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10話 解決の糸口

【前回のあらすじ】

 


 ジニのせいでゴーレムが不良化した。




 ****




「…………〜〜〜〜ッ!!!! 結局、俺のせいじゃねぇかよ!!!!」


「そうだな」


 九分九厘などではない。

 十割方自分の責任である事実に、ジニは頭に岩石が落ちてきたような衝撃を受ける。


「それは最初から分かっていたことじゃないか。何たって、ゴーレムは君だけしか手掛けていないんだから」

「ああああ゛っ!! 皆まで言わないでくださいっ!!」


 フェリクスは絶望するジニに追い打ちをかける。


「まあでも、原因が分かったところであれをどうするかって話だよね。エラ君がアイツらの操作の魔法(エンピュート)を解除すれば、動きを止められないかしら?」


 パディーは腕を組み、そう提案した。

 

「いや、操作の魔法(エンピュート)を解除するぐらいじゃあ、動きを鈍くさせることしか出来ねぇらしい。額に入れた羊皮紙を製作者本人が抜き取って初めて、全機能を停止させることが出来るそうだ」


 やはり"やさしく解説! ゴーレムづくり"に書かれた記述を読み、アレイシオは顔を顰めた。


「じゃあ、どのみちエラ君自身で解決する他ないってことね」

「ま、そうなるな」

「ひゃぃ……」


 ジニはどんよりと言葉を搾り出す。

 入社して一ヶ月も経っていないというのに、とんでもないことをやらかしてしまった。


「エラ。ひとまずアイツらにかかってる操作の魔法(エンピュート)を解除してみたらどうだ? 動きが鈍ってくれたほうが、羊皮紙も引っこ抜きやすいだろう」

「そ、そうっすね……やってみます!」


 もう一度窓から様子を窺い、不良ゴーレムの動向を確認する。

 彼らはジニの見ている窓から少し離れた位置で仁王立ちしている。こちらが隙間を覗いていることには気付いていないようだ。


「今なら解除出来そうだけど……。もう少し窓開けらんねぇかな……?」


 突き出しタイプの窓は、幸いなことに空気循環のため、常に下部分が少し開けられている。

 あと少しだけ外側から窓を上に上げられれば不良ゴーレム達へ狙いが定めやすくなり、操作の魔法(エンピュート)も解除しやすい。


(ちょっとだけ……ほんのちょっとだけ)


 ジニは動きで彼らに気付かれないよう、ゆっくり慎重に、少しずつ窓を上へ持ち上げようと試み──


 

 ギッゴン。



(………………)



 嫌な音が、辺りに響く。

 年季の入った窓は、非常に立て付けが悪かった。


 音に反応した不良ゴーレム達は、一斉に窓の方を振り向き、ジニを視界に捉える。



 ペンペンペンペンペンペンペンペン!!!!



 不良ゴーレムに往復ビンタを喰らったジニは頬を腫らし、その場に倒れた。



「ダメだったか……」


 

 固唾を呑んで見守っていたアレイシオらも、ジニの姿を見て溜め息を吐く。


「俺、もうクビでは…………?」

「弱音を吐くな!!」


 ジニの心もズタボロだ。


操作の魔法(エンピュート)も解除出来ないとなると……。他に、何かいい方法はないか……?」


 またもや一同はうーんと頭を捻る。

 もはや、打つ手はなしなのか。


(ああああ、もう、どうすりゃいいんだよ……。てか、そもそもゴーレムが不良になるってなんなんだよ……。いや、生み出したのは俺だけど……。けどそんな(ワル)に憧れるって、十四歳くらいのガキじゃねぇんだから……)


 でも、その年頃って何となくイキりたくなるものではある。

 ジニは自身が十四歳だったあの頃を思い出し、勝手に羞恥心に見舞われた挙句、不良ゴーレムという意味不明な存在にだんだん腹が立ってきた。解決案を考えていたはずなのに、次第に彼らの悪口が頭を飛び交う。


(もう〜〜、バカがよ〜〜っ!! こないだまで日ぃ浴びて寝っ転がってたってのに、急に武器持って荒れてんじゃねぇよ!! アホ!! このアホ土!! ()()しろ、()()──)


