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傾国の悪女になんかなりません! ~蛮族令嬢クリスティナは予言された破滅フラグを【カンスト】パワーでへし折ります~【書籍化・コミカライズ企画進行中】  作者: 川崎悠
二章 アルフィナ領への旅

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44 ヨナ救出作戦

 しばらく待機しているとリンディスたちが帰ってきたので報告を受ける。


「ヨナは無事です。ですが、悪い報せがあります」

「というと?」

「男たちの人数が予想より多いこと。加えて黒いローブを着た連中が協力しています」

「つながったわねぇ。ゴロツキを雇ったのかしら? 邪教の教えとかどうなっているの?」


 仮にも神を崇めるんなら、そういうのと手を組むのはやめなさいよね!


「ヨナの救出に手間をかければ、おそらく彼らの本命であるお嬢が狙われます。男たちは、ただの囮でしょう。しかも状況をわかっていない。前回のことを踏まえると、生贄かもしれません」

「そうね。それに邪教徒がいるならヨナにも何かするかも……?」


 シルバに憑依していた邪神の残骸を思い出す。

 あれもなんだかアマネの世界の魂、人間っぽくはあったのよね。

 最初はヨナの体を狙っていた。


「……少し先を見て動こうか。リンディス殿、無理を承知でお願いしたい。先にマリルクイーナ修道院に潜入することはできるかい?」

「修道院にですか?」

「連中の狙いがどうあれ、この距離にあるあやしい施設だ。クリスティナの勘に従うなら、彼女を捕まえたあとに連れ込む場所になると思うんだよね」


「……お嬢が捕まったあとに潜入するのは警備が厳しくなっていて難しいですが、お嬢が捕まる前に潜入していれば気づかれにくく、すぐに状況を把握して脱出を手伝える、ですね」

「その通り」


 私が捕まること前提作戦!

 でも前科があるのよねぇ、私。


「僕とセシリアは、クリスティナと一緒にヨナくんを救出するために動く。同じことの繰り返しにならないよう、ヨナくんを助けたらセシリアはそのまま彼と遠くに逃げてもらいたい」

「……わかりました」


「僕はクリスティナのサポートをするけれど、彼女が捕まった時は一時離脱を優先する。クリスティナ、連中の狙いは君だけれど、すぐに殺すわけじゃない、で合っている?」

「ええ! 少なくとも私を邪神の生贄にしたがっていたから、すぐには殺されないと思うわ!」


「……うん。だから、修道院の中に運ばれたクリスティナが、リンディス殿と中で合流するだろうタイミングで、修道院の外からどうにか騒ぎを起こす。二人はそれに便乗して逃げてもらう」

「いいわね! 私、また捕まる前提だけど!」

「話を聞く限り、正攻法でクリスティナを捕まえられると思っているとは思えないんだよね。君についての情報収集はしているだろうし」


 真っ向から来たなら、返り討ちにする自信があるわね!


「このタイミングで動くのなら、もしかしたらバートン家に暗殺依頼が届くようにしたのも、連中かもしれない……」


 ミリシャのお遊びを正規の暗殺依頼にしちゃったやつね。

 ジャネット様みたいに正面から来るタイプは絶対にしないでしょう。

 王家の影についての情報をそこらの貴族が知っているとも思えない。

 でも、邪教徒たちなら、そういうのを利用してもおかしくなさそう?


「そっか。もしかしたら連中、アマネと同じ予言の情報を持っているのかも」

「……うん?」

「あの異界にある予言書を用意したのが、そもそも邪教徒たちなら、アマネはそれを読んで踊らされているだけなのよ。どうやってそうしたのかは知らないけど。こう、あの邪神の力で大地の傷を開くじゃない? そこからニュルッと触手を伸ばして、アマネの世界に干渉して……」


「お嬢、お嬢」

「なによ、リン」

「また話が飛躍しています。正直、私たちはお嬢の話のレベルについていけていません」

「……もう」


 これが予言者の孤独なのね!


「たぶん違います」


 何も口にしていないのに否定された!


