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傾国の悪女になんかなりません! ~蛮族令嬢クリスティナは予言された破滅フラグを【カンスト】パワーでへし折ります~【書籍化・コミカライズ企画進行中】  作者: 川崎悠
二章 アルフィナ領への旅

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50 初めての宝石

「クリスティナ」


 エルトと私を繋ぐ場所だけ黄金の薔薇が避けていく。


「圧巻の光景だな」

「フフン! 今回はかなり大盤振る舞いだったわ!」


 今までよりずっと力が強まっていたおかげね!


「そうか。クリスティナ、邪神との戦いは終わったとみていいか?」

「そうなんじゃない? 流石にここから復活はしなさそう。大地の傷も塞がったみたいだし」


 ところで空に開く傷なのに大地の傷っていうのはどうなのかしら?

 世界の傷、星の傷、とか。そういうのじゃない?

 或いは空の傷でもいいわね。

 ルーナ様が浄化しているのは、もっと大地にあるやつなのかしら。


「そうか。なら俺の用件を済ませよう」


 そう言ってエルトは何かを服の内側から取り出す。


「クリスティナ、これをお前に贈りたい」

「え?」


 エルトが私の手を取って、持たせたのは……。


「首飾り? それに」


 首飾りには緑色に輝く、宝石・・がついている。


「エメラルドだ。赤色の宝石とどちらにするか迷ったが、少し俺の気持ちを優先させた」

「エメラルドの、首飾り」


 私は、じっと手の中のそれを見つめる。

 その宝石はどこかエルトの瞳の色を彷彿とさせる色合いだった。


「お前の旅の無事を祈っている。そして、また会えるように願っている」

「……エルト」


 人生で初めて贈られた宝石。

エルトにとっては大きな意味はないのかもしれないけれど。

 私にとっては。


「私が貰ってもいいの?」

「ああ。お前に贈るために用意していた。まさか、ここで会えるとは思っていなかったが」

「私のために」


 じわじわと、そのことが胸の内に広がっていく。

 私は。私は……。


「──ありがとう。すごく、嬉しい」

「……!」


 心の底からそう感じて、喜んで、笑った。


「……ああ。クリスティナが喜んでくれるなら、俺も嬉しい」


 エルトは私の笑顔を見て、笑ってくれる。

 恥ずかしそうなのか、嬉しそうなのか。

 それは悪夢の中で対峙した彼とも違う、地下牢の鉄格子の向こうに視た表情とも違う。

 現実にいる彼の笑顔だった。


「さて。あとは修道院との問題だな」

「……そうね!」


 私たちは崩れた修道院の壁を見る。

 流石に中の人たちも騒いでいるわね。

 リンディスたちは逃げられたかしら?


「あれは別に私たちが修繕費を払わなくていいわよね?」

「魔獣被害の一種だろう。国が払うか、リュクセン侯爵が補填する。問題ない」

「じゃあ、いいわね!」


 ジャネット様がまた苦労するかもしれないけど、そこはご愛嬌よ!


「……だが、お前たちはもう行った方がいいかもしれないな」

「え?」

「俺がマリルクイーナ修道院へ来たのは、ここがあやしいと考えたからだ。クリスティナからの報告と、聖女の予言に疑念があり、何かここにあるのではないかとな」

「そうなの?」

「ああ。修道院の中での騒ぎだったなら正式に調査もできるだろうが……」

「今回のは外だったものね」


 やっぱり私たち、ここに来るのが早かったんじゃないかしら。


「後始末は俺の方でうまくやっておく。だから騒ぎに巻き込まれる前に行け、クリスティナ」

「……わかったわ。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうわね」


 まだここには何かあるかもしれない。

 でも今すぐにはどうにもできない。

 準備を整えてからでないと、きっとよくないことになる。


「あ、じゃあ、エルト」

「どうした?」

「森の中に薔薇で拘束したゴロツキたちを放置しているの。そいつら、ヨナを誘拐して、私を襲おうって考えて行動していたわ。しかも邪教徒っぽい黒ローブの男も一緒にいたんだけど。いつの間にか消えていたのよね」