 その時、ジニははたと、己の発展途上の語彙の内に突然現れた"微かな希望"に気が付く。

 


「…………更生…………?」



 ジニは瞬時に理解した。

 

 

「分かった!! アイツら、更生させてやりゃいいんだ!!」



 彼は大声で叫ぶ。

 この状況を解決する兆しがようやく見えてきた。


「更生? どうやってアイツらを更生させるってんだよ」


 ジニとは裏腹に、アレイシオは彼の提案に難色を示す。

 

「不良って、影響受けやすい生き物なんですよ! そこを利用して、"超真面目で超心優しい人"をアイツらに見せてやれば、きっとバチバチに影響されてあっという間に元のゴーレムに戻るはずです!」


 ジニは力説した。


「エラ。お前、随分と不良の生態に詳しいんだな」

「それは、ききき……気のせいです!!」


 (ワル)に憧れちまったあの頃──

 しょうもない過去(十四歳)の思い出を掘り起こす前に、ジニは頭を強く振って全てを消し飛ばす。


「でも、その真面目で心優しい人っていうのは、一体どこにいるんだい?」


 フェリクスは目を眇めて周りを見回す。

 悲しいことに、両条件が合致しそうな人物がここにはいない。



「心当たりが一人いるんです! すっげぇ真面目で純粋で、サラッと人に優しい言葉を言えちゃう、そんな子が!」



『私はあなたの使う操作の魔法(エンピュート)があれば、いつか必ず素敵な魔法道具を生み出すことが出来ると思っています』



 以前、自分の心を動かす言葉をくれた人物。

 

 ジニは彼女に助けを求めるべく、本館に向かって駆け出した。




 ****




 ──ところ変わって、こちら魔材調達部の執務室。



「では……今日のおやつはこちら」



 そう言うと、アシュリーは大きめのバスケットの中から網目模様が可愛らしいチェリーパイを取り出した。


「まあっ、さすがはナブルバーンさん! 今日のパイも美味しそうだわ!」

「ありがたきお言葉……。さあ、どうぞ召し上がれ」


 サングラスのおかげで表情が掴みにくいが、感嘆の声を上げたジェローナに向かって、アシュリーはニコリと笑ったようだ。


 魔材調達部は仕事の休憩時間になると、毎回昼食後のデザートにアシュリーお手製のお菓子をいただいている。お菓子作りが趣味の彼は皆に振る舞うべく、毎朝何かしら甘いものを拵えてきてくるのだった。

 魔材調達部の部員達も、それが楽しみで午前中の仕事を頑張っているまである。大変仲睦まじい部署なのだ。


「甘酸っぱいお味が口いっぱいに広がって……とても美味しいです」


 チェリーパイを一口口に入れた瞬間、マーシアの表情は多幸感に包まれる。


「本当に、副部長はお菓子作りの天才だなぁ」

「筋肉もあってお菓子作りにも長けているだなんて、副部長は大したお方だ」

「天は全然二物を与えますね」


 魔材調達部部員ののんびり田舎者の女性シェミー・グレンダと、緑髪の端正な顔をした男性トリスタン・ラス、それにイーノックは、モリモリとパイを味わいながらアシュリーをベタ褒めする。

 褒められて照れ臭かったのか、アシュリーは

サングラスをクイッと上に押し上げた。


「美味しいデザートをいただいて、上質な紅茶を嗜み、窓の外には雲一つない青空が広がる……。はぁ〜、何て穏やかな一時なんでしょう」


 窓の外で羽ばたく鳥を眺め、ジェローナはうっとりとして呟いた。


「うふふっ、心がまったりとして、落ち着きますね」


 マーシアもすっかりくつろぎ、熱い紅茶に角砂糖を一つ入れ、スプーンを掻き回す。



「すいませんすいませんすいませええぇぇん!!!!」



 平穏とは、いとも簡単にブチ破られるものである──



 突然、もの凄い勢いで執務室の扉が連打された。



「もう!! 一体、どちら様?!」


 

 リラックスタイムを邪魔されご立腹なジェローナは、あからさまに怒気を含んだ声色で乱暴に扉を開ける。



「すいませえぇん!! あの!! ウォルジーいませんかっ?!?!」


「え?」

 

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