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傾国の悪女になんかなりません! ~蛮族令嬢クリスティナは予言された破滅フラグを【カンスト】パワーでへし折ります~【書籍化・コミカライズ企画進行中】  作者: 川崎悠
二章 アルフィナ領への旅

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45 悪女の交渉

「ぐぎゃ!」


 倒した男の顔を念入りに潰すように拳を叩き込み、とどめを刺す。

 吹き出した返り血を浴びながら、冷たく見下ろした。


「ひ、ひぃ……!」

「話が通じねぇ!」

「イカれてやがる、この女!」

「に、逃げっ……!」

「誰が逃げていいと言ったの! 『毒薔薇』よ、囲いなさい!」


 周囲の男たちごと囲い込む薔薇の壁を生み出す。

 ぐるりと一周、私を中心にした円形、薔薇でできた牢獄の完成。


「な、なんだこれ!」

「昼間、俺らの邪魔をした薔薇……あの女がやってやがるのか⁉」

「誰一人、ここから逃がさないわよ? ふふ、ふふふふ、あはははは!」


 ここに来るまでにセシリアに教えてもらった悪役・・三段階笑いよ!


「ひぃ!」

「てめぇら、女一人に怯むんじゃねぇ!」


 私から逃げ惑う男たちと違い、リーダー格である大男が声を張り上げる。

 その間も私は逃げる男たちを追いかけ回した。


「てめぇ、止まれ! 止まりやがれ! やめろ! このガキがどうなってもいいのか! 本当に殺すぞ! 本気だぞ、おい!」


 無視。そして、ゴロツキを利用して間接的に黒ローブの男を倒す。


「ぎゃっ!」


 吹っ飛ばした男を、黒ローブにぶつける。

 可能な限り、あいつらには直接触らない、近寄らない。

 ぶん殴ったあとで、さらに拘束薔薇も巻きつけて動きを封じていく。


「ひぃっ、助けっ」

「フンッ!」

「ふぎゃぴっ!」


 一人一人、逃げ惑う男たちを捕まえては、しっかりと意識を失うまで殴りつけていく。

 倒した相手がいちいち復活していたら面倒だものね!


「てめぇ、いい加減にしろよ、イカれ女ァ!」

「薔薇よ!」

「うわっ!」


 恐怖を押し隠すように絶叫しながら突撃する男は、薔薇に足を取られて地面に引き倒される。


「死になさいッ!」

「やめっ、はぎゃらっ!」


 地面ごと抉るくらいの体勢で思いきり顔面を殴りつけてあげた。


「あ、ああ……あ、悪魔……」


 とうとう腰を抜かす男まで現れて、そいつが私を見上げる。


「子供に刃を突きつけて殺すと脅して、女を犯そうとした連中が、どの面下げて人様を悪魔呼ばわりしているの? 悪魔は貴方たち。そして私は悪魔を殺す正義。私は正しい」


 まぁ、本当のところ正しさは知らないんだけど。

 男に告げる言葉を説教にする気はないの。だからこう言う。

 間違いを指摘するだけに留めたら、こいつらは勘違いして改心を交渉材料にしようとするはず。

 私はそれを許さない。


「もう手遅れだから、改心する必要はないわ。懺悔の必要もない。ただ死んで? それが世の中のためだから」


 ニッコリと、私は『悪女』スマイルで笑ってあげた。

 気持ちは『予言』の世界の中にいる私、傾国の悪女な微笑みよ。


「滅茶苦茶だ……!」

「滅茶苦茶でけっこう!」


 笑ったあとは怒りを。


「あんたたちがいなければヨナは死ななかった!」

「ま、まだガキは死んでねぇよ! 傷つけてすらいねぇだろ!」


 うるさいわね! わかっているのよ、そんなこと! でもね!


