プロローグ
まったりと楽しんでいただけたら幸いです。
よろしくお願いします。
雲一つない青空の下、高くそびえる摩天楼の窓を、空飛ぶ箒に跨った男性清掃員が鼻唄混じりにモップで磨き上げていく。
だが、彼は魔法使いなどではない。
魔力を持たない、一般人の男性だ。
よく見れば、周りのビルでもあちらこちらに彼の清掃員仲間が箒に乗り、窓の清掃を行っている。
勿論彼らも、魔法使いではない者達だ。
ではなぜ、彼らは箒で空を飛んでいるのか。
"人を明るく楽しくさせる魔法道具を作る"
それは、ある人物の掲げた目標が、魔法を使えない人々でも空を飛ぶことが出来る、夢の箒を実現させたからである。
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これより数年前、近代化の進んだここロドエという国で、魔法は翳りを見せていた。
なぜかと言えば──
「魔法がなくても、科学の力で事足りるんですよね」
そう。今の世の中、大変楽なのだ。
掃除機がある、洗濯機がある。
電話にラジオ、水を出すなら蛇口を捻ればそれでいい。
街の景色だって様変わりした。
馬車をとんと見かけなくなった代わりに舗装された道路を行き交う車。地下も地上も共に駆け抜ける鉄道。街中に張り巡らされる電信線。
そして、色彩豊かなファッションを楽しむ、お洒落な群衆。
要するに、魔法がなきゃないで不便に感じることが少なくなったのだ。
けれど、そんな世の中になってめっきり魔法が消えてしまったかというと、そうでもない。
魔法使いは日常で魔法を使わなくなったかもしれないが、仕事で魔法は生きている。
魔法薬調薬師に魔獣医師、魔法服デザイナーや魔法生物の研究……。
中でも一番就職人口の多い職業は、【魔法道具職人】。不思議で便利な力を持った道具を生み出す、魔法使いならではの職業だ。
ロドエにも、魔法道具製作を行っている会社が幾つもある。
ケンドラ州はウィノア市にある魔法製品製作会社、【ハイネ・カンパニー】もそのうちの一つだ。
たまにヒット商品に恵まれる運の良い会社で、中でも【無限収納トランク】と名付けられた幾らでも物を詰め込めるありがたいトランクは、魔法道具職人界を沸かせたこともある。
そんなハイネ・カンパニーには明日、三人の新入社員が入社する。
「ヤベェ!! 明日持ってこいって言われた書類なくした!!」
自宅アパートメントの一室で、重要書類をなくし慌てふためくこの少年も、立派な新入社員のうちの一人なのだ。
やがて彼は部屋中引っ掻き回して書類を見つけ、安堵の息を吐くだろう。そして疲れて爆睡し、家を出る時間ギリギリに起床する。
死に物狂いで会社に駆け込んだ彼は、どうにか遅刻を回避し、就業説明を受ける部屋へ急ぎ、空いている席に座り、またも安堵の息を大きく吐くのだ。
そうしたところで、彼は気付く。
自分の隣に座る、柔らかな空気をまとった黒髪の少女に。
これは、発展していく時代の中で巻き起こる、若い魔法使いの成長を描いた、愛と魔法の物語──