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夢見る彼女は幸せを  作者: 緑野鳶
天佑神助を待つ者よ、汝、黎明を告げる
6/13

今を嘆き、過去を想う

男たちは村の外に停めてあった馬車の荷台に私たちを乗せる。既にそこには頭に袋を被せられた人が5、6人程乗っていた。そして顔が怖く、がっしりとした男があぐらをかいている。見張りかな。


「──随分とかかったな、4月とはいえ夜は冷える」


「すまんな、こいつが暴れたもんでね」


こいつ、と私を指差す。


「…だが上玉が手に入った」


あぐらをかいていた男は満足そうに袋を用意し、他の人たちと同じように私たちに被せた。両足を縛っていた縄を解いたみたいで少し足が軽くなる。だけどすぐに右足だけに縄をかけられる。片足と杭を縄で繋がれたらしい。


「そりゃいい、特別手当がでるんじゃないか?久しぶりに旨い酒が飲めそうだな」


1人が荷台に、あと2人は御者席に乗り込んだ。馬車がガクンと揺れ、動き出す。

男たちはお酒やお金の話をし、上機嫌に笑っている。


「…オメェら、逃げようとか変な気起こすんじゃねぇよ?殺しの後の酒は趣味じゃねぇんだ」


捕まっている人たちの緊張度が高まった感じかする。男たちは何が面白いのか楽しそうに笑い、ちげぇねぇ、と相槌を打っている。これは「脅し」だ。この人たちは私たちを買った訳だから殺したら損。そう簡単に殺すことはない…と思う。大丈夫。きっと。そう思っても怖いものは怖い。


恐怖を忘れるため、別ことを考える。

さっき男が言ってた「上玉」というのはフォルマのことかな…。小太りの男が確かAとかSとか言っていた気がする。きっとその人の価値を表すものなんだ。私はどうなるんだろう。フォルマと同じ価値ではないのは確かだ。

私とフォルマは存在を確かめるように肩をくっつけ合う。フォルマも震えている。こんなことになるなんて想像もしていなかった。明日を生きることが出来ないかも知れない、初めてそう思っている。一瞬で変わってしまった人生を信じたくない。


──お母さん。


急に死んじゃったお母さんの顔が頭に浮かんだ。あの強く、優しかったお母さん。私とフォルマが泣いたら、優しく抱きしめてくれた。イノシシに襲われた時、片腕で撃退してくれたこともあった。いつでも私たちを助けてくれたお母さんは、もういない。助けなんて来ないんだ。お父さんは私たちが奴隷になったって、いつ気がつくかな。向かえに来てくれるかな…。


そんなことを考えているうちに、自分が弱っていることに気づく。


ダメ、こんなんじゃフォルマが心配する。私がしっかりして、フォルマを守るんだ。


また出てきた涙を、鼻から息を大きく吸い止める。


──もう泣かない。















◇◇◇


こんな状況でも睡魔はやってくるみたい。私が図太いだけなのかもしれないけど。寝ては物音で起きを繰り返しているうちに、明るくなってきた。被せられた袋は丈夫ではないみたいで、所々に隙間がある。周りをはっきりと見ることはできないけども、薄らと太陽を見ることが出来た。


緊張しっぱなしだったからかそれとも同じ体勢を取り続けたからか、全身が痛い。足を少し動かして楽な体勢を探す。


馬車に乗っているのは子どもから大人まで。性別はみんな女性。私たちが乗った時比べるとみんな疲れてしまっているみたいで、横になっている人もいる。夜が明けたことでなんだか空気が変わった気がする。それまでピンとしていた糸が急に緩んだような。お日様の力って凄い。


私はもう一度太陽をみる。その眩しさに目を細めた。

昨日まではお日様よりお月様の方が好きだった。宝石をばら撒いたような夜が好きだった。でも今は夜が怖い。ずっと陽の下に居たい。でもそんなの出来っこないから。だったらせめてギリギリまで見ていたい。その暖かさに包まれていたい。


「んんん〜。…朝か。おい、まだ着かないのか?」


見張りの男の声で、他の寝ていた人が起きたのがわかった。声の方へ顔を向ける。向けても見えるのは袋の繊維だけなんだけど、反射的にそうしてしまう。


「あぁ?…もう少しだ。チッ、お前もそろそろこっちと替われ!寝てただけじゃねぇか」


「こいつら見張ってただろーが」


十分仕事してるわ、と愚痴をこぼす。御者席からまた舌打ちが聞こえた。確かに御者席のほうが大変だろうから。


「…グゥ」


「寝たふりしてんじゃねぇ!!」


仲の良い人たちらしい。なんだか気が抜ける。男たちの声に隣で寝ていたフォルマが身体を起こした。そして自分の状況をすぐに思い出したみたいで身体を強張らせる。


「それにしても本当にツイてるな。獣とも盗賊とも会わずに済んだ。大儲けだなこりゃ」


獣!?盗賊!?下手したら奴隷になる前に死んでたかもしれないじゃん!!

ぶるりと全身が震える。知らないうちに命に関わる危機が迫っていたなんて。


「夜が明けたからって気ぃ抜くなよ?いつ出てもおかしくねぇんだから」


男たちだけでなく、私たちも神経を尖らせた。







馬車が速度を落とし始めたのはそれから少し経ってからのことだった。

男1「上玉は手に入り、トラブルもない。最高だな、おい」

男2「ツキすぎてて逆にこえーよ」

男3「神様がついに味方してくれたのかもなぁ…」

男4「…一生分の運、使い切ったかもしれねぇ」

男1、2、3「「「縁起でもねぇこと言うな!!」」」


仲良し4人です。大抵いつでも一緒に行動しているらしい。

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