「……わかった。そちらの対処も任せておけ」


 あとは、ここを去る前にリンディスたちと合流ができるかなんだけど。


「……お嬢」

「ひゃっ」


 そう思った途端、すぐ近くにリンディスが姿を現した。


「お前は」

「ご無沙汰しております、ベルグシュタット卿」

「ああ。どうやら無事に脱出できたらしいな。もう一人、連れがいると聞いたが?」

「そうよ、リン! カイルとは合流できたの?」


「カイル殿は、修道院の表門の方から抜け出ました。一連の出来事で修道院の中も騒がしくなっていましたので」

「そうなの、じゃあ無事に脱出できたのね?」

「はい。今はセシリア嬢との合流地点に向かっています」

「わかったわ、じゃあ、エルト」

「ああ、すぐに行くといい。修道院の中からも人が出てきたからな」


 見ると破壊された壁からも人が出てきている。

 見た感じは普通の人々で、邪教と関係があるかは定かじゃない。

 『予言』の世界のように最悪な修道院なのかもわからないわ。


「ベルグシュタット卿、こちらを」

「ん?」


 リンディスがエルトに何やら手渡す。それは本だった。


「これはなんだ?」

「わかりません。私の知らない言語で書かれた本です。ただ、あの騒ぎの中であやしい動きで隠された本だったので、念のために確保しました。内容もよくわからないのですが……」


 エルトがパラリと本のページをめくるとそこには知らない文字が書かれている。

 んん? でも、この文字って?


「これ、たぶんアマネの世界の文字よ」

「聖女の世界の?」

「ええ! 全部を正確には読めないけど……」


 『予言』で視る時は、アマネの世界の文字でも、きちんと読める。

 でも現実だとそうもいかないみたい。なんて書いているかわからない。


「やっぱり邪教とアマネの世界は何か関係あるのかも。あの邪神も、あっちの世界の人間の魂……の欠片だと思うわ。人間の魂か、願望の欠片を集めて形にしたのが邪神だと思うの」

「……そうか。わかった。これについては俺の方で調べよう」

「頼みます」

「あ、盗んできたの、バレたらまずいんじゃない?」


 この本、リンディスが修道院から盗んできたのよね?


「うまく誤魔化す」

「それなら安心ね!」

「……今回、私は何も言いませんよ」


 リンディスが盗んできたんだものね!

 リンディスにしては珍しいことをするけど、必要だと思ったなら咎めないわ!


「クリスティナ、アルフィナ領へは追って俺から届け物がある」

「そうなの?」

「ああ、俺が勝手に動かせてもらった」

「ふふ、よくわからないけどわかったわ!」


 私とエルトは互いに見つめ合って。


「じゃあ」

「ああ。また会おう、クリスティナ」

「ええ! 必ず!」


 そうして別れて、別の道を行く。


「エルト! 宝石のネックレス! ありがとう!」


 手を上げて、互いの無事を祈りながら、私たちはその場を離れていったの。



 セシリアとヨナに合流する。カイルも遅れてきたわ。


「どうにか全員、無事で済んだわね!」

「本当に危ないところでした。お嬢やベルグシュタット卿だけではなく、カイル殿にも救われました」

「もしかしてリン、けっこう危なかった?」

「そうですね……」


 リンディスは修道院に潜入したあと。

 時間もなく、目的は私が捕まった場合の救出と脱出だったので深く調べまわったわけじゃなかった。


 でも、ただの修道院ではない片鱗はいくつか見つけたらしい。

 一般の修道士たちが暮らしている場所は無視して、人のいない場所を探った。

 正門から隠れて運ばれるか、裏門から運ばれるか、と想定して。


 そうすると一般の修道士が着る服とは異なった衣装の集団が出てきたみたい。

 あの黒ローブに似ているけど、もう少し違う雰囲気だったとか。

 でも、すぐあとに空にひび割れが起きて、大きな騒ぎになって。

 私が外で戦っているとわかった時点で脱出に切り替えたらしいわ。


「カイルはどうだったの?」

「僕の場合は……」


 カイルはリンディスが逃げる隙を作るために商人のフリをしたらしいわ。

 ちょっと見てみたかったわね、それは!


