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超人、あるいは変化をもたらす者。  作者: えくり
ウルム編
5/39

4.役割、あるいは彼らと生をつなぐもの。

途中で能力値が出てきますが、細かい数字が物語を如何することはないので、適宜流してみていただければと。

 魔法陣にのって召喚された晴人たちを出迎えたのは、白い衣装の人々と女性を模した銅像、そして質素ではあるが美しい内装の施された部屋であった。

 おそらくは教会なのだろう。神と天使に遣わされた異世界人が教会に召喚されるというのは何ともありがちな話であるが、他方でどこか想像と違ってもいる。42人もの異世界人を召喚するだけの大魔法だ、国の偉い人が大魔法師を何人も集めてお城の部屋で儀式をする、そんなイメージがあった。

 が、実際に召喚されたのは小さな教会。マップをみないと何ともいえないが、おそらく田舎にある地元の教会、みたいなところだろう。

 召喚という仰々しさと、地元の教会という平凡さがなんともミスマッチである。

「異世界から来られた方々ですね。お待ちしておりました。私はここ、ウルムの街で司教をしておりますアンネと申します」

「晴人です。とりあえず説明だけでも聞きたいので、ここでは僕が代表ということで」

「わかりました。残りの方々との挨拶は後にいたしましょう。まず、ここウルムの説明をいたします。ウルムは大陸の東域を統治するサザブール王国のさらに東端、シュヴァール辺境伯領の地方都市です。領都に行くのに馬車で3日、王都に行くのにそこからさらに7日ほどかかります」

「ずいぶんと遠いですね。王都で召喚してもらった方が楽だった気もしますが」

「いえ、ハルトさんたちが王都に行く必要はありません。むしろ、このような田舎にこそ魔物の脅威が迫っていますから。すぐにでも魔物討伐ができて皆さんの鍛錬にもなる田舎に皆さんを召喚した次第です」

「それはとても合理的ですね。まさに僕好みです。ではこの先しばらくは魔物討伐が僕たちの任務ですかね?」

「ええ、そういうことになります。その辺りの具体的な話は、私たちよりも冒険者ギルドの職員のほうが適任と思いますので、生活環境が整いましたら冒険者ギルドに行くようにしてください」

 まあ、教会の人が魔物の分布とか倒し方とかに詳しいとも思えないし、最低限の説明をされても重複するだろうから、やはり合理的な分担であった。

 その後は、教会の人こそ知っているようなこと、ウルムにある施設のことやこの世界の常識的なことを教えてもらい、それからお互い全員が挨拶をして、教会を出ることになった。

 少し慎重なところがある晴人としては、もう少し安全にこの世界に慣れたかったが、ウルムにしてもサザブール王国にしても、あまり余裕のない状況らしい。それならもう少し早くに召喚すればいいのにと思ったことは責められまい。

「さてと、まずは宿を抑えるのが優先かな?」

「そうだね。このタブレットにアイテムボックス機能があるからそんな広くなくていいけど、安全性はこだわりたいね」

「俺らはともかく後輩たちには安全な部屋に泊まらせてあげたいな」

「あら、貴洋の口からそんな言葉が出てくるなんて意外ね」

「もしかして俺は喧嘩を売られてるのか?」

「とはいえ、どの宿が安全かなんて知らんしなあ。アンネさんに訊いておけばよかった」

 言葉が通じるらしいことはわかったので、その辺の人に訊けないこともないが、それで正確な情報が来るともかぎらないし、そもそも異世界人に話しかけるのは相応の勇気が必要であった。

 何となくこれからどうしていいのかわからずにいた6人は、誰が言い出すでもなく公園のような場所に入り、輪になるようにして座った。

 その行為が異世界的に良いかどうかはわからなかったが、咎められたらやめればよい。異世界から来た神の遣いを、それだけのことで処刑したりはしないだろう。

「さて、これからどうしようか」

「僕としては、役割分担を決めてしまいたいかな」

「役割分担?」

「そう。さっきはとっさだったから一番前にいた僕が代表として振舞ったけど、何となく6人の代表は決めといたほうがいいかなって。重要なことはみんなで決めるにしても、いちいち話し合ってたら支障が出るだろうし」

