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その暗殺者は蜜の味  作者: 赤海 梓
第2章 学校の七不思議
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裏切り者

 図書室で本を2時間ほど漁っていると、私はとある事実と結びつくことに気づき始めた。


「ねぇ、万妖麗寿」


「なんだ?」


「一回だけさ、違和感感じなかった?」


「ああ。あからさまに強い気配を感じた。奴が2つの魔法を掛けた時の話だろう?」


「うん。そもそも時間魔法なんていうのは人間のキャパティシーを超えた膨大な魔力を必要とするんだよね。1つの魔法くらいならギリギリ魔力は足りるけどね。でも奴は私にかけた魔法を含めて3つの時間魔法を使用した」


「なるほど…。だが奴ら七不思議は人間ではない。それは見てわかるものだろう?」


「違う」


「え?」


「違うんだよ、万妖麗寿。奴らは…七不思議は、もともとは人間だった筈なんだよ」


「な…?」


「あの七不思議はもともと人間…いや、かつて魔族を封じたとされる『生徒会』なんだ」


「!?」


「特に凶暴な魔族…凶暴魔族とするね。凶暴魔族は2体存在するらしいんだ。そしてその片方の特異稀な魔法が、この生徒会全員に掛けられたんだ」


「その魔法とは一体なんなんだ?」


「『反転魔法』」


「なんだそれは?聞いた事がないぞ…?」


「概念を魔力でねじ伏せ、反転させる。こんな摩訶不思議な高等技術は多分私でも出来ない。まあ私のことはともかく、この反転させるっていうのと、七不思議の生徒会メンバーとの特徴が一致しているんだよ」


「なるほど…。ちなみにどんな感じなんだ?」


「えっとね、筋肉ダルマの魔法使い、ウソルガグ。ガグロスは骨の武闘家だったでしょ?そういう事さ。生徒会は全員、人間を守るために戦う。その概念が反転されたらどうなる?」


「…全員、人間を殺すために戦うことになるって訳か」


「うん。しかも人間という概念も反転されてしまったから、この世では具現化されていない人間とは真逆に位置する何かになってしまったんだ」


「そうか…」


「筋肉ダルマの魔法使いであるウソルガグ、青を好む絵描きのネプロット、兄弟であった元鉱夫のオトスカヤシと元杣夫(そまふ)のオトエラコト、鞭を極端に嫌っていた放牧民のオリマク、涼しいドレスでの舞踏を好んだクレイカリア、時間にルーズで生徒会最年少であったアタイム、そして、権力者に従う事を嫌って生徒を想う学校を作り上げたアラナタワ。この7名が、原点にして頂点と言われる生徒会なんだよ」


「確かに特徴としては全て反転されているようだな」


「ちょっと話が逸れちゃったね。まあ要するに、多分だけど、第三者の手によってあの身震いするほどの魔力が注がれたんだと思うんだ」


「そうか…」


「おっとそうだ。もう1つ話題があってね」


「唐突だな?」


「凶暴魔族は人間の中に裏切り者を作っている。強い権力者として君臨させてると私は仮説を立ててるんだ。そうですよね?」


「?」


「校長先生?」


「何を言ってるんだ蜜


「お見事だな」


「!?」


 背後には、この学園の校長である箒 東相が佇んでいた。それも暗殺の為か、そこそこ大きなナイフを持って。


「かつての秘宝である万妖麗寿ですら気づかなかったこの隠密を見破るとは」


「そのでかい腹から響く音が煩かったからね」


「ほう?強く言うではないか?まあ結構結構」


「万妖麗寿、こいつが裏切り者だよ。七不思議で私を殺したかったんだろうけど、残念だったね」


「正直、自分の手はなるべく汚したくなかったのだがな…。こうなっては仕方がない」


 校長は両手に爪を装備する。特に特徴は無いが、圧倒的な鋭さを持っている爪。


「ここで消えてもらうとしようか」


 そして校長は襲いかかってくる。まっすぐと向かってくる校長の前に、私は刀を構える。


「これでもくらうがいい!」



 《独爪(どくそう)砂利鎖(じゃりぐさ)



 爪攻撃による連撃が叩き込まれる。だがその爪を見切り、全て弾く。


「ほう、中々やるようだな。確かに、七不思議を屠るだけはある。だがしかし、貴様は反撃が得意では無いようだな?そりゃあそうだ。暗殺者として育てられているのだから、正面からの戦闘が苦手であっても不思議ではない!」


「煩いなぁ、よく喋る豚さんだぁ!」


「ぶたっ…!?調子に乗るなよクソガキ!!」


 うん、確かに私は反撃が嫌いだ。というか、攻撃がそこまで得意ではない。

 校長は攻撃を続けてくる。


「ほらほらどうしたぁ!威勢がいいのは最初だけかぁ!?」


「そっちこそ、1発も攻撃当たってないのによくそんな大口叩けるね!私だったら恥ずかしくて自殺を選ぶよ!」


「舐めるなよ小娘!」



 《独爪》重圧増爪(じゅうあつぞうそう)



 校長から強いオーラが放たれる。また一撃が来る。


「おっと」


 思ったよりも強い一撃だったため、弾くことができず、受け流す。さっきまでと比べて重さが5…いや7倍ってところかな?


