28 セシリア
民に迷惑をかけていた盗賊団を拘束していく。
これでこの地域はしばらく平和になりそうね!
念のため、シルバにもヨナのように黄金の浄化薔薇を咲かせておく。
心なしか、残っていた淀みみたいなものが晴れた気がするわ! たぶんね!
「うぅ……?」
浄化の影響か、気を失っていたシルバが意識を取り戻す。
「ここは……? うおっ、なんだ?」
腕を組んだ私が、目の前に堂々と立って見下ろす姿にシルバは驚く。
「盗賊のシルバ! 私があんたを助けてあげたのよ!」
「へ……?」
「あんた、記憶ないの?」
「え、あ、いや」
リンディスもいつでも私を守れるようにそばに控えた。
助けだしたメイド服のセシリアも、一緒になってシルバの様子をうかがう。
「あ……、俺は……? そうだ。なんか黒い煙にまとわりつかれて。それで、気づいたら体が動かせなくなっていたんだ。勝手に俺の口で喋って、気持ち悪ぃ……」
「そうなのね! シルバ、あんたはさっきまで悪霊みたいなのに取り憑かれていたみたいよ!」
「悪霊……そうか。あれは悪霊……まさにその通りだ」
だんだんと認識が追いついてきたらしいシルバは私の言葉に納得する。
やっぱり、さっきまでシルバの体で喋っていた奴は別人らしいわ。
「あんたが……助けてくれたのか……?」
「そう言っているわ! フフン!」
感謝するといいわよ!
「あんたが……」
シルバが私を見上げたまま、顔を赤くする。ん?
「あー、はいはい。そこまでです。お嬢は見世物ではありません」
「あ? なんだよ、コブ付きかよ……。いや、お嬢? ただの従者……」
シルバはリンディスに視線を向けると黙り込む。
そして、私とリンディスを見比べた。
「けっ……! 綺麗な顔を並べやがって、お似合いかよ」
なに? なにかしら、その反応。
「はいはい。どうでもいいですから、お嬢。問題は解決しましたよね」
「そうね! あとはこいつらを、どちらかの領地の衛兵に突き出すだけよ」
「お待ちください」
そこで声をかけたのはセシリアだった。
「……そこの男性、シルバと言いましたか? 貴方は先程、私の名前を口にしていたみたいですが。いったいどこで私の名を知ったのでしょうか」
「はぁ……? 知らねぇよ、お前なんて」
「何を言って。いえ、取り憑かれたというのは」
セシリアは私たちを見る。
「そうね。さっきまで喋っていた奴と、こっちのシルバは別人よ。こっちの方が本物ね!」
「……では、私の名前を知っていたのは」
「さっきぶん殴って大地の傷の向こうに消えてった方ね!」
「そう、ですか。あれはいったい、なんなのでしょうか」
「さぁ? 私も知らないわ。邪神の一部っぽかったけどね」
本当、なんなのかしらね? 邪教徒たちに今度会ったら聞き出しておかないと。
「……そうですか。失礼しました」
セシリアはそこで一歩下がる。
この場は私たちに預けてくれるみたいね!
「じゃあ、シルバ! あんたに言っておくことがあるわ!」
「……なんだよ」
「あんた、盗賊から足を洗いなさい!」
「……は?」
「その気になれば真っ当な道だって歩けるらしいわよ! よかったわね!」
「なに言って……」
「『予言』の【天与】が見せてくれたのよ。あんたの未来の可能性を。まぁ、これも女神の思し召しってやつよね!」
「予言? 【天与】? あんた、噂の予言の聖女なのか?」
「違うわよ! 聖女と一緒にしないでくれる?」
だから予言ってイメージ悪いのよね!
「私はクリスティナ・マリウス・リュミエット。【天与】を授かっているだけの女よ」
私はそういって、辺り一帯に黄金の浄化薔薇を咲かせてみせる。
一度、大地の傷が開いてしまったし、浄化しておくに越したことはないでしょう。
淡く輝きを放つ黄金の薔薇たちにシルバもセシリアも目を奪われる。
「いい機会なんだから、人生変えてみたらいいわ、シルバ」
シルバは目を奪われたように私を見上げて。
「……、……わかった」
ただ一言、そう口にした。
その顔は文字通り、憑き物が落ちた感じだったわね!
シルバたち盗賊団を街の衛兵に届ける。
気を失った他の盗賊たちも起こして、自分の足で街まで歩かせたのよ。
もう一人の首領であるゴルドが少し抵抗したけど『怪力』の拳で、目の前で大木をへし折ってみせたら、すぐに大人しくなったわ!
それから、シルバは別れ際に足を洗うと笑っていたわ。
うん、よかったんじゃないかしら!
