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超人、あるいは変化をもたらす者。  作者: えくり
ウルム編
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7.試験、あるいは自己を表現するもの。

 翌朝、晴人たち6人の姿は冒険者ギルドの地下訓練場にあった。それぞれ冒険者なりギルド職員なりに戦い方を教わっている。もちろん親切で教えてもらっているわけではなくて、対価を払うわけだが。

ギルドが立て替えて、冒険者登録後の報酬金から少しずつ返済していくということでデメリットよりメリットのほうが大きいだろう。

 魔法は勿論のこと、盾も槍も弓も、ちゃんと使ったことがない彼らが独学で使いこなせるようになるはずもなく、すこぶる賢明な判断であった。

「にしても、パーティ内に弓使いが二人とはなかなかおもしれえ編成だな」

「それについてはだいぶ誤算ですね」

「ま、パーティによっちゃ全員近接とかもザラにあるし戦略と戦術をちゃんと練ればうまく機能するだろうよ。……にしても、アカネはすげえセンスだな。俺が教えられることはもうねえ。何ならハルトがかわいそうなくらいだぜ」

 そう、晴人はというと、朱音と一緒に弓を使う冒険者であるハインリヒから戦い方を学んでいるところだった。

 本来であればいくらプロに教わるといっても数時間で習得できたりするものではないが、そこはスキル様様である。

 弓術スキルがあれば“何となく”弓の使い方がわかるのだ。

 例えば、生まれてきた子供がいずれ何となく歩き始めるように。例えば、教習所に行った人が最初の教習から何となく自動車を運転できるように。

 そして、スキルレベルの高さに応じて、何となくでやったことの精度も高くなっている。もちろんこれを“ちゃんと”わかるようにするためには訓練やら経験やら知識やらが必要となるのだが。

 もっとも、晴人たちは天使からもらったスキルであるからこそ、何となく弓を使えるように感じているが、この世界の住人にとっては逆である。経験やら知識やらを積んでうまく扱えるようになって初めて、その技能に応じたスキルを取得できるのだ。

 そういう意味では、同レベルのスキルを持ったこの世界の冒険者に比べれば、晴人たちの実力は幾分劣るのだろう。あるいは、晴人たちには成長の余地が大いに残されているということでもあるが。

「弓の扱いに関してはこんなもんかな。アカネのほうは俺より上手い奴に教わればもっと伸びるだろうが、これだけできれば魔物とも十分戦えるだろ。あとは実戦で吸収したほうが早え」

「あ、ありがとうございます」

「ハルトのほうも、狙撃術がどんなんか知らねえが、まあパーティも組んでるし何とかなるだろ。ってわけで講習は終わりな」

「ありがとうございました」


 自分たちの講習が終わり手の空いた晴人と朱音が地下訓練場内を見回すと、春歌と美波もすでに一通りを教わったようで、同じように手持無沙汰にしていた。

「お疲れ様。どうだった?」

「朱音さん。お疲れ様です。ま、魔法の使い方を教えていただいて、一応使えるようにはなりました。ただ、聖魔法を使うのは教会所属の人がほとんどらしく、詳しいことはそちらで教わる方がよいとのことでした」

「なるほど、イメージ通りっちゃイメージ通りね。春歌は?」

「うちも同じ感じですね。魔法の使い方はわかったけど、使役魔法は使役する対象がいないと何もできないから、ここじゃどうしようもないみたいで」

「いま思えば僕ら、魔法使いっぽい魔法使いがいないね」

 使役魔法がたいてい索敵や牽制に使われることを考えればこちらの攻撃は物理攻撃が4枚積まれているだけである。使役魔法を攻撃にまわすにしても、魔法を使える何かを使役しない限りそれも物理攻撃であろう。

「その役割をあんたがすると思ってたんだけどね」

「それはまあ、すまん。物理が通らない敵が出てきたら、この世界の人を雇うか、他のパーティと合流するか考えよう。僕たちが魔法を習得するっていう手もあるか」

 この世界の人間は魔法のスキルなんて持っていない状態で生まれて、いつの間にか魔法を習得しているはずだ。魔力操作なりなんなりを鍛えた結果なんだろうが、ノウハウさえわかれば晴人たちにできないこともない、と思いたい。

 ついでに魔法の使い方を教わってしまおうかとも思ったが、朱音の声にさえぎられた。

「ま、そのときはそのときね。それよりはまず、あのバカ二人を止めに行きましょ」

 そういって朱音の向けた視線を辿ると、和眞が貴洋の盾に槍を打ち込んでいる。二人の講習はなかなか長いなと思ったが、実はとうの前に終わっていて、今は二人で模擬戦をしているところだった。

 晴人としては、より実戦向けというか、試験のためにも魔物と戦うためにも良いことだと思っていたが、朱音の考えは違ったらしい。

「ちょっと、あんたたち。その盾も槍も高かったんだからね? 壊したらどうするつもりよ」

「実戦で使おうとしてる武器が、こんな模擬戦じゃ壊れねえって」

「それにオレたちだってちゃんと手加減できるっすよ」

 ちょうど楽しくなってきたところで水を差された二人が不服そうに反論する。

「ったく。私たちは高レベルのスキルを持ってるのよ? しかも基礎能力も高くしてもらってる。こんなステータスどうしが打ち合って耐えられる武器なんてその辺の街中に売ってるわけないじゃない」

