第5の不思議
次の日の放課後、七不思議を討伐したにあたって、校長先生に報告をする。
「第6の不思議、歴史資料室の高鳴る赤べこの暗殺完了です。奴は自分をトルペンと名乗っていました」
「お疲れ様だ、蜜奈。名前はトルペン…か。どこかで聞いたことがある様な響きであるが…。なんとも言えないな」
「どこかで聞いたことがある響き?」
「いや、悪い。こちらの話だ」
「?」
「とにかく、今回の報告は手短に済まそうと思う。これからも七不思議討伐に励んで欲しい」
「わかりました」
そんな感じで、パッパと報告を済ませたのであった。
「なあ蜜奈」
「ん?どうしたの?」
校長室を出てすぐ、万妖麗寿が話しかけてきた。
「早速次の七不思議討伐に向かうのか?」
「そうだね。今回の事例で、ちょっとしたことで一般人に被害が及ぶ事を痛感したからね。少しでも早く、危険の芽は摘んでおかなきゃ」
「そうか。なら次はどの七不思議の討伐に向かうのだ?」
「数字は序列を表している、それなら弱い順に乄るのが順当ってものだよね?」
「ほう。心強いな、蜜奈は」
「そうでもないよ!さぁ、次の暗殺に向かおっか!」
そして私は第5の不思議の討伐に向かうのだった。
~放課後の金工室~
何も聞こえない。何も無い。逆に怪しすぎる。ここまで気配がないとなると、逆に目立つものだ。
「いるんでしょ?出てきな」
「…なぁなぁ兄貴」
「なんだい?弟よぉ?」
「蜜奈…!」
「わかってるよ」
早速見知らぬ声がどこからともなくする。
「奴ら、我々に喧嘩を売ってきてはいないかい?」
「そうだねぇ。売ってきてるねぇ」
「切り刻むかい?」
「潰しちゃおっかぁ」
なんだか一方的に話が進められているが、そんなのお構い無しに質問をする。
「あんたらは七不思議で間違いよね?」
「ほう、我々を討伐しにきたとでも…?」
「唐突だねぇ。でも、面白いねぇ。強気だねぇ。でも俺たちには勝てるはず、ないんだけどねぇ」
「あんたらは1つの七不思議を名乗っているけど、実際は2人って解釈で合ってるかい?」
「2人…か。まぁ間違いではないな」
「こんな弱っちそうな少女が依頼を引き受けて俺たちを殺そうだなんて、世も末だねぇ」
「まあ仕方ないさ。馬鹿しかいないんだから、この世の中は」
「そんな事無いよ?私大分強いし…まあもう、余談はいいでしょ。さっさと姿を現してくれないかな?」
「俺たちの姿…ね」
「いいよぉ」
殺気!!
背後から迫り来る何かの凶器を刀で弾く。
「おっと、やるねぇ」
「兄貴、油断は禁物かもしれないぞ」
「そうだねぇ」
そうして奴らは姿を現したかと思えば、影に潜んだ。
「油断禁物…まあ君たちだけじゃないかな?」
「へぇ」
「…」
気配を察知されないようにか、発言を止めた。
今弾いたのは多分金属加工に使われる丸ノコだと思う。だが道具として使われたという感覚では無かった。兄弟だと思うアイツらの、ねっとりとしてない方の弟の攻撃っぽかったけど確証は無い。
フォン
スッ
「ほう、完全に殺気をなくして攻撃したのだが、これも躱すというか。いいだろう。面白い」
後ろから襲いかかってきた。だがそれを難なく躱す。口調的に襲いかかってきたのは多分弟の方だ。
「わぁお」
弟ってのは合っていそう。だけれど、これは予想外だった。まるで頭に丸のこの刃が突き刺さっているような見た目であった。190cmほどの身長に、キッチリとしているスーツ。その鋭い眼光は一見恐ろしいが、殺気が全く篭ってないように見える。意図的に消しているのだろうが。
「これは流石にちょっと、気持ち悪いかもね」
「ほう、余裕口叩けるのも今の
フォン
バッ
内だ、と不意打ちしたかったのだけどね。流石の瞬発力と言ったところか?」
「うーん、これ躱されちゃうのかぁ。いや、一周まわって面白いかもねぇ。殺しがいが、あるねぇ」
「まあこの程度なら余裕かな?」
「ほう、言うでは無いか」
「ちなみに2人の名前を聞いてもいいかな?」
「うん、君は面白いしねぇ、冥土の土産として、俺らの名前、持ってくといいよぉ」
「兄貴がそう言うなら…俺の名前はシャクストだ」
「俺は、トカレイトぉ」
「まあまあいい名前じゃんか?ま、私は名乗るつもりは無いよ?君たちに共有する程の安い名前じゃないからね」
「威勢張るねぇ。やっぱり君、面白いわぁ」
今は全然余裕カマしているが、正直気持ちが悪い。
今現れたのは兄貴のトカレイトとかいう方だ。頭部が木のトンカチのようになっており、弟の方と同様、スーツをキッチリ着ているが、兄の方が若干背が高い。
にしてもなんだコイツら。気持ち悪い見た目しやがって、なんだか目眩してくるレベルだわ。…目眩?