 とはいえ、準備があまりなかったので正門で少し粘るくらいだったみたいだけど。

 やっぱり、すぐに空のひび割れが始まったせいで修道院は混乱し始めたみたい。

 その間にしれっと中に入り込んでリンディスと接触したんだって。

 二人共、けっこう短時間なのによくそこまでできるわね! 優秀だわ!


「彼らがあやしいことには変わりない。けど、本拠地という雰囲気じゃないね」

「そうなの?」

「うん。どちらかといえば囮に近い気がした。まだ隠されていることはあるかもしれないけど、それを見つけても核心には迫れない。そんな様子だ」


 どうしたらそういうのわかるのかしら? 私と同じ勘?


「……バートン家もそういうことをするからね。あえて辿り着きやすい場所に、ちょっとした真相を置いておく。そうすると調べる者はそれを見つけて満足するんだ。あの修道院はその類だと感じた」

「なるほど! そういうこともするのね!」


 となると邪教の拠点は、また別の場所にあるんだわ。


「今すぐはどうにもできそうにありませんね、お嬢」

「そうねぇ……」


 今回、ここがあやしいってなったのは偶然近づいて、異変が起きたから。

 調査を重ねて辿り着いたんじゃない。

 また、そのせいで痛い目に遭った。そこは反省しなくちゃいけないわ。

 後始末は、まるっとエルトに丸投げしちゃったし。


「…………」


 私はネックレスを持ち上げて見つめる。

 エメラルドの装飾。そこまで大きくはないと思う。

 でも、確かに輝いている。


「……お嬢様、そちらは?」

「エルトからの贈り物。人生で初めて宝石を贈られたのよ、私」

「……初めて」

「ええ!」


 ふわりと手で包み込む。大切な、大切な思い出になった。


「…………」


 私はその思い出を胸にして、先へ進むの。




「お嬢、もうすぐですよ」

「ええ!」


 邪神騒ぎからまた数日。私たちはとうとう、目的地に辿り着く。


 アルフィナ領。

 そこは聖女が魔獣の大発生を予言した地。

 王命によって、その解決を私が託された土地。


 隣領の時点で、その噂は聞いていた。

 アルフィナの領主は嵐が起きた時点で逃げたらしい。

 領民たちを置いて。領民たちは荒れていく領地に耐え切れず、一人残らず逃げてしまったとか。

 そうして、そこは人のいない土地となった。


 そうなってから、すでにずいぶんと時が過ぎている。

 その間、リュミエール王国全土に魔獣災害が起きたため、誰もが見向きもしなくなった地。

 それが今のアルフィナ領よ。


「ここがアルフィナね!」


 私たちはそんな地に足を踏み入れた。

 領民はゼロ。人一人いやしない。

 それでいて魔獣の気配がうっすらと立ち込めている。

 まだ始まっていない。

 アマネの予言は、まだ成立していない。だけど。

 遠からず、魔獣災害は起きるのだと私は確信した。


「……いいわ! やってやろうじゃない!」


 この旅でできた仲間たちと一緒に。王国西端の、この見捨てられた土地で。


「どんな魔獣が、どれだけ来ようと! 全部、ぶん殴ってあげる!」


 荒れ果てたアルフィナの街の中心に立ち、私は宣言する。


「傾国の悪女になる運命なんて、この拳でぶち壊してあげるわよ!」


 そう言葉にした私の胸元には、エメラルドのネックレスが輝いていた。


第二章、完結です!

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!


リメイク前の作品と合わせて、こちらの蛮族令嬢は書籍化予定です。

第二章の内容が、だいたい書籍2巻になります。

未定ですが、書籍1巻の発売は6月以降を予定。


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― 新着の感想 ―
第二章完結お疲れ様でした!毎日更新は大変でしょうが読む側としては楽しい日々でした。三章開始と書籍の発売も楽しみにしております。
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