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傾国の悪女になんかなりません! ~蛮族令嬢クリスティナは予言された破滅フラグを【カンスト】パワーでへし折ります~【書籍化・コミカライズ企画進行中】  作者: 川崎悠
二章 アルフィナ領への旅

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24 人魂

 街に着いた時、商業ギルドに薔薇を売る許可を取った。

 助けた商人とリンディスが一緒に手続きをがんばってくれたのよ。


 〝貴族の証明〟と呼ばれる黄金のペンダントを持っていたおかげで、あっさり許可を取れたわ。

 この貴族の証明は王宮を出る時に支給されたものね。


 じゃあ、さっそく商売を始めるわよ!

 店を出した場所は表通りではあるものの端の方。

 他店の邪魔にはならないけど、集客はあまり見込めなさそうなところに馬車を陣取った。

 いきなり出店しようとしても、いい場所は取れないみたいね。


「綺麗なお嬢さん、薔薇を売っているのかい?」


 少し年をとったおばあちゃんが私に話しかけてくる。私は薔薇の売り子よ。


「ええ! 四日はちゃんと花らしく咲いてくれる薔薇よ! それ以上は管理次第ね!」


 【天与】で咲かせた薔薇は、私の意識から切り離せば普通の薔薇になるみたい。


「変な売り文句だねぇ。でも綺麗だね」

「フフン! 何か危ないことがあったら、すぐに捨てればいいわ!」

「……薔薇を売りたいのか、売りたくないのかわからない台詞だねぇ」

「これは安全性の説明よ!」

「いや、そんなド直球に説明しろとは言っていないです、お嬢」


 フフン! 私は胸を張ったわ。


「褒めていませんよ?」

「褒めなさい!」

「……商売に向かないね、クリスティナお姉ちゃん」


 あら! ヨナが生意気なことを言うようになったわ!

 これもヨナが元気になった証拠ね!


「あらぁ、お嬢さんだけじゃなく、売り子さん、みぃんな綺麗なのね」


 これは確実に褒められたわね! 悪い気はしないわ!


「よければ一輪でもいかがでしょう? マドモアゼル」


 そこで、なんだかリンディスがキザったらしく口にしているわね。

 それだけで集まった女性陣から黄色い声が上がる。

 おかしいわね! 私よりリンディスが前に立った方が売れるじゃないの!


「お姉ちゃんもがんばってね」

「ええ、がんばるわ!」


 ヨナは本当にいい子ね!



 商人を街まで護衛し、商業ギルドの許可を取って薔薇を売った。

 リンディスが売り子をしていたおかげでそれなりに売れたわ。


 やっぱりイリス神の象徴だけあって、薔薇はこの国では価値が高いのよね。

 少しだけ懐は温かくなったけれど、贅沢(ぜいたく)はできない。

 なので、街から少し離れた場所で野営する。


 今は馬車があるから、少しだけ以前より寝る場所はマシになったわね。

 荷物をそこまで積んでいないから馬車の中に寝るだけのスペースがあるの。


 そうして夜中、寝ていた私はなんだか嫌な気配を感じて目を覚ます。

 ふと馬車の外を見ると、空にフラフラと光るなにかが漂っていることに気づいた。


「何かしら、あれ」


 その光を追っていくと、それはリンディスやヨナがいる場所に向かう。

 私は起きて、その光を追いかけた。すぐにリンディスが私に気づく。


「お嬢? どうしましたか」

「リン? 貴方っていつ寝ているの?」

「仮眠はとっていますよ。それよりもお嬢は?」

「うーん、なんかね。あの光が」

「光?」


 あれ? もしかしてリンディスには見えてない?

 確かになんだか弱々しい光なのよね。虫かなにかが光っているのかしら。

 ただフラフラしているけど目的があって進んでいるようにも見える。

 やがて私たちがいる場所まで光は降りてきた。これ、魔獣の一種かしら?

 何か気配があるのよね。ただ光っているだけじゃないみたい。


「リン、見える? この光」

「いえ……私には見えません。お嬢にだけ見えているようです」

「そうなのね」


 リンディスが見えないってことは魔術による隠蔽とも違うのかしら。

 私にだけ見えるということは【天与】の関係?