「??なんだこれ?」
「蜜奈、どうした?なんだか顔色が悪いぞ?」
「この感じ…毒?毒ガス攻撃かな…?そんな素振り一度も無かったはずだけど…」
「「まあ実際、そんな素振り無かったからねえ」」
なんだコイツら?
「貴方が来たと同時に、魔法をかけたシアン化カリウムを空気中にばらまいていたからねぇ」
「でも、流石は威勢を張っているだけはある。シアン化カリウムを吸い込んでも尚、こうして若干顔が青くなるだけで済んでいるのだからな」
「長期戦対策ってか。小賢しいな…」
「そして俺はぁ、流派《賦殿》の使い手なんだぁ。その弱った身体でぇ、俺の技、受け切れるかなぁ?」
「賦殿ね…」
これは本格的に殺しにかかってきている。今までが弱すぎただけというのもあるが、今までとは策の練り方が違う。青酸カリを空気中に混ぜてきやがった。しかも魔法か何かによって体内に入った瞬間の反応を強くしてきている。
それに加えて流派だ。完全に殺すための準備をしている。
風魔法で毒ガスは吸わないようにしているが、体内の青酸カリ及びシアン化水素は出ていくまで時間がかかる。今は実質息を止めながらこいつらを相手にしないといけないって現状だ。
「流派なら私もあります。《転残》という、丸ノコに最適の流派です。2人がかりのこの攻撃、あなたは何秒持ちますかね…?」
「これは流石に対処が…」
《賦殿》 潰槌
ドシャァン!!
「おっと、脳天ぶちに来たね。危ないなぁ」
咄嗟に横側に躱すが、そこに弟の方が技を放つ。
《転斬》 羽交千万飛行斬
連続斬りといった攻撃。隙がいちいち少なすぎて、おぼつかないこの身体でいちいち捌くのは…
「まだまだいくねぇ!」
《賦殿》 権鈍一遁
「さあさあまだこれからだぞ?」
《転斬》 繰蜑
「おっとおっと」
いちいち精密な動きをしてくる。基本兄の方が一撃を叩き込む狙い、それを弟がカバーし、こちらの足を止めようとしてくる。だが意識が片方でも抜ければその瞬間、頭を潰されるか胴体を一刀両断だ。
それに迂闊で毒を吸ってしまった。久しぶりのやらかしに、ちょっと動揺しちゃってる。
これは流石に…
「流石にね…」
「どうした?降参か?無理もない、この攻撃密度だ。所詮人間の力ではどうこうできないだろう?」
「油断すれば、君の頭はぐちゃぁ、だねぇ?」
「いやいや、これを捌くのはね、」
〈紺の術〉 其の一 亞炎
「面倒くさすぎるなあ!」
「なっ!?」
自分の周りに白い炎の壁を作る。だれも通さないような、分厚い壁を。
「白い炎だよ。綺麗でしょ?あっついけどね」
「だが一瞬暑さを感じただけさ。ざっと250…いや280°だな?我慢するだけ、効かないも同然だ」
「違う違う。応用が足りてないよ」
「応用ぅ?そんな事をしても、もう差は見えてるのにねぇ?」
「その差って、何で判断したか知らないけど、私が思うにはね…?」
「「?」」
「私は格上なんだよ」
「なんだと!?」
「じゃあね、終わりだ」
=〈亞炎〉応用火炎魔法=
「「!!!???」」
一瞬にして奴らの心の臓を貫く白い炎の槍。
「どう?これが応用に基礎に応用を重ねた私の炎系統最高火力の一閃さ。名前は=グングニル=。いい名前でしょ?更に術式を変化させれば、大規模な爆発だって起こせるんだよ?」
「なん、だと!?」
「嘘、でしょぉ…!?」
そして2人とも、地べたに仰向けになる。
「まさか…俺たち2人が…のか…がい…負けるなんて…」
「?」
何か言いかけたかのような言葉遣いに違和感を覚えつつも、情報を聞いてないことに気が付き、吐くように促す。
「で?私が勝ったんだ。七不思議の情報、教えて貰おっか?」
「馬鹿め…もう死ぬ俺らが、なぜお前なんかに…」
「ちぇっ、やっぱりか。なら諦めるよ。君たち以外にも余裕で代わりなんているしね」
「カッ‥腹が立つねぇ…でも、うん」
「兄貴…まさか…」
「大丈夫さぁ…。そう、1つ…言っておこうかぁ…」
「なに?」
その場を後にしようとしたや否や、何か一つ、情報をくれるそうだ。まともな情報がいいなぁ、と楽観視してたのも束の間、
「身近の人間には厳重注意だ」
そして灰になるようにして2人とも消えていく。最後の口調の変化が、本気で言っている事を物語るように感じる。周りへの信用を失くすための嘘だとは思うが、こうも真面目に言われてしまうと、どうもハッキリと言いきれない。
「一応、終わったな」
「今回万妖麗寿使ってなくても勝てたね。このままいけば順調…って、言いたかったんだけどね」
「こればっかりは、気にしなきゃいけないな…」
そう、やつらのうちの1人が最後に述べた言葉の闇が、私の心に突き刺さり、染み込み、気になって仕方ない。