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その暗殺者は蜜の味  作者: 赤海 梓
第2章 学校の七不思議
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過去の戒め

「…だからさ、万妖麗寿。その時はお願いするよ」


「…わかった」


「…じゃあ、今日は帰ろっか」


「ああ」


 今日は色々な事があった。七不思議討伐、裏切り者と魔族の発覚、もう正直眠たくて仕方がない。


「そうだ、あのあすみちゃんとやらのお友達の所に行ってあげないと」


「蜜奈、今日は休んだ方がいいんじゃないか?お前の精神疲労は大きいだろ?」


「…うん。そうだね。あすみちゃんのお友達には申し訳ないけど、そうしようかな」


 そして私は自分の寮の部屋に戻る。

 ベッドにダイブするや否や、瞼の重みが増加し、そのまま眠りについた。





































「…めてくれ!頼むからっ…ぁぁぁぁぁあ!!」


「落ち着け!もう依頼は済んでるだろ!?俺たちは対象じゃねえよ!だからもう帰、ぐぁぁぁぁあ!」


「なっ…何を、ぎゃぁぁぁぁあ!!」


 カッターナイフを持っている。

 人を刺して、切って、殺している。


「編蜜、お前…本当に何してやがる…?」


 ギュッ

 ギリギリッ


 強く握りしめたカッターナイフの刃を伸ばす。


「ま、待てよ!俺たちは友達だろ!?だから、正気に戻ってくれよ!なぁ…おい…!」


 ドスッ


 刺した。


「ゥグッ…おい、目を覚まして…くれよ…!」


 グチュグチュ


 回す。


「ウガッ、ぁっ、ぁぁぁぁぁあ!!嫌だ!!痛い!!辞めてくれ!!編蜜、頼むよ!!戻ってく


 グシュァ


 (はらわた)を切り裂く。


「…れ…」


 ドタン


「…えへ」


 気分が…高揚する…。


「編蜜様。この私めが、最後の力を持って、あなたのその暴走を止めてみせましょう」


「執事。…あは」


 いいカモだ。


「その手にある物が原因ですね。私は、あなたを救ってみせる!」


 煩い。


 ダダダダダ



 ドスッ

 グチャァ








































「わぁぁぁぁぁぁ!!」


「蜜奈。どうした?悪夢にうなされている訳ではなかったが?」


「はぁ…はぁ…うっ…おぇっ…」


 私は洗面台へと急ぐ。


「おえっ…おえぇぇっ!げぇぇっ!おえっ、げはっ!うっ……はぁ、はぁ、…うぷ、ぉげぇぇぇっ!」


「な、蜜奈…」


「ゲホッ…はぁ…はぁ…私…私だけど…私…違くて…いや違くないんだよ…でも…」


「…」


「ごめんね、こんなとこ、うっ、おぇぇぇっ」


「(昨日私に言っていた事か。思い出させたせいでその夢を見てしまったんだな…)」


「万妖麗寿…私っ、私…!」


「…大丈夫だ。今は弱みを見せてもいい」


「うっ…ううっ…あああああああああああああああああああああ!!!」


「(優しい、優しすぎるよ。蜜奈は。自身の死よりも、他人を暴虐的に殺す事に対してトラウマを抱え込む。このトラウマが蜜奈の剣を鈍らせる…全く)」


「うわぁぁぁぁぁあ!!えぇぇぇぇぇああああ!!」


「(夢で見たものが、ここまで蜜奈を苦しめる。じゃあ夢じゃなかったとしたら?これをまた現実で繰り返してしまったら?そんな事絶対に無理だ。蜜奈にとっても。それを見る私にとっても)」





 ~30分後~


「…落ち着いたよ」


「そうか。良かった」


「ごめんね?こんな所見せちゃって」


「気にするな。私は人ではないし、私の前でなくても恥ずべき行動ではなかったと思う」


「そう。…そっか。ありがとね」


「ああ」


「じゃあ気を取り直すよ。心配しなくても大丈夫だからね」


 今日も七不思議討伐に向かう。今日は比較的温厚と言われる第3の不思議の元へと行く。

 でもその前にあすみちゃんの友達のとこに行っておきたいかなぁ。七不思議は夜にしか出てこないし、時間的にも丁度いいかな。


「…よし」


 スパァン!!