「死んだわ! あんたたちが交渉を放棄した瞬間にヨナは死んだの! あんたたちが殺したのよ!」

「こ、交渉を放棄したのはお前だろうが……!」

「うるさいッ!」

「ふごがっ⁉」


 バギィ! とうるさい男の顔面を殴り、ぶっ飛ばす。


「どうして命乞いをしてくれなかったの? あんたたちが命乞いをしてくれていたら、見逃してあげられたわ。そうすればヨナは救えた。ヨナはまだ生きていたのに」

「し、死んで……ねぇ……ふぐっ」


 ほとんどの男は殴り飛ばした。

 そして、残っている連中も戦意を喪失している。


「残りはあんただけね、大男」

「うっ……」


 ヨナを拘束していた男は、その場から逃げていて、大男がヨナの腕を掴んでいる。

 こいつがヨナを離さないから私は周りの男たちから片付けるしかなかったのよ。


 大男はその場から動けず、ここまでの出来事をただ見ていたわ。

 逆上してヨナを殺すでもなし。

 かといって、その短剣を下ろすでもなし。


「ヨナ、本当にごめんなさい。貴方を助けられなくて」

「……」


 まだ小さいヨナ。才能があって、勉強すれば、もっと成長するはずの子供。

 本気でヨナを失うと思うと涙が溢れてくる。


「じゃあね、大男。死んだあと、あの世でヨナを殺したことを後悔しなさい」

「ま、待て!」

「待たないわ!」


 私はズンズンと力強く足を踏み出して、大男に向かって歩いていく。


「ま、待ちやがれ!」

「知らないわ!」


「ぐっ、こ、このガキを殺すって言っているんだぞ!」

「ヨナはもう貴方に殺されたわ!」


「死んでねぇだろうが、まだ!」

「死んだのよ! あんたが殺したの! あんたが命乞いをしなかったから!」

「ぐっ、このイカれ女、マジで話が通じねぇ……!」


 ズン、ズン、と。進んでいく。一歩が重いわ。

 ヨナを死なせない手はあるかもしれない。

 男を生かしたままにすることも。

 でも、そううまくいくものじゃない。だから私は引けない。


 私の交渉(・・)を押し通すためには、私は心底から〝悪女〟になる必要がある。


 だから、私は左眼を手で覆い隠した。

 じくり、と痛みが走る。もちろん眼を潰す気はない。

 でも『私』になり切ることはできる。


 左眼を棘なし薔薇を咲かせて隠した。

 ここにいる私は今、血に塗れた姿が似合う『傾国の悪女』になる。


「後悔しなさい。貴方はこれから死ぬのだから」

「ひっ、あっ、あ……」


 より純粋な殺意の込められた薔薇と、光。

 国すら傾けるほどの憎悪をたった一人に向ける。


「こ、降参する……!」


 ピタリと私は歩みを止めた。


「……何?」

「た、助けてくれ……!」

「何?」

「だ、だから、助けてくれ!」

「意味がわからないわ!」

「意味はわかるだろうが!」


 何よ、うるさいわね!


「何を理由に助けてほしいと言っているの!」

「だ、だからガキを解放する代わりにだよ! わかるだろうが⁉」

「話にならないわね!」


 ピシャリと私は言い切ったわ。


「ヨナはもう、あんたが殺したと言っているの。私はあんたが害悪だから殺すと言っているのよ。そんなあんたが〝死体〟の解放を条件にして、どうやって助けてもらえると言うの?」


「だからガキは生きているって……」

「死んだわ。あんたが殺した。だから、その条件であんたは助からない」

「な、なんなんだよ、お前は……」


 それこそ意味がわからないわね!


「私は人を殺す感覚を知っている(・・・・・)わ」

「っ……」


 ほとんど現実のような『予言』の世界での体験だけど。


「一度だけチャンスを与えるわ。あんたが生き残るために、本当はどうすればいいのか。それを考える時間をあげる」

「なん……」


「私は一歩ずつ、走らずにあんたに歩み寄っていく。同じ速度、同じ歩幅で。私があんたに触れたら、その瞬間にあんたを殺すわ。この……薔薇の槍で、あんたの内臓から貫き、殺す」