 たゆたう光は、そのまま吸い込まれるようにヨナに。


「それはだめじゃない?」


 光は明らかにヨナによからぬことをしようとしていた。

 私はそんなことを認められないから、その光を追い払おうとする。

 でも、手が光に触れた途端。


『おいおい、俺様の体なのに、なんで勝手にどこかに行きやがるんだ?』


 聞き覚えのある声。この声、確か『予言』の夢の中で聞こえたヨナもどき(・・・)の声だ。


「気持ち悪い!」


 パン! と、私は光の塊を思いきり引っ(ぱた)いた。


『ぐわぁあ⁉』


 悲鳴をあげながら、光の塊が森の向こうへ飛んでいく。


「あれ、なに? もしかして人の魂? ヨナを乗っ取ろうとしていたやつかも!」

「私にはなにも見えなかったのですが」

「光に触れた途端、声がしたのよ。ヨナを自分の身体みたいに言っていたの! 気持ち悪くて、つい叩き飛ばしちゃったわ!」

「それはよかった……のですかね? お嬢がヨナを守ってくださったと」

「守ったのかしら?」

「ヨナに取り憑こうとした、そういう系の魔獣なんでしょうか。幽霊系の?」

「知らないけど、きちんと倒しておいた方がよかったかも」


 私は光を叩き飛ばしてしまった方角を見る。


「リン、明日はあっちの方に行くわね」

「……承知しました、お嬢」


 なんだか厄介な予感がするのよねぇ。



「僕に幽霊が取り憑こうとしていたの?」

「そうなの! 私にしか見えなかったみたいだけど、気持ち悪いこと考えていたみたい!」

「そうなんだ。ありがとう、クリスティナお姉ちゃん、また助けてくれたんだね」

「いいのよ、ヨナ!」


 飛んでいった光を念のために調査する。

 そのために森の奥へ進むと道が見えてきた。

 人が通る道があり、近くに村があるみたい。

 けど、なにかモヤモヤっとした感じがするわ。


「引き返すわよ、リン、ヨナ」

「え? はい、それは構いませんが。どうしたんですか、お嬢」

「なにか嫌な予感がするの。だから別の場所で情報収集してからこの先に行きましょう」


 前までもそうだったんだけど、私は勘を信じて行動することが多い。

 〝いやなこと〟が起きそうな予感っていうのかしら。そういうことは避けてきたの。

 『毒薔薇』の【天与】を使えるようになってから、以前よりもその感覚が強くなった。

 実は、こういう勘の積み重ねが『予言』なのかもね。



 情報収集のために、嫌な予感がしたのとは違う方向にある街へ向かう。

 それと少しだけ増えた資金を元手に必要な物の買い足しね。

 とくにヨナなんて自分の持ち物は皆無だもの。そんなのさびしいじゃない?

 着るものとかは、ヘルゼン子爵に少し融通してもらったけどね。


「私たちだけではなく、お嬢の持ち物もしっかり増やしましょう」

「私はいいんだけどねぇ。欲しい物はエルトに貰ったもの」


 リンディスったら買い物する度にこれなんだもの。

 私はエルトから魔法銀の剣を貰ったので、これといった欲しいものがない。


「年頃の娘として惨めな思いなど欠片もさせません。させてなるものか」

「なんで私よりリンの方が本気なの?」

「お嬢が豊かになるだけで、お嬢の敵が悔しい思いをするのですよ」

「ふぅん……?」


 そう言われても困るわね!

 けど、こうやってリンディスがいつも気を配っていてくれたからこそ、私は今まで侯爵令嬢としてやってこられたんだと思う。

 マリウス家での私の扱いなんて最低だったからね!

 リンディスには感謝しているのよ。


 そのあとも私たちは買い物をしつつ、情報収集する。


「盗賊団のアジト、ですか?」

「ええ、あの方面には有名なのがいてねぇ」

「有名なのに放置されていたの? 盗賊が?」

「それはそうなんだけど……連中もうまく立ち回っていたんだよ」


 昨日、嫌な予感がした方向にはどうやら盗賊団のアジトがあるみたい。

 無策で行かなくて正解だったわね!


「お嬢ってどうしてこう無駄な勘がいいんでしょう?」

「無駄な勘じゃないわよ!」


 役に立っているじゃないの!


「勘を全面的に信用して行動できるのもすごいですよね……」

「フフン!」

「褒めていないんですよねぇ。振り回される身になってほしいんですよ」

「褒めていいところでしょう!」

「あはは」


 そんなやり取りをしながら。

 情報をまとめると盗賊団のアジトには、ならず者がいる。

 それでその盗賊団のリーダーらしき人物が、なんと二人もいるらしいの。

 その名も〝ゴルド〟と〝シルバ〟だって。本名なのかしら? 兄弟かしら?

 近隣の被害もそれなりにあるみたい。

 領地の戦力である衛兵も手を焼いているんだとか。


「どうやら領地の境界付近をうまく行き来しながら悪事を働いているようですね」

「領地間を移動する商人を狙っているとか?」

「いえ、各地方の領主を牽制しているようです。『その場所の問題なら、隣の領地の問題だろう』と、そう考えさせることで盗賊団への対処を遅らせているのでしょう」

「そんなの、領主同士が協力すれば一発で終わりじゃない?」

「それなんですが……、どうも領主同士の仲が悪いらしくて」

「うわぁ、めんどうくさいわね!」


 こういうの、誰が解決すべき問題なのかしら?

 領主同士のいさかいなら、爵位が上の貴族か、王族?

 領主がそんな有様のせいで民に犠牲が出ているなんてあきれるわね。


「……お嬢」

「知った以上は放っておけないんじゃない? ヨナを襲おうとした光の件もあるし」

「そうですね……」


 リンディスは困ったようにそう答える。


「といっても、流石に長引くようなら手を引いた方がいいんでしょうけどね」


 私たちの本来の目的地はアルフィナ領よ。

 そこに発生すると予言されている大量の魔獣災害の解決が目的。

 寄り道するにも限度があるの。まぁ、アマネの予言を信じるなら、だけどね。

 でも、放っておけないし、誰かの解決を待っていたら取り返しがつかないかもしれない。


「なら、手早く解決するのが一番ね!」

「はぁ……。危ないことはしないでくださいね、お嬢」

「それはケースバイケースよ!」

 リンディスがますます深く溜息をつく。

 でもリンディスなら私についてきてくれるわ!


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