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その暗殺者は蜜の味  作者: 赤海 梓
第3章 狂い園の華
22/26

蜜奈

「審判の刻だ。最初からいくよ」



 閻魔瓏剣(えんまろうけん)審判の薙刀(しんぱんのなぎなた)



 劣酒は真っ黒の薙刀を手にする。


「あれは…!」


「うおっ!刀が喋った!」


「うるさい小僧」


「なんだとテメェコラ」


「あの少女が取り出したのは十二創剣、三大魔剣に数えられる中でも、…いや、この世にある武具の中で最強とされる剣、審判の薙刀!」


「武器に最強って言われてもピンと来ないがな」


「…見ればわかる」



 =枢焔= 閃牙炎纞(せんがえんれん)



 あまりにも速い連続の突きが蜜奈に襲いかかる。


「おっとと、あはは!」


「凄い、僅かだが蜜奈を押している…!」


「…」


「どうした小僧」


「俺、あの中に入れば、確実に死ぬんだろうなと思ってな。なんだか無力感に襲われただけだ」


「…お前の仕事は戦うことでは無いはずだ」


「?なんだそれ」


「直にわかる」


 …よく分からんが頑張ってくれ、劣酒。



 =枢焔= 旋凛の舞炎(せんりんのまいほむら)



 ギャリリリリィン!!ガイィン、ガキィン!!


「…」


「なかなかやるね!あははは!」


 といいつつ隙をついていちいちカッターで刺してこようとしてくる。柄でなんとか弾いているものの、上手く隙を作られすぎていては、やがて刺される。今私に必要なことは、とにかく無傷で対処することだ。あわよくば動きを止めたいところ。


「本気で行くよ…!蜜奈!!」


 私は薙刀を片手で操作し、もう一方のてで魔法を展開する。



 =枢焔= 葛葉颪(くずはおろし)(ほむら)

 『雷電魔法』 稲妻崩獄(いなずまほうごく)



 強烈な風圧を起こす技で体制を崩させ、左手からの稲妻が蜜奈を襲う。

 だがそれらは全て躱され、少しずつ間合いが詰められた。


「あはっ」


「…でも残念」


 蜜奈のカッターが目に向けて飛んでくるが、裏拳でそれを弾き、そのまま殴り込む。


「実はこの間合いのほうが得意なんだよね」


 劣酒は間合いを詰め、基本的に殴りを中心とした戦術に切り替える。

 蜜奈も攻め込まんとはしているが、素早い動きに翻弄されている。


「…」


 無言で拳を叩き込む劣酒。

 審判の薙刀は、強襲に優れている。

 《《僅かな衝撃を分析し、強い衝撃に変換する事ができる》》。


「…んっ」


 少し下がり、薙刀を蜜奈の足元に突き刺す劣酒。その瞬間、


 ドバァァァン!!!


「…!」


 大爆発が起こった。衝撃操作で地面への衝撃を爆弾級に変換した。


「…」


 確実に優勢だ。蜜奈のカッターを、上手く弾ききっている。


「そろそろ動きを止めさせてもらう…!」


 

 =枢焔= 紅蓮縛手(ぐれんばくしゅ)



 薙刀を地面に突き刺し、爆発を起こす。

 すると辺りにマグマ溜りのようなものが現れる。


「おっ、」


 そこから現れたのは、巨大な溶岩の手であった。


「掴め、縛れ、拘束せよ」



 『煉獄魔法(れんごくまほう)』 溶岩手紅蓮束縛クロウリー・オブ・ハンド



「よっ、ほっ、」


 鼻歌感覚で避けているようだが、想定済みだ。


「…あ」


「飛び散らせた溶岩で作った魔法陣、覚悟しろ!」



 『煉獄魔法・(ぜつ)』 紅蓮輪廻(ぐれんりんね)



