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復讐の黒い百合~流刑となった令嬢は、奴隷と共に国家転覆を企てる~  作者: null
終部 三章 戻らぬ過去に触れて

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戻らぬ過去に触れて.5

ストレリチアの独白になっております。

読みづらいかもしれませんが、よろしくお願いします…。

私はいわゆる、戦争孤児というものでした。


エルトランド王国の暴虐に耐えかねた東国オリエントが反撃を開始してからすぐに、私の家族は死にました。当時、八か九の歳でした。


一年ほどは乞食のように生活していました。戦争やオリエントを恨む気持ちはあまりなかったです。というよりも、知らなかった、と言うべきですかね。恨むより先に、日ごと消えそうになる命の灯をつなぐことで一生懸命でした。


そんなとき、王妃として、優れた魔導士として所領の解放を行なっていたアカーシャ様に出会いました。


私は――今でも覚えています。随分昔のことなのに、両親の記憶もろくにないのに、貴方と出会った瞬間のことだけは、鮮明に覚えているんです。


オリエント兵を焼き払った貴方の、瞳が…夕焼けすらも焦がす紅蓮の瞳が、路傍に蹲る小石同然の私を真っすぐに見つめた。


綺麗だと、思いました。子どもなりに、人生最期の日が来るなら今日がいいと、そんなふうに思ったんです。


貴方が屈みこんで私に声をかけたとき、銀の髪が揺れて、風を、感じました。そうです。穏やかな風。私を生き返すための、風…。


アカーシャ様は私の住んでいた町からオリエント兵を一掃しました。


意思を持っているみたいに踊る火炎が、偉そうな顔をしていた兵士たちを燃やし尽くして、ルピナス様の青白い稲妻が彼らの旗を消し炭にするんです。それに、マルグリット様の剣さばき…舞うように戦うというのは、ああいうことを言うんだと思います。


私は…アカーシャ様たちについて行きたいとお願いしました。荷物持ちでもなんでもいいから、と。


もちろん、みなさん反対されました。ですけど、こっそりついて行ったんです。引き返しようもないくらい進んでから、私が鼠みたいに荷馬車に潜んでいることに気がついたサリア様は、とんでもない悲鳴を上げていらしましたね。


結局、みなさんに同行することになった私にアカーシャ様は、『荷物持ちにするつもりはないわ。貴方も、戦えるようになっておきなさい』と冷たく言い放ちました。


それを聞いた私は、初めのうちは無理難題を命じられたと不安でした。ですけど、みなさんが戦いの合間を縫って剣に、魔導にと教えて下さったから…少しずつですけど、着実に、必要なことは学んでいきました。


思えば、誰もが羨む教育環境だったのだと思います。みなさんは剣や魔導のスペシャリストでしたし、教えるのも上手でしたから。治癒魔導だけは…才能がなかったみたいですけど、それ以外は躓きなく成長できたんです。


私たちの旅路は基本的に移動が絶えませんでした。ですけど、たまには長期間、同じ場所に滞在することがあって、そのときは、みなさん戦争中ということを忘れて、私にかまってくれました。


でも、それはやっぱり仮初の平和で…開戦から数年もしたら、戦争は激化。王様たちも死んでしまって、息つく時間もなくなっていきました。


みなさんが傷だらけで帰ってくるときも私は…ぬくぬくと安全なところに隠れていることが多かった。酷く…苦しい時間でした。いつか、みなさんのうちの誰かが帰って来ない日が訪れそうで…。


そんなある日、疲弊しきっていたアカーシャ様のところに一人の刺客が来て、襲いかかりました。


怖かった。全力を出せないアカーシャ様に対して、刺客は万全。ルピナス様たちもいない。貴方が私に逃げろと叫んだとき、アカーシャ様は自分が殺されてしまうと悟ったのだと理解しました。


私は、遮二無二なってアカーシャ様のために剣を取りました。マルグリット様の予備の両刃剣です。私の背丈には全くそぐわない。年端もいかない少女がドレスを着ても、それに着られているように見えるのと同じで。


力量差は一目瞭然。それでも、なんとかしたいと思った。私を生き返らせてくれた大事な人を、死なせるなんて許されないと。


そうして、刺客が短剣を振り下ろしたときのことです。ふっ、とどこに刃先が来るのか、分かりました。


直感に従って体を動かしていくうちに、何度も、何度もその感覚が訪れるんです。そのうち、『あぁ、私、分かってるんだなぁ』と思いました。


剣が重くて、私の反撃は上手くいかなかったですけど、時間を稼いでいるうちにアカーシャ様の火焔が刺客を丸焦げにしました。


ほっと安堵した矢先、私、めちゃくちゃアカーシャ様に怒鳴られたんです。誉めてもらえないことにも驚きましたけど、アカーシャ様が泣いていたことが一番驚きました。


その日から、アカーシャ様は私の鍛錬にますます力を注ぐようになりました。


『貴方には天から与えられた力がある。それを何かのために活かさないのは、罪悪よ』と、私の魔導に“赫目”なんて名前をつけて…センスがない、ってルピナス様に怒られてましたけど、躍起になって変えませんでしたよね。私も、アカーシャ様がつけてくれた名前が大好きになりましたし。


