23 金の獅子と青い薔薇
助けた商人に最近の世情を聞きながら、街まで彼らの護衛も兼ねて同行する。
私が王都を追放されてから、それなりに経っているから、いろいろと聞いておかないとね。
「予言の聖女様と、聖女様によって見出され、新たに【天与】を授かった女性がレヴァン殿下と供に旅立ったと商人たちの間でも話題になっています」
「ルーナ様、もう旅を始めているのね。王都からどこに向かったかは聞いている?」
「まずは南に向かったようですね」
馬上から商人の馬車に並走しつつ、話を聞く。リンディスとヨナが乗る馬車は後方よ。
「南に行ったあとは、すぐに王都に戻り、次は東か北かという話で」
「ふぅん? 何だか非効率的な予定に聞こえるけど」
「そうなのです。我々も首を傾げていたのですが、どうも予言の聖女様の指示で行き先を決めているらしく、それであっちへ行ったり、こっちへ来たりの旅になるようですよ」
「あー……。予言が基準ね」
現状、ルーナ様しか『大地の傷』を浄化することができないと認識されている。
私もできるとは伝えてもらったんだけど信じてもらえるか、あやしいわよね。
だからルーナ様に効率よく国内を巡ってもらうかを考えないといけない。
そこで予言の聖女アマネの出番ってわけ。妥当な判断ではあるわよね。
それでアマネの信用度が上がると『傾国の悪女』になると言われた私の立場が、より厳しくなるんだけどね!
「同行しているのは第三騎士団で、中でも若い騎士たちだそうです。ベルグシュタット伯爵令息、かの『金の獅子』が隊長となり、部隊を率いているとか。レヴァン殿下と予言の聖女様、金の獅子と新たな天子様が並び、とても華やかな一団であると評判ですよ」
「ふふ、華やかなのはいいことね」
『金の獅子』というのは以前に出会ったレヴァンの親友、エルト・ベルグシュタットのこと。
金髪、翡翠の瞳をした騎士のことよ。
エルトのことを思い浮かべながら、ふと気になったので商人にそのまま聞いてみる。
「そういえばエルトが『金の獅子』って言われた話。あれの詳しい話、知っている?」
私がそう尋ねると商人は困惑する。
さっきから私がルーナ様やエルトを気軽に呼んでいるからね。
「たしか、ベルグシュタット伯爵令息はレヴァン殿下と親しいらしく……」
「そうらしいわね!」
エルトは、私の元婚約者であるレヴァンと親友なのよ。
ちょっと前まで、私とは顔を合わせたこともなかったんだけどね。
「その日は、王太子殿下とともに狩りに出られていたとか。危険度の高い魔獣ではなく貴族の嗜みとしての狩りだったそうなんですがね。しかし、反乱分子といいますか。こともあろうにレヴァン殿下を襲わんとする連中が現れ……」
「あら、それは聞いたことがないわ」
その当時なら私、まだレヴァンの婚約者だったのに。
「いや、その連中はあっという間に蹴散らされたそうなんですな。それこそ話題にもならないほど、あっさりと。かの騎士様が強すぎて、あっという間に倒されたとか」
「流石はエルトね!」
「さらにそのあと、すぐのことです。お二人……いえ、他にも護衛の騎士はいたでしょうが。とにかく一行が魔獣に襲われたのです。続けざまといいますか」
「人に襲われて、それを片付けたあとで息をつく暇もなく、今度は魔獣に襲われたのね」
「そうなのです。その魔獣は、これまで見たこともないほどの大型であったとか」
「まぁ、大ピンチじゃない!」
「ええ、ええ! しかし、そこはかのベルグシュタット卿! 他の騎士たちを率いながらも圧倒的な活躍で魔獣を打ち倒したのです! 脅威をしりぞけたその実力、王太子を救ったその功績から、かの方が『金の獅子』と呼ばれるようになったのでございます。この話は市井でも広く知られています。今回の魔獣災害の件も新たな天子様もそうですが、やはりレヴァン殿下、金の獅子、予言の聖女が共に動いているというのが民の安心に繋がっているのでしょうねぇ」
「ふふ、民の心が明るくなるのなら、とてもいいことね!」
こうして話している商人も、ルーナ様一行の旅が希望になっているみたい。
ルーナ様やエルトたちが評価されるのはいいのよ、私もなんだか嬉しいわ。
予言の聖女アマネだけはどうかと思うけどね!
「ところで、その」
「なぁに?」
「貴方様は一体……?」
「私? そうねぇ」
助けた彼らに私はまだ名乗っていなかった。
なんとも希望に満ちあふれたルーナ様一行の話のあとに出てくるのが私。
「貴方様も【天与】を授かっているようですが……、しかも光と薔薇の……」
商人は、ごくりと喉を鳴らしながら、私を改めて見てくる。
「もしや、貴方様は、女神様の現身であられるとか……?」
「あはは! 女神の現身! それだったらすごいわね!」
ちなみに三女神の一柱、メテリア神の象徴が『光』なのよね。
『怪力』の【天与】で私の拳や体が光る。
薔薇がイリス神の象徴なのもそうだけど、ある意味で私は『光』も兼ねているってこと。
これで、あとシュレイジア神の象徴である『蝶』を従えていたら完璧ね!