「…………。まあ、そういうことにしといてやろう。そもそもはお前らが終わるまでの時間つぶしだったわけだしな」

「そうっすね。貴洋さんをケガさせちゃっても嫌っすから」

「二人とも熱心なのはいいことだけど、どうせこれからいやって程戦うんだから、適当に温存しときなさい」

 そんな聞き分けがいいなら最初に止められた時点でやめとけばいいのに、そう思いつつパーティの面々は集合する。

 6人全員が試験には受かるだろうという程度になったことを確認し、いよいよ冒険者登録試験を受けることになった。



 登録の申出をすると、朝の混雑時間を過ぎて手持無沙汰になったらしいミシェルさんが受け付けてくれた。知らない人ばかりの街で、数少ない知り合いのミシェルさんが担当してくれるのはありがたい。もっとも、晴人と春歌以外の4人はさっき出会ったばかりなのだが。

 冒険者になる前からパーティが組まれていることは珍しいらしく、一人ひとり試験を受けなければならない決まりらしい。

「では、今から試験官と一対一で模擬戦闘を行っていただきます。試験官に有効な攻撃が入らなくても、成長の見込みがあるようでしたら合格になりますから、頑張ってください」

「あの……、試験場はここじゃないとだめですか?」

 晴人が焦ったように質問を投げる。

「どういうことでしょう」

「あー、僕の能力は白兵戦向きじゃなくてですね、できれば森のなかとか実戦と同じ環境で試験を受けたいんですが」

「ご心配なさらないでください。今回あなたたちを相手にするのはギルド長のジョゼフです。弓使いの方も何度となく相手していますから。白兵戦で不利なことも踏まえたうえで判断しますよ」

 そういって、問答無用に試験場に立たされる晴人。そして向かい合うのはジョゼフという白髪の男。ギルド長という名にふさわしく、戦うことにも冒険者を評価することにも慣れている、そんな雰囲気を醸し出している。そして晴人より頭一つ分大きいその身体には無駄のない筋肉がついていて、なるほど、これがこの世界に生きるということか。

ジョゼフは剣を構え、呼吸を整える。張り詰めた空気は歴戦の戦士であることを示している。何なら威圧感だけで魔物を殺せてしまいそうだ。

さて、この期に及んで晴人に残された選択肢はそう多くない。

プランA。一応何発か矢を射、最低限の能力はあることを示して合格をいただく方法。急所を狙えればおそらく不合格にはならない。パーティを組んでいるから僕が低いランクでも別に困らない。ローリスクローリターンだけど、妥当な案ではある。

プランB。初手で後退して距離を取り、部屋中を走りまわりながら遠距離攻撃を続ける方法。実際に白兵戦になったらおそらくこう戦う。ただし、ジョゼフ氏に距離を詰められたら最悪何もできずに負わる。つまり、実質俊敏さの勝負になる。

プランC。目くらましのために一発撃ち、その隙に距離を取る。その後、急所を狙う渾身の一発を放つ方法。晴人のスキルをわかりやすく示すには最適。が、果たして目くらましは効くのか? 距離を十分にとれるのか? 不安要素は多い。

「ま、実質一択なんだけどね」

 開始の合図とともに、つがえていた矢をジョセフ氏の膝に向けて放つ。さすがにわざわざダメージを負うことはしないらしく、剣を一振りして払った。

 おそらくジョセフ氏としては、あえて少しゆっくり動くことで晴人の能力を推しはかろうとしたのだろう。そして、その目論見は現に成功することとなった。

 晴人は一瞬の退却に全脚力を注ぎ、目一杯距離を取る。もちろんその後すぐ息を整えることも射撃体勢を採ることも難しいので、片膝をつく。いわゆるしゃがみ撃ちの体勢である。本当は寝撃ちの姿勢を取りたかったが、弓が大きくて不可能だった。

 そもそもしゃがみ撃ちで精度が上がるのかは知らないが、まあ何となくの感覚ではその方が命中率が上がるような気がした、という話である。狙撃術をもっている以上、その直感が正しかろう。

「射」

 一射目より明らかに速い矢がジョゼフ氏の左わき腹をめがけて一直線に進む。

「なるほど」

 他方、遠距離からの攻撃が迫るジョゼフ氏はというと、にやりと笑みを浮かべるや、構えていた剣でその弾道を払いのけてしまう。

 晴人の渾身の一射も、ジョゼフ氏には見切られていたらしい。

 一瞬、さらなる追撃が来ることを期待するような視線で晴人を見やったが、彼にその気がないと察するや否や晴人に詰め寄り、眼前に切っ先を向ける。

 全力で逃げようと思えばおそらく多少の時間は稼げたであろう晴人だが、そうすることはなく、ただただ自分が詰んだことを受入れた。

「以上」

 試験は終了し、みんなのいるベンチへと戻る。

「ギルド長、ハルト君はどうでしたか?」

「Fランク合格でいいでしょう。瞬発力といい、射撃の威力、精度といい弓使いとして必要な能力は十分に持っていると思います。実力だけで言えばEランクかDランク相当でしょう。しかしながら、冒険者としてのマインドが大きく欠けているように見られます。試験に受かればよいという考えが見え透いていました。実戦を積んで成長することを期待しています」

「そうですか。では、ハルト君。あなたはFランクで冒険者登録をするということで」

「……わかりました」

「ジョゼフさんの助言は少し厳しく聞こえるかもしれませんが、必要なことです。どうか頭にとどめて頑張ってください」

「はあ、気を付けます」

 その後、貴洋、朱音と続いていって、パーティみんなが試験に合格していく。

 ちなみにそれぞれのランクはというと、朱音がDランクで、貴洋、和眞、美波の3人がEランクである。つまりは、パーティで戦闘の要となるはずの晴人と春歌の2人だけが、最低のFランクとなったのだった。

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