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傾国の悪女になんかなりません! ~蛮族令嬢クリスティナは予言された破滅フラグを【カンスト】パワーでへし折ります~【書籍化・コミカライズ企画進行中】  作者: 川崎悠
二章 アルフィナ領への旅

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32 エンディングW

「リンも覚えているんじゃない?」

「言われてみれば、そのようなことがありましたね……」


 それで整理すると。


「カイルが王家の影の暗殺者で、私に暗殺依頼が出ていて、それでカイルが私を殺さなくちゃいけなくなった。でもカイルの妹のセシリアはそうさせたくないから、先に私を殺しにきたのね!」


 なーるほど! 話がつながってきたわね!


「貴方たち、暗殺者一家、向いてないんじゃない?」

「…………」

「お嬢」


 リンディスがなんともいえない表情で私を見てくる。

 でも、私を殺したくないって幼い頃から泣いたりするカイルと、兄にそうさせたくないセシリア。

 どちらも暗殺者向きの性格じゃないでしょう。

 セシリアに至っては咄嗟にヨナのこと、身を挺して守っているからね!

 それで代わりに怪我をしているんだもの。


「人助けの方が向いているわよ、貴方。やめちゃいなさい、そんな家業」

「……それができれば……」

「うーん。でも、表向きは医者なのよね? 医療も学んでいるってことでしょう?」

「兄は……そうです。カイル兄さんは、医者になって、人を助ける方が……いい」


 セシリアも同意見みたいね!


「そうよね? じゃあ、そうしなさいよ」

「お嬢。流石に、こう。私も知っているわけではありませんが、王家と密約か何かがあるのでしょう。そう簡単な話ではないかと。それを我々が知っていいのかあやしいですが」

「でもねぇ。数年前とはいえ、私を殺しちゃうかもなんて泣き出しちゃうような泣き虫が暗殺者って言われてもおかしいんだから」


 それでも王家の影とは名誉な仕事なのかもしれない。

 王家からの仕事を担っている家である以上、それは家門の誉れでもあるのかも。

 今、私が受けている王命も、魔獣を殺す仕事といえばそう。

 騎士だって戦争になれば相手を殺すこともあるでしょう。

 仕事を立派だと褒めてもいいけど、カイルとセシリアはどう考えても向いてないブラザーズよ!


「セシリア、カイルが私のところへ来るのね?」

「……はい。そう遠くないうちに」


 本当にこの旅、次から次にいろんな人が私の前に立ちはだかるわよね!

 エルトとラーライラ、ゴルドとシルバ、今度はカイルとセシリアよ。

 障害ならぶん殴って道を切り開くのもいいんだけど今回は違うわ。


「セシリア、私はカイルと話してみたいわ。悩むくらいなら話し合って決めましょう」

「…………ですが、それは」


 セシリアは困惑した表情で私を見上げる。


「薔薇よ、拘束を解きなさい」


 セシリアを拘束していた薔薇の蔓をほどき、そして霧散させる。

 セシリアは解放されたことに戸惑うばかりみたい。


「貴方が私を殺そうとしたことを、カイルと話し合う場を作ってくれたらナシにしてあげる」

「…………」

「話し合ったあとで決めなさい。家を裏切って人を助ける人生を選ぶか。家業に殉じて私を殺そうとするか。その時は私を殺しにきなさい? 返り討ちにしてあげるから」

「……はい、クリスティナ様」



 セシリアを連れたまま旅を続ける私たち。

 ヨナは何かあったとは察しているみたいだけど、とくに何も言ってこなかった。


「セシリア、カイルとはいつ会えるの?」

「……兄さんが会いに来れば会えるかと」

「あら? もしかして連絡手段とかないの?」

「カイル兄さんに届いた王家からの依頼を盗み見してから、誰にも言わずに出てきましたので。そのあとの兄さんの動向は知らないのです」


 シレッと言っているけれど、ものすごいことしているわよね、セシリアって。

 お澄ましした顔しちゃってまぁ。嫌いじゃないわよ!


「それにしてもカイルに会うのは久しぶりねぇ。七年ぶり? カイルに妹がいたなんてねぇ」

「……お嬢、彼は再会を祝いに会いに来るのではありませんよ」

「わかっているわよ」


 リンディスはセシリアのことをまだ認めていなくて、いつでも私との間に入れるように意識している。大丈夫な気はするんだけどね。


 そのあとは魔獣を倒したり、薔薇を売ったりしながら四人の旅が続く。

 ルーナ様たちの噂も聞こえてきたわ。

 私のひっそりとした旅に対して、ルーナ様たちの旅は国を挙げての一大行事だからね。

 注目度が段違いっていうやつよ。商人間の伝達も早いわ。


「ねー」

「ひっそりとは?」

「それなりに派手かと」

「お姉ちゃん、ひっそりは言いすぎだよ」

「あら?」


 おかしいわね。同行者の誰も賛同してくれないわ。

 行く先々で魔獣たちをぶっ飛ばしたり、賊たちをぶっ飛ばしたりしているだけなのに。

 薔薇の蔓を鞭にしたり、魔法銀の剣を使って大立ち回りしたりもする。

 きちんと黄金の浄化薔薇を咲かせて、大地の傷を癒すアフターケアもしているのよ。


「おそらくお嬢の噂も広まっているかと」


 どんな噂かしらねぇ。

 王太子をぶん殴って婚約破棄された侯爵令嬢?

