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その暗殺者は蜜の味  作者: 赤海 梓
第2章 学校の七不思議
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決別の時

「が…は…」


「時空を、次元も、概念さえも、この一太刀からは逃れられない。私の唯は、全てを断つ」


 脳天から下半身目掛けての一刀。流石の奴も一刀両断になる。心臓を断ったので、再生ができずに灰になり始めている。


「貴様…この術は…」


「言いたいことはわかるよ。でも言うな。覚悟の末の、最後の選択だから」


「…そうか」


 虚しいな。これがかつて最強と謳われた者の末路。人々を守り抜いた、英雄の最期。

 私もいつか…なんて。


「…ほら、クレイカリア。ここで彼は死んでしまう。これが彼と話せる最後の時間だ。最後に言いたいこと、あるんでしょ?」


「…うちなんかが」


「君だからだよ。君じゃないと伝えられない言葉がある。君だからこそ、伝える価値のある言葉がある。そう自分を卑下しちゃダメだよ」


「…わかった」


 クレイカリアはそっとアワタナラに近づく。


「うちだよ、会長。私の事、分かる?」


「…裏切り者のクレイカリアか」


「…」


「…全く。2人で積もる話だってあるもんね。私は部屋を出るよ」


「蜜奈…!?」


「大丈夫だよ、万妖麗寿。行くよ」


「…」


 私は部屋を出る。被服室のドアを閉め、そのドアにもたれる。


「…会長は分かんないよね、うちのこと。でも、これだけは伝えたいと思っ」


「待て」


「!?」


「…すまない。俺は、お前の気持ちには…応えられない」


「…分かるの?うちの気持ち。ってか、私の事分かるの…?」


「心臓が断たれた時、魔法も一緒に斬られたのだろうな」


「そっか、そうなんだ…」


「そんな事はどうでもいいんだ」


「?」


「俺もお前の事が、クレイカリアのことが好きだ」


「え…?それって…」


「…だが俺はもうこんな姿だ、じきに死ぬ。お前は本当に愛せる人を探すといい。俺なんかよりもいい人はこの世に山ほどい


「いるわけないでしょ…!こんなに勇敢で、お人好しで、ここまでうちのこと思ってくれる人なんてさ…」


「…悪い」


「謝らないでよ。仕方ないんだから。こうなったのは、会長のせいじゃない」


 少しの沈黙が続く。互いに目を合わせ、手を握り合い、絶対に離さんとしている。

 最後の、2人だけの世界。見つめ合える、幸せの時間。

 だがそんな時間も、束の間だった。


「…時間だ」


「灰になる速度が早く…!?」


「…ごめんな」


「大丈夫だよ、ね。…ね…?」


「すまない。お前だけは、泣かせたくなかったんだが」


「え、私…泣いて…?」


 クレイカリアは気が付かなかったようだが、彼女の瞳からは、大粒の涙が溢れていた。


「…本当にすまない」


「あ、あはは、やだなぁ…、私、会長には、私の笑顔を最後まで…見せつけたかったんだけど、な…」


 その言葉も虚しく、アラナタワは次々と灰に化していく。

 クレイカリアはその1粒1粒を手に取ろうとするも、すり抜けてしまう。


「会長…」


 やるせない表情をするクレイカリア。その表情に灰になりかけた顔を近づけるアラナタワ。


「最後に1ついいか」


「…なに?」


 アラナタワは優しく接吻をし、最後に述べた。


「クレイカリア、俺はお前を愛している」


 その言葉を言葉にしたや否や、アラナタワは灰となり消えていった。


「…うちもだよ、会長」


 跡形もなく、全て消え去っていった。残されたのは、クレイカリアの唇の僅かな紅潮であった。


「良かったね、クレイカリア」


