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獣人の騎士-ケモノビトノキシ-  作者: ReMe
プロローグ
2/10

獣の主-ケモノノヌシ-

 一匹の狼が静かな足取りで、何かを探すように山中を歩いていた。

 恐ろしく巨大な、成人男性が見上げる程の体躯。

 美しい銀色の毛並み。

 強者の風格を纏った堂々たる姿。

 その巨狼の鋭い碧眼(へきがん)は、広大な縄張りの秩序を乱す存在を確信していた。

 巨狼は歩を進める。

 山は普段と一変して静かだった。

 草木を掻き分けて走る獣の足音どころか鳥の(さえず)りさえ聞こえない。

 耳に入るのは風で揺れた草木が擦れ合う音だけ。

 生き物が存在しないかのようだった。

 実際は避難したり身を潜めているだけなのだろうが、そう感じさせるほどの静けさだ。

 気が付けば住処から遠く離れた場所まで来ていた。

 ふと、巨狼は歩みを止める。

 視線の先には木々が立ち並んでいる。

 その内、一本の巨木の根元。

 枝葉に光を遮られたその場所に(うごめ)く一体の影。

 グチャグチャと音を立てるソレは巨狼の気配を感じて振り返る。

 不気味な程に紅い眼。

 口には捕食していた獣の肉片。

 ソレは巨狼を視界に捉えると、咆哮を上げ巨狼に向かって襲い掛かる。

 巨狼は突進してきたソレを軽やかに躱す。

 ソレは勢いをそのままに木に顔面から突っ込んでしまうが、すぐさま巨狼に向き直る。

 日向に姿を晒したソレの姿はおぞましいものだった。

 姿かたちは狼のようだが、その身体を覆う毛は乾いた血でどす黒く染まり、異臭を放っている。

 顔は潰れ、めちゃくちゃに生えた牙がより歪さを醸し出していた。

 巨狼には遠く及ばないが立派な体格。

 しかし、腹が異様に膨れ上がっている。

 休むこと無く捕食を続けていたのだろう。

 かなりの勢いで木に激突したはずだが、痛がる素振りすら見せないソレは、獰猛な咆哮と共に再び巨狼に向かって突撃する。

 巨狼は首に噛みつこうとするソレの頭を、振り上げた右前足で地面に叩き付ける。

 ソレは起き上がろうとするが、巨狼は虫でも潰すかのようにソレの頭を踏みつけた。

 巨狼からすれば半分の力も出していないが、ソレの頭は地面にめり込むと同時に周囲に血肉を撒き散らす。

 頭を潰されたソレの体は痙攣を繰り返し、やがて動かなくなった。

 巨狼は首をかしげ死骸を見下ろす。

 獣でも亜獣でもないこいつは何なのか。

 数十秒程考え、そして止める。

 住処を出てから随分時間が経っていた。

 結論を出すのは後にして、巨狼は家族がいる住処へ戻ることにした。

 先程まで静けさに包まれていた山の中に、鳥の(さえず)りが響いていた。

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