一のために防御の魔法(デフィート)は体の隅々までかけておいてほしい。マジで、怪我すんのだけは洒落にならねぇからな」

「私を襲わない? けれど、聞いた話ですと彼らは誰彼構わず攻撃をしてしまうのでは……」


「不良ってのは大体、女子供年寄りは襲わねぇもんなんだよ」

「そ、そうなのですか……??」


 説得力のあるような、ないような。

 とりあえず、その話を信じるしかないが。


「一応、作戦はこんな感じなんだけど、分かったか?」

「おおよそは分かりました。ちなみになのですが、エラ様も勿論、防御の魔法(デフィート)はおかけになられるのですよね?」


 不良ゴーレムにはたかれ赤くなったジニの頬を見て、マーシアは心配そうにそう尋ねた。

 

「そんなんあったりまえだ! これ以上叩かれたら、アザ出来るどころじゃ済まねぇもん!」

「そうですか、それでしたらよかったです」


 マーシアは安堵の息を吐く。

 ジニがそのつもりなら、これ以上被害者は出ないだろう。



「そろそろ始めるけど、大丈夫そうか?」

「はいっ!」

「よしっ! とっとと片付けちまおう!」


 二人は拳を握り、気合を入れる。



「お嬢さん、このアホ(エラ)のために変なことに巻き込んじまって悪いな。自分が危ないと思ったら、すぐに工房から逃げるんだぞ」

「かしこまりました。ですが、出来る限りは頑張りたいと思います」


 申し訳なさそうにしているアレイシオに対し、マーシアは彼を安心させるべく、にこやかな笑顔を向けた。



「……じゃあ、行ってくる!!」

「はい! お気を付けて!」



 防御の魔法(デフィート)をかけたジニは、ふうっと大きく息を吐き、工房の扉を開けた。



 ──ガラッ



『!!』



 突如開いた扉に驚いた不良ゴーレム達は咄嗟に身構え、戦闘態勢に入った。


「何だ、襲ってこねぇのか? 意外と腰抜けなんだな!」


 ジニは仁王立ちし、不良ゴーレム達を挑発する。

 挑発に乗った彼らは、分かりやすく地団駄を踏んだ。


「ほら、どうした? かかってこいよ!! まとめて相手になってやるからよぉっ!!」


 防御の魔法(デフィート)がかかっていることによる無敵感からジニのテンションは上がりまくり、不良ゴーレム達に対し、猛々しい姿勢を見せる。



『…………〜〜〜〜!!!!』



 ついにブチ切れた不良ゴーレム達は、読んでいた通りジニに向かって威嚇しながらすっ飛んできた。


 ヘラで叩くわ拳で殴るわ、先程までならけちょんけちょんに伸されていたところだが、防御の魔法(デフィート)のおかげで攻撃は全く響かない。


「あーー! 痛い、痛いなぁ! すっごい痛すぎる!」


 ジニは大根役者と化し、とりあえず大袈裟に痛がる素振りをしてみせる。


(よしっ、あとはこのまま俺がわざとやられて、気絶したフリをすれば……)


 そう思っていた時だった。



「…………っ?!?! だぁっ!!?!」



 なぜか、ヘラでボコボコ叩かれている脇腹に突然痛みが走った。


「はっ? な、何で?? ちゃんと防御の魔法(デフィート)かけたのに?!」


 ほんの数秒前まで痛みを感じていなかったのだから、確かにかかってはいたはず。

 

 じゃあ、なぜなのか。



「あ゛っ、もしかして……?!」



 自分自身のことなのに、ジニはすっかり忘れていた。


"自分は操作の魔法(エンピュート)以外の魔法に関して、平均以下の能力しか持っていない"ということを。


 防御の魔法(デフィート)は見えない防御壁を鎧のように身に纏い、外部の攻撃から己を守るというものだが、ジニの貧弱な防御の魔法(デフィート)では薄い壁しか作れず、不良ゴーレムの猛攻によってすぐに破られてしまったのだ。



「わ゛ーーーーんっ!!!!」


 

 そうなると、哀れジニは不良ゴーレムにギタギタのボコボコにされる運命を辿る他ないのである。


ここまでお読みいただきありがとうございます!

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どうぞよろしくお願いします♩

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