でも…いやぁ、自分でも思いますけど、この魔導、ずるいですよねー…。戦えば戦うほど、視える回数は増えていきましたし、剣が上達したら、どう反撃すれば確実に相手を仕留められるのかも分かるようになりました。


赫目のおかげで、みなさんと一緒に戦っていても迷惑をかけないようになりました。そう…私がもう、十四、五歳になる頃のこと。アカーシャ様と出会って、六年くらい経っていました。


私たちの手で、領地もたくさん取り返しました。でも、たくさんの人が犠牲にもなりました。オリエント側も、エルトランド側も。


本格的に戦争が激化して、もう、誰かが終わらせなければいけない。そのためには、どちらかのトップが死ぬしかない。そんな状況になったとき、あいつが…サザンカが今までにないくらい活発に暗殺してまわるようになって…。


私が、オルトリンデ家に食事に招かれていた日。アカーシャ様は軍議で遅くなっていた夜、あいつが、私のそばでお二人を殺してしまいました。


とても、冷えた目をしているやつだと思いました。人間じゃない、って。思えば、きっとあれが恨みに長年毒された人間の姿なんですね。


あの人に言ったように、私は――あの人を倒しました。でもそれは、実力とかじゃなくて…やっぱり、相性の問題でした。赫目のおかげです。死角なんて私にはありませんから、あの黒い闇を生み出す魔導も通用しません。


怨嗟を漏らしながら死体を嬲っていた私を、いつの間にか来ていたアカーシャ様が抱きしめてくれました。ご家族の死を前にした後だったのに…。


その日を境に、アカーシャ様はワダツミを討ち取るための戦いに繰り出しました。


無茶な進軍だったのでしょう。多くが犠牲になりました。ワダツミの居城に入って、彼女と対峙する頃には、もう私とアカーシャ様と、ルピナス様にマルグリット様だけでした。サリア様は…アカーシャ様を庇って…いえ、すみません。続けます。


ニライカナイの幹部も、ワダツミ自身も、強敵でした。怪物です。憎悪が研ぎ上げた狂気的な精神力で私たちを追い詰めました。


勝てたのは、マルグリット様とルピナス様が捨て身の攻撃に出たからです。そうでなければ、多分…。


ワダツミの首を討ち取っても、アカーシャ様は喜ぶどころか深く暗い顔をされていました。『これでは、意味がないわ…』と何度も、呟かれていて…。


でも、世間から見たら私たち――とりわけ、アカーシャ様は英雄でした。だから凱旋後の歓迎もすさまじかったんですけど、終戦を祝う暇もなく、魔竜ハデスが目覚めてしまったんです。




完全に目覚めた魔竜が生む怪物は、今のやつの比にならないくらい強靭でした。それなのに、毎日、毎日新しいのが生み出されるんです。みんなの心から希望の灯が消えていくのが分かりましたよ。


終わりの見えない魔物との戦い。


明けない夜。


実らない作物。


見たことのない疫病。


それらを必死でどうにかしようとする私たちを、嘲笑うみたいに上空に鎮座して見下ろす魔竜の圧倒感…。


そんな日々の中、摩耗しながらも私たちは魔竜をどうにかできないか、考え続けました。一部の人々が終末思想なんてものを持ち出したり、暴動を起こしたりしても…最善を探した。


数年かかりました。魔竜が遥か昔に現れた記録が載っている古文書を手に入れて、そこに書いてある兵器の場所と起動方法を知るに辿り着くまでは。


オーム聖殿です。あそこの慰霊碑、アカーシャ様もご覧になられましたよね?あそこに、魔竜を破るための兵器が封印されています。


遥か昔の時代の偉人たちも、あれと対峙していた。そして、“完全に滅ぼす”までに至らなかった。基本的に後手にまわることを、つまり、完全に覚醒した後に戦うことを余儀なくされたからです。


…ちょうど、私の感覚では一年ほど前。アカーシャ様は戦う意志のある人間を引き連れて、聖殿を訪れました。


そして、そこにある対魔竜用魔導兵器ブラスティアを起動させ、決戦に臨みました。


…後は、以前にも話した通りです。


魔竜を討ち取ることはできましたが、アカーシャ様を含め、主だった将兵はその戦いで死んでしまって…高濃度の瘴気に汚染された大地は、ますます人々の生活を苦しめ、心を歪めました。


こちらでは“救世主”なんて呼ばれていますが…向こうでは酷いものでした。『お前たちが何もしないほうが、まだマシだった』と民衆からは罵られ、襲われることもありました。


それで、私は…古文書で得た知識と魔竜が遺した魔力を使ってここまで来ました。

お読み頂いている方々、ありがとうございます!

引き続き、よろしくお願いします!

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