天佑神助待つ者よ─2
「身体…痛ったい…」
腰をさする。まるでお婆ちゃんみたい。部屋の子たちに、もう何日かしたら慣れるよと慰められる。
あれから一週間経ち、私たちの健康が確認できたみたいで例の布をまた被せられた。フォルマの言う通り、私たちは離れ離れになった。最後の最後まで、フォルマと私は手を繋いでいた。
私が今いる部屋は最初に入れられた部屋よりも若干広い。が。そこには私と同じくらいの女の子が十…私含めて十一人居た。ベッドは無く、床に直接マットを敷いて寝る。おかげで全身バキバキ。ベッドが恋しい。
だけど少し心の余裕ができていた。自分やフォルマが心配なのは変わりないけど、毎日食事は出てくる、部屋にトイレもついてる。不自由…はあるけど生きていけてる。この最悪な状況と環境に適応してきているのを感じた。
部屋の子どもたちとも仲良くできていると思う。奴隷という立場じゃなければもっと楽しいお話ができたのかな。みんな話しかけてはくれるけど、どこか明るさが足りない気がする。生まれ持った「大人しい」ではない気がするんだよね。境遇が変えてしまった、いや自ずとそうなってしまったんだと思う。みんな昔のことを話している時は、目をキラキラさせるるし。例え苦しい生活だったとしても「自由」で幸せだったんだろうな。それに比べて今は…。
程遠いよ。
窓はあるけれど、天井に近いところに一つあるだけ。それに、鉄格子。すっごく窮屈さを感じる。あとは監視。毎日三度は必ずチェックに回ってくる。前の部屋は扉と鉄格子だったけど、ここのは鉄格子と鉄格子。プライバシーなんてない。お陰で人が近くに来るとその度にドキリとする。気が休まる時間が本当にない。そして極め付けは──
「──えぇ、こちらがBランクです。ちなみにご予算の程は…?…なるほどでしたらCもご覧になった方がよろしいかと──」
そう、このお客様たち。ここには色んな人が来る。お金持ちそうなおじさん。綺麗な女の人。若いお兄ちゃん。見た目からわかる、確実に裏のお仕事をしている人。本当に様々。
私たちは案内をする声が聞こえると、部屋の隅にかたまり、身を寄せ合う。今は暴力を振るわれていないけど、売られたらどうなるかわからない。いい人に買われていい暮らしができるのか、それとも…。だからこうして買われないことを願う。悪くなるくらいなら、今のままのほうがいいやって。
「──行ったの?」
一人の小柄な子がみんなに聞く。行ったよ、と教えてあげる。この子は目が見えないらしい。生まれつきで、ここに来る前は裕福なお家に居たんだって。人攫いに遭ったって言ってた。美少女って訳ではないけど、不思議な魅力を持った子だ。
この子は家族が迎えにきてくれるのを待っている。だから私たちは誰か人が来るとその子の手を引き、その子を囲むようにして集まる。人攫いに遭った子が売られないようにしようという、私たちの必死の抵抗。家族が迎えに来てくれるまで、守ってあげたい。その想いによって編み出されたものだった。
集合が解かれ、私は畳まれたマットの上に身体を小さくして横になる。
「お客さん、今日は少ないと思わない?」
目の見えない子──確か名前はカリゴちゃんがゆっくりと私に話しかけて来た。その声に他の子も相槌を打つ。
「…確かに。普段はもう三人くらい来ていてもおかしくないのに。それに一昨日から誰も売れてないよね…?いつもは毎日一人は売れるはずなのに」
この部屋に入れられて二週間がもうすぐ経とうとしている私は起き上がり、不思議だと返事をする。なんとなく、男たちが売るの躊躇しているような気がする。Bよりも下のランクを勧めているのをよく聞くし。普通、なるべく稼げるように高額な奴隷を勧めるんだけど。なんだか最近はおかしい。
みんなもそう感じているようで、すぐに議論を始めた。男たちにバレないように輪を作り、小さな声で会話をする。
「なんだか…嫌な予感がするね」
カリゴちゃんがそう呟いた。
◇◇◇
「…もうすぐ到着します」
ある馬車の中。一人の男が同乗者に目的地が近づいていることを伝える。質素な外観からは想像ができない程、高級品ばかりが使われたその客車内。三人が椅子に深く腰掛けていた。
男の声で一人の少年が返事代わりに欠伸をひとつ。少年は豪華な客車には似合わない、質素な黒いガウンを身につけていた。
「ん〜ん…。やっとかいな。むっちゃ遠いなぁ、わざわざこっちまで来んくてもええんちゃう?」
アルナイル王国では聞き馴染みのない、独特な訛りの愚痴が少年から溢れる。
「毎度申し上げておりますが、こちらの方が高品質ですので。…それと、ここでは構いませんが、外に出ましたらその言葉使いはお控えてください」
「はぁ…。これでいい?…全く、ここまで来させられる身にもなって欲しいものだね」
ため息を吐いた少年は言葉をこの国で違和感のないものにし、窓の外を眺めた。そこには紫の髪で、起きているのかわからないほどの細目を持つの自分の姿が映っている。
自分ではなく外の景色を見たかったのにと、少年はまた一つ大きなため息を吐いた。
カリゴちゃんは10歳です。美少女ではありませんが、器量が悪い訳でもありません。一般的な顔立ち。声は幼児向けアニメに出てくるキャラクターを彷彿とさせる可愛いさです。
謎の少年のは大阪弁に似た訛りです。と〜っても酷似したものです(設定には「大阪弁」とあるのですが、作者が再現できなかった模様)。
もしネイティブの方がいらっしゃいましたら、おかしなところの非ご指摘お願いします。コメントでも誤字報告でも、お待ちしております。尚、いい感じであった場合でも教えていただけると飛んで喜びます。




