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復讐の黒い百合~流刑となった令嬢は、奴隷と共に国家転覆を企てる~  作者: null
三部 三章 鎖からの解放

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鎖からの解放.1

レイブンの視点で始まります、三章です!


お楽しみ下さい。

 今日は珍しく、心拍数が激しく上がっていた。緊張しているのだろうか、と考えてから、なんだか違う気がすると自分で否定する。


 いつもなら魔物だろうが人間だろうが、緊張せずに始められた。時折、私たちの勝手で奪われていく自由を見送っていると胸が痛むことはあった。だけど、それもそっと目を閉じてあげれば一つの妥協を自分に与えることができていた。


 命という翼を折られ、飛べなくなった鳥たち。


 翼があっても飛べない私が、強くなるために行う罪深い行為。


 ごめんなさい、と心の奥でいつも繰り返し思う。叫びだしたくなるほどのことはない。ただ、そうすることが自分の義務だと信じていた。


「レイブン!」


 不意に、離れた場所からリリーの声が響いてきた。


「私の麗しい鳥――舞いなさい!貴方を縛ってきた鎖で研ぎ上げた爪で、翼で!鎖の先に座る者を葬るのよ!ふふ、あははは!」


 金切り声みたいでも、やっぱりお嬢様の声は美しく、私の心に風を吹き込む。


「承知しました。お嬢様」


 背中でバチバチと爆ぜる、魔力の翼。


 以前よりもずっと大きく、色濃くなった。深い黒が彷彿とさせる夜の艶やかさと、漆黒の鴉。


 私の中に存在する強さの象徴は、まずます現実を侵食してこの体に宿るようになった気がする。


「お、お、お、お前、な、なんだ、こんなやつ、私のコレクションには…」


 私の腕を慌てて離したでっぷりとした男が――いや、人面獣心の、人間ではない動物が、姿を変えた私を見て喚く。


 奴隷侯爵ゴルドウィン。リリーが言っていた、こいつは人間のようで人間ではないと。畜生であると。


(人間みたいだけど、人間じゃない…消耗品の私と、同じ)


 私は、自らの翼と意志を持ち羽ばたくリリーやワダツミらとは、自分が根本的に違う存在なのだと信じている。彼女らは同じだと言うが、どうにも納得できない。理屈ではなく、肌感覚がそれを飲み込まないのだ。


 消耗品は、道具としての目的を果たすためにあり。

 家畜は、家畜として命を捧げるためにある。

 剣が切断のためにあるように。

 盾が大事なものを守るためにあるように。

 翼が空を舞うためにあるように。


 誰もが与えられた役割がある。そして、それを果たすべき義務も。


 それなのに。


 こいつは…家畜の分際でお嬢様を傷つけた。


「…報いがいる」


 気がつけば、言葉が漏れ出していた。


 背を向け、離れていくゴルドウィンの姿。


 ――分不相応。


 その一言に尽きる。


 イメージする必要もないままに、私の背に生えた一対の翼が強く羽ばたきを起こす。


 体はいつものように、いや、それ以上の勢いで加速した。


 ただ地を蹴った、それだけの動作にも関わらず、体は宙に舞う。


 飛んでいる。走るように飛んでいる。


 あっという間に追いついた畜生の背中に、私は一振り、鉤爪を振り下ろす。


「ぎゃぁ!」


 醜い悲鳴。


 屠殺しそこねた。


 周りにいた黄金の鎧をまとう兵隊たちが、ゴルドウィンを守るように分厚い壁となって私の前に立ちはだかるも、以前よりも強靭な翼を得た私にとってはたいした障害にはならない。


 私に襲い掛かる無数の穂先を、右翼を盾にして防ぎ、左翼を剣のようにして振り払い、まとめてへし折る。そしてそのままの勢いで敵陣深く突入し、最大限にまで伸ばした両翼をぐるぐると回して鎧ごとミキサーにかける。


 血飛沫が灰色の空に広がった。


 リリーの瞳と同じ真っ赤な色。それなのに、どうしてだろう。全然美しいと思えない。


 ゴルドウィンの背中が遠のく。


 オリエント軍とゴルドウィン側の兵隊とが衝突を続けているが、駆けまわる奴隷を捕獲せよとの命令を出されて困惑している兵隊たちのほうが明らかに分は悪い。錯綜しているのだろう。


 でも、私には関係ない。


「行かせない」


 苛烈な波のように押し寄せる敵兵たちを、次から次に翼と爪で排除する。前の自分からはまるで想像できない力。それは間違いなく命を踏み台にして得たものだ。


「ひ、ひぃ…!」


 見えた。醜い獣の背中だ。


 しかし、あと一歩というところで、また肉の壁が立ちはだかる。


「邪魔、だなぁ…!」


 お嬢様の命を賭してここまできた作戦だ。失敗など許されない。お嬢様は無駄を嫌う。


 私は両翼を交差させると一気に魔力を流し込み、羽の一つ一つを破片のように飛ばしてみせる。


 羽が直撃した兵士たちは、黒い爆風と共にふわりと吹き飛んでいく。致命傷ではなくとも、それだけで十分であった。


「奴隷公爵ゴルドウィン」


 道が拓けた。


「役目を果たして」


 全速力で加速して、ゴルドウィンの背中を翼の間合いに入れる。


 右翼を収縮し、そのぶん左翼を思い切り伸ばす。


「畜生の役目を」


 やがて、翼の尖端がゴルドウィンの下腹部を貫いた。


「ぎえぇ」


 ずしりとした重量感もものともせず、私はそのままリリーたちがいる方向へ向かってゴルドウィンを投げ飛ばした。ゆうに20m近くは飛んだだろう。


 致命傷だけど、まだ死んではいないはずだ。


 おそらく、穏やかで慈悲深い死はあいつには訪れない。死刑執行者に相応しい人間があそこにはいるから。


(私は、あくまで死を告げる鳥――そうですよね、お嬢様)


 カラス、レイブン。


 私の大事な名前。それに死告鳥なんて名前をつけられるのは悲しいことだったけれど、リリーと共に苦悶の道を歩むとなれば、受け入れる必要があると思えた。

ご覧頂いている方々、ありがとうございます。


読みづらい点や感想があると教えて頂けるとモチベーションになります!


続きは夕方に更新致しますので、よろしくお願いします。

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