第3の不思議
夜までまだ時間はある。第3の不思議の元へ向かう前に、先生の元に向かおう。私はあの人の指示に従うと大体七不思議と遭遇していた。脅されて行動させられてたのだとしたら、相当な恐怖を与えられていたかもしれない。
元凶は討伐済みだという連絡をしなきゃね。
◇◇◇
そして私は今、職員室前にいる。
「先生、職員室にいるかな?」
曇天がなんだか心地悪い。とにかく嫌な予感が
ブワァッ
ビクッ
「な、何これ…?」
怖い。ものすごい濃く、邪悪な魔力を感じた。これは、ウミアタとの戦闘の時、急に感じた気配…?いや、その倍は強い…!
ガシャンガシャン!!
そして唐突に響く戦闘音。
「なっ!?」
先生だ!先生が何かに襲われている!?
ガラガラ!!
「大丈夫ですか!」
「み、蜜奈!?」
ドアを開けたその先の物が散乱し荒れている職員室にら、職彩先生が血を流しており、それから、蝙蝠の羽のようなものをもつ何者かがいた。
「ちっ…」
バササッ!!
蝙蝠の羽をもつ男が逃げ出す。
「くそっ、待て!!」
「待て蜜奈!奴に下手に近づくな!!」
『呪禁魔法』 設定「死」
ーー魔力の流れ!!
私は足を踏み込んで後ろに大きく下がり、距離を取る。
「痛ッ、!」
なんとか流れからほとんど逃げられたものの、足だけは触れてしまったようだ。
その隙に奴は窓から逃げ去ってしまった。
「大丈夫か、蜜奈!?」
「はい先生、一応ですけど」
ふと自分の足に目をやると、魔力の流れに触れてしまっていた部分が壊死してしまっていた。
「回復魔法でなんとか治せそうですけど、先生の助言がなければどうなっていた事か…」
「いや、こちらこそだ。貴様はもう用済みだと言われ、急に奴に襲われたんだ。あいつが何か、蜜奈は知ってるか?」
「…確証は無いですけど、多分奴は第1の不思議、もしくはその能力を持った別の、そして七不思議に関与する者だと思います」
「…そうか。俺が言われた《《用済み》》というのは一体?」
「それは、校長が裏切り者だったんですよ。七不思議側…いや、魔族側に着いていたんです」
「どういう事だ?」
そして私は先生に、図書室であった事の詳細を全て話した。
「…そうか。凶暴魔族とやらが復活を…。俺は罠にはめる為に上手いように使われていたという訳か」
「そうですね。そして先生を襲った奴の魔力の濃密度合い、第1の不思議の不思議は凶暴魔族の片割れだと思います」
「…そうか。あれは人智を超えた存在だな。とても人間が封印できたとは思えない程に」
「確かにそうかもしれない。でもそれでも私は奴らを討伐してみせますよ」
「…そうか。死なないでくれよ。蜜奈」
「はい。それはもちろん。というか、先生も実は結構強いですよね?その辺の強者程度じゃ敵わないくらいには」
「そんな事もないさ。俺の武器であるヌンチャクが奴と相性が良かったから生きてただけだよ」
「ヌンチャク…珍しいですね。どんな戦い方をするんですか?」
前世ではかつての琉球で使われていた武器だ。この世界では見た事が無かったので、先生が使っているのは意外だった。
「へぇ、ヌンチャクを知ってるのか。コイツは普通2本の棒を鎖で繋げて作られてるんだが、当たった時の火力が高く、その辺の武器よりも手に馴染んでな。俺はこのヌンチャクに魔力を流してリーチを伸び縮みさせたり、スピードを増減させて戦ってるんだ」
「へぇ、魔力を流してリーチをねぇ…。なかなか斬新な戦い方ですね。そんなこと思いついた事もなかったですよ」
「まあそんなところだ。お前はまだやる事が残ってるだろ?早く向かうんだな」
「そうですね。もう昼過ぎだし、少し準備したら向かいますよ」
気がつけば外は雲が薄くなり、所々陽の光が漏れだして来ていた。
私はこの部屋を後にしようとしたその時、先生が私を呼び止めるように、1つ話題を振ってきた。
「俺はこの天気は嫌いなんだ」
「なんでですか?神聖な感じがしていいような気がしますけどね」
「この天気は平等に陽の光を当ててくれない。あの時と同じ…いや、すまないな。なんでもない」
「なんでもない訳ないじゃないですか」
「まぁこの話はいいんだ。だが気をつけろよ。この世は平等じゃないし、善が悪になり得る。身の回りが全て悪になってしまうかもしれない。…まぁ、お前ほど強ければ大丈夫だったんだろうがな」
「…そうですか」
先生には先生の過去があるんだろう。そこを深掘りするつもりはない。
私は職員室を後にし、一旦自分の寮に戻る事にした。
~寮の自室~
「蜜奈」
「ん?」
「いけるのか?今、本当に」
「…ごめん」
私は俯いてしまった。
正直な所を言うと、かなり精神的にかなり参ってしまっている自分がいる。
「正義のために刀を振るうとかあるけどさ、正義って、なんでこんなに苦しいんだろうね」
「…」
