49 決着
「……あれなら破壊された壁か、門からお前の仲間も脱出できるか」
「そうね! リンディスならすでに中に入っていそうだし、見つかる前に出られるはず!」
カイルはどうかしら?
姿を透明にできない以上、どうやって侵入するのか。
でも、こうセシリアの動きとか見るにいろいろとできそうなのよね!
「では、俺たちはアレの注意を引き、今度は壁から引き離すとしよう」
「ええ!」
いい感じに壊された壁に集中する邪神。
その後ろに回り込んで、薔薇槍で攻撃する。
『ぁあああああ!』
背後に回り込まれたことに気づいた邪神は壁の破壊をやめて、再び私たちに向かってくる。
「そろそろアレを倒すにはどうするか考えるか」
「……倒す気なのねぇ」
「まさか諦めるのか?」
「ううん。なんとなくだけど……」
私一人じゃ、きっと無理だったと思う。
実際、あっさりと取り込まれたからね!
でも今は、さっきまで感じていたような〝怖さ〟を邪神に感じない。
私の中にある力が、さっきよりずっと高まっているって、そう感じる。
「貴方と一緒にいればどうにかなりそう!」
「────」
私の勘がよく当たる。
だから、今回もそう感じた、そのままに口にする。
笑った私を見つめるエルトが驚いたような、そんな表情を浮かべた。
「……クリスティナ、この戦いが終わったらお前に渡したいものがある」
「え? 終わったあと?」
「ああ」
今、それって大事なことかしら?
あと、なんとなく戦いの最中にそういうこと言うの、よくない感じがするわね!
「さっきの剣に光る薔薇を巻きつける使い方はできるか?」
「ええ!」
「なら頼む」
エルトが再び抜き放った黒い剣に私は黄金の浄化薔薇を咲かせ、巻きつける。
「足場を作ってくれ。俺が邪神の首を切り落とす。だが、それでは倒せないだろう」
「そうね。首を切り落とすだけじゃ、きっと」
腕を切り落とすのと、首を切り落とすの。
それはあの邪神にとって、おそらく大差がないことよ。
「切り落とした頭を思いきり殴れ、クリスティナ。アレはお前の力でしか消すことができない」
「……なるほど? いいわね!」
手足や体の細部をチマチマと浄化しても、たぶんダメ。
でも、頭を浄化したら倒せるかもしれない! そのためには連携ね!
「じゃあ、首を落とすのは任せるわね!」
「ああ、任せろ」
あっという間に方針を決め、とにかく行動あるのみの私たち。
間違っていたら次の手を考えるだけ!
とりあえずやってみるのみよ!
「薔薇の螺旋階段!」
再び太い幹にした薔薇をねじり、邪神の巨体にまきつけていく。
さっきまでより強く抵抗してくる邪神。
ぶちぶちと引きちぎられていく螺旋階段を足場にエルトが駆け上がる。
私は薔薇槍で援護をしつつ、拳に〝光〟を込めていく。
試していなかったけど、時間をかけたら強まるのかしら?
多少の違いはあるけれど、根本的な出力の問題はやっぱり違う気がする。
私の心が一番、大切なこと。さっきまでは無理だった。でも今は。
「────」
黒衣の姿を目で追いかける。
悪くはない。きっといい感じ。
今ならやれるって気持ちが湧いてくる。
また私の内側から湧く力が強くなった。
「はぁああッ!」
エルトが邪神の両腕を切り落とす。
さっき一度やったから、もう慣れたのね!
『ぎゃあああああああ!』
『私の腕、私の腕、私の腕ぇええ!』
『ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなぁあああ!』
相変わらず邪神から漏れ出る声は複数が重なっていて不快ね。
あれは、きっと異界からきた人間の魂よ。
でも、たぶん真っ当な状態じゃあない。
一人の人間が個別に、まるまる取り込まれているんじゃなくて。
〝人間の欠片〟を寄り集めて作った歪な人型。
つまり、アマネの世界の住人の魂の、さらにその欠片を集めたのよ。
だから、どこかおかしい。歪んでいて、偏っている。
だって邪神から聞こえてくる声には『これまでの彼らの生活』感がまるでないもの。
一人の人間があんな状態に押し込まれたら、もっと別のことを主張するんじゃない?
『助けて』とか。まともな家庭なら『お母さん、お父さん』とか。恋人や友人を呼ぶとか。
なのに邪神の主張は一貫して、私やエルトを狙う言葉ばかり。
まるで、そういう〝願望〟だけを集めたみたい。
ヨナの体に取り憑こうとしていたあの人魂みたいに。
『私』になりたい人間の願望だけを集めて作った、人間のまがいもの。
「クリスティナ!」
エルトが叫ぶと同時に邪神の首を切り落とす。
『ぁああああああああ!』
落ちてくる邪神の頭部は、大きな塊で。
触れるのをためらうような悍ましさがある。
私は絶叫しながら落ちてくる邪神の頭部を迎えうつ。
「──フンッ‼」
ドゴォッ!
最大限にまで高まった光を纏う拳で思いきりぶん殴ってやったわ!
衝撃と抵抗、空中にあるそれは吹っ飛んでいってもいいはずなのに。
その場で渦巻きながら悲鳴をあげる。
『いや、いや、いやぁあああ!』
『返せ、返せ、返せ!』
『私の体、私の体、私の体!』
図々しいことを言いながら私の体にまとわりつこうとする。
「大人しく……消えなさい!」
内側に渦巻く闇の中心から光が溢れ出し、邪神の頭部を霧散させ、分解していく。
『いやぁああああああ!』
しつこい!
私はその塊を……天に向かって思いきり。
「はぁあッ!」
打ち上げてやったわ!
そうすると邪神の頭部が空にできた穴に吸い込まれていく。
「浄化の黄金薔薇!」
辺り一面を覆うように、邪神が二度と大地に降りたたないように。
私は黄金の薔薇を辺り一面に咲かせた。
『ぁああああ、クリスティナぁああああ!』
「あんたに名前を呼ぶ許可は与えていないわね!」
エルトの真似をして細かいところに拘ってみた。
そうして。
邪神は残された胴体も、頭部も霧散して、消えていく。
あとに残ったのは黄金の薔薇が咲いた大地だけ。
ひび割れていた空は最後に一際眩しく輝いたあと、元に戻った。
「完全勝利よ!」
私は右手を高く突き上げたまま、勝利宣言したの!
フフン! どうにかなったわよ!




