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夢見る彼女は幸せを  作者: 緑野鳶
天佑神助を待つ者よ、汝、黎明を告げる
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天佑神助を待つ者よ─14

ただ出口を目指す。

私が入ってくるのに使った礼拝堂の扉。その奥には外の景色が見えた。もうすぐだ。

落ちている物に気をつけながら通ればいいだけ。


置いていかれないよう一生懸命ついて行く。障害物の間を縫うようにして進む。


至る所からものが落ちてくる音がしている。埃も煙も凄い。遠くの天井が崩れた。


──上にも注意しなきゃ。


そう思って自分の頭上を確認する。




「っ…!?上!!」


私の声に騎士さんはすぐに反応。上を確認し、左腕を男の子に被せる。大きく後ろに飛び跳ね回避…。


腕に瓦礫が…!!

少しタイミングが遅く落ちて来た瓦礫が男の子を庇っていた腕に当たってしまった。騎士さんは顔を歪め、男の子は顔を騎士さんの胸に埋めた。

続けてまた天井から瓦礫が落ちてくる。まずいまずい!!


祭壇の方に走って逃げてうずくまる。少しすると崩落が止まった。まだ安心はできないけれどそれよりも騎士さんの怪我の具合…!


「騎士さん!…っ血が…!」


瓦礫が当たった腕は力無く垂れ下がり、擦れて血も出ている。どうしよう!止血、そうだ止血した方がいいのかな。でもその前に腕を固定しておいた方がいいの?どうしよう!


「落ち着け、慌てるな。……怪我はないな?」


騎士さんはまるで怪我なんてしていないかのように私と男の子の無事を確認し出す。

男の子は騎士さんの逞しい腕に完全に守られていたみたいで無傷。私も早い段階で崩落に気づけたから無事だった。


「私たちの心配よりまず自分の怪我を心配して下さい!」


「問題ない、それよりもだ」


今起きた崩落でかろうじてあった道がなくなってしまう。完全に取り残されてしまった。



……だめ、大きな瓦礫を退かそうと少し頑張ってみたけどびくともしない。でも、何もしないで死ぬのは嫌。それに私は2人を助けたいから飛び込んだんだ。やるべきことは果たす。

動かせる、小さな瓦礫を取り除いて行く。

ちりも積もればなんとやら。


騎士さんは自分の腕に適当な大きさの木材を当て、上着の袖を破ってそこに巻き付けている。

腕を負傷した人に力仕事をやらせるわけにはいかない。黙々と瓦礫をどけ続けた。


そんな私の様子を見ていた男の子も一緒にどかし始めた。小さな物を一生懸命に。

騎士さんが腕を気にしながら横に立った。身長差があるから顔を見ようとすると、空を見上げている気分になる。

痛いはずなのに涼しい顔をしている。痛みに耐える訓練があるのかな。


「…お前、これ登れるか?」


騎士さんは瓦礫の山を見上げる。多分、と私は頷く。大きい瓦礫を足場にすれば登れるはず。

すると騎士さんはこの山から何かを探し出した。


「よし、こいつおぶって登れ。先に脱出しろ」


いくつか布を引っ張り出して1本にしていく。男の子をおぶりやすいように紐を作っているみたい。


「それじゃあ騎士さんはどうするんですか。その腕では登れませんよね」


「俺は瓦礫を退けて脱出する。登れるお前は先に行け」


「でも…!」


「俺は騎士だ。1人でもどうにでもなる。むしろ1人の方がやりやすい。邪魔だ」


「………分かりました」


男の子おぶり、紐を結んでもらう。強度を確認し、瓦礫を掴んだ。慎重に登って行く。


思ったよりも簡単に登れた。頂上には小さな瓦礫が積み重なっている。その中の1つに目がいった。



…これって。




降り始めると、向こう側にいる騎士さんと目が合った。



──嘘つき。



優しい、大嘘つきの騎士さんは足を進めて行くと見えなくなってしまった。


















◇◇


「…行ったか」


あいつらの姿が見えなくなり、数分が経った。走って行くような足音が聞こえたので無事に降りられたのだろう。我ながら子どもに託すなど賭けに出たものだと思う。

…あいつらが生き残るのはこれしかなかった。この瓦礫は今の俺ではどうにもできない。瓦礫との接触によって出血。骨も折れてしまっている。力を入れると酷く痛む。


こんなことになったのは、団長の命令を無視したせいだ。責任は全て俺にある。自業自得とも言える。



出どころは不明だが子どもが逃げ遅ているとの情報が入り、捜索が開始された。

だが既に全部屋無人だと確認済み。そんな中で子どもが見つかるはずはない。そう思っていた矢先、女児が保護された。保護対象者はリストとのすり合わせで全員避難したはずだった。