 飛鳥、龍、獅子。紅蓮の使者が造られた枠内を暴れ狂う。その中で私も共に蜜奈を襲う。


「おっとと、わわっ、」


 蜜奈には重力増強、私たちには紅蓮の加護が与えられる。この枠内で私に勝つことはほぼ不可能だ。

 獅子が襲いかかり、蜜奈の体勢を出来るだけ崩す。飛鳥が飛びかかり蜜奈の視界を惑わす。そして龍と私で攻撃を仕掛け、少しずつ消耗させる。


「あっ、えっ、とと」


 そして紅蓮の折から出るには、自身を焦がすしかない。つまりは、その時点で死するを意味する。


「すげえ、あの蜜奈をあそこまで…」


「…」


「なんだ?冴えない感情が溢れ出てるぞ?どうかしたのか?」


「…あの蜜奈があそこまで押されるものなのか?なんだかとても、嫌な予感がしてならない」


 実は俺も、正直同じ事を思っていた。蜜奈の目には、余裕の表情しか見受けられないのだ。

 そんな事を考えている時だ。万妖麗寿の予感は、正にその通りになってしまった。


「…あははっ!!」


「!?ペースが上がって…?」


 今まで優勢に思えた劣酒の攻撃が、どんどん劣勢になる。体制は完全に守りの状態だ。


「くっ…」


「あはっ!あははははっ!」


 カッターで傷つけられ、殺気の咆哮を食らった紅蓮の使者は、形を保つことが出来ずに、消滅してしまった。

 それから、完全に防御体制にしかなれない劣酒は、どうすることもできない。


「まずいっ…!」


 どうするべきだ?どうするべき?私、ここで死んじゃうの…?蜜な…


「ギョロッ」


「ひっ…!」


 目から溢れる殺気が、私の足をくすませ、腕を止め、私の動きを停止させた。

 殺される…!怖いよ…。蜜奈…、





















































「…あれ?私、死んで…?」


「いつまでぼーっとしてるんだ!!とっとと稼いで来い!!」


「ひぃぅっ!?ごっ、ごめんなさい!今行きます!すぐ行きます!だから、もう殴らないで…!」


「うるせえ、口答えするな!!」


 私は強く殴られる。


「い、あっ…」


「けっ、役たたずが!!」


 そして私は外に投げ捨てられる。


「…」


「君、可愛いねぇ。今捨てられちゃったのかな?大丈夫。おじさんが匿ってあげるよ。だから着いてきなさい?」


「…」


「…イラ」


「…」


「着いて来いって言ってんだよこのボンクラが!!」


「ひぃっ!」


「なんだ喋れんじゃねえか。おい、お前ら。こいつ攫うぞ」


「「はい」」


「…!」


「いっぱいぐちゃぐちゃにしてあげるからねぇ…!」


「あっ、あぁっ…」








































「こいつを使え、劣酒!!」


「…!」


 劣酒は急ぎ蜜奈から距離をとる。その瞬間を見失わずに深矢が投げたもの、それは万妖麗寿だった。


 ガシッ


「…確かに受け取った」


「頑張ってくれ、劣酒」


 劣酒は審判の薙刀を右手に、万妖麗寿を左手に、蜜奈へ攻め込んだ。


「勘が凄い…!めちゃくちゃ鋭くなって…!」


「これは私の能力だ」


「うわっ、剣が喋った」


「今はそこじゃないだろう…。私は使用者の勘を極限まで鋭くさせる。今の蜜奈は私を長期間使っていたため、ブランクがあり勘に鈍りがある。そこが攻め所だ。いいな?」


「えっあ、はい」


「あははははっ!!」



 …すごい!さっきまで隙なんて全く無いと思ってたのに、今は、僅かながら隙を感じる。針に糸通すようなものだが、確かな隙が、そこに存在していた。



「…!!」


「っ…!はいっ、はいっ!!」


「なっ…!?速すぎる…、万妖麗寿がなかったら、私は即死だ…」


「あはははっ!!あはっ!あははははははは!!!」


 …今なら出来る。今しか出来ない…!この勘の鋭い世界から、私の奥義を叩き込む…!そうすれば蜜奈を、戦闘不能にできるかもしれない…!!