 私は被服室のドアによしかかったまま、クレイカリアとアラナタワの決別の時を、見守ったのだった。

 2人は良いな。どんな時でも愛し合え…



 ドクゥン



「ウ゛ッ!!」


 来た。唯の反動が。身体のリミットを外し、極限までに強烈となる一撃を放つ、その代償が。


「イ゛ッッ、ウエッ…アッ…ガッ…」


 痛い、心臓を中心に拡がる、この世のものとは思えない痛みが、全身を襲う。


「いだい、いだい…ァァァアアアァァ…」


 痛すぎてまともに声を出せない、息が吸えない。


「大丈夫か、蜜奈…?」


「ッ…」


 痛すぎる…全身がまるで百足に巻き付かれ、その足が突き刺さり、心臓を噛み砕かんとしているような…。


「イ゛ッ!?」


 更にまた、一段と痛みが、強くなる。

 この痛みから、逃れられる、術は、無い。


「いたいいたい…ウッ…」


「…」


 ブツッ、ブチブチュッ


 ブチブチと音が聞こえる。全身の内の細い血管は、この奥義の反動に耐えきれず、裂けたり、破裂したりしてしまう。


「いたいぃぃぃ…」


「(目が充血している。全身の血液に魔力を限界まで流したのか。血液は膨張、大量のエネルギーを溜め込み、爆発的に消費される。その一撃の為に。本来これは酸素を身体に流して放つ技なのだろう。それを、瞬発的に技を繰り出すために、魔力を流した。反動は倍以上になっていてもおかしくない。…ということはだ?蜜奈はこの一撃に命を懸けて…!?)」


「い、いた…」


「蜜奈…」


 私は、私はまだ、倒れる訳には、いかない…。私は…まだ…、私は…死ぬ…わけ…に、は…。




















































「…痛」


「起きた…?」


「あれ、君は確か…」


「私の事覚えてくれてる?桜楽 春風。馬車と赤べこから助けてもらった時の…」


「うん。覚えてるよ。あの時の…。それより、ここは…」


「ここは保健室。たまたま近寄った被服室近くに蜜奈が倒れていたから、お兄ちゃんと一緒に運んできたの」


「そっか…。ありがとね」


「いや別に、私は何もしてないよ。と言うよりも主に看病したのはこの人で…」


「この人…?」


 春風が指さしたその方向にいた子は、詩春であった。私のおでこに乗ってるタオルと同じものを濡らしていた。


「あれ?起きたんだね、蜜奈ちゃん」


「うん」


「どう?体調は?保健室に来た時は軽く熱が出てたんだけど、今は大丈夫?」


「…うん。多分」


「…おでこのタオル変えるよ」


「ありがと」


 そしてタオルを変えてくれる詩春ちゃん。

 外を見ると朝になっていた。どうやら私は一晩ぐっすりと眠ってしまったらしい。


「この人が主に看病してくれてて、私は本当に何もしてないの」


「何言ってるのさ。春風ちゃんがいなきゃ蜜奈ちゃん、下手したら酷いことになってたかもしれないんだから」


「…そうだね。そうだよね…!」


「ま、それはともかく、どうしたの?蜜奈ちゃん。なんか凄く元気がないみたいだけど…?」


「確かに、顔色はすごく悪いままだよ?一体何があっ…」


「聞かないで」


「え?」


「聞かないで」


「え、あ、うん。なんかごめんなさい…」


「…気にしなくていいよ。こっちも辛辣だったかも。ごめんね」


「いやいや、体調崩した人が気遣いなんてしなくて大丈夫だから」


「でも、酷い疲れようだね?ほんと、無茶しないでよ」


「…はは、そうだね」


 確かに、体の芯から怠さを感じる。まあ血管に多大な負担をかけたのだ。切れてるところだってある。身体に治癒魔法をかけているが、治癒魔法に若干の苦手意識のある私の魔法じゃ修復が遅すぎる。大雑把だったり細部の修復が間に合わないためにロスが生まれてしまう事も含めて、心身や魔力の消耗が激しいのだろう。


