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その暗殺者は蜜の味  作者: 赤海 梓
第4章 祆と神々の激瑠
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雪原の狙撃手

 この世界は魔物という存在がいる。頻繁には現れないが、生物の過剰な魔力の摂取、悪しき魔力の集合、暴走した魔力を抑えられずに侵食、大抵はこの3つが原因で魔物が誕生する。


「魔物…?いや、これは…」


「どうしたの蜜奈ちゃん?」


「いや、なんでもない。変な気配が少ししただけ。気にしなくても大丈夫だと思う」


「…そう?」


 魔力の結晶と言っても過言ではない気配を、遠くで感じた。なんだ今の…?


「おっ、若干明かりが見えて来たな」


「あれは…『休憩所(エリクサ)』だね。流石にぶっ通しで歩き続けるのは辛いからって、街の人たちで設置したんだよ」


「へぇ。結構新しい感じだけど、最近できた施設なの?」


「そうだな。俺らが小さい頃に街の人たち総出でいくつかエリクサを建設したんだ」


「へぇ。じゃあせっかくだしあそこで休んでいこっか」


 私たちは明かりの元に向かうのであった。


 雪が積もらないよう、薄い熱の膜が張られたような休憩所。


「…あったかい」


「ここは私たちの魔力を定期的に込めないといけないんだけど、魔力を込めると熱の結界が展開されて、まぁ結界と言っても内部が暖かくなるだけなんだけどね」


「月1くらいで魔力を込めればいいから結構効率がいいんだよな、コレ」


 中の気温は20度も無いくらいだろうか。雪原の中の結界にしてはかなり暖かい。


「…この結界、結構凄いと思うんだけど」


「そうかな?」


 術者の魔力で無くても発動し、魔力を流すだけで熱が流れる。

 …へぇ、面白い設計だ。ここの術式がこうなってるのか…。それでここがこうで…


「へぇ、面白いなぁ…」


 耐久性には優れているのだろうか?気になるなぁ。


「…壊さないでよ?」


「えっ、いや、いや、いやいや、あっ、えっ」


「動揺しすぎだろ」


「壊そうとしてたのか…」


「いやいや、そんな事ないって…」


 心を読まれてしまった。いや怖そうだなんて思ってもいませんでしたけどね?


「蜜奈ちゃん、今日はここで1泊しない?」


「急にここまで来たし、だいぶ疲れたから正直一眠りしたいんだが…」


「あー、そっか。ごめんごめん。それじゃあ今から明日まで休憩しよっか。太陽が見えないから体内時計頼りだけどね」


「うん!」


 そりゃそうか。普通なら雪原を半日歩くだけで苦しいか。

 私は少し反省をし、今日はエリクサに留まることにした。















 ーー魔物の気配。


 基本的に魔物は気配が邪悪だ。前世と違ってこの世界は魔という概念が悪として捉えられている訳ではない。だが魔物という魔力の結晶体とも言える存在は忌み嫌われている。

 だがここは雪の神の息のかかった地域。魔物の誕生は極めて稀有だと聞く。それだというのに…。


「詩春ちゃん」


「? どうしたの?」


「エリクサってここの他に何ヶ所くらいあるの?」


「えっと、20前後かなぁ…?」


「ここ含めて27ヶ所だぞ詩春。基本的に渦巻きを巻くようにして位置している」


「あ…!そうだった…」


「位置までありがとう。助かったよ」


「急にどうしたの?」


「…いや別に。ちょっと出かけてくるね」


 そして私は結界の外に出る。

 2人に心配はかけたくない。私はこの気配を討伐しに行く。


「ちょ、蜜奈ちゃん!?」


「何してるんだよ!?」


「ごめんね、急用ができちゃった。明日までには戻ってくるから、2人は休憩しててよ」


「え」


「じゃあ、ちょっと行ってくるね」


「え、え」


 ダダダダダッ…


「「えぇー…」」























 最寄りのエリクサはあそこか。中に人は居ない。


「だけどこの辺りだったはず…」


「どうしたんだ蜜奈?」


「邪悪な魔力…魔物の気配がしたんだ」


「…それが本当なら、索敵能力は私よりも凄まじいな」


「まぁね」


 確実にどこかに邪悪な魔力を感じた。この辺りに、邪悪な魔力を。


「ふぅ、さむさむ。エリクサってやっぱりすごい技術だな」


 私は神乞いの羽衣をしていないので、戦闘及び暗殺はエリクサ内で行わなければならない。

 最寄りのエリクサに着いた私は早速魔法を展開する。



 『火炎・大地・風・雷電複合魔法』 |狙撃銃生成《スナイパーライフル生成》



「懐かしいなぁ、こいつ」


「蜜奈、これは?」


「私が昔、愛用してた銃さ」


 今作ったスナイパーライフルは私が前世愛用していた狙撃銃を模倣して作った物だ。


「今日は魔物を殺すために協力してくれよ、『ディープワイト799』」


 かつての愛銃、ディープワイト798。改良に改良を重ね、威力、射程範囲共に申し分ない性能であった。

 それを魔法で改良し、マッハ500の速度で半径25kmの対象を狙撃することが可能になった。

 新愛銃『ディープワイト799』。

 この世界に銃という存在はない。だからこそ私の改造したこの狙撃は…



「対象を確認。標的「氷猪(アイスボア)」。2km先を東北東に時速60kmで走行中。頭部補足。…補正完了」



 世界最速だ。



 パシュン



「よし、いい性能だ『ディープワイト799』。これなら神をも狙撃するに至るかな」


「…凄まじい威力だ」


 氷猪は灰のように散って消えていった。


「…やっぱりそうなるよね」


 灰のように消えていってしまった。七不思議が死んでいった時と同じような消え方…。


「やっぱり、魔物は人間の対称に位置しているの…」


 っ…! また近くに魔物の気配…!


「この雪原、やっぱりおかしい。魔物が流石に多すぎる」


「雪の神、エバースノー…何をしてるんだアイツは」


「…? 万妖麗寿はエバースノーとは一体どういう関係なの?」


「奴は私のかつての使用者の…弟みたいなものだ」


「弟…?」


「私のかつての使用者が神だったのだよ」


「…え、万妖麗寿ってそんなに凄い剣なの!?」


「神代の職人に鍛え上げられ、神の施しを受けた伝説の刀だからな。あと普通にそれ失礼じゃない?」


「あはは、そう言われるとなんか凄みを感じるねっ」


「……話を続けるぞ。軍神タケミナカタ、私のかつての使用者だ。彼はどのような争いにも勝つほどに強靭な祆を持っていた。戦いは負け知らず、剣神フツヌシ、暴風神スサノオをも退け、実力で言えば神王ゼウスにも劣らず、常に勝利をもぎ取り続けた」


「…」


「そんなタケミナカタに憧れ、後ろをトコトコと付いてくる小さいヤツがいたんだ」


「それが雪の神、エバースノー?」


「この当時、エバースノーはまだ神ではないな。だが大きくなるにつれて神として匹敵する実力を身につけ、あっという間に神の称号を我がものにした」


「なるほどね…」


「奴の雪魔法は正に深淵、祆をいとも容易く開発した」


「それなのに、今この雪原は魔物が大量発生してる…。それには何か理由があるの?」


「……ただ1つ、思い当たる節がある」


「思い当たる節?」


「神代唯一であり最大規模の戦争…」



 『鏖終末戦争(アルマゲドン)』だ。

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