「違うのでしょうか。とてつもなく美しく、剣と薔薇、光を携えていらっしゃって……」
「あら、美しいなんてありがとう。でも残念だけど違うわ。私はね」
私はお気に入りである深紅の赤髪を払いながら微笑む。
「『傾国の悪女』らしいわ」
「え……?」
「まぁ、私は、傾国の悪女になんかならないけどね!」
フフン! と私は胸を張ったのよ。
聖女の予言を覆す。それもまた私の旅の目的なんだから。
「ねぇ、見て! リン、ヨナ!」
「わ、お姉ちゃん、綺麗」
「そうでしょう! もっと褒めていいわよ!」
髪に差す薔薇の花飾りを作ってみた。片側にだけ飾りつけるのがポイントね!
「薔薇の髪飾りですか、いいですね」
「ええ! 薔薇は、いくらでも生やせるし、大きさも自在ね!」
「服にも薔薇がついているよ、リンディスさん」
「本当ですね」
大きさも自在だから、ちょうどいい大きさに薔薇を揃えて飾ってみたわ。
連れ立った商人にも見てもらい、いい感じに仕上げたの。
「これなら、ちょっとした服さえあれば、いつでも豪華っぽいドレスに仕立てられるわね!」
「そうですね。緊急の際には、それでまかなうといいでしょう。ドレスを持たないお嬢を招いて陥れようとする貴族令嬢がいたら、その薔薇のドレスで一泡ふかせてやれそうです。ふふふ……」
「り、リンディスさん?」
フフン! 褒めているのかしら? ちょっとリンディスが黒いわよ!
「お嬢を陥れようとする敵は許しませんので。ヨナもいいですか? これは常識です」
「えっ」
リンディスが黒い笑みを浮かべてヨナを驚かせているわ。
よくわからない教育現場を見せられているわね!
「いやぁ、しかし。本当にお綺麗です、クリスティナ様」
「フフン! いいお世辞ね!」
「お世辞だなんて、本当にお綺麗ですし、薔薇がお似合いですよ」
商人たちにも褒められて悪い気はしないわ。
どうしてこんなことをしているかというと薔薇が売り物にならないか、商人に相談していたの。
その流れで装飾を作ってみることにしたのよ。
「じゃあ馬車に咲かせておくわ!」
私は幌馬車の幌部分の外側に薔薇を咲かせ、飾りつけていく。
淡く光り続ける浄化薔薇ね! 魔獣を倒したり、大地の傷を浄化したりするだけじゃなく、こういう使い方をするのもいいわね!
「なかなかに綺麗ね!」
「なんだかいい匂いがする……」
「あとは何ができるかしら?」
薔薇を咲かせる、薔薇で飾る、薔薇で戦う。
「一口に薔薇と言っても、その種類は多くあります。【天与】ならば、それらの多様な薔薇を咲かせることも可能なのではありませんか」
「そうね! たとえば、何があるの? 色が違うのがたくさんあるわよね!」
「残念ながら私はそこまで薔薇に詳しくはありませんが……。リュミエール王国では、薔薇は大切な花ですからね。神殿や花屋に行けば、いい話が聞けそうです」
「うん、いいアイデアだわ!」
三女神の一柱の象徴だからね! 私が知らないこともたくさんありそう!
そういえば、どこかで『青い薔薇』は決して咲かないなんて聞いたことがあるわ!
まずはそれをやってみましょうか!
「青い薔薇よ、咲きなさい!」
私は、手を伸ばして、手のひらの中に薔薇を咲かせる。
そうすると色鮮やかな青い薔薇が咲いたわ!
「え……」
「わぁ、綺麗! すごいね、クリスティナお姉ちゃん!」
「フフン!」
素直に褒めてくれるヨナに私は胸を張って得意な顔をするわ!
リンディスはお小言が先にきて、あんまり褒めてくれないのよね!
「青い薔薇……」
「たしか、咲くはずがないと聞いたことがあるような……」
「私も聞いたことがあるわね! だから試してみたのよ! フフン!」
「あわわ……れ、歴史が動きましたか、今……?」
「……このことは、ご内密に」
「そ、それは……はい、わかりました」
なによ、薔薇の色を変えただけなのに。
青い薔薇が今なくても、いつか咲くんじゃない?
たぶん、もっとすごいことができるわよ?
というか、浄化薔薇なんて光っているんだからね!
どう考えても、そっちの方がすごいと思うわ!
「……お嬢、売る薔薇はきちんと選びましょうね」
「ええ! もちろんよ。綺麗なものがいいものね!」
「そういうことじゃ、いえ、まぁ、そうですね」
旅を続けながら薔薇についても知っていかないとね。




