天佑神助を待つ者よ─1
「っと…。おーし、一仕事終わりぃ」
私とフォルマ、そして一緒に馬車に乗っていた6人は同じ部屋に入れられた。安そうなベッドが向き合うように両側に五個ずつあり、…トイレもついているみたい。ただとっても落ち着かないのは、絶対に誰も逃がさないぞいう扉の前についた鉄格子。汚くはない部屋だけれど、それがどうしても目に入ってしまう。他の人も気になってしまうようでチラチラと見ている。
男たちの一人はとっても肩が凝っているみたいで入念に肩を回している。またある男はチラチラとフォルマを確認していて、別の男は手に持っている紙に目を通している。それぞれ違う動きをしているけれど共通しているのはみんな楽しそうだってこと。表情に喜びが出ている。
「あとはこいつらの健康が確認さえできれば、特別手当だ。ひゃあ、一週間後が待ち遠しいぜ」
一週間はこの部屋で過ごすらしい。最低限度の生活ができる部屋って感じだ。ご飯はちゃんと出るのかな。変なことされないかな。
いい子で居てくれよ〜、と言い男たちは部屋の扉を閉めた。扉の上の方についた覗き窓からこちらを最後に確認し、離れて行った。
部屋の外のことは何もわからない。情報が全くない。顔に布を被せられたまま、建物の中そしてこの部屋に入った。外の様子を確認できる窓とかも特にないから、今の時間も不明。
私は部屋の隅に置かれていた水桶から、手で水をすくって飲んだ。水が身体の中を通っていく。
「一週間は一緒に居れるみたいだね…」
それまで口をつぐんでいたフォルマが私の肩をちょんちょんと叩いた。安心と不安の半分半分って顔をしている。私は鉄格子から一番近いベッド、フォルマはその隣のものに腰掛けた。手間四つ以外のベッドはもう他の人が身体を休めるのに使っていた。格子からなるべく距離を置きたいみたい。それは私たちもそうなんだけど。最初の争奪戦に出遅れた。子供だからって譲ってくれる気はないらしい。
私はフォルマに背を向け、格子を見つめる。現実逃避をしたくて、少しの間ボーッとする。
後ろから話し声が聞こえるようになってきた。気を紛らわすために自分の境遇や経緯をかたりはじめたらしい。六人はみんな女性で、私たちが最年少っぽかった。奴隷になるしか生きる方法がなかった、とか私たちと同じで家族や仲間に売れた、とか。その輪に入る訳じゃないけど、こっそりと聞かせてもらっていた。
あれからまた黙っていたフォルマが、まるで重りでもついているかのようにゆっくりと口を開けた。
「…でも私たち多分…離れ離れになるわ」
私はその言葉に驚き、格子を見るのをやめフォルマを見つめる。ずっと一緒に居られる訳じゃないんだ。これまでずっと支え合ってきたのに…?さっきまで奴隷になってしまったことがショックだったけど、今はフォルマと離れるという事実に頭がついて行かなくなっていた。
「だって…、ランクがあるみたいだったし…同じランク同士で纏めて収容すると思うの…。売られた値段から考えて、私たちが同じランクだとは思えないし…。っ、こんなに素敵な、自慢の私の『お姉ちゃん』があんなやっすい値段だなんて信じられない!!」
「お姉ちゃん」だなんて初めて呼んだんじゃない?冗談が言えるくらいまで元気を取り戻したらしい。私はこんなに悲しい気持ちになっているのに…!!
…いや、それとも…。
「私、まだ子どもだけど分かる。今足掻いても私たちの力じゃどうにもならない」
そんなことは…、と言いかけて止める。もうここから逃げることはできないんだ。
フォルマが私の座っていたベッドにぽんと座る。身体が少し揺れた。
「だからっ!残り一週間!絶対一緒に居ようね!」
歯を見せ、まるで太陽のように笑う。ぎゅっと私の腕を抱きしめて、身体をくっつけた。そして俯いた。シーツが濡れる。
「………やくそく…だよ…?」
やっぱり空元気だった。私を気遣ってなのか、それとも自分に運命を言い聞かせるためなのか、どちらなのかはわからない。絞り出されたその声は私だけに届き、そして消えた。
「うん、約束」
私は強く手を握ってあげた。
大丈夫。私たちは一緒だ。
何があっても。私はフォルマを想っているから。




