25 サブヒーロールート
一通りの情報を集め終わってから、改めて盗賊団のアジトとやらに向かおうとする。
リンディスを先行させて、姿を隠しながら偵察する線も考えたんだけど。
「ぶん殴っちゃえば早いわよね!」
「もう少し慎重にお願いしますね、お嬢」
私は『えー?』と不満を漏らす。
実際、今の私が使えるようになった力があれば余裕だと思う。
「そうおっしゃるのなら『予言』も使いこなしてみせてください。使いこなせないということは、お嬢の力は万全とは言い難いのではないですか?」
それは確かにそうかもしれないわね!
「じゃあ、一晩だけ。夢で『予言』を視られるか試してみるわ!」
「……それがいいでしょう」
「正直、あんまりこの『予言』に頼るのもどうかと思うんだけどね!」
寝たら予言を視られるのかもわからないし。あとアマネと一緒みたいで嫌!
それでも私は、どうにか『予言』を視られないか、試してみることにしたのよ。
◇◆◇
そこは街だけど、どこか薄暗い、路地裏のような場所だった。
『あの、どうしてこんなことをするんですか?』
ルーナ様が何者かに向かって声をかける。
『なんだ? アンタ、いきなり』
ルーナ様の声に反応したのは、青い髪だけど前髪の一部が少しだけ銀髪になっている男。
……ああ、また私、『予言』の世界に迷い込んでいるのね。
いいかげん慣れてきたわ、この光景も。
でも、どうして毎回、ルーナ様寄りなのかしら。
そんなふうに思っていると、視界がスッとルーナ様から遠ざかる。
黒い板の中にルーナ様の姿が収まった状態になり、やっぱり聖女アマネがそれを視ていた。
『あっ、こいつもヒーローの一人じゃない? サブヒーロー枠だ!』
聖女アマネは楽しそうにそう声に出す。
ヒーロー? どういうことかしら。
『人から物を盗むなんていけないことです!』
『ぁあ……?』
『さっきのこと、私、見ていました。貴方、お婆さんから財布を盗んだでしょう?』
『……チッ! 見ていやがったのか』
なにこいつ。スリ? なさけないことしているわね!
ヨナみたいな少年なら……よくはないけど……わからなくはない。
でも、ルーナ様が目撃した男は、どう見ても青年。
エルトやレヴァンたちとそう変わらない年齢に見えるわ。
髪の一部が銀髪ならヨナと同じ魔族と王国人のハーフなのかしら。
でも、なんとなくそんな気配はない気がするのよね。
まぁ、夢の中なんだけど。
『アウトロー系のヒーローね。ちょっとカイルと被っているんじゃない?』
アマネの指摘もなんだかよくわからないわね。
そのあともルーナ様と男のやり取りが続く。
これ、ルーナ様の行動の選択を、アマネが操作している?
どうも、アマネの選択に従ってルーナ様が話しているようなの。
やっぱりリンディスの見立て通り、私の『予言』って実は『盗み見』なのかしら。
私は意識をフワフワと浮かしながら、アマネ越しにルーナ様のことを視る。
『俺の名前はシルバだ。じゃあな、お人好しのお姫様』
シルバ⁉
ルーナ様と会話していた男が名乗った名前は、問題の盗賊団のリーダーの名だった。
そのあともルーナ様とシルバの話は続いていき……。
『盗賊ゴルドを一緒に倒したルーナとシルバ。』
『ルーナは盗賊シルバを改心させ、一緒に人生を歩んでいくことになりました。』
『彼女となら、きっとシルバもまっとうな道を歩み、幸せになれるでしょう。』
『──エンディングS:銀色の道 Silver Road.』
『トロフィー【サブヒーロー攻略三人目!】を取得しました。』
以前に視たようなのとよく似た文字列。
そんな光景を視ながら、私の意識はまた『予言』の世界から離れていった。
目を覚ました私は、なんとも言いがたい気分になる。
「……ルーナ様って男の趣味が悪いのかしら?」
だってレヴァンとも結ばれる可能性があるのに。
スリなんてやっていた盗賊団の親玉と結ばれて、一緒の人生を歩んでいくのよ?
今度、ルーナ様に会ったら『あの男はやめた方がいいわよ』って言ってあげよう。
ルーナ様のためにも先にぶん殴って、二度とスリや略奪なんてできないようにして、解決しておくのがいいわね!
盗賊団潰しなんてよくあることで、そろそろ慣れてきた。
聖女アマネの予言によって多くの人が救われた。
でも、予言で嵐は止められない。
避難した民の多くは暮らしていた場所を追われて今、大変なのよ。
さらに王国中が混乱したまま、次は魔獣の被害が増え始めてしまった。
そうなるともう荒れる地域は本当に荒れてしまうのよね。
私だって明らかに食べるのに困った挙句に落ちぶれたような相手なら、少しは処遇を考える。
けど聞くかぎり、ゴルドとシルバってやつは前からの悪党みたいじゃない。
ただでさえ困っている民をさらに困らせる存在なんて魔獣と同じよね。
だから私が片付けることにした。
しかも連中は冒険者ギルドの退治依頼の対象でもあるの。
生活費稼ぎにもおいしい獲物よ!
「リンやヨナを養っていくためにも稼ぐわよ!」
「お嬢に働かせるぐらいなら私が働きますけどね」
「主人が従者や保護した子を養うのは当然のことじゃない、だからいいのよ!」
「……そう言われてしまうとそうかもしれませんが」
今や私とリンディスは直接の主従関係よ。
お父様が雇って私の執事をやらせていた時とは大きく変わった。
今の私にはリンディスを雇う責任があるの。だから稼がないとね!
宿を取ってヨナと馬車は街に置いていく。
流石に盗賊団のアジトに突撃……潜入するのにヨナは連れていけないわ。
私とリンディスはそれぞれ馬に乗り、領地間の境を目指す。
連中が縄張りにしている地域の、街道から少し外れた森の中ね。
「ところでお嬢。どうも先日から私たちを監視している目があるようなのですが」
「監視?」
「はい。誰が、とまではわからないのですが視線を感じるのです」
「ふぅん……? 監視なんて誰がなんの目的でするのかしら?」
「そこまではわかりません」
私たちを監視する者。そんなことして誰が得するの?
王家からの調査員かしら。それともヨナを狙う邪教の仲間?
「目的がわかりませんので、どうか警戒していてください」
まぁ、見られているだけなら害はないわ。何も隠してなんていないからね。
そうして二人で移動していたところで。
「まぁ、大変」
「これは……?」
荒らされたあとの荷車を見つけた。それに倒れている人も。
すぐに救命活動に移る。明らかに襲われたあとね。
「息はあるようですが……」
「よかったわね」
人が倒れていて、荒らされた荷車。荷運び中の商人関係ね。
危ないって噂になっている地域なのに護衛もなしに移動していたのかしら。
「お嬢、あちらにも倒れている人がいます。ただ……」
「どうしたの?」
「いえ、その。身なりが汚れているな、と。倒れていた彼の同僚とは思えないような?」
「もしかして、この荷車を襲った奴?」
「そうかもしれません。念のため、拘束しておいた方がいいかと」
「わかったわ。棘なし拘束薔薇!」
棘のない、丈夫な蔓を持つ薔薇を咲かせて、気を失っている男を拘束する。
「襲った側と襲われた側が一緒になって気を失っているの?」
「それがなんというか、争った様子がないんですよね。二人とも無抵抗、或いは気づく間もなく意識を奪われたような?」
「変な話ねぇ」
ひとまず襲われた方が目を覚ますまで待つことにする。放置してはいけないからね。