「どうだ?この重たくなった一撃は!貴様のそのような細い身体では受け止めることは出来るはずがない!」


「いやいや、ただちょっとビックリしただけさ。一撃が体型相応になったからね」


「クソが…どこまでも馬鹿にしおって!!」


 奴は爪を振るうが、後ろに下がり距離をとる。そして私は自身にバフを掛ける。



 〈紺の術〉その十八 帯切



「「斬撃の軌道」を残す術、校長みたいなメタボには丁度いい術かな?」


「もう貴様は黙れぃ!!」


 校長が襲いかかってくるが、挑発に乗り、大振りになった人間の攻撃は単調だ。

 してくる攻撃を全て弾く。校長が後ずさりしたタイミングで攻めの一手をかける。


「よっ!」


「ぐっ…!」


 この一撃から連撃を繋ぐ。校長はどんどん後退し、私の攻撃を防ぐ事で手一杯だ。


「形勢逆転だね、メタボリックシンドローム校長先生?」


「クソがァァ!!」


 校長は兜割りの一撃を仕掛けてくる。だけどそれも、


「残念」


 ガキィン!!


「しまっ…」


「私の挑発で帯切の事、忘れてたでしょ?」



 〈紺の術〉その十五 蛇圧(じゃあつ)



「うぐっ…」


「なんでも動きを止められる蛇睨み。便利だねぇ、コレ」


「なっ、貴様っ…!」


「ばいばい」



 〈紺の術〉その十四 来数



 私は校長を細切れにする。


「脂身の細切れ…か」


「貴様」


「!?」


 あそこから蘇生したのか!?ありえない!

 …いや違う。肉体はそのままだ。ぐちゃぐちゃの細切れ肉のまま。でも声がして…?


「蜜奈、上だ」


「上?うわっ」


 そこに居たのは、所謂幽霊って感じの姿の校長だった。今にも消えかかっているので、ここからの蘇生は無いだろう。


「なんで幽霊みたいになってんの?」


「ただの体質だ。あのお方の魔力と自身の意識が混ざって幽体となっている。5分もすれば消えるだろう。そんなのはどうでもいい。貴様、七不思議の時に力を隠してたと言うのか?私は七不思議の中に入れたとしても、2番目に強いのだぞ?ウミアタとウカミロに苦戦してた貴様が、私に勝つなどおかしい話だ…!」


「私はね、優しいんだよ」


「は?それを自分で言うか?」


「違う違う、悪い意味でだよ。絶望的に戦闘に向いていないほど、人を殺すのに躊躇しちゃうんだ」


「なるほど…?元人間の奴らは殺し難かったと?だが私も一応人間ではあるのだが…」


「いや違う」


「これが違う?じゃあ一体何がどうして、私と七不思議とでの強さが違うと言うのだ?」


「…彼ら七不思議の中に、若干、ほんとに僅かな、反転しきれなかった優しさが眠ってたんだ。彼らは心の底から優しくて、美しい人々だったんだろうね」


「それで上手く剣を振るえなかったと?」


「そうだよ。実の親でもなきゃ、心の底から腐ってる奴を斬り殺すなんて造作もないんだから」


「ほう…?」


「私達の教師の職彩先生の事、操り人形にしてたんでしょ?私を七不思議の元の不利な状況へと連れていくために」


「そこまでバレていたのか…?」


「目の奥の恐怖に気がついたんだ。あの人は教師のプロだから、感情を隠すのは上手かったけどね。用済みになったら殺す。そうやって脅してたんだろうね」


「くっ…」


「まあもうお前は死ぬんだ。なんか適当に白状してから死んでけよ。豚」


「…そうだよ!私はあのお方の為に、ゴミ同然の人間を操り、ゴミ同然の人間を殺してきた!!今まで被害に遭った人間は全員!私が指示した職彩の指示が原因で死んできた!実に滑稽だった!!あの快楽が気持ち良すぎるんだよなぁ!」


「…下衆豚が」


「豚豚言うのを辞めろ!!まあどうせ貴様もあのお方に殺されるんだ!精々その日まで震えて過ごすんだな!!」


「…もう消えそうだね。あのお方ってのが誰かだけ教えてくれないかな?」


「…魔族、それだけ言っておこうか」


「やっぱりか。それ以外で…」


 もう少し情報を聞き出そうと思ったのだが、校長はもう既に消えてしまっていた。


「ちっ、最後まで胸糞悪い奴だったな」


「どうするんだ蜜奈」


「ん?なんの事?」


「お前のことだ。七不思議は全員元人間と知った今、お前は満足に剣を振れるのか?」


「…そうだなぁ。ちょっと難しいかもしれない」


「…そうか」


 流石は万妖麗寿だ。私の事を理解しているし、心配もしてくれるし。凄いねホントに。

 そうだな…。


「ねえ、万妖麗寿」


「なんだ?」


「これだけは伝えておかなきゃって思うことがあったんだよね」


「なんだ?」


「この世界って、『カッター』って物ある?」


「カッター?紙を切るアレだろう?それなら普通にあるが…?」


「そっか。万妖麗寿はどんな武器にも変形できるんだよね?」


「そうだな」


「じゃあ、この事を話しておくね」


 万妖麗寿は目なんてない。だけどその眼の奥に、不安があった事、自分が嫌になるほどよく伝わってきた。

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