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傾国の悪女になんかなりません! ~蛮族令嬢クリスティナは予言された破滅フラグを【カンスト】パワーでへし折ります~【書籍化・コミカライズ企画進行中】  作者: 川崎悠
二章 アルフィナ領への旅

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29 セシリアからの問いかけ

 馬を二頭立てにした幌馬車で移動する私たち。

 御者をリンディスに任せて、私は馬車の中で揺られながらセシリアにこれまでの事情を話した。


「なるほど。そのようなことがあったのですね。大変でしたね、クリスティナ様」

「ええ! とってもね!」

「ですが、ご安心ください。これからは私が貴方のそばにいますから」

「まぁ、嬉しいことを言ってくれるわね」


「はい。しかし、クリスティナ様。私は同じ女性として言わせていただきたいのですが」

「なに?」

「リンディス様との距離は考えた方がよろしいかと。いくら従者とはいえ、お二人は若い男女ですので、お二人が隣にいるだけでよからぬ噂が立つのではないかと」

「そうは言ってもねぇ。リンディスのことは信用しているの。幼い頃から私を支えてくれているのよ。本当に一般的な親と変わらないくらいの関係だもの」

「お嬢……」


 あくまで一般的な親ね! マリウス家の両親は別よ、別。


「ですが、それはあくまでお二人が信頼し合っているというだけです。世間ではそうは見ません。私がクリスティナ様の身の回りの世話をします。やはり、こういう面は女性に委ねるべきかと」


 んー、これ。セシリアはアレね。誤解しているんじゃない?


 それこそ普通の貴族女性は、着替えとかに侍女など使用人の手を借りる場合がある。

 どうしても服やドレスによってはね。セシリアは、その手を借りる相手が年頃の異性なのはどうかという懸念を抱いているのでしょう。


 でも着替えに他人の手を借りるのは、あくまで普通の貴族令嬢の話なのよ。

 私は違っていて、幼い頃から自分の着替えは自分の手でしてきた。

 マリウス家では私に侍女などの使用人がついていなかったからね。

 もちろん、困った時はリンディスの手を借りたけど。

 そういう経験があるからこそ、旅でも金銭面や宿の工面以外の部分では困っていない。


「セシリア、私は身の回りのことは自分でできるわ。リンディスに何もかも任せているわけじゃないから。だから、いくら私でもリンディスに肌を見せるとかそんなことはしないのよ」

「はい。それはとくに疑ってはおりません」

「じゃあ、リンディスを受け入れなさい。私に雇われたいのならね」

「……はい」

「まぁ、セシリアの言いたいことがわからないほどじゃないわ。でもねぇ、今の私が醜聞なんて、そんなことを気にしても仕方ないと思うのよね。レヴァンの婚約者だった時はともかく」


 かつての私は、なんだかんだ王太子の婚約者ではあったの。

 だから注目されているし、醜聞は気にしないといけない立場だったわ。


 けど今の私はどう?

 一人で王都を出ていき、リンディスが合流してくれたけど、それなりに気ままな旅。

 目的地は定められているけれど、その進路を選ぶ自由は私にある。


 今のところ王家からの監視もなさそう。適当な宿に泊まったり、野営したり。

 この環境で異性と一緒に過ごしたかどうかなんて気にしてもねぇ。

 証明できないじゃない。

 すべてを注目されながら過ごす立場からは大きく変わったのよ。


「クリスティナ様は、リンディス様を信じていらっしゃるのですね」

「まぁね! リンディスのことを一番信じているわ」

「お嬢……」

「フフン!」


 リンディスが御者に集中しつつも話は聞いているのか。

 ちょっと背中から嬉しそうな気配を感じるわ!

 気のせいじゃないはずよ!


「……クリスティナ様。貴方は私を助けてくださいました」

「うん?」

「私を助けるためにあの場所へ来てくれたのですか?」

「もちろん、それもあったわね。ただ、元から連中をどうにかするつもりであの地域に出向いていたのよ。その途中でセシリアが誘拐されたって聞いたの」

「危険とは思わなかったのでしょうか。正直、見捨てられたとしてもおかしくなかったです」

「危険は……あんまり考えていなかったかしら?」


 『予言』でシルバを視たし、例の人魂問題を解決しなくちゃって思っていたものね。


「……誰であっても、クリスティナ様は人を助けますか?」


 うん? 誰であっても? 私は首を傾げる。


「困っている人がいて、私がそれをどうにかできそうなら助けるんじゃない?」


 これは普通のことよね。


「ですが、相手が危険な人間だったら? あのシルバという男に、クリスティナ様は足を洗うようにおっしゃっていました。あの男は犯罪者です。どうしてあのように手を差し伸べたのです?」


 セシリアったら、なんだかグイグイとくるわねぇ。


「犯罪者であることは、きちんと衛兵に突き出したし? 改心の見込みがあるって思ったから、足を洗うように言った。ただそれだけね」


 まぁ、その改心の見込みの根拠は『予言』の【天与】情報なんだけどね!