「ふぅ、一件落着ね!」
「…………」
「あの、お嬢? 彼女のことは」
「ん?」
リンディスが指摘する方向には、しっかりとセシリアが立っていた。
まるでそこにいて当然とばかりに、しれっと。場所は私の後ろよ。
「セシリアさん? 街まで来たんだから、もうどこにでも行っていいわよ」
「……どうかお願いします、クリスティナ様。私を雇っていただけませんか」
「貴方を雇う?」
私はリンディスと顔を見合わせる。
「どういうことかしら」
「実は私、働いていた場所から逃げていたんです。咄嗟のことでしたので、この服のままで。それで道中、お世話になった方がいたのですが、その荷馬車ごと彼らに襲われて、彼らに……」
まぁ、計画していた逃亡じゃないのなら行く先にも困るわよね。
「誰か頼れる人はいないの? その人のところまで送るか、辿り着けるように取り計らうぐらいなら協力してあげるけど。まぁ、力になれるかはわからないけどね」
なにせ、フラフラと移動中とはいえ、私にも目的地があるもの。
「クリスティナ様!」
「わっ」
セシリアが私の手を両手で掴み、すがってくる。
「どうかお願いします! 私は貴方に命を救われました、貴方だからこそお仕えしたいんです! 私は今度こそ信頼できる雇い主がいいのです!」
ええ……?
前の雇い主とセシリアの間に何があったのかしら。
とりあえず今の本題はそこじゃないから、あとで聞くとして。
メイドを雇っても今の私には働いてもらう場所がない。
マリウス家にいた時だって、別に私個人でリンディスを雇っていたわけじゃなかったのよ。
ただ、このままセシリアを放っていくのも、なんだか違う予感がするのよねぇ。
なら仕方ない。
「うん! いいわよ、貴方は私が雇うわ、セシリア」
「本当ですか!」
「お嬢」
リンディスが不満そうだけど。
まぁ、悪いようにはならないんじゃないかしら。
「でも、私。旅をしている身だから屋敷で働くとかじゃないわよ? お給料だって出せるかもあやしいし。一緒に旅して、ご飯ぐらいは用意できなくもないけど。屋敷のメイドじゃなくて旅の従者みたいなことになるのよ? 条件を見直してみて、よく考えなさい、セシリア」
「問題ありません! むしろクリスティナ様は、一緒に問題を解決していこうとされる方とお見受けしました! ですので、このまま私をお雇いください!」
「そっか。じゃあ雇うわね」
「はい!」
「軽いなぁ!」
これで旅の同行者がまた増えたわね!
セシリアはヨナと仲良くできるかしら?
「…………」
リンディスはセシリアを歓迎していないみたいで厳しい目を向けている。
もちろん、今の私たちでは、いつまでも彼女を雇える状況ではないものね。
しばらく保護して、その間に何か都合のいい仕事でも見つけてあげられればいいんだけど。
とりあえず街に戻った私たちはヨナと合流。
同行者が増えたから馬車に馬二頭をつないで、私とリンディスで交代しながら御者をするわ。
新しく一緒に行くことになったセシリアをヨナに紹介する。
「はじめまして、僕はヨナって言います」
「セシリアです。クリスティナ様に雇っていただきました。クリスティナ様のお世話をさせていただきます」
「お嬢の世話をするのは私の役目ですが」
リンディスがセシリアの自己紹介に突っかかっていく。
「……殿方が、ですか? リンディス様。失礼ながら、クリスティナ様は高貴な女性とお見受けします。それなのに? リンディス様には弁えていただいた方がよろしいかと」
「私はお嬢が幼い頃から世話をしているんですよ」
「幼い頃の話でございましょう? 今のクリスティナ様は女性らしく成長されています。幼子の延長のつもりでお仕えするのは問題かと」
「は?」
「なんです?」
「わぁ……」
リンディスとセシリアがなんだかバチバチしているわ!
ヨナが二人のバチバチに困惑しているので、私のそばに引き寄せて安心させる。
「いきなり現れた、まだ日の浅い貴方にそのように言われたくありませんが」
「古ければいいものでもないでしょう。クリスティナ様の成長に合わせたニーズに応えられる者であることが重要かと」
セシリアと言い合うリンディス。
ふふふ。私、こういうリンディスを見るのも初めてなのよねぇ。
「お嬢、やっぱり彼女を雇うのは反対です!」
「クリスティナ様、従者との距離感を改めて考えなおすことを提言します」
「うん。じゃあ、仲良しになれたなら、もう出発するわよ!」
「二人の話、まったく聞いてないよね、お姉ちゃん……」
大所帯になってきたわねぇ。
とりあえず当面は、シルバたちを突き出して得た報奨金と薔薇を売った資金でやりくりしていくしかないわね!