商談が成立し、リストから消されていたのかも知れない。商談中の現場も押さえたと言う話だし可能性は高い。

いずれにせよこれで任務は完了した筈だった。


あと1人。そう情報が入りすぐに捜索を再開した。

限界まで探した。


団長も苦渋の決断だったはずだ。

撤退の命令を聞いた時、弟妹を思い出してしまった。あの憎たらしく生意気な奴らが脳裏をよぎった。大切な可愛い奴らが。

だからできなかった、子どもの命を諦めるなど。

もしかしたら情報は誤りなのかも知れない。すでに自力で脱出したのかも知れない。だが少しでも逃げ遅れの可能性があるならば、それをゼロしにてしまいたかった。


私情を挟むなど、騎士失格だ。


俺はここで死ぬのか。




奥の棟が崩壊したようで地面が揺れる。ここも長くないな。


「…諦めた訳ではない」


まだ動く右腕で瓦礫を退ける。手のひらが切れたようだがそんなことを気にしていては助からない。

どけるんだ、瓦礫を。







「騎士さん!」


俺は瓦礫の山の上を見た。そこには脱出した筈の少女の姿があった。



「お前は…なぜ戻って来た。あの子どもはどうしたんだ…!!」


白髪の少女は上の瓦礫をどけ始める。


「男の子は他の騎士さんが保護しています」


「なぜ戻って来た!引き返せ!!今すぐに!」


「嫌です!死んで欲しくないんです!」


なんて聞き分けの悪い…!


「私たちを助けて自分は死ぬつもりですか!!子どもを助けて死んで、心優しい英雄として世間に称えられようとか考えてませんよね!!そんなの…許さない!」


「命を無駄にするんじゃない!俺は騎士という仕事をしている以上覚悟はできている!いつも死と向き合って生きている!1人()の犠牲だけで済むのだからそれでいいだろう、お前まで犠牲になる必要はない!」


なぜ分からない。中途半端は正義感では何も救えない。今の俺のように。


「…犠牲になんて…なるつもり…ありません!!」


少女は上に乗っていた大きめの瓦礫を退けた。少し瓦礫が減っている気がする。


「降りろ!」


瓦礫の向こうから声が聞こえた。その声に応えるように少女はこちら側に飛び降りてくる。

瓦礫の山は俺の何倍もある。その上から飛び降りてきた。


飛び降りると言うより、舞い降りるの方が表現として正しかったかもしれない。

綺麗な着地だった。


「離れて」


あっけに取られていると少女に腕を掴まれ瓦礫の山から離される。かろうじて残っていた祭壇の蔭に隠れた。

離れました、と少女が叫ぶと瓦礫の山が一気に崩壊、いや四散した。

向こう側には騎士が1人。灰色の髪に赤い瞳。


「…団長!」


「足は生きてるな!?急げ!その子は私が抱える!」









腕を押さえ、走る。






かなり現場から離れた。こんなに離れる必要が…。





すると先ほどまでいた施設が轟音を立てて消え去った。その破片は四方八方に飛び散りこの場にいる全員が頭を抱える。

崩れ落ちる前、小さな爆発が見えた。あそこには爆薬があったのだ。



団長に抱えられる少女。俺はこいつに助けられた。
















◇◇


「なんて危険な真似をしたんだ!!!!!」


副団長さんのその声量と威圧感に思わず、隣で一緒に正座をしている竜人族の騎士さんの服を掴んでしまう。

あぁ…!急に掴んだからものすごく驚いた顔してる。ごめんなさい…!

無事に脱出した直後、建物から離れるとすぐにその場で正座をさせられた。そして現在、複数の騎士さんからお説教を受けいる。


「まずは君!!折角救出されたのに自ら危険に飛び込んでどうするんだ!!出て来たと思ったらまた入るんだから!!!それにだ、騎士を蹴り飛ばしたろ!罪に問われてもおかしくないぞ!」


そう言う副団長さんからは黒いオーラが見える。今にもゲンコツが飛んできそうな勢い。それを静止するように副団長さんの肩に手を乗せるヴィシオさんの顔色は最悪。


「いやぁ〜…、イチちゃんはもっと自分を大切にした方がいい。行動する前に一度深呼吸して考えてみような。…にしてもあんな蹴りを食らうとは思わなかった。すまない、止められなかった俺にも非がある」


「いえ、私が全部悪いんです!蹴っちゃってごめんなさい」


「そうだな、ヴィシオ隊長に非はない。…子どもの蹴りをまともに食らったというところは非常に残念ではありますが」


団長さんの言葉にヴィシオさんは面目ない、と頭を掻いた。


「君は後で事情を聞くから隣にいる騎士とここにいなさい。……さて、ヴィルトゥス•フェッルム 1番隊隊員。あの時私は撤退を命令したはずだが…?」


私に指示を出すとさらに団長さんは竜人族の騎士さん──ヴィルトゥスさんを睨みつける。

その声は副団長さんより落ち着いているけど重みがある。


「申し訳ありません」


「謝罪は結構。お前には本部帰還後に処分を下す。今回の功績は考慮されないものと思え。彼女がいなければお前は死んでいた。素早く保護対象の少年を我々の元に連れ帰り、かつどこからか持ってきた()()を渡してくれた彼女に感謝しろ」


ヴィルトゥスさんは立ち上がり団長さんに頭を深く下げた。子どもを命がけで助けた人の姿とは思えない。騎士さんたちにとって命令を無視するっていうのはそれだけやってはいけない事なんだ。


「……それから。お前こそ『命を無駄にするんじゃない』」


そう言って離れて行った団長さんをヴィルトゥスさんはずっと見ていた。

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