「一般人の殺しは悪でしょ?人を殺せば必ず悪人と化す。そういう殺人鬼は基本、人を殺したところでなんとも思わないクズばっかりだ。じゃあ正義は?人を守るために、人を殺すの?人を殺すという行為が正義の人達にとって、それを行う人間にとって、どれだけ辛いか、直接関与しない人には分からない。たとえその相手が殺人鬼だったとしても、悲しい過去を持っているかもしれない。愛する友達家族恋人がいるかもしれない。そう思うと、やるせなくなっちゃうんだよね。正義っていうのは、人が死ぬのを一番に躊躇わなきゃいけないのに。…なんだろうね、この気持ち。自分は正義だって言い張ってるけど、殺人鬼もあくまで人だ。その人を殺しても悪人じゃなくて正義となれる。しかも今回の相手はクズなんかじゃない。悲しい過去を持ち、多くの人を救った正義だった。でも、その過去を知らない私からしたら悪人だった。じゃあ私は?過去さえなければ私もそういうクズと大差ない悪人なの?嫌なんだよ。そうなるのが。だから人は殺したくないんだよ」
「…人殺しをすると必ず憎まれる。それが怖いのか?」
「それもそうだけど、何か過去のある人の命を奪う行為に、鳥肌が立つんだよ」
「(もう私からは何も言えない)」
「…」
「(こんなにも、優しい彼女が、人を殺す使命だなんて、あまりにも残酷すぎる)」
「でも大丈夫だよ、万妖麗寿」
「それはどういう…?」
「強いから、私は。誰が来ようとも、全力で叩き潰す」
「…そうか」
蜜奈のギュッと握られた拳は、怒りか、自身への憎しみか、いや、そんなものでは無いのだろう。
「ちょっと仮眠させてよ。そしたら被服室に向かおっか」
無理やり作られたその笑顔は、美しいその容姿に反し、とても痛々しかった。
◇◇◇
「おはよ、万妖麗寿」
「ああ、おはよう蜜奈」
今は午後6時半、日が沈みきりかけた頃に私は目が覚めた。
「時間としてはジャストだね。この学校は無駄に広いから、被服室に着く頃にはいい時間になるね」
「そうだな。早速向かうのか?」
「うん、そうしよっかな。ん~!」
私は両腕を上げて伸びをする。
「よし、気を切りかえて、行こっか!」
~30分後~
「ここが被服室か…」
「ここはもう使われてない場所だけど、本校舎の端っこだから本当に誰も来ないんだ。廃校舎と違って夜間に鍵もかかるから肝試しで来るような人も少ない。だから被害も少ないんだとか」
「そういう話だったな」
そうして私は被服室のドアを開ける。
「ん?あなた、誰…?」
そこには、白のドレスを纏い、舞を舞っていた1人の少女がいた。金色に光る髪を持つその少女は、舞を止めてこちらに気が付き、話しかけてきた。
「誰って、それはこっちのセリフだよ。君が第3の不思議で合ってるのかい?」
「…うん。そうだね。うちはみんなからそう呼ばれてるよ。でもその名前はあまり好きじゃないな。私はクレイカリア」
「クレイカリア!?」
「なんだ蜜奈?なにか聞き覚えがあったのか?」
「ねえクレイカリア、あなたは人間なの?」
「うん。そうだよ」
「なっ!?蜜奈!?」
「そうだね。君たちの言いたいことはわかるよ。私には反転魔法が掛かっていないんだ」
「…そうだよね。名前が昔の生徒会と同じだったからさ。でも一体なんで?」
「…会長が庇ってくれたんだ。アラナタワ会長が、全魔力を使ってまで私に結界を貼ってくれた。遅効性の結界だったから一時は反転魔法の影響を受けたけど、その後は無闇に人を殺す羽目にはならなかった」
「なるほどね。七不思議の被害が1度しか無かったのは、そういう訳だったんだ」
「そうだね。うちは特殊な魔法を使うから、僅かながらの可能性でうちを正気に保たせると決断したんだろうね」
「特殊な魔法…?」
「舞踏魔法。踊りをすることで周りに概念的な流れが生じる。その流れに私は魔力を込められるんだ。うちがそれを舞踏魔法と称してるんだ」
「概念的な流れ…ねぇ」
「この流れはうちの舞踏によって範囲、大きさ、鋭さ、全てが変わってくる。精神状態すらも関与してくるから、とても難しい技術なんだ」
「そっか」
「そういえば名前を聞いてなかったね。あなたの名前を聞かせてもらってもいいかな?」
「そうだったね。私の名前は蜜奈。蝶乃 蜜奈」
「へぇ、蜜奈か。いい名前だね」
「…私はあなたと戦うつもりでここに来たんだけど、アテが外れちゃったな」
「…うちの事殺すの?あくまでうちは信用に足らない七不思議だ。ここで殺されても文句は言えない。形式上にもうちを殺した方が都合がい
「馬鹿言わないでよ」
「!?なんで!?」
「あなたは悪い人じゃない。それだけだよ。逆にそれ以外に何か理由がいるのかな?」
「…ない」
「そういう事さ。これから私たちは魔族を一緒に倒す仲間だよ!」
「…うん!!」
そして私たちは2人で結束を交わし…
「これはこれは、感動的なワンシーンな事で」
「!?」
被服室の窓に、腰掛けている1人の男が拍手をしていた。
「見た事ない顔だね。アンタは誰?」
「か、会長…」
「会長、か。って事はアンタは」
「ええ、私の名前は第1の不思議、アワタナラと申します」