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夢見る彼女は幸せを  作者: 緑野鳶
天佑神助を待つ者よ、汝、黎明を告げる
10/13

天佑神助を待つ者よ─4

奴隷商の男は嬉しそうな声をあげる。


「勿論でございます!どのような奴隷をお求めで?」


「そうですねぇ。どんなのでも構いません。ただ、『面白い』のがいいなぁ」


「面白い」という言葉に鳥肌が立つ。

この男の子は奴隷を「おもちゃ」として見てるんだ。


「『面白い』ですか…。Bであれば…そうですね、あの部屋に目が見えないのがおります」


こっちに来る…!!

部屋の空気が恐怖一色に変わった。カリゴちゃんは今までに見たことがないような顔をし、身体を震わせている。頭を抱え小さくうずくまり、私たちの陰に潜む。

足音がこの部屋の前で止まった。みんなの息が荒くなる。泣き出してしまっている子もいる。


「ん〜?どれですかね」


「茶髪の小柄なのがそうなんですが…。おい!盲目!こっちに来い!!誰でもいい、お前らそいつをこっちに連れてこい!」


奴隷商の男がカリゴちゃんを呼ぶ。目の見えないカリゴちゃんにはサポートが必要だけど、誰も動こうとしない。みんな目に涙を浮かべてそっぽを向いている。怖いから近づきたくないんだ。私だって嫌…!それにカリゴちゃんを売るような真似できないよ!


「早くしろ!」


鉄格子を蹴り鳴らし始めた。

手が震える。


「誰か…お願い」


カリゴちゃんは涙を流しながら宙に手を差し出した。誰も取ろうとしないその手を、私は大きく息を吸い、取る。カリゴちゃんはビクッと肩を揺らした。


ごめんね…。


鉄格子までカリゴちゃんをサポートする。なるべく下を見て歩く。

視線を感じる。一歩一歩と鉄格子に近づいて行くごとに、全身が冷たくなって行く。

あと何歩?あとどれぐらい近づけばいいの?…怖い。

鉄格子のギリギリまで行き、私たちは止まる。鉄の匂いが鼻を刺す。


「お待たせいたしました!いかがです?まだ十歳ですが、もう五年もすれば()になります。それに目が見えませんので逃走の心配はありません」


奴隷商の男は、商品の説明を始める。私はいつまでここにいればいいんだろう。戻ってもいいのかな。でもそうするとカリゴちゃんが一人になっちゃう。でも戻りたい。


恐怖。その感情に支配されていた。奴隷ってだけでも常に不安なのに今はさらに不安。人をおもちゃ扱いするようなやつに買われたくない…!!




──どんな男の子が人をおもちゃ扱いしているんだろう。


考えちゃいけなかった、気になっちゃダメなのに。


恐怖の中に興味が芽生えてしまった。






鉄格子の向こうを見てしまった。


奴隷商の男。その後ろに体格のいい男が二人。鉄格子に側にはカリゴちゃんを覗くように誰かがしゃがんでいた。眼球の色が分からないほど細い目。黒いマント?にフードを被って、その隙間から見える洋服は高価そうだった。少しだけフードからはみ出たその髪は、艶のある綺麗な紫色。私と同い年くらいの男の子。声の幼さ通りの子ども。


急に男の子が目線を上げた。目が合う。

時間にしてみれば、ほんの二、三秒だった。いや、もっと短かったかも知れない。 その数秒で私は判断した。





こいつはやばい。


お母さん譲りの勘が逃げろと言っている。


私は目を逸らさず、大きく後ろに一歩下がった。男の子も私から目を逸らそうとしない。私はそこから動くことができなくなった。


「──でして。…宜しければ近くでご覧になって下さい。今開けましょう!」


奴隷商の男は鍵を取り出し、一つ目の鉄格子のドアを開けた。さぁどうぞ、と男の子を部屋の中に入れる。そこでようやく視線が逸れた。男の子はカリゴちゃんの目の前にまたしゃがみ直した。鉄格子の隙間から手を入れ、カリゴちゃんのほっぺをつん、とつついた。カリゴちゃんの身体の震えが大きくなる。


「ん〜。あまり惹かれませんね。珍しくはありますが、面白くなさそうです。それにすぐ壊れてしまいそうですし」


男の子はつんつんしていた手を大きく広げ、カリゴちゃんの髪を鷲掴みにした。ひっ、という声が部屋の奥から漏れ聞こえる。その残虐な行為に息が止まる。


「いやぁあ!!」


「ほら、やっぱりダメです。つまらない」


男の子はヘラヘラと笑っている。


こいつ…狂ってる!!


髪を持つ(男の子)の手が緩んだ瞬間、私は床を強く蹴り一気に奴まで近づく。カリゴちゃんのお腹に腕を回し、部屋中央まで引き戻す。私が動いたのを見て、それまで固まっていた部屋の子たちがカリゴちゃんを抱き迎えに来る。カリゴちゃんのうわぁん、という声が響きだした。

私の行動に奴とその連れの人は目を大きくし、奴隷商の男は顔を真っ赤にしていた。後できっと叩かれる。いや、それでいい。あいつと関わるくらいならば。

今までも奴隷を「おもちゃ」として買って行った人はたくさんいた。でも大抵は人を傷つけることでストレスを発散したり、優位に立っていることに喜びを感じる人だった。

だけどこいつはそうじゃない。

あの顔は子供が()()()に遊んでいる時の顔だ。


「も!も!も!申し訳ありません!!!!!お怪我は!?」


奴隷商の男が慌てて謝る。そして私を睨む。


奴はさっきまでカリゴちゃんの髪を掴んでいた手をグーパーグーパーし、私を見つめている。驚きがだんだんと興味に変わって行くのがわかる。とうとう笑みも浮かべ出した。

…これ、今度は私がまずいんじゃ。

ぺこぺこと謝っていた奴隷商の男に嬉しそうに声をかけた。


「あれを!()()()()()()()()!!」


「ちょっ…、その喋り方はいけません!ってあぁもう!」


イントネーションの変化に後ろにいた奴の同行者は急に焦りを見せたけど、すぐに他の同行者に目配せをし、どこかに行かせた。奴隷商の男も奴の口調の変化に驚きつつも、それ以上に私が指名されたことに気を取られているようだった。

まずいまずい!!標的が私に変わった!!


「あれですか!?あれは捕獲の時に大変暴れたようでして…!手がかかるかと…」


その通り!私は暴れるよ!おもちゃにならないよ!!


「ええから!!見せてくれ」


渋々奴隷商の男は私を呼ぶ。

諦めないでよ!?

正直とっても行きたくない。でもここで行かなきゃ他の子に迷惑がかかるかもしれない。でも嫌だなぁ。

…もうっ!


大きく息を吸い込んだ。身体が少しあったかくなる。


…行こう。

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