 ゾンッ! と私は背後と周囲に薔薇の〝槍〟を無数に咲かせる。

 蔓の先端は尖り、全体は固く、簡単に人間を突き刺すことのできる槍。

 たった一人で騎士団を相手にできるほどの力の象徴。


「ただで殺してはやらない。内側から獣に食い破られるような苦痛を味わわせながら殺す」


 私は、また一歩踏みだし、同時に大男の背後に棘付き薔薇の壁を咲かせる。

 逃げ場など与えない。


「ひっ……」


 大男は顔を青くし、汗をだらだらと流して、体を震わせる。


「一歩! さぁ、考えなさい? 貴方が生き残るために」

「うぐ、うぁ……」


 目を泳がせて私とヨナを見比べる大男。


「もう一歩!」

「は、早えよ!」

「うるさいわね! 走り寄るわよ! そうしたら、その分あんたは早く死ぬわ!」


 そしてまた一歩、踏みだす。


「また一歩!」

「ひっ、ひぃ……!」


 こいつ、自分の命の危機だっていうのに考えないわね!

 何のためにこんなことしていると思っているのよ!


「一つ、教えてあげるわ。武力が拮抗しない、極端に劣勢な状態ではね。そもそも交渉の席にもつけないの」

「……っ」


「相手の良心を信用するのもけっこうだけれど。脅しただけで、すべてを奪えるような相手の言い分に誰が取り合ってくれるの? そんな国、ありはしないわ」

「く、国?」


「ええ、国よ。また一歩!」

「ま、待てよ! 話をするんじゃ……!」

「歩みを止めるとは言っていないわ! 考える時間を与えている、それだけよ!」

「ぐぅ!」


「私一人に全滅させられる程度の兵隊を集めただけで、どうして私に言うことを聞かせられると思えるの? こうして私が人質であるヨナを見捨てれば、それだけで貴方たちは私に勝てなくなるのに。これは力関係の問題よ。貴方には〝私と〟交渉できるカードはない」


 また一歩。


「考えなさい。私と貴方では交渉が成立しない。私は貴方の命乞いに耳を貸さない。じゃあ」


 また一歩。


「貴方の代わりに・・・・、私に言葉を届けられる人間は誰?」

「は……?」


「私は貴方を信用しない。そして殺す。貴方は私に言うことを聞かせられない。止める力も、その術もない。でも、この場にはたった一人、貴方と私の間を取り持てる人間がいるわ。そして貴方には、まだ彼との交渉の余地がある」

「……それ、は」


 大男の視線がその手の中に拘束されているヨナに向けられる。


「貴方の目の前にいるのは、子供のためにすべてを投げうつ聖女じゃないわ。人を殺しても歩みを止めない悪女が立っている。でもね」


 また一歩。


「それでも今、貴方に時間が与えられているのは、まだ貴方が交渉できる相手がいるからよ」

「っ……」


「貴方はね、ヨナに生かされているの。その子が生きているから貴方もまだ生きている。でなければ貴方は、私の後ろで転がっている〝死体〟と同じ運命をとうの昔に辿っていたはず」


 さらに一歩。


「貴方はヨナの命を握ってはいない。私がもうヨナを死んだものとみなしているから、本当に殺してしまえば貴方が望む、貴方の助かる道はない。でも、本当はヨナがまだ生きているから。貴方はヨナに交渉できる。貴方の命を握っているのはヨナの方。命乞いをするのなら私にじゃあない」


 もう一歩。


「私は貴方との交渉には応じない。命乞いも聞かない。私の正義のために貴方を殺す。助かりたいのなら、貴方が命乞いをするべき相手は……わかるわね? この場で唯一、私が耳を傾ける相手が」

「あ……」


 大男の手がゆるむ。

 ヨナの体が少しだけ男から離れた。もう少し。


「また一歩! 時間は貴重よ、特に自分の命なら、なおさら」


 私は怒気と殺気を滲ませ、薔薇でそれを飾り立てながら近づく。

 そこでようやく大男は短剣を手放し、ヨナを解放する。

 そして、その場に跪いて、ヨナに許しを乞う。


「た、頼むぅ! 許してくれ! 助けてくれ! あの女を止めてくれ、坊ちゃん!」

「手枷! 猿轡! それを外さずに謝罪の演技をするつもり⁉ ヨナに交渉してほしいなら、まずそれらを外しなさい! 言葉が聞こえなければ私も止まらないわ! また一歩よッ!」

「ひぃっ! は、はい! は、外します……!」


 ヨナの魔術を封じていたらしい腕輪と猿轡が外されたわ!


