天佑神助を待つ者よ─12
救出された人たちの最前で、建物の方をじっと見ていた。
フォルマはもっと奥に方に避難した方がいいと言っていたけど、どうしても気に なってしまって。なのでわがままを言ってここに居させてもらっている。フォルマとそれから髭の騎士さんのヴィシオさんが一緒。
「そういえばヴィシオ…さん?はどうして姉を信じてくれたんですか?」
フォルマの質問にヴィシオさんは自分の顎を触る。空を見上げ、うーんと考えている様子。
「『勘』だなぁ、やっぱ。おじさん、騎士になって長いわけよ。十八で騎士になったから今年で…十七年目!?うそぉ、俺そんなに年取ったわけ?通りで最近訓練がしんどく…。ってそんな話はどうでもいいよな。まぁ十七年もやってくると色んな場面や人に出会うから『騎士の勘』ってのが鍛えられるんだよ」
「騎士の勘」…。
視線はそのまま、耳だけ傾ける。フォルマは目線もヴィシオさんに向いているみたい。勘?と首を傾げているのが視界の端に見えている。
「この場所は危険そうだなとか、今はこう動かなきゃまずい気がするなとか。お嬢ちゃんは自分が神族じゃない、って言ってたがちゃんともう一回調べてもらった方がいい。俺とお嬢ちゃんが同族なんじゃないかと思ってる。」
同族?それってつまりヴィシオさんは神族ってこと?
希少と言われている神族がすぐ横にいることに驚く。
神族なんですか、と私が聞く前にフォルマがつっこむ。
「あの、実は私たち『種族検査』してないんです…」
「マジ?」
ちょうどその時、建物からたくさんの騎士が出てくる。そのうちの一人が小さな子を抱えていた。
見つけたんだ!!良かった、これであの騎士さんも下敷きにならずに済む。
騎士さんたちが近づいてくると女の子の状態が分かって来た。所々に擦り傷はあるけど大きな怪我はないみたい。良かった。
ん??女の子?
何かがおかしい。
「………違う」
思い出した。私の夢に出て来たのは…!
身体がスーッと冷たくなっていく。フォルマとヴィシオさんに顔を覗き込まれる。
「違う!私が見たのはこの子じゃない!!」
「よく見て、この子じゃないのか!?」
ヴィシオさんが慌てるようにして救出された子を指差す。
絶対に違う。はっきりと思い出した。
「男の子です!思い出した!男の子なんです!」
その言葉を聞いた騎士さんたちの顔が硬くなっていく。この子ではないのか、という声も聞こえてくる。
「もう一度中を確認するんだ!」
後ろからの大声にビクッとする。いつのまにか遠くで指揮をとっていた副団長さんがすぐ側に立っていた。
気づかなかった。気配を読むのは得意なのに。それだけ私は焦ってる。
副団長さんの掛け声に、騎士さんたちは動き出す。大急ぎで建物の中に戻って行く。
騎士さんたちが見えなくなって数秒後、私たちが収容されていたと思われる奥の建物から火が上がった。ボン、という破裂音。真っ赤な火によって建物が崩れ始める。
「本当に…火が…」
副団長さんが小さくそう呟いた。ヴィシオさんもフォルマ、もちろん私も驚いている救出された人たちから悲鳴が上がっている。
もう少し後退しよう、という副団長さんの命令で騎士さんたちがまた急いで動き出す。
中にいる騎士さんは大丈夫かな。それにあの子も…。
「!出て来たわ!」
フォルマの言う通り、騎士さんたちが建物から出て来た。一斉にこっちに走ってくる。
男の子は…!どうなったの…!!
撤退して来た騎士さんたちの集団から外れて、建物の入り口付近で立ち止まっている騎士が数人いる。そのうち二人以外は急いで集団に合流し、先頭の騎士さんに何かを伝えた。
先頭にいた副団長さんと同じ長さの上着を羽織った騎士さんだけが逆戻り。他の騎士さんはこちらに戻ってくる。
「どうした。何かあったのか?男の子は発見したのか?」
副団長さんが前に出て話を聞きに行く。ヴィシオさんも前に出たのでこっそりと着いて行く。
「いえ、発見できませんでした。火が強くなり、崩壊も進んできたので団長が撤退を指示。ですが、一番隊の隊員一名が命令に背き捜索を続行。そのため団長、一番隊隊長、副隊長がまだ建物の近くに……」
そんな…!
