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超人、あるいは変化をもたらす者。  作者: えくり
ウルム編
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5.罵声、あるいは何の価値もないもの。

「それでリーダー、これからどうするんだ?」

「そうね、せっかく二人組を作ったことだし、3手に分かれて動こうかしら」

「効率的でいいと思う。それでリーダー、僕たちはどうすればいい?」

「ちょっと、私のことリーダーって呼ばないで。……そうね、じゃあ戦闘班は冒険者ギルドに行ってきて。冒険者が使う宿で比較的セキュリティのしっかりしてるとこを訊いてくるついでに登録の方法とかも調べてくること」

「了解です、リーダー」

「ちょっと。で、財務班は商店街のほうね。この世界の相場とか調べつつ宿の情報を集める感じで」

「仰せのままに、リーダー」

「しつこい」

 サークルの代表だっただけあって、朱音はリーダーとして最も重要な役割分担をうまくやってのける。非効率的な指示はパーティ全体のモチベーションを損なう。

もっとも、その背後にはメンバーに対する、このくらいの仕事はするだろうという信頼があってこそなのだが。異世界に来てすぐから冗談を言える程度の余裕が、彼らにはあった。

「で、朱音たちはどうするんだ?」

「私たちはここに残ってるわ」

「おい」

「サボりじゃないわよ。私たちまで動いたらうまく合流できないじゃない。どっちかの班で私の判断が必要になるかもしれないし。それに、これの性能を確かめるのも、最優先で重要そうじゃない?」

 そういってタブレットを取り出す。

「確か、地上に降りたらマップが実装されるって言ってたし、他にも機能が追加されてるかもしれないでしょ」

「まあ、確かに」

「ってことだから、聞き込みのほうよろしくね~」

「はいはい。和眞くん、朱音がサボってたら槍で突いて働かせてね」

「了解っす」

「ちょっと」

 自分の役割がはっきりすると、各々すぐに行動に移った。べつにダラダラするのが嫌いな彼らではなかったが、今日の宿も決まっていないこの状況でサボってしまうと、後々より大きな面倒となって襲い掛かってくる。面倒は小さいうちに、晴人の好きな言葉である。


 教会で冒険者ギルドの場所を聞いていた晴人と春歌は、比較的スムーズに目的地にたどり着くことができた。

 ウルムほど辺境の街になると、冒険者を生業とする人が多いのか、冒険者ギルドは大きな建物であった。大きな建物といっても日本におけるビルなんかとは比べ物にならず、せいぜい田舎のコンビニくらいであったが。

 少し重たい扉をひらいて中に入ると、建物内には冒険者が3,4人いるだけで、案外静かであった。正午を過ぎたくらいのこの時間帯だと、まさに仕事に出ているのだろう。来客がほとんどないことを知っているのか、窓口にも受付の人はいない。ベルが置いてあるから用があるなら鳴らせ、ということか。

「おいおい、こんな時間に誰かと思えばヒョロいガキじゃねえか。お前らみたいなガキがデートで来るような場所じゃねえぞ?」

 それがイメージ通りかどうかは知らないが、晴人たちは先客の冒険者に絡まれる。少し呂律が怪しいところから察するに、どうも彼はお酒を飲んでいるらしい。

 日中から酒を飲んでギルドにたむろする冒険者など、それこそ誰なんだという話だが、余計なことを言うのは藪蛇というものだろう。

「なに無視してんだよ。それともあれか? びびって声も出せねえのか? どうせお前ら魔物相手じゃ何もできなくて殺されるだけだから、今のうちにしっぽ巻いて逃げとけって」

「女のほうはともかく、男のほうはなんだ? 武器も持ってねえし、筋肉もねえ。僕ちゃん魔法が使えますってか? ガキが使える魔法なんざ戦闘じゃ役に立たねえよ」

「嬢ちゃん、そんな頼りねえガキといるのはやめとけって。そういうモヤシはな、いざってとき女を置いて逃げるんだよ。女もろくに守れねえとは情けねえなあ」

「ちょっと、失礼じゃ……」

「あ、いや。失礼した」

 不愉快に浴びせられる侮辱に春歌が耐え切れず抗議しようとしたところで晴人がこれをとめる。バカにされていたのはどちらかといえば晴人のほうなので、当の本人にとめられてしまえば、あえてこれを振り払う理由はなかった。

「今日ここに着いたのでね。あんまり勝手がわからないんだ。まあギルドの人に訊いて、僕じゃムリそうなら、しっぽ巻いて逃げかえることにするよ」

 晴人は冷静な口調でそう伝えると、冒険者たちの追加攻撃を待たずに窓口のベルを鳴らす。冒険者たちの声が聞こえて来客があったのを知っていたのか、間もなくして受付と思しき女性が奥から歩いてきた。

 一応ギルド職員の前で揉め事はまずいらしく、冒険者たちは急に静かになった。

「お待たせしました。冒険者ギルド、ウルム支部のミシェルです。見慣れない方ですが、新規登録ですか?」

「あーいや、あとで登録には来るんですけど、今は情報収集ですかね」

「情報収集ですか?」

「はい。僕たちこの世界に来たばかりでして、まずは今日泊まれる安全な宿を紹介してもらおうと。あと、冒険者にはなるつもりなんですけど、仲間と一緒に登録したいので、宿を見つけて、荷物を置いて、今日の夕方か明日の朝にって感じですね」

