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傾国の悪女になんかなりません! ~蛮族令嬢クリスティナは予言された破滅フラグを【カンスト】パワーでへし折ります~【書籍化・コミカライズ企画進行中】  作者: 川崎悠
二章 アルフィナ領への旅

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30 暗殺依頼

「──フン!」


 ドゴォッ!


『ギャ……』


 【天与】の光を纏った拳が魔獣を貫くと、魔獣の体が霧散していく。

 浄化効果もあるっぽいから、まさに魔獣殺しの拳ね!

 しかも『怪力』の【天与】と呼んでいるこの力は武器にも宿せる。

 エルトから貰った魔法銀の剣に光を纏って魔獣を切り裂くことも簡単よ!


 それにしても旅の途中で、まぁ魔獣やら盗賊やらの障害が私の道を塞ぐこと。

 何かしら、これ。

 私がアルフィナに辿り着くのを邪魔でもしているの?

 誰がそんなことをして得するのかを考えると偶然なんでしょうけど。


「フフン!」


 まぁ、こうして戦う機会が増えたことで、私も【天与】を自在に使いこなせるようになっていくし、民への魔獣被害を少しでも減らせるから悪くはないんだけどね。


「ヨナ、援護はよかったけど、前に出すぎちゃだめだからね」

「うん!」


 今回は馬車ごと私たちが襲われたので、ヨナもいるままで戦闘になった。

 ヨナは使えるようになった火の魔術で援護してくれたわ。

 もちろんリンディスのサポートもあり。

 なかなかの連携だったと思う。

 セシリアは魔獣の襲撃を受けて怯えるかと思ったけど、まったく影響がないみたい。


「お疲れ様でした、クリスティナ様。本日もお見事です」


 セシリアがタオルを差し出してくるので受け取る。


「ありがとう、セシリア。怖くなかった?」

「はい、私は平気です」


 どんな度胸をつけたら、メイドが魔獣に欠片も怯えないことになるのかしら。

 私? 私はまぁ、【天与】があるから不安を感じないんだと思うわ。


 ──ピリッ。


「……!」


 私は嫌な気配を感じて、勢いよく振り向いた。


「ヨナ、危ない!」

「え?」

「……!」


 ヨナに迫っていたのは……魔獣ではなく、蛇⁉

 大きめの蛇が今まさにヨナの足に噛みつこうとしている瞬間。

 私がヨナを守ろうと駆け出す前に。


「ヨナ様!」

「わっ!」


 私の声にすぐさま反応したセシリアがヨナを抱えて、横に飛ぶ。


「リン!」

「はい!」


 リンディスが、ヨナとセシリアから大蛇を追い払うように蹴り飛ばす。

 でも、蛇のクネクネした動きだから、すぐ近くにボテッと落ちてしまい、すぐに体勢を立て直してまた襲いかかってこようとしてきた。


「『毒薔薇』よ!」


 薔薇の蔓が蛇の体に巻きつくように咲き誇る。

 拳で仕留めるのが難しいタイプの敵にはこれが効果的なのよね!


「はぁ!」


 魔法銀の剣で、蛇の頭を切り落とした。

 危険はどうにか去ったみたいだけど……。


「ヨナ、セシリア、大丈夫⁉」

「お姉ちゃん、セシリアさんが……」


 セシリアの足に傷がついている。

 蛇の牙の跡? ヨナを助ける時のものみたい。


「リン、あの蛇って」

「……毒蛇のようです。なぜ、このタイミングで……他は……」


 つまり、セシリアも蛇の毒が? でも噛みつかれたわけじゃない。


「…………」


 セシリアが歯を食いしばるように耐えている。

 耐えているというより、困惑している様子だ。


「……大丈夫です、この程度なら」

「そんなことわかるの?」

「それは……」


 目をそらすセシリア。

 根拠があるのかないのかわからないけど。


「できるかわからないけど」

「はい……?」


 たぶん、ルーナ様の『聖守護』の【天与】なら解毒もできそうだ。

 なんたって傷を癒せる力らしいからね!

 けど、ここにはルーナ様はいない。

 対する私は『毒薔薇』の【天与】。むしろ毒を与える方の力よ。


 でもね? 毒って薬と表裏一体ってやつじゃない?

 なら、毒の名を冠する【天与】が薬になったって女神様もお許しになるわ!


「──解毒薔薇!」

「え」


 私はセシリアの傷口・・に白い花弁の薔薇を咲かせる。

 そして、毒だけを吸い出すように祈り、操った。


「う……」


 セシリアが呻き声を短くあげるのと同時に白い薔薇が少し赤黒く染まった。

 ところどころ、紫色にも染まっている。

 そのあと、解毒薔薇からパァァッと光が溢れ、セシリアの足から薔薇の花がポトリと落ちた。


「……これは?」


 セシリアはまだら色になった薔薇の花と彼女の足を見比べる。


「たぶん、セシリアの体の中に入っちゃった毒と、それが混ざった血を吸い出したあと、解毒もしたみたいね!」


 こういう使い方もできるみたい!