 王命を受けて各地の魔獣をぶん殴りながら進む謎の一行?

 ふふ、どっちの噂でもなんだか愉快な気がするわ!

 そんなふうにカイルが会いに来るのを待ちつつ、進んでいた日のこと。


「……あ」


 私の視界が、ここではない光景に奪われる。

 これは『予言』の【天与】ね。実は寝ていなくても視るのよ。


◇◆◇


『カイル……』


 ルーナ様が小高い丘の上に立っていて、その先には黒髪の男性。

 カイルと呼びかけたということは、大人になったカイル?

 黒い髪に黒い瞳をして、キリッとした顔立ち。どことなく幼い頃の面影もある。

 再会する前に成長した姿を視ちゃったわね!


『クリスティナは【天与】に振り回されただけなんだ』


 悲しそうに告げる大人カイルの前には、小さなお墓があった。

 それこそ、ひっそりと。目立たないように作られた雰囲気。

 丘の上にあるのは、見晴らしがいいから? 誰のお墓かしら。


『決して、こんな結末を、自ら望んでいたわけじゃない』

『……幼馴染だったんですよね、クリスティナ様』

『ああ』


 ルーナ様が大人カイルにそう話しかける。

 ん? 私は気になって意識をお墓に向ける。

 でも墓石らしきものに名前は刻まれていない。

 なんていうか、これ。


『クリスティナ様は多くの魔獣を生み出し、使役し、リュミエール王国を混乱に陥れました。それは、悪いことなんです』

『……!』


 大人カイルが歯ぎしりをする。


『……彼女にも、きっと留まる瞬間があったはず。カイル、貴方のように』

『僕は……!』


 大人カイルが叫び出すように声を張り上げ、ルーナ様を振り返った。

 ルーナ様は涙を流して大人カイルを見つめている。


『ルーナ……。彼女と、君がいなければ、きっと』

『わかっています。ほんの少しの違い、ただそれだけだったことを』


 あら? あらら。大人カイルまでルーナ様といい感じ?

 ちょっとよくわからなくなってきたわよ。


『僕は、誰も殺さない。そうありたかった。なのに……そんな誓いも守れなかった』

『いいえ、貴方は守ってくれたわ、私を』

『ルーナ……』

『もし、私が彼女のように、力に飲まれてしまったら。その時は』

『殺さないよ。君だけは絶対に殺さない……』

『カイル』


 わー、わー、わー!

 幼馴染のこういうやり取り、見るのは気まずいわ!

 私は意識だけ、体がないのに手を振って、どうにか目をそらす。

 そうしていたら周りがまたフッと暗くなって。



『カイルと共に傾国の悪女クリスティナを倒したルーナ。』

『二人は生涯、彼女のことを忘れることはありませんでした。』

『カイルは王家の影を辞し、医者の道を進みます。』

『医者となったカイルのそばには、いつもルーナが……。』

『──エンディングW:君だけは殺さない Will not kill you.』

『トロフィー【医者になったカイル】を取得しました。』


◇◆◇


「わっ!」

「うわ! 何? クリスティナお姉ちゃん?」


 私の意識はまた現実に戻ってきた。

 すっごいの視ちゃったわ。ていうか私、カイルとルーナ様に殺されてなかった?

 あのお墓、私のよね? 私っていうか『私』の?


「……お嬢、また『予言』を視たのですか?」

「そうなの! 私、カイルとルーナ様に殺されちゃっていたわ!」

「え」

「セシリア、大人カイル、かなり美形に育っていたわね!」

「……えっと、はい?」


 あ、流石のセシリアも混乱しているわね!


「私は殺しちゃったから、ルーナ様だけは殺さないって。でも、医者にはなれたみたいよ!」

「…………」


 あ、セシリアが絶句している。

 ふふ、クールな彼女がこんな表情をするなんてね。


「絶対に実現させない未来ですね」

「そうねぇ。でもまぁ、医者にはなれそうだから、そこはいいんじゃない?」

「で、その未来はどうやって回避するんですか、お嬢」

「回避っていうか……」


 あれ、根本的に『今の私』とは別の人生を歩んでいる感じじゃなかった?

 既に『傾国の悪女』になっちゃった私。

 ルーナ様曰く、魔獣を生み出して使役して、王国を混乱に陥れたんですって。


 いや、しないでしょう、そんなこと。

 あれね。この前に視た、リンディスが殺されて暴走した『私』の可能性ね。


 でも、あの時の『私』はルーナ様を殺したのよねぇ。

 もう滅茶苦茶だから、あんまり予言同士の整合性とか考えても意味なさそうね。


「回避できないと?」

「そういう感じの予言じゃなかったわね。でも、視えた光景じゃあないんだけど」


 私は、馬車の御者席にいるリンディスの隣に顔を出す。


「これから行く先の街にカイルがいるわ、きっと」


 ただの勘なんだけどね!


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