「ええと。とにかく邪教徒たちなら、バートン家への王家からの依頼風の文書を届くようにできると?」

「アマネにできそうなことは全部できるんじゃないかしら? 知っていそうなことも知っているの」

「……聖女と邪教のつながりはここではわからないからね。でも、それを前提にした方がいい?」

「そうね! だから……。カイルの顔はバレているんじゃないかしら?」

「……そうなのか」


「うん。もしかしたらセシリアのことも連中は知っているかも」

「わかった。それを念頭にして動くよ。クリスティナも警戒して。君の力を知っていて、あえて君の目の前に立つというのなら、やはり君の力への対抗策があるとみるべきだ」

「わかったわ!」

「お嬢様、影からの助力、お任せください」

「頼りにしているわね!」


 私は立ち上がり、拳に〝光〟を込めた。


「それじゃあ、ヨナを助けに行くわよ!」



 指定された場所は、例の修道院に近い森の中だ。本当に目と鼻の先にある。

 リンディスは先行して修道院に潜入し、様子を窺ってもらう。


 近寄るとわかる。やっぱり、あの修道院はヤバいわよ。それに空。

 うっすらとヒビ割れているように見えるのは私だけかしら?

 いつ魔獣が溢れ出してもおかしくないように感じる。


 ザッ、ザッと音を立てて私はその場所に近づいていく。

 カイルやセシリアの気配は感じない。

 本気を出して隠れた二人は透明にならなくても見つからない技術を持っているみたい。


「ここね!」


 ていうか、指定場所がわかりづらいわね!

 地図があっても正確にここ! って言えなくない?

 何を考えているのかしらねぇ。


「来てあげたわ! 出てきなさい、そしてすぐにヨナを返しなさい!」


 森の影に隠れていたのは十数人。

 私が反対側から来たらどうしていたのかしら。


「……へへ。ずいぶんと早ぇなぁ? このガキがよっぽど大事らしい」


 先頭に立って現れたのは、カイルの予想通り、前の街で私がぶん殴った大男。


「あんた、誰? 見覚えがないんだけど?」

「ぁあ⁉ てめぇ、忘れたとは言わせねぇぞ!」


 挑発にはすぐに乗ってくる、と。こいつ、私より短気じゃない?

 カイルの胸倉を掴まれた時点で殴った私が正解ね!


「それで? ヨナはどこかしら。早く出しなさい」

「余裕ぶりやがって! ハッ! 怖くて震えてんじゃねぇか、お嬢ちゃんよぉ」


 どこをどう見て私が震えているのかしら。

 どんどん姿を見せる大男の仲間たち。

 その中にはリンディスたちの報告通り、黒いローブの男たちもいる。

 かなり後ろの方に控えているわね。

 私が睨むと、ギクリと体を震わせ、一歩下がる。


 ふぅん。この集めたゴロツキたちは、やっぱり囮や盾扱いみたいね。

 遠隔で私に干渉して気を失わせることができるなら、目の前にまでは来ないはず。

 それとも、そうするのは私が気を失ったあとのゴロツキたちの処理のため?


「そっちを捜しても無駄だぜぇ? いや、今さら逃げ道を探してんのか? ハッ! 無駄だよ、おら、ガキはこっちだ!」


 私が黒ローブたちに注意を向けたのを勘違いしたのか、大男がそう切り出す。


 ヨナが猿轡をされたうえ、宝石のついた金属の腕輪をされていた。

 あの腕輪はいったい何かしら?

 黒ローブは以前にもヨナを操っていたけど。その類の何か?


 いえ、もしかしてヨナの魔術対策? なんかそれっぽい。

 ヨナは火の魔術を使えるから、縄で拘束していたら焼き切って逃げられるもの。

 ただでさえ希少な魔族たちに対抗する道具なんて、このゴロツキたちが持っているわけがない。

 ヨナについて、いろいろと知っているはずの邪教の仕業ね!


「じゃあ、すぐにヨナを解放しなさい。命令よ」

「てめぇ……。てめぇが指図できる立場だと思っていやがんのか?」

「思っているわね!」


「てめっ……ふぅ。いやいや、気が立ってんだよなぁ、嬢ちゃんはよぉ。でもな、それじゃあ交渉が成り立たねぇだろ? そんなことにも頭が回んねぇぐれぇの、頭が花畑・・・・なのか?」