「ええ……?」

「……そういうの、いけるんですね、お嬢」

「フフン!」

「これは褒めた方がいいですねぇ。調子に乗りそうですけど」


 素直に褒められないのかしら、リンディスって!


「……ありがとう、ございます、クリスティナ様」

「いいのよ! 貴方もありがとう、セシリア。ヨナを助けてくれて」

「ありがとう、セシリアさん!」

「……いえ、私は……」


 何はともあれ、なんとか無事に済んだわ!



 セシリアが同行し始めてから四日ほど経った夜。

 私たちは相変わらず野営していた。もう慣れたものね。


「…………」


 私一人が寝ている馬車の中に、誰かが音を殺して入ってくる気配。

 近づかれるまで、その動作はまったくの無音だった。

 ただ、服の下に隠していた凶器を取り出す瞬間だけ、衣擦れの音がかすかに聞こえて。


「──そこまでですよ、セシリアさん」

「⁉」


 姿の見えない場所から聞こえたリンディスの声に、セシリアは驚き、バッと飛びのく。


「無駄です」

「あっ⁉」


 鋭い身のこなしをするセシリアは、それでも姿が見えない相手に腕を掴まれ、投げ飛ばされた。


 ダンッ!


「あぐっ!」


 背中から思いきり。馬車のすぐ外の地面に叩きつけられるセシリア。


「……派手にやるわねぇ、リン」


 薄目で様子を見ていた私は起き上がって、馬車の外へ出る。


「……っ!」


 セシリアは起きだした私の姿を見て目を見開く。


「私が寝ているって思っていたのよね、セシリア」

「ク、」

「──拘束薔薇」


 シュルル! とセシリアの体に巻きつき、拘束する薔薇の蔓。

 彼女を決して逃がすことはない。

 まぁ、セシリアが蔓を引きちぎる怪力の持ち主なら別だけど。

 フッとリンディスが姿を現し、セシリアを見下ろす。

 その目は私が見たことのないほど、冷徹な目だったわ。


「……っ! なぜ」


 拘束されたうえ、二人に見下ろされ、セシリアは悔しそうに表情を歪ませた。

 といっても、元から無表情のセシリアだ。そんなにひどくはないけど。


「リンディスがねぇ。ちょっと前から感じていた気配とセシリアの気配が似ているって言ってきたの。それとセシリアの動作が? メイドとしての洗練というより、もっと際立った動きだって」


 私はそのあたり、あんまりピンとはきていなかったんだけどね!


「それで案の定というわけです。……お嬢に短剣を向けようとしたのですから、言い逃れはしませんね、セシリアさん」


 リンディスはセシリアが持ち出したらしい短剣を見せつける。


「くっ……」


 それを見たセシリアは小さな抵抗を止め、脱力した。


「貴方は暗殺者ですか、セシリアさん」


 え、暗殺者?

 まぁ、短剣を持ち出して、私の寝込みを襲おうとしたんだものね。


「誰からの依頼で? それとも個人的な恨みで?」

「…………」


 セシリアは黙り込む。リンディスの目がますます鋭くなった。


「お嬢は、すでに立場を追われた身です。王命であり使命もあるとはいえ、その処遇は流刑に近しい。これが王族であればまだしも。捨て置いたところで、どこかの家に不利益をもたらすことなどないはず。それなのになぜ、お嬢を狙うのですか」


 リンディスの問いかけ。それに答えるまで少しだけ待ってみるけど。

 セシリアは答えない。


「……命は要らないようですね。暗殺者としての矜持ですか。では、望み通り」

「……っ!」


 リンディスが短剣をセシリアの首筋に突き立てようとする。


「フン!」

「わっ!」


 私は『怪力』の【天与】を纏ったキックでその短剣を蹴り飛ばした。

 リンディスは蹴っていないわよ! セシリアもね!


「お嬢、危ないですよ!」

「殺そうとするのが早いわね、リン。そういう即決判断は私の役割じゃない?」

「いや、それもどうかと思いますが」


 リンディスは困った表情で私を見る。

 でも、私のやることを止めはしないみたい。


「ここからは私と話しましょうか、セシリア」

「……クリスティナ様」

「あら、私の名前を呼んでくれるのね」


 様付けで呼ぶあたり、この暗殺はセシリアの恨みからじゃないみたい。

 リンディスにセシリアの体を起こさせて、話しやすい体勢にさせる。

 それでも拘束は解かず、地面にセシリアを座らせたまま、私たちは見下ろす形。


「セシリア、貴方はどうして私を殺そうとするの?」

「…………」

「貴方はヨナを守ったわ。咄嗟の行動だったかもしれないけれど、ヨナを助けようと動いて、自分が怪我を負った。そんな貴方が私を殺そうとする。どうして? どちらが本当の貴方なのかしら」