「この世界に来たばかり……、そうですか、あなた方が」

 異世界から魔王を倒すための人材が召喚されるという情報は知ってる人には知られているらしく、ミシェルさんは合点がいったようだった。

 まあ、異世界人だから丁重にもてなせなどというわけではないが、ある程度常識的なことを知らなくても容赦してほしいものである。

「ええと、まずは宿でしたね。何かご要望は?」

「とにかく安全なところでお願いします。そうですね、女性だけで泊まっても大丈夫な程度に安全な。あとは……春歌なにかある?」

「うーん、欲を言えばお風呂が欲しいですね。あとは、布団かベッドか、ちゃんと寝られるようなとこがいいかなあ」

「それでしたら、そこの大通りをくだって行って、武器屋の手前で左に曲がったところに『月照庵』という宿があります。質素ではありますが大通りに近いので治安はいいですし、施錠などもありますから女性の冒険者さんにおススメしております。逆に食事も質素なものなので男性冒険者の評価は高くないですが……。お風呂はついてないんですけど、2つ隣が銭湯なので、そこをお使いいただければと。」

「なるほど、わりといい条件ですね。でも、そんないい宿なら部屋が埋まってるのでは?」

「料金がちょっと高くて、1人2食付きで50サリアなんですよ。裕福な女性冒険者はそう多くないですし、もっと裕福な人は自分の家を構えてしまいますから」

 50サリアがどのくらい高いのかわからなかったが、安全な宿の情報を得られただけで彼らにとっては十分であった。あとはパーティに持ち帰って貴洋たちの情報と、教会からもらった準備金と照らし合わせればよいのである。

「次に登録方法ですね。登録用紙に基本的な事項を記入していただいて、その後ギルド職員による試験を行います。最低限の戦闘か、支援ができれば一応合格ですので、冒険者になれないということはごく稀ですが、試験の成績で最初のランクが決まりますから」

「試験ですか……、僕ら一応能力はあるんですけど、実際に使ったことがないので……練習する場所とかあります?」

「訓練所がありますので、そこをお使いください。なんらな貸し切りにすることもできますので」

 武器や魔法の能力があることは天使の保証するところであるが、使ったことない状態で試験に挑んで合格できませんでしたでは笑えない。もちろん最終目標は魔王を倒すことで、ランクなどどうでもいいが、安定した収入と効率の良いレベル上げのためには高ランク合格が欲しいところである。

「いまのところ訊きたいことはこのくらいですかね。では、また伺いますので」

「承知しました、お待ちしております」

「……あ、そうだ。先ほど他の冒険者から挑発的な言動を受けたんですが、冒険者ギルドのルール的に許されるんですか?」

「先ほどの声はやはりそうでしたか。冒険者ギルドが介入できるのは冒険者間のトラブルだけでして、あとは衛兵さんの役割ということになってます。ですから、お二人が冒険者登録された後でしたら、通報していただけたら対処します。侮辱的発言も懲罰の対象ですので」

「なるほど。じゃあ、登録するときに、その辺りの規則も確認しますので、資料か何かがあるなら用意していただけると助かります」

「承知しました」

「ありがとうございます。では、また」

 晴人たちがまた絡まれないようにという配慮からか、それともギルド職員はそう指導されているからか、2人が建物を出るまでミシェルさんは窓口でお辞儀をしていた。

 最初、入ってすぐに絡まれたせいで冒険者になることに不安を覚えていた春歌にとって、ミシェルさんの対応は丁寧だったし、女性冒険者もそれなりにいるらしいというのは安心できる貴重な要素であった。

 それにしても、と春歌は思う。正直なことを言ってしまえば、あからさまに喧嘩を売られたにも関わらず大人な対応をしていた晴人は、少しカッコいい、といえなくもない、気がする。

びびって言い返す声が震えてるのは嫌だし、言い争いに発展するのも嫌だ。キレて殴りかかるなんてもってのほかだ。でも、自分だったら同じように冷静に対応できただろうか。春歌にはわりとカチンと来たし、できることなら力で黙らせてしまいたいような気すら、一瞬はした。

バカにされることに耐えられない自分を、ときどき感情的になってしまう自分を、あまり好きになれないし、かといって治し方もわからない。

「晴人さん」

「ん?」

「あいつらにバカにされたとき、イラっとしなかったんですか?」

「うーん、あんまり。彼らからの評価は、僕の価値を左右しないからね。それに、あの場には僕らと彼らしかいなかったから。とくに不利益はないでしょう? ……あー、ただ」

「ただ?」

「神田さんに頼りないと思われちゃってたら、それは悲しいかな」

 別に春歌から好かれたいとか、尊敬されたいとまでは思っていないけれど、頼りない先輩と思われるのは嬉しくない。いやまあ完全に頼られても困るんだけど。

 それに、晴人は戦闘班の班長、魔物と戦う際には指揮官を務めるし、いざというときは勝負を決めに行く。そうなったときに最低限の信頼感がなければ指示には従ってくれないし、任せてもくれなくなる。十分な能力を与えられている彼らにとって、連携の不備こそが最も懸念するべき事項である。

 晴人としては率直な感情が3割、合理的な思考が7割くらいの発言だったが、春歌がその割合を逆に捉えるくらいのことは、あってもおかしくはなかった。


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