「危険な人間を信じたら……裏切られるかもしれませんよ? それでも貴方は信じますか?」


 私は首をかしげる。

 その時はその時じゃないの? まぁ。


「信じるかどうかは、危険かどうかとは別の話だと思うわ」


 ほら、たとえばエルトは強いでしょう。だから危険と言えなくもない。

 でも、だから信じないってことにはならない……みたいな。

 エルトは騎士だから、こういう話には当てはまらないかしら。


「……別、でしょうか」

「そうねぇ。別よ。別じゃないと困るわね」

「困るのですか? クリスティナ様が?」

「だって私、聖女に『傾国の悪女』になるぞって予言されているんだもの。なら、私は危険人物よ。力だってあるから本当にね。でも、私は私のことを信じてほしい。だから、危険かどうかと信じるかどうかの話は別じゃないと困るの」

「それは……」


 ずっと無表情のセシリアが困ったような顔になる。ふふ。


「まぁ、危険人物を信じて裏切られて、そういうことがあったなら私が責任を取るわ」

「責任?」

「ええ! 裏切られたなら、とりあえずぶん殴るの! それでスッキリするわね!」

「…………」


 あ、セシリアがあっという間に無表情、むしろ、あきれ気味の顔になったわ!


「お嬢。貴方はそれで王太子を殴って一度、牢に入れられたことをお忘れなく」

「そんなこともあったわねぇ。何もかもみんな懐かしいわ」

「あれからまだ一ヶ月も経っていませんからね!」


 リンディスお小言モードよ!


「もし、最初からクリスティナ様を傷つけるつもりの人がいたら?」


 あら、まだ続けるのね、セシリア。


「そうしたら二発ぐらいぶん殴っておくわね!」

「……回数の問題ですか?」

「フフン!」

「褒めてないですよ、きっと」

「わかっているわよ!」


 セシリアったらどうしたのかしら?

 前の雇用主と何かあって逃げてきて、その先で盗賊に誘拐されたらしい彼女。


 セシリアは綺麗だからね。クールビューティーとかそういうタイプよ。

 私からリンディスを引き離すようなことを言うところとか、もしかしたら前の職場で女性として何か嫌な思いをしてきたのかもしれないわ。

 実際に何があったのかはわからないから下衆の勘繰りになるかしら。



 セシリアを一行に加えた旅が始まった。

 意外とセシリアは野営でも文句は言わない。


 屋敷で働いていたメイドだっただろうに、野営での作業もてきぱきとこなした。

 少ない資源のなかで私のことを貴族令嬢として扱おうと尽くしてくれている。


 とっても優秀じゃないかしら、セシリアって!

 仕事ができるだけに、人間関係で前の職場を去らなければならなかったことは無念だったのかもしれないわね。


 私が真っ当な貴族令嬢生活をしているなら、セシリアの実力にふさわしい職を用意してあげられたんだけど。

 こういう時は、流石に立場を追われた身が歯痒いわ。


「クリスティナお姉ちゃん」

「どうしたの、ヨナ」


 また野営をしている時にヨナが期待したような声で切り出す。


「僕の魔術、見てもらえる?」

「まぁ! 使えるようになったの? もちろんよ! 見せてちょうだい」

「うん!」


 ヨナは旅の間もリンディスに師事して、魔術を使えるように努力していたわ。

 それが実を結んだみたいね!


「僕の魔術は、火の魔術だよ」


 火! いいわね! リンディスの幻影も便利だと思うけど。

 ヨナが両手を前に突き出して、手の平を前方に向ける。

 野営地で、他に飛び火しない場所を魔術の披露場所に選んだみたいね。


「フォイア!」


 ヨナの手の平の先に火の玉が発生し、撃ち出される。火力はそこまで強くない。

 ヒュルヒュルと緩やかな軌道を描いて落ちて、地面に当たって消えたわ。


「すごいわ! ヨナ、本当に火が出ていたわよ! えらい!」

「えへへ」


 褒めてあげると少年らしい、年相応の笑顔を見せるヨナ。

 かなり元気になったわね!

 ヨナは誘拐されて、操られて、散々だったから、元気になれたのはいいことだわ。


「フフン! 頭を撫でてあげるわ、ヨナ!」

「わわ!」


 頭を撫でると、ヨナは恥ずかしがりながら、まんざらでもなさそう。

 そのあと、ヨナはセシリアの方へ移動する。


「あの、セシリアさん」

「……何か? ヨナ様」


 セシリアって、ヨナにも様づけなのよね。


「いざとなったら僕も戦えるから。だから、心配しないで大丈夫! ……です」

「────」


 セシリアは虚をつかれたようにヨナを見下ろす。


「その、僕もクリスティナお姉ちゃんやリンディスさんに守ってもらっている側だけど。でも、二人のことは信用できるから。頼ってもいいと思うんだ」

「……ヨナ様は、誘拐された上に操られ、あやしい者たちに利用されていたと聞きました。それ以前に魔族であるヨナ様は大変に苦労なさっていたはずです」

「……うん。否定しないよ」


 ヨナって賢いわよねぇ。

 私がヨナと同じ十二歳の頃はどうだったかしら。

 もう少し、能天気に物事を考えていた気がするわね!


「綺麗なものばかりを見てきたわけではないヨナ様が、それでもクリスティナ様たちを信じられると?」

「うん! それは胸を張って言えるよ! だって」

「だって?」

「クリスティナお姉ちゃん、そこまで深いこと考えていないもん」


 それはどうかしら⁉

 私たちが優しいとかそういう理由で信じるべきじゃない⁉


「ヨナぁ?」

「あはは」


 セシリアは私を頼ってはきた。でも、どこか陰があるっていうか。

 何か私に言いたいことがある様子なのよね。

 あるいは、その何かのために同行を申し出たのかもしれない。

 なら、セシリアが打ち明けてくれるまで待ってあげるのもいいでしょう。

 私はそんな風に考えていたのよ。


「…………」


 でも、リンディスは私とは少し違う考えだったみたいね。


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