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俺は元冒険者の司書である。割とベテランな。
仕事を押しつけられる後輩たちも数人いる。
故に俺は彼らを尻目に本を開き、書を読む。
そんな優雅な司書生活。
それにはなんとも似つかわしくない、むさい男という不純物が紛れ込んでいた。
ヒゲ面の男、ドランクからの問い掛けに、メガネを掛けたアベルはこう答える。
「やだよ。」
「そこをなんとか頼む、アベル。お前が必要なんだ!!」
そう手をパンとし、祈るような仕草をしてくるヒゲに彼は視線をそちらに向けることなく答えた。
「気の所為だ。」
「気の所為じゃねぇよ!!」
「じゃあ気の迷いだろ。」
「は?テメェ!!……はぁ…ああ…もう好きにしやがれ!!」
バーカ!バーカ!!と昔馴染みの奴が去っていく。
散々喚き散らして去っていく。
…図書館にも関わらず。
「失礼した。」
アベルは頭を下げ、再び本を開く。
そして、このルーティンと化してしまった行動によって、ここ最近毎日のように思い出す。
『天より授かりしこの光この世を照らし給え【天剣】』
あの自信というもの全てを失った光景を…。
―
出勤時間の1時間ほど前に来て、自分の分の掃除からなにからを終わらせ、いつものイスに座るアベル。
本を開き、書を読む。
いつもなら文庫本を開き数ページ程度の猶予しかないはず…しかし…。
「…遅いな。」
…すっかり丸々一冊読み終わってしまった。
これが3日ほど。
「……。」
「司書さんや、あのお友達どうかしたのかね?」
アベルが視線を送るとやはりヒゲではなく、馴染みの爺さんだった。
「?どうしてだ、爺さん。」
「いやのう。ここ数日、あのヒゲが来てないじゃろ?なにかあったのかと思って。」
「…知らん。もう飽きたんじゃねぇか?」
「ホッホッホ、それは困るのう。儂らの数少ない楽しみが…。」
「?」
アベルが周りを見渡すと、爺さんの他の常連たちが一斉に視線を逸らした。
「図書館で見るあの漫才はいつ見ても秀逸じゃ。」
「漫才じゃねぇ!!」
…普段うるさくしてたら、ブチ切れる司書長がアイツが来てもキレねぇと思ったら、そういうことかよ…。
爺さんの言葉に、額に手を当てるアベル。
すると、爺さんはアベルに年季の入った笑顔を見せた。
「司書さんや、ああいうアホな友人は大切にした方がええぞ。」
「………いや…アホならむしろ縁を切るべきだろ。」
「ホッホッホ。」
爺さんに言われたからじゃねぇ。
爺さんに言われたからじゃねぇ…けど…。
アベルは10年ぶりに冒険者ギルドの中に入った。
そして…。
「は?行方不明…だと…。」