「私はもうちょっと寝るかな…。まだ相当気怠いんだよね」


「そっか。無理はしすぎな


 ガチャッ


「蜜奈!?やっと起きたんだな!!」


「うわっ、うるさ」


「お兄ちゃん、うるさい」


「え?あ、悪い。えっと、蜜奈…?大丈夫か?」


「うん、大丈夫だよ。あでも今ので鼓膜がやられたかも」


「え!?ってそんな訳ないだろ!!」


「お兄ちゃん、うるさい」


「あっ、ちょっ、ごめんって」


「うんうん。それじゃあ、私は寝るから」


「え、もう?」


「お兄ちゃんが帰ってきたばかりなだけで、ちょっと前からもう起きてたってば」


「ああそっか。悪い悪い」


「ごめんね、蜜奈ちゃん、コイツ蜜奈ちゃんを運んでくる時、おんぶしてから全力ダッシュで来たんだって」


「マジで本当に脳震盪起こすかと思って、だから止めてるのに一向に話聞かないし…」


「ちょ、マジでごめんって。蜜奈も本当に悪かっ…」


「スー…スー…」


「寝ちゃったね。蜜奈ちゃん」


「本格的にうるさくしたらダメだね。ね?お兄ちゃん??」


「いや、本当にごめんって…」


 そして私は眠りについたのだった。















































「…ん」


 目が覚めた。随分と長い時間眠っていた気がする。まあ唯を使ったんだ。多分結構な時間眠ってしまっても仕方ないだろう。

 ふと外を見ると日が沈みきり、空の明るさを失っていた。近くにある時計は夜の7時手前を示している。


「あれ…?皆は?」


 周りを見渡すと、詩春ちゃんも、春風ちゃんも秋兎もいない。まあずっと保健室にいるってこともないだろうし、多分自分の寮に戻ったのかな?


「…」





 …いや、何かがおかしい。





 あの詩春ちゃんの事だ。長くは一緒にいなかったけど、今の私を1人にするなんて事は考えにくい。

 それに学校中の魔力がおかしい。魔力の流れが渦巻いている。普通はこんなはずじゃない。風のように、静かに(なび)くものだ。


「待てよ…。私は…七不思議の実質的な全員討伐、職彩先生の解放、唯の反動による私の動けない状態。そして…」


 夜


 やらかした


 完全にやらかした


 今この学校は襲われている


 魔族がこのタイミング以外で攻めるなんて考えにくい。しかも私が寝込んでいるなんて、奴らからしたら好都合すぎる。


「私は奴らに因縁があるはずだ。最初に攻めるとしたら私か、もしくは…」


 私と深い関わりのある場所。


「!!!!」





 そんなの、9-A組しかない…!!





 私は無我夢中で走った。



間に合ってくれ…!!

 間に合ってくれ!間に合ってくれ!!

   間に合ってくれ!!!!

  間に合ってくれ!!!!!!!


 間に合ってくれ!!

       間に合ってくれ!!!


間に合ってくれ!  間に合ってくれ!!

    間に合ってくれ!!!!

     間に合ってくれ!!!!!


 間に合ってくれ!!


 私は教室のドアを凄まじい勢いで開ける。



 間に合っ…


 

「やぁ、蜜奈君。遅かったじゃないか」


「いや、なかなか早いご到着ではありますね」


「まぁ、あの技の反動だ。そう考えれば早いのかもしれないな。だがしかし…」


 私は絶望した。打ちひしがれてしまった。地べたに這いつくばってしまった。


 床に転がる仲間の血だらけの骸に。


 片足で踏み潰されようとされている友達の顔に。


 男の魔族に首を捕まれ、首吊りになっているクラスメイトに。


 片腕を失い壁によしかかる教師の姿に。


 遅かった。遅かったんだ。私が、私が皆を殺してたんだ。


 私は、私は…。


「…」


「流石に堪えたか?この惨状に。仲間との決別に」


「無理もないわ。この現状になったのは、貴女のせいなのだからね、蜜奈?」


 そっか…私が…。


 みんなを






「…そんな訳ないだろ」


「ほぅ…?」


「私が殺した?そんな訳ないだろうが」


「ほう?それが遺言か?」


「黙れ。私の遺言は私が死ぬ時に決める」


 私は剣を地面に刺し、震える手足身体を持ち上げる。

 私は魔族2人を睨みつける。


「…顔を見て確信したよ。そして私はお前ら魔族を絶対に許さない」


「ふっ…、確かに私達を許す暇すら無いだろうな。一生の終わりはもうすぐなのだからな」


「ここで消えてもらうわよ、蜜奈」


 私は、両親に剣を向ける。


「絶対に殺す…。香田羽…!!茲愛…!!」

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