天佑神助を待つ者よ─8
毎週金曜日には投稿できるように、計画的に、計画的に。
あいつが来てから今日で三週間が経った。三週間の間に、数人が買われていった。
カリゴちゃんは昨日購入が決まり、今日引き取られる。顔色は明らかに悪く、今にも気を失いそう。朝食はほとんど手をつけていなかった。
心情を察して、私たちはいつもより静かに過ごす。今騒いだところで未来は変わらない。
「………来た…」
カリゴちゃんが泣きそうな声で呟く。私たちは耳をすまし、足音確認する。確かにコツコツとこちらにやって来ている。しかも鼻歌混じり。機嫌がまぁ良さそうに。
あと数週間もすれば、私もカリゴちゃんと同じ立場になる。しかも相手はあいつ。
あの無邪気さが怖い。いや、誰に買われても怖いんだけど。
「…これ……なんの音?」
恐怖でうずくまっていたカリゴちゃんは不意に頭を上げ、窓を見つめ出した。
音…?外から?耳を澄ます。………確かに音がする。ザッという土を蹴る音だったり、ゴロゴロと何かが転がるような音だったり。次第に大きくなっていく。これは…。
「馬?」
ひっ、と部屋の子の一人が悲鳴をあげる。出入り口を見ると男が鍵を開けようとしていた。カリゴちゃんはまた身体をこわばらせる。
カチャリ、と一つを開け手前の鍵にも手をかける。もう開く…!
パァン、という音に男の手が止まる。
何かが破裂するような音に私たちは顔見合わせる。
今の何…?
男も不思議に思ったらしい。一度鍵かけ直し、音がした方がじっと見つめる。
なんだか騒がしくなって来た。大量の足音と、金属のぶつかる音、それと叫び声。一体なにが起きているの……?この異変に男が鍵を自分のポッケにしまい、変わりに短剣を出す。次第に近づいてくる音に私はたちは集合し一塊になり、男は後退りし腰を低くした。その状態のまま数分。
「逃げろぉ!!!」
いきなり、そしてはっきりと聞こえて来た声。男は声の方をじっと見つめる。が、次第に顔色が変わって来て逃げ出す。次に数人、男たちが走っていく。足音と共にガチャガチャという音も聞こえて来た。何かがもうすぐそこまで来ている!
「追え!逃すな!!」
「行けぇ!!一人も漏らすな!」
見えたのは、純白の軍服の上に鎧を着た騎士。中には青いマントを羽織った人もいる。絵本で見た騎士よりは軽そうな鎧を着ているけど、すっごくしっかりしていそう。みんな手に剣を持ち、男たちを追いかけていく。
私たちはまだ何が起きているのかわからない。隠れていないかくまなく捜索しろ、とか連行しろ、とか叫ぶ騎士たちを前にただ呆然。
騎士が奴隷商の男たちを捕まえていく。
「安心しなさい。我々はアルナイル王国騎士団だ。君たちを助けに来た。順番に避難させて行くから待っていて欲しい」
アルナイル王国騎士団…?国の騎士が私たちを助けに来てくれた…!わぁ、っと言う声がけが他の子たちの口から漏れ出す。確かにこの人たちの胸にはアルナイル王国のマーク。本物だ!
「よかった!カリゴちゃん!助かったよ!!」
カリゴちゃんは大粒の涙を流し、声をあげて泣き始めた。それに釣られて他の子も泣き始める。みんなが一斉に泣き始めたので騎士さんたちはぎょっとした顔をする。
「君たち、もう安心だから。泣かないで?ね?」
「もうすぐここの鍵を開ける。だからほら、泣き止みなさい」
子どもに泣かれた経験はないんだろうか。かなりオドオドしている。まぁ人数も多いし仕方がないよね。……私以外の子はみんな泣いている。
「ほら…大丈夫だから泣くの止めよ?騎士さんたちが困ってるよ。涙拭いて…お水飲んで…。ん?トイレ?今行って来な…?」
「まるでお母さんだな…」
しかたないでしょ。泣き止んでもらわなきゃ私も困る。騎士さんたちだって困るでしょ?
…それよりも。
「お願いがあるんです、騎士さん」
「我々ができることであれば聞こう。それは急ぎか?」
私とお揃いで顔に傷のある騎士さんが膝を着き、目線合わせてくれる。私は急いで近くまで行き大きく頷く。
近くで見る騎士さんは大きくてカッコいい。その騎士さんは銀色のメガネをしていた。少し暗いこの場所でも騎士さんのはっきりとした青い髪がすごく綺麗なのがわかる。瞳も青に近い緑色で宝石を見ているようだった。
膝をついてくれたことで羽織っていた上着の裾が地面についてしまう。汚れひとつないのにいいのかな。でも騎士さんは気にせず私の言葉を待っているみたい。
「S級にいる双子の妹を探して欲しいんです!私とそっくりで、身長は私よりほんの少し小さくて、メガネをかけてて。──あっ、顔に傷はないです!」
「……そうか、私は君たちをここから出す係なんだ。だから私ではなく、他で別のことをしている騎士にお願いしよう。ただ、探しても会えない可能性もある。それはわかってくれ」
私は頷く。この三週間で売れてしまったのかも知れない。でももしかしたらまだいるかも知れない。
「瓜二つなのにランクが違うんですね」
周りを警戒していた一人の騎士さんが不思議そうに私の顔を見て来た。
「──同じ顔で傷のある方とない方なら、ない方を選びますよね。昔、見ていると気持ちが悪くなるって言われたことがあります」
騎士さんはしまった、という顔をする。他の騎士さんが思いっっきり睨みつけていた。空気が重くなる。
余計なことを言っちゃったかな。笑って誤魔化しておけば良かったかもしれない。
「私にも…顔に傷がある。君のより大きいだろう。見ていて気分が悪くなるか?」
傷のある騎士さんが、自分の傷を指差した。傷は左のおでこからほっぺの下まで続いていて私のより大きい。
私は首を振る。
「そうか、ではその言葉は忘れなさい。たった一つの傷を通してでしか君を見ていない人間の言葉など、覚えておく必要はない」
いいね、と言われて私は小さく頷いた。
「アストラ副隊長!安全が確認され、救助が始まったそうです。手筈通りに進めるようにと団長から」
傷の騎士さんは立ち上がる。こちらに背を向け指示を出し始めた。
上着の背には花のような形のマークが入っている。なんのマークだろう。角ばったお花でかっこいい。
「了解。他の救助が完了し次第、こちらも開始する」
アストラ「『気持ちが悪くなる』か。それを言った人間は多くの騎士を敵に回したぞ」
◇◇
レギナ「クシュン…!もうだぁれ?レギナの噂話をしているのは」