「どうかお助けを! 坊ちゃん! あの女を止めてくれぇ!」

「ええ……?」


「また一歩!」

「ひっ……⁉ な、なんで止まらねぇんだよ! か、解放しただろ⁉」

「私は貴方と交渉しない!」

「ぐっ⁉ と、止めてくれ、止めてくれよぉ、助けてくれぇ……!」


 ヨナにすがりついて命乞いをする大男。


「ええと、うん……。クリスティナお姉ちゃん、止まってあげて……?」


 ヨナに言われて、ピタリと私は止まったわ!


「あ、あ……ありが、」

「信用できないわね! やっぱり殺すわ!」

「ひぃ!」


 助かったと思ったところを、また脅しつける。

 そうすると腰を抜かした大男が、ドタドタと無様に下がっていく。

 完璧にヨナから離れたわね!

 尻もちをついているから、すぐに動けない!


「薔薇よっ!」


 ヨナと大男の間に薔薇の壁を咲かせる。絶対に二度と手を出されないように。

 そして私は駆け抜けたわ!


「ひっ⁉ 話が違っ……!」


 拘束薔薇が大男の体をいい位置に持ち上げる。

 そう、とても殴りやすい位置に。


「──フンッ!」


 ドゴォッ!


「ごぶげぁ⁉」


 薔薇を撒きつけながら大男は吹っ飛んでいき、薔薇の壁に激突した。


「あぎゃっ!」


 棘だらけの壁だから、それだけで被害は甚大ね!

 でも、クッションにもなったかもしれないから、私はきっちりと意識を刈り取りに行く。


「はぁあああッ!」

「ごぶ、ぐぇあっ、げっ、ぎゃん!」


 殴って、殴って、殴り倒すわ!


「フンッ!」

「ぐげっ!」


 最後に地面にめり込ませるぐらいのつもりで、大男を殴り倒したわよ! これで完全勝利ね!


「……そこまでしなくてもいいのに」

「ヨナ!」


 大男の意識を確実に落としたところで、私はヨナに飛びついた。


「ヨナぁああ!」

「うぷ。お、お姉ちゃん……ごめんね。心配かけて」

「いいのよ、貴方が無事で、生きていてくれて」


 今度は嬉しくて涙が出てきたわ!


「あと、すごい助け方だったね……」

「ええ、褒めていいのよ、このくらいわけないわ!」

「うん……。うん、ありがとう……なんだけど」


 私たちはひとしきり無事を確かめるために抱き合う。


「クリスティナお姉ちゃん、あいつらのこと殺しちゃったの……?」


 ヨナは少しだけ私から体を離して、辺りを見回す。

 男たちが全員倒れていて、ちょっとした地獄絵図になっていたわ!


「たぶん、死んでないんじゃない? 『怪力』の【天与】が力を調節してくれたのよ」

「そうなの? 便利だね。……便利かな?」

「魔獣以外は拳では殺せないのかもね」


 ただ『毒薔薇』の【天与】の方はそうじゃないと思う。

 こっちは本気で人を殺せる。あの悪夢のように。気をつけて使わないとね。

 私は辺りを囲んでいた薔薇の壁を解く。


「ヨナが本当に殺されていたら、きちんと殺し返していたからね!」

「うん。うん……? うん、ありがとう……?」


 フフン! どうってことないわ!


「ところでヨナ、あの黒ローブの連中に何かされなかった?」

「あ、あの腕輪を……やっぱりあの時のと同じ奴らなの?」

「たぶんね。腕輪はやっぱりあいつらが持ってきたのね」


 警戒していたから何ともなかったけど。

 そうするとリンディスを先行させた作戦の意味が。


 ──ビキッ!


「……!」


 私は空を見上げる。

 ここに来る前、空にひび割れがあるように感じていたけど。


「……ひび割れが広がっているわ」


 どうやら、このまま終わりってわけにはいかなそうね!


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