「交渉ですって?」


 私は眉根を寄せる。


「誘拐犯がよくもまぁ、そんなことをのたまえたわね。でもいいわ。そっちの要求を言ってみなさいな。私の気分次第で聞いてあげなくもないわ」


 挑発的に、上から目線でそう告げる。大男は苛々しながらも口にした。


「……服を脱げ」

「はぁ?」

「はぁ、じゃねぇんだよ、くそ女が!」


 大男は、別の男に拘束されているヨナに短剣を突きつけながら睨んでくる。


「お前は今日、ここで俺たち全員の相手をするんだよ! 売女(ばいた)らしくな! それでこそ『花売り』だろ⁉」


 大男はそう言いながら笑った。


「……それが貴方たちの目的?」

「そうだよ! お前にはそれ以外の価値なんざねぇだろうが!」

「あ、そう」


 かなり質の低い連中を囮に使ったわねぇ、邪教の奴ら。


「へへ、大人しくしていろよ、なんだったら脱がせてほしいか?」


 私の後ろから別の男が近づいてくる。

 周りの奴らはニヤつきながら、その光景を眺めていて、止める気はないらしい。

 そこまできて、私は。


 ……涙を流した・・・・・わ。


「おうおう! 泣いちゃったか? かわいいところもあるじゃねぇか! ぎゃはは!」


 私の涙を見て男たちが嘲笑う。涙の意味も知らずに。


「ヨナ」

「むぐぅ……!」


 猿轡をされたヨナが必死になって、泣きそうな顔で首を横に振っている。


「ごめんね」

「むぐう!」

「おい、暴れるなっての!」


 ヨナは魔術が使えなければ力が弱い。だから拘束する男をどうにもできない。

 やっぱりあの腕輪は魔術封じか何かみたいね。あの状況で魔術が使えない様子よ。


「へへ、安心しろよ、ちゃあんとお前も楽しませてやるから、」


 背後の男が私の肩に触れた瞬間。


「──フンッ!」


 バギィ!


「ふごげっ⁉」


 私は『怪力』の【天与】を纏った拳で男の顔面を殴り飛ばした。

 〝裏拳〟っていうやつよ!


「なっ⁉」


 涙が止まらない。とても悲しいわ。


「てめぇ、なに抵抗してやがんだ⁉」


 騒ぎ立てる男たちに私は告げる。


交渉は決裂した(・・・・・・・)わ。あんたたちは今日、一人残らず殺すわよ!」


 吠えるように私は声を絞り出す。


「は⁉ て、てめぇ! 何を言ってやが、」

「ヨナ!」

「……むぐ?」


 男を容赦なくぶん殴った私を、きょとんとした様子で見返してくるヨナ。

 ああ、私はここで、この子を。


「貴方はここで! 顔も知らない、名前も知らない、無辜の民草のために命を諦めなさい!」


 ヨナの目が大きく見開く。


「て、てめぇ……何を……?」

「あんたたちは今! 『子供を人質にして』『女を犯す』害悪だと判明したわ! ……そんな奴らは生かしておけない・・・・・・・・

「な……」


「あんたたちが生きているだけで、罪のない民草が傷つけられる。『子供を人質に親を』『親を人質に子供を』傷つけるわ。『夫を人質にして妻を犯す』ような存在。そういう奴らが生きているだけで、善良な人々がこの先に不幸に見舞われるかもしれない。だから殺す・・・・・

「ひっ……」


 私は全身に『怪力』の【天与】を巡らせる。

 これまで魔獣にこそ向けてきた私の殺意をみなぎらせて。


 私の【天与】は人に振るう時は空気を読んでくれていた。

 殺さないほどの威力しか出せない力だった。

 レヴァンを殴っても生きていたもの。

 だけど今、これから振るう暴力にそのセーフティがかかるかは私にさえわからない。


「今、私が優先するべきなのは、ヨナを助けることでも、私の身を守ることでもない。あんたたちを一人残らず殺すこと。それが最優先なのよ」

「な……ん……。てめぇはいったい、」


 もう男たちの動きを待つ必要はない。ヨナの命を気にする必要さえも。

 私は近くにいた男に駆け寄り、殴りかかる!


「フンッ!」

「ぐべっ⁉」


 ぶん殴った男の体が思いきり吹っ飛んでいく。

 できれば黒ローブの男を巻き込むようにと、そっちの方向に飛ばしたわ!


「な、何しやがる⁉ てめぇ、ガキの命がどうなってもいいってのか!」


「ヨナを使って交渉したいなら! あんたたちは命乞いをするべきだったわ! だけど、あんたたちはそうしなかった! 子供を人質に女を犯そうとする人間なんて放置できるはずがない! 上に立つ者としてそれは譲れない! 私の大切なものよりも、善良な民の安全を守る責任がある!」


 ドゴッ!


「ぎゃばっ!」


 男の一人をぶっ飛ばしながら、宣告する。


「だから、あんたたちはここで死になさい」


 交渉はしない。その席は用意しない。

 ただ、こいつらはここで殲滅する。


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