「あははっ!!あははははっ!!!」


「…腹は括った。いくぞ…!」



 詠唱:閻魔奥義

《審判の刻、天は晴を示さむ。烏が戯ればむ審判の王は、迅雷を刻まむ。皇后星の閃光をば、ここで貫く極意の一閃》





 =枢焔・奥義= 閻魔の審判(えんまのしんぱん)





 ザシュゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!


「いい加減戻ってよ蜜奈!!蜜奈は蜜奈は…!」



 ◇◇◇


 ザシュッ、バシュッ


「…え?」


「もう大丈夫。人攫いはもう斬ったから。立てる?」


「…!はい…!」


 ◇◇◇



「私の命の恩人なんだから、ここで救わせてよ!!」



 ドガァァァァァァァァァアァァアアァァァアァァァアアァァアアアン!!!!!!!!!!!!




























「…」


 バタン


「劣酒!」


 倒れ込んだ劣酒に駆け寄る。


「劣酒、劣酒!しっかりしろ!!劣酒!!」


 …脈が、感じない…??


「う、嘘だろ…。劣酒、劣酒!!しっかりしろ!!おい!!」


 いくら投げかけても、応えは帰ってこない。体温が、みるみるうちに失われていく。


「…あの一撃に、命を、魂をかけたって事か…?」


 くそっ、結局最後に残ったのは、俺だけかよ…!何もせずに最後まで寝転んでた俺が生き残って、情けねぇよ、ホントに…。クソっ…













 ガタッ


「!?」


 大爆発でできた瓦礫の山から、音が聞こえた。


「嘘だろ?あれを喰らって、生きていられる生物が…存在していいのか…?」


「危なかったな。凄い強い一撃だった。でも私の勝ちだ。…私の手で仕留められなかったのは残念だけど」


 馬鹿かよ…!?あれをただの「凄い強い」の一言で表していいものじゃないだろ…!


「じゃ、君もバイバイだね」


 キリキリキリッ


「…スゥーッ、ハァーッ。…へっ」


 …確かに俺は、力がない。魔力も、大して持ってない。無駄に運だけは持っている。だがそれは、自身の後悔の念を認識するだけのものだ。でもな、


「舐めんなよ、蜜奈」


 俺は、俺は…!!


「俺は、お前の事が好きだ。蜜奈」


「…は?」


「お前は可愛いよ。皆から愛されて、みんなを愛して。そんなお前が、ずっと好きだった」


「えっ…、え?」


「強えくせに、しっかりと弱い場所があって。誰よりも壮絶で、辛い過去を経験してきたはずだ。それでも、」













「いーのいーの!ほら、ホイップが溶けないうちに、パパッと飲んじゃお!」



「ちょっ、みんな!褒めすぎ褒めすぎ!」



「ゲホッ…はぁ…はぁ…私…私だけど…私…違くて…いや違くないんだよ…でも…」



「うっ…ううっ…あああああああああああああああああああああ!!!」








「…私は、大丈夫だから」














「お前の優しさは、狼狽えなかった。崩れなかった。お前は絶対にその優しさで俺たちの元に帰ってくる。帰って来れる!だから!!」


 俺は歩いて、蜜奈に近づく。


「…えっ、なっ?」


 俺は、蜜奈をギュッと抱きしめた。


「そろそろ戻ってこい、蜜奈…!」


「んっ、あっ…」


 私は今まで沢山の痛い思い出をしてきたはずだ。刺されたし殴られたし、毒に犯され、窒息もした。

 そんなことに比べたら、なんて事ない貧弱な抱きつき。そんなはずなのに、私は、



 生涯で1番の痛みを感じていた。

 


「うっ…」



 カランッ‥



 気づけば私のの両手は、《《深矢の肩を握りしめていた》》。



「うっ、ごめんね、みんな…。私、悪いことしちゃったよね…?ごめんね、ごめんね…。私、今、戻ったよ…!」

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