19 いずれ悪女になる女
「──フン!」
ドゴン! と私は、閉ざされていた扉を粉砕して、こじ開けたわ!
「お見事。鍵要らずですね、お嬢。……後片付けが大変ですが」
「フフン!」
私とリンディスは、邪教徒たちのアジトにやって来たの。
リンディスが調査したところ、囚われている人たちが居るみたいだったから。
捜索依頼が出されていた女性たちが、そこに居るかもしれないのよ。
ちなみに邪神のそばに居た連中は、その場で『薔薇の蔓』で捕縛して放置してきたわ!
逃げ出した連中を追いかけなくちゃなんだけど、まずは人命救助よね!
「潜入調査ね! ワクワクするわ!」
「扉を粉砕して入っていますが。潜入とは」
そうこうしている間にも、アジトに残っていた男たちが、私たちの前にやって来たの。
「な、なんだ、お前たち、お前は!?」
「──フンッ!」
バキィ!
「ふべっ!?」
潜入中の私たちは、バッタバッタと男たちを殴り倒して、薔薇の蔓で縛りつけていったわ!
「潜入とは……?」
うん。これで、だいたいは片付いたんじゃないかしら!
「──御免」
「うぐっ」
リンディスも、私に注意を向けて油断した男を背後から倒していたのよ。あっちの方が楽そうね!
「ここの階段の下ね!」
「はい、お嬢。この先に地下牢があるはずです」
階段を降りていく私たち。そこにはリンディスの言う通り、地下牢があった。
牢の中には女の子たちが居る! やっぱり居なくなった子たちだわ!
「牢の鍵は、こちらに……」
「──フンッ!」
私は、鉄格子についた扉を殴って破壊したわ! これで彼女たちを助けられるわね!
「……ですよねー」
何故かリンディスが遠い目をしているわね! フフン!
「貴方たち、助けに来たわよ!」
彼女たちは、白いローブを着せられている。縛られてはいないみたい。
でも、とても疲弊している様子だわ。
「失礼、レディー」
彼女たちの介抱はリンディスに任せて、私は、すべての牢の鍵を端から壊していった。
地下牢はいくつもあって、その中に数人ずつ、合計で十人もの女性が捕まっていたわ。
「度し難いわね!」
「まったくですね」
捕まえた男たちは、改めて懲らしめないといけないわね!
「……あの」
「なぁに。もう大丈夫よ。貴方たちは全員、助けるから」
私は、捕まっていた女性の前に膝をついて、その手を取った。
「あ、ありがとう、ございます……。あの、奥に……もう一人、居て」
「もう一人?」
「銀髪の少年が……」
銀髪の少年! それって、私があいつらに捕まった時に介抱しようとした子じゃない?
「リン、この子たちを任せるわよ」
「分かりました、お嬢」
私は、地下牢の並んだ通路の一番奥へと向かった。
そこには、確か銀髪の子供が閉じ込められていたの。
「──フンッ!」
私は光る拳で、その牢屋の扉を壊して入って行く。
やっぱり、あの時の子供だわ。この子も捕まっていたのね。
……この子、確か、あの時は魔術? を使って私の意識を奪ったけど。
あの時の彼は、どう考えても正気って雰囲気じゃなかった。操られていたと思うの。
だから私は、彼の周りに『光る薔薇』を咲かせたわ。
あの邪神の類の何かが、彼に悪影響を与えているのなら。
それを浄化し、癒しなさい、と祈りながら。
「う……」
「気付いた?」
抱き起こすと、ゆっくりと目を開いていく少年。
リンディスと同じ銀髪。でも瞳の色はアメジストのような淡い紫色。
「助けに来たわよ!」
私の姿に驚いた表情を浮かべる男の子。
「……お姉ちゃん、誰?」
「私? 私はクリスティナよ。貴方を助けに来たの。貴方の名前は何かしら?」
私は衰弱している男の子の身体を抱き上げてあげる。
「僕の、名前は……ヨナ……です」
「ヨナね! いい名前だわ!」
「ありが……とう。……お姉ちゃん、は……」
「クリスティナでいいわよ!」
私はヨナに微笑み掛けた。
「……お姉ちゃん、綺麗、だね……」
「フフン! そうでしょう! 私はフィオナが認めるほどの美人なのよ!」
「ふぃお……?」
「気にしなくていいわ!」
まぁ、気になるでしょうけれど! とにかく、この子も連れていきましょう。
これで全員かしら? 衰弱が激しそうだから、きちんと療養させてあげたいわ。
「お姉ちゃんは、何者……、なの?」
「何者?」
「身体が、光っている……から。それに、凄い、力を……感じる」
「ふぅん。分かるの? そういうの」
「たぶん……」
ヨナは可愛らしく首を傾げたわ。なんだか小動物みたいで可愛いらしいわね!
「ふぅん。貴方は『魔族』なの? ヨナ」
「……、はい……」
あら。なんだか魔族と尋ねただけなのに萎縮しちゃったわね。
「まぁ気にする事はないわ! リンだって魔族なんだからね!」
「誰……?」
「私の従者よ! 貴方と同じ魔族なの! 同族、つまり仲間ね!」
「え……。他にも、魔族が……?」
「ええ! だから元気になったら、いっぱい、リンとお話しするといいわ、ヨナ!」
「……うん。あり、がと……お姉ちゃん……」
それから、私が『何者なのか』ね。今はもう『王子の婚約者』じゃない。
マリウス侯爵令嬢としての立場も、いつ失くしてしまうか分からない。
あら。そう考えると私のアイデンティティーって、どこにあるのかしら?
「私は、うん。私はね」
どうして身体が光っているのかっていうと、それは【天与】のせいよ。
そんな力を振るう私が、一体何者なのか。夢の中の『私』の力まで借りて。
適切に言うなら……そうね! 私は!
「──いずれ悪女になる女よ!」
そんな風に笑って見せたの。
もちろん、傾国なんてする気はないけれど。
『悪女』の力で、人を助けられるのなら……それも悪くないわよね!