 リンディスは警戒しつつも私のそばに控えて沈黙したまま。

 セシリアが私を見上げ、まっすぐに見つめてくる。


「理由、話す気にはならない? 私、別に貴方に恨まれることはしていないと思う。それでもそうしなくちゃいけなかったの? 咄嗟にヨナを助けに動いてしまう貴方が? リンの言う暗殺者なら、誰かに依頼を受けてそうしたの?」


 根比べになるかしら。

 私の方はセシリアの理由をどうしても知らなければいけない理由はない。


 でも、知りたいのよね。

 その理由は恐怖からでも、今後の対策を取りたいという現実からでもない。

 私が知りたいの。なんだか知りたくなったのよ。


「……貴方を殺そうとした私を、クリスティナ様は……憎まないのですか」

「セシリアを? そうねぇ。まだ別に、憎むに足る理由が生まれてないわよね」


 今の私、無傷だし?


「……貴方はお人好しです、クリスティナ様」

「フフン!」

「今、褒められて嬉しいとかの場面じゃないんですよ、お嬢」


 わかっているわよ! でも、悪くないじゃない。


「そんな貴方を、殺せないと思いました。ですから私が殺そうと思ったのです」

「うん?」


 どういうことかしら! 殺せないと思ったから殺そうと思った?


「それに戦いに長けた【天与】を授かったという貴方を前に、暗殺が失敗したらどうなるのか。それを私は確かめたかった。私という結果を見せたかった」

「……誰に?」


 結果を見せたいって相手は私じゃないわよね?


「……王都で、クリスティナ様の暗殺依頼がありました」

「まぁ!」


 そういうの、本当にあるのね!

 じゃあ、セシリアはお仕事で?

 リンディスから剣呑な気配が漏れ出る。怒っているわねぇ。


「ですが、それは我が家の当主が最も恐れていた依頼でした」

「当主が? ええと、セシリアの家って……」

「私の家は代々、王家の影を担う者たちの一つ。暗殺家業を担うバートン家です」

「王家の!」


 ええ……? じゃあ、王家からの暗殺依頼なの?

 陛下じゃないっぽい。

 王命を賜った時の様子から、そういう感じじゃなかったわ。

 レヴァンでもないでしょうし、他は王妃様かレミーナ王女? うーん。


「私の名前はセシリア・バートン。現バートン家当主の、妹です」

「まぁ」


 王家の影の家門が、そのバートン家で?

 当主がいて、セシリアはその妹?


「……当主が最も恐れていた依頼というのは?」


 リンディスが口を開いてセシリアに続きを促す。

 そうね、何かしら、それ。


「……クリスティナ様を殺すこと。兄は、それだけはしたくなかったのです」

「うん? 私を殺すのが最も恐ろしいの?」

「暗殺そのものではなく、お嬢を殺すことだけはしたくなかった、と?」

「……そうです」


 何それ。私とリンディスは顔を見合わせた。


「……よりによって、クリスティナ様の暗殺依頼など。それを断れば、バートン家は潰されるでしょう。しかし、それを成せば兄は、きっと潰れてしまう」

「よくわからないけど、家が潰されるってことは王家からの依頼ってことよね?」

「そうです。我が家に下る暗殺の命は、王家からのもののみ」


 王家の影の一門っていうなら、まぁそうでしょうね。

 じゃあ、やっぱり現状の王族の誰からの依頼なのかしら。


 現国王陛下には、かつて弟と妹がいらした。

 でも、そのお二人は今、この世にいない。

 王弟アーサー・ラム・リュミエットは事故で亡くなったという。

 私はよく知らないけど。


 王妹ミレイア・ラム・リュミエットは王国唯一の公爵家に嫁いだものの、早くに病で亡くなられたそうよ。

 リュミエール王国には一応、公爵家があるのよね。

 公爵家は王族の血をつなぐ役割が大きい。

 王妹殿下もそのために嫁いだの。

 血を守ることを優先していて、公爵家は社交界に顔を出さず、沈黙を続けている。

 だから、マリウス家が筆頭侯爵家って貴族の代表面して威張っていられるんだけど。

 もし、公爵家が社交界に出てきていたら、マリウス家とバチバチになっていたでしょうね。


 まぁ、というわけで今の王族は、国王陛下、王妃様、レヴァン、レミーナ王女の四人。

 その中に犯人はいる! ね! フフン!


「どうして私を殺すとお兄さんが潰れるの?」


 メンタルが弱いってやつかしら!

 暗殺一家の当主に向いていないわね!


「私の兄の名は……カイル。カイル・バートン。表向きは医者を営む家の……長男です」

「バートン家、医者、カイル……?」


 んん? それって、どこかで。


「あ! カイル! 『泣き虫カイル』ね!」


 それって私の幼馴染(・・・)のことじゃない!


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