鏖終末戦争『アルマゲドン』
『鏖終末戦争』
神代の世、人間と魔族によって起こされた戦争。だがしかし圧倒的な実力差がある人間と魔族では勝負は目に見えていた。
だがしかし、人間は神々に従え、神々から恩恵を受けることで持ちこたえることが出来た。
いずれ軍神は直々に己の身を戦場に投げ出した。
「そろそろ調子に乗りすぎなんじゃ魔族共よォ!!いくぞテメェら!!」
「「「うおぉぉぉぉぉお!!」」」
「へっ、いくぞ万妖麗寿」
「ああ、今日は存分に暴れてくれ、タケミナカタ」
この時の魔族の総数は250体。戦争開始の頃と比べ、10体ほどしか減っていない。一方人間の総人口は2000万人ほどだったのが今では800万人と、半数以上が無慈悲にも殺された。
「女子供を容赦なく惨殺する貴様らは、今宵潰えるであろう…!」
タケミナカタは凄まじいスピードで戦場を駆け抜ける。
「なんだコイツ、やっちまえ!!」
「なっ、コイツなんか速…」
最初に鉢合わせたのは2体の魔族。
「殺られるのは其方らだァァァァァァ!!」
『戦魔法・絶』 極衝の理
身体が一回り大きくなった。筋肉の密度を上げ、『戦士としての格』という軍神独自の概念を極める魔法。
「せぇぇぇぇぇえい!!」
ズドォォォォン!!!!!
「うがぁぁぁぁぁあ!!?」
「ぎゃぁぁぁぁ!!」
「す、すげぇ!あれ程にまで強い魔族を一払いで2体も…!」
「手応えがねぇなぁ!!次!!」
直ぐに一体の魔族が現れるが、2体の魔族の死体を見つけた瞬間、魔族は顔全体が青ざめた。
「ひ、ひっ…!う、うわぁぁぁぁっ!!」
「自暴自棄になり襲いかかるか。戦場ではそれもまた一択。だがしかし…」
ザンッ
「私には効かぬわぁぁぁぁぁ!!!!」
「ふっ、一瞬で魔族の首を…。流石にやるな」
「わははは!まあな!」
一太刀で魔族の首を断つ。冷静な判断力と大胆な行動力。この2つを兼ね備えた彼は戦場において勝るものはないだろう。
「こいつらは下っ端だ。大将を斬るぞォ!!」
「「「うおおおおおおおおお!!」」」
「軍神と言うだけ、兵をまとめる力あるよな」
「ふっ、これも魔法の1つよ」
「女神は寄ってこないのにな」
「うるせぇ!!」
軽口を叩きながら戦場を駆け抜けるタケミナカタ。魔族の首を次々と刎ね、大将に一直線に向かう姿は鬼神をも震わせる圧巻。
大将陣まで距離はあと僅かの地点。
バサバサッ
スタッ
「ちょっと、うちの同胞がやられすぎだと思ってね」
「へっ、やっと現れたか」
空から現れたのは一体の魔族。漏れ出す魔力を見るに大将かそれに準ずる位置の魔族だろう。
「君は神か。軍神タケミナカタ…。あなたとは1度手合わせをしたいと思っていたんだ」
「敬語がなってねえぜボウズ。どれだけの実力があったとしても所詮は下界の生物。神に適うと思ってたら大間違いだぜ?」
「…ふむ。これが神の圧か。…心地よいな」
「チッ、てンめぇ…!」
=戦獰= 恒河沙旋風乱
「生意気な口を叩く輩にゃ、お仕置が必要だなァ!!」
タケミナカタの圧倒的連続攻撃。砂塵が舞い、視界を潰し、そこに目にも止まらぬ速さで斬り込む。一対一の戦いの時に彼が好む技だ。
「うっ、これは…なかなか来るものがある」
「ほう、これを全て防ぐのか…。面白いじゃねえか!!」
=戦獰= 兜割り
「形状βだ万妖麗寿!」
「あいよっ」
瞬く間に、彼の持っていた刀は戦斧に変わる。
「なっ!?」
「ふんッ!!」
まるで隕石が落ちているかのような轟音と共に振り下ろされた斧は、空を切り裂いた。
「…むっ!?」
「残念、外したな」
「この私が外すとは、到底信じられんな。…斧に魔法が?」
「流石は神か。己の感覚において勝るものは無い、と。だが斧に魔法というのは少々違うな」
「…貴様に悠長に解説させるほど私は優しくないぞ?」
豪速で魔族の後ろに回り込んだタケミナカタは胴体を一刀両断を狙うも、
『言霊魔法』 設定:逸
横に振り抜いた斧は魔族には当たらず、またも空を切り裂いた。
「やはり概念に侵食する魔法は神々に相性が良いか」
「くそったれェ…!」
「髪神といえど所詮は概念の中を生きる物体。言霊には抗えないか」
「舐めんじゃねぇ!」
闇雲に斧を振り回し始めたタケミナカタ。
「ふははは!神もこの力の前では自暴自棄になるか!」
「お、おい、落ち着けよタケミナカタ!」
「うるせぇ!絶対にコイツを仕留める!!これは軍神としての私のプライドだァ!」
「だからってそん…」
いや、違う。タケミナカタは身体の芯から冷静だ。今のタケミナカタの瞳はいつもの熱気の籠ったものじゃない。絶対に対象を殺すと集中した時、彼の瞳は冷たく光る。
「そろそろ、決着をつけさせてもらおうか」
「させるかァ!」
だがタケミナカタの斧は一向として当たる気配は無い。
「喰らえ」
『言霊魔法』 設定:捩
「ぬぅっ!?」
「…ふむ、魔法自体はかかっているが、筋力で腕が捩られるのを防ぐか。馬鹿筋肉だな」
「せぇい!!」
=戦獰= 円弧斬り