建物の方から団長さん、隊長さん、副隊長さんと思われる騎士さんが後退している。建物から少し離れたみたい。
「ノーーーーメン!!」
副団長さんが今までで一番大きな声を出す。思わず耳塞ぐ。
ノーメンと呼ばれた騎士さんが振り向き、建物を気にしながら走ってくる。さっき先頭を走っていた騎士さんだ。副団長さんは素早く駆け出す。私も思わず駆け出した。
あっ、とヴィシオさんが追ってくる。副団長さんたちは怖い顔で何かを話していた。
あと少し…!…!!!
肩を強く掴まれ、振り向くとヴィシオさんがいた。そのまま抱き抱えられる。副団長さんともう一人の騎士さんが怖い顔のまま私を見ている。鉛色の髪の毛で真っ赤な瞳。その目がすごく怖かった。時々吹く風が板状のピアスを揺らしている。
副団長さんが私を咎めた。
「君!危ないから離れていなさい!」
「でも!騎士さんが!男の子が!!」
私がもっと早く思い出していれば!!いや、まだきっと助けられる。もう思い出してないことはないの!?
「ほら、イチちゃん。戻るぞ?妹ちゃんも心配してるじゃないか」
ハッとした。私はフォルマを守らなくちゃいけない。
ヴィシオさんの肩越しに見える、遠くにいるフォルマの口が大きく動く。それは確かにこう動いた。
『た・す・け・て・あ・げ・て』
私は全身の力を抜いた。
…分かってるよ、フォルマ。
諦めたような姿に気を抜いたのか、ヴィシオさんの拘束が緩まる。今だ。
ヴィシオさんの腹を渾身の力で蹴り飛ばし、その腕から解放される。一回転し顎も蹴り飛ばした。その時、真っ赤な瞳の騎士さんの上着の背に描かれた花が見える。…花!
着地し、すぐに走り出す。くっそ、というヴィシオさんの声が聞こえる、頭がクラクラしているみたいで膝をついている。…残りの騎士さんは四人。なんとか突破して中の騎士さんに伝えなきゃ。副団長さんたちから少し距離をとって、横を通り過ぎようとする。
「─きけ──強制撤退させ…?君!何をしている!!」
バレた。副団長さんと話をしていた赤い瞳の騎士さんが声を上げ、手を伸ばして来る。けどギリギリ届かない距離を走っていたからセーフ。騎士さんと目が合った。
鎧の重さでよろけたみたいだけど、すぐ追いかけて来た。騎士さん二人に追いかけられる私。こんな経験二度とない。
とりあえず全速力。建物まであと少し。目の前の騎士さんたちを越えれば。
あ、この騎士さん、さっき私たちを助けてくれた騎士さんだ。アストラさん。さっきとは違い、鬼のような顔。もう1人は小さな丸いネコの耳を生やした薄い茶髪の獣族の騎士さん。私を待ち構えている。
うわぁ!もうすぐ後ろに来ている!!急げ急げ急げ…!!!
「あまり屈むな!!跳ばれるぞ!」
ヴィシオさんが復活したみたい。副団長さんたちの後ろから声が聞こえる。その呼びかけに正面の二人の屈みが浅くなってしまう。
あぁ、さっきの高さなら跳べたのに。──でも。
獣族の騎士さんに突っ込んでいく。騎士さんが捕まえた、という顔をしたのが見えた。
──上が無理なら下から行けばいい。
かなりのスピードで突進してくる私を受け止めるために大きく開かれた足。十分通れる。
騎士さんの目の前で屈み、地面と並行に前に跳ぶ。急に私が視界から消えたからか獣族の騎士さんはフリーズしている。両手を大きく前に出し、先の地面を捉え、前転。すぐに立ち上がり大きく一歩を踏み出す。
あともう少し…!もう数歩…!!
アストラさんが急いで掴もうとして来たけど…。
「駄目だ!戻るんだ!!君が責任を感じる必要はないだ!!戻って来てくれ!!」
騎士さんたちの声が聞こえる。ごめんなさい。でも責任感で動いた訳じゃない。
ただ助けたい。私も望んでやったことだから。
私は焦げ臭い建物の奥へと進んだ。
騎士たちが主人公ちゃんに抜かれたのは
「主人公ちゃんが子どもで女の子という油断」「主人公ちゃんの身体能力の高さ」
この二つが原因です。ヴィシオもまさか腹に蹴りを入れられて顎もやられるとは思っておらず、モロに入っています。結構痛かったと思います。
股下潜りを決められた獣族騎士は子どもを捕まえられなかった、と凹んでいるそう。