 自分の両頬を思いっきり叩く。


「いこっか!」




 ~保健室~


 恐らく私達と別れた後、保健室に行っただろうと予想したので私は保健室に来ている。

 保健室のドアを開くと、そこには椅子に座った1人の女性がいた。


「ん?あら~、いらっしゃ~い」


「あ、保健室の先生ですか?」


「ん~?そうだよ~?」


「あの、昨日の夕方か夜くらいに、あー、えーっと」


「あすみちゃんのお友達の詩春(うたはる)ちゃんのことかしら~?」


「え?あ、多分そうです」


「やっぱり~。昨日はあの子以外に保健室に来た子は少なかったし~、ミイラを抱えてきて、ほんとにビックリしたから~。その子かな~って?」


「は、はぁ…」


 あのミイラ抱えたままここ来ちゃったんだ…?友達だから手放したくないのは分かるけど、時と場所と場合の考えが抜けた子だったのかな…?いやでも友達が干からびたとなって冷静にいろっていうほうが酷か。


「流石にあすみちゃんは助けられなかったな~…。もうここに来た時点では既に絶命しちゃってたし~…」


「まあ、そうですよね。その詩春ちゃんは一体どこに行ったんですか?」


「ん~?詩春ちゃんなら今そこのベッドで寝てるよ~?」


「え?あ、ほんとだ。ありがとうございます」


 保健室のベッドに目を向けると、カーテンで囲まれているベッドがあった。カーテンの隙間から見える顔は、あの時の少女、詩春であった。

 よく寝ている。わざわざ起こすのは気が引けるなぁ…。まあ時間はあるし、ちょっと待ってあげようかな。


「ごめんね、守ってあげられなくて」


 自分の不甲斐なさを詫びつつ、ベッドの横の椅子に腰掛け、優しく手を握る。あれだけ怖い事があったのだ。疲れて気を失うほどに眠ってしまっても仕方がないだろう。



 ◇◇◇



「ん…」


 しばらくして、詩春ちゃんはゆっくりと目を開けた。


「あ、起きたね」


「あれ?あの時の猫耳の…?」


「そうだよ」


「…!!!それじゃあ、あすみちゃんは本当に…!?」


「…ごめんね」


「ッ…」


 何か言いたげだったが、唇をかみしめてそれを堪えるような表情を見せる。


「…すいません、動揺しました…。きっと、あなただって辛かっただろうに…」


「救ってあげられなくてごめんね。でももう同じ被害が出る事はなくなったよ。元凶は無くなったから。だから安心…出来るわけないよね。友達があんな目に遭ってしまったんだもん」


「…いえ、あすみちゃんもこれで報われたと思います。あの子は優しい人だから、あなたを恨むなんて事はしないと思います」


「そう言ってもらって嬉しいよ」


 私は思ったより心の傷が深くなかった事に安堵を覚え、保健室から出るために立ち上がる。

 だが、握ったままであった詩春ちゃんの手に力が入る。


「すいません、まだ怖くて…」


「…仕方がないか。大丈夫、私はここにいるから」


「あ、ありがとうございます」


 そして私はもう少し保健室に留まることにした。

 その間に、少し気になることがあるため、私は念話で万妖麗寿に話しかける。


「(ねえ万妖麗寿)」


「(ん?なんだ?)」


「(第3の不思議、少し存在が異様な感じしない?)」


「(確かにそうだな。あの箒が言うには、そいつは被服室を荒らさない限り姿は現さないと言われているな)」


「(そうなんだよね。それがなんだかおかしいんだよ。凶暴魔族のうちの片割れの魔法『反転魔法』の影響で生徒会の皆は人間を襲う人外になったのに、第3の不思議は人を積極的に襲わないっていう話だ)」


「(かつての生徒会の一員のアイラキレクルは、仲間や他人への愛情が深いという記述もあった訳だ。第3の不思議の正体は恐らく彼女だ。その性格が反転されてしまっては、積極的に人を殺す化け物となる筈なのに、被害が最も少ないのはおかしい、というところか?)」


「(うん、そうだね。万妖麗寿は何か知らないの?古代に打たれた剣なんでしょ?)」


「(うむ…すまないがそれは分からんな。私はその魔族と人類のいざこざの時代よりも更に遥か昔の時代の頃の剣なのだよ。その時代には私はもう既に眠りについていたな)」


「(まあ、そっか)」


「(その時代は神代、神格戦争時代と呼ばれていたが、その時代に『反転魔法』というのは存在しなかった。だからもしかしたらそれが大きな脅威になりうるかもしれないな)」


「(そうだね。私も反転魔法がどういった原理なのか見当もつかないよ。今後の脅威になるかどうかはともかく、細心の注意を払わないといけないのは確かだろうね)」


「(ああ)」


「ん、すいません。引き留めてしまって。他にやることがあるんですよね?私はもう大丈夫なので、どうぞ向かってください」


「気遣いありがとね。わかった。じゃあ行ってくるから、またね、詩春ちゃん」


「はい」


「あと、敬語じゃなくていいよ。多分同年代でしょ?私達」


「そうだね…。頑張ってね、…えーと」


「蝶乃 蜜奈だよ」


「うん!頑張ってね、蜜奈!」


 そして私は保健室を出て、第3の不思議の元へと向かうのであった。

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