心臓の辺りを狙って弧を描くように振られた斬撃は、魔族の頭を掠めるように逸らされた。
そのまま慣性に従って地面に斧が突き刺さる
「だから無駄だと言って…」
だが刹那、この魔族は気がついた。タケミナカタの左手の人差し指が、こちらに向けられていたことに。
「これはっ…!?」
「もう遅いわボケナスゥ」
『戦魔法』 矮小な狙撃手
「うがぁっ…!」
指先に集められた魔力は魔族の胴体を貫いた。
「こういう卑劣な手は好きではないのだがな」
「ゴフッ、この私がっ…!魔族の特攻隊隊長である、この私がっ!!」
「ふっ、これも運命だ。人間の惨殺を後悔しながらあの世に行くといい。だがその前に情報だけは吐かさせてもらう」
斧の形状を変え、私を刀にしたタケミナカタは、それを魔族の首に突きつける。
「まあ死ぬ直前の貴様から、ロクな情報が得られるとは思えんがな」
「くっ…、流石は神界最強と謳われる軍神だ。本来突けるはずのない隙から致命傷を負わせるとは、ずば抜けた戦闘センスだ…」
「お前ら魔族の大将はどこだ?吐けば楽に逝かせてやろう」
「ふっ、私はこれでも一端の戦士だ。大将を裏切る真似はしない」
「まぁ、それもそうか」
「…ただ1つ、言えることがある」
「ほう?聞かせてもらおうか?」
万妖麗寿はこの時点で酷く嫌な予感を催していた。
なんだ?こいつのこの余裕は?もう勝敗は決している。隙を突いたタケミナカタの勝ちだ。だというのにこの飄々とした態度…。まだ生き延びていられるとでも思っているのか?
「軍神タケミナカタ、アンタは今日、ここで死ぬ」
「…なんだと?」
「我が軍の大将、邪神様に貴様は《《今》》殺されるのだ」
「まて、それはどういっ…!?」
転瞬。私たちの後ろに現れたのは、《《既にタケミナカタの心臓を貫いていた》》人の姿であった。
「…がぁっ…」
「タケミナカタ!!?」
「…ミスったわ、わりぃ、万妖…麗寿…」
バタンとタケミナカタは倒れる。
「…タケミナカタ、タケミナカタ!おい、しっかりしろ!タケミナカタァ!!」
「もう無駄だ。聖剣、万妖麗寿」
「…許さん、許さんぞ貴様!! 名を名乗れ!!」
「俺か?…そうだな。良いだろう、特別に教えてやろう。俺の名前は暗殺神シュカだ。覚えておけ」
「言われなくても忘れることは無い…!貴様を殺すまで私は貴様を呪い続ける…!!」
「俺を呪う?ふっ、面白い冗談だな。この、」
邪神である私を、か?
ここは要塞化した王都。土砂降りの雨の中、悲鳴と破壊音が無惨に繰り返されていた。
「あ、助け、たすけ、あぁあぁぁぁぁあぁあ!!!!」
「や、やめろ!こっち来るな!来るな、来るな…うわぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
「ぎゃはははは!!所詮神がいなきゃ人間は雑魚しかいねぇ!今日人間はここで滅ぼす!!」
「壊せ!殺せ!!人間を根絶やしにしちまえ!!」
「きゃあぁぁあぁあぁぁあああ!!」
「うがぁあああぁぁぁあ!!」
「やめろぉぉぉぉぉおぉぉぉおお!!」
「いやぁぁあぁあぁあぁあぁああ!!」
ザァァ…ザァァァ
「くっ、タケミナカタ…すまない、私では、私程度では、お前を救えなかった…」
「あぁっ…タケミナカタ様!タケミナカタ様ぁ!!」
「なっ、エバースノー!?」
「なにがどうして!?タケミナカタ様!?!」
コイツ、天界から無理やり結界をこじ開けて来たと言うのか…?あの結界を…?
「ま、万妖麗寿さん、タケミナカタ様は、どうなってしまわれるか!?」
「…すまない。タケミナカタは、もう…」
「………」
エバースノーの血の気が一気に引く。
「あ…ああぁ…」
「…くっ」
「わぁぁぁぁぁぁあああぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁあぁぁぁぁあぁああぁぁぁぁぁああぁあぁあぁぁあ!!」
「…」
「まだ恩を返しきれていないのに!!タケミナカタ様ぁぁぁあぁぁぁぁぁぁああ!!!目を覚ましてください!!タケミナカタ様ぁぁあぁぁぁぁああ!!!」
「…泣き、すぎだ…馬鹿野郎…」
「!? タケミナカタ様!?」
「この戦争は、俺、が…終わらせ…る…」
「な、何をおっしゃって…!?」
「エバー、スノー…頼む、その剣を…万妖麗寿を…俺の胸に、…根源に、突き刺して…くれっ…!」
「…!?」
エバースノーは無言で首を振る。
「何してんだ…早く…」
「そんなの、無理に決まって…」
「早くするんだエバースノー!!タケミナカタは自分の根源の破壊を条件とした自爆魔法が目的だ!!狼狽えるな!!」
「うぅっ…でもぉっ…」
「馬鹿野郎…!!俺の息が…根源が続く間に…、早く…!」
「うっ、あぁ、駄目、できないです…」
「早く…しろ…頼む…」
「うっ、うぅっ…」
エバースノーは万妖麗寿に手をかける。だが、
「駄目…だ、もう…」
エバースノーが根源を破壊する前にタケミナカタは意識を失った。聞こえるのは、どこか遠くから響く、人々の悲鳴だけだった。