 集団において権限を決めないということは責任の分配を決めないということである。そして誰もが均等に責任を負うというのでは、一人で行動するのと比べて効率が落ちることはあっても上がることはない。せっかく6人もいるのだから行動の能率をあげようというのが晴人の目的であった。

「というわけで、リーダーと各分野の担当者を決めたいかな。後輩が僕らに従っているだけっていうのも健全じゃない気がするから、学年は気にしない感じで。まあ難しいかもしれないけど」

 とはいえ、先輩後輩として過ごした時間はそう長くないので、案外すんなり対等になれるかもしれない、そんな風にも思っていた。

「それならいったんステータスを共有するのはどう? 私も晴人たちのはまだ見てないわけだし」

「僕はそれでいいよ。プライバシー云々を言ってられる状況でもなさそうだからね」

 そういうと6人は各々のタブレットを操作し、提示し合う。



潮見貴洋

基礎能力

HP:100 MP:50 STR:94 DEX:41 VIT:82 AGI:61

応用能力

剣術:LV1 盾術:LV4

固有能力

身体強化 挑発


内田晴人

基礎能力

HP:55 MP:50 STR:33 DEX:117 VIT:30 AGI:103

応用能力

弓術:LV1

狙撃術:LV4

固有能力

念話 遠目


山口朱音

基礎能力

HP:70 MP:50 STR:32 DEX:107 VIT:36 AGI:102

応用能力

弓術LV5 付与魔法LV1

固有能力

遠目 隠密 危機察知


髙橋和眞 

基礎能力

HP:80 MP:50 STR:92 DEX:33 VIT:79 AGI:83

応用能力

槍術:LV4

固有能力

鑑定 調合


神田春歌

基礎能力

HP:55 MP:150 STR:29 DEX:26 VIT:24 AGI:58

応用能力

使役魔法:LV5

固有能力

念話 平行思考


岩原美波

基礎能力

HP:50 MP:100 STR:22 DEX:66 VIT:50 AGI:50

応用能力

聖魔法:LV4

固有能力

加護



「なに、晴人も弓使いなの?」

「あ、そうか。朱音は弓道部か」

「そうよ。とはいえ、狙撃術なんてスキル取ってるってことはポジションは被らなさそうね」

「と思う。まあ、実際の戦闘については後で考えるとして……、日常生活に有利そうな能力はなさそうだね」

「死ぬ危険がある以上は戦闘時のことを真っ先に考えるのがセオリーよね」

 いかにこの世界での生活が順調であっても魔王を倒せなければ意味がないし、それ以前に死んでしまったらどうしようもない。やはり自分たちの居場所は日本であって、無事に、そして一刻も早く帰ることを考えるのは当然であった。

「俺の挑発はアクティブスキルらしいが、かっとなって使ったら目も当てられんからな。俺に交渉役はムリだろうな」

「貴洋の場合はそれがなくてもムリだろうけどな」

「あとは、私の危機察知がどのくらい有能かよね。抽象的な選択とか対人の場面でも機能してくれたらこれを軸に考えるのがよさそうじゃない?」

「頼りすぎなければ、いざというときに使えるようにして損はないだろうね」

「あ、あの……」

 3年生3人がマジメ半分おふざけ半分に話し合っていると、弱弱しい声が挟まった。

「どうしたの美波?」

「わ、私たちも何かの役職に就くんでしょうか……」

「そのつもりだけど……なんで?」

「いえ、その、自信がないといいますか……先輩たちみたいに賢くないですし……」

 ちなみに大学での成績は美波の方が圧倒的に上なのだが、晴人たちには嫌味で言っているわけではないとわかっているからあえて訂正はしない。謙遜合戦ほどムダな時間もなかろう。

「けど私たちに従ってばっかりなのも嫌じゃない?」

「あ、いえ、朱音さんたちを信頼してるので、その、ムリな命令とか強制がないなら……」

「うーん……春歌は?」

「うちはまあどっちでもいいですよ。正直役職? は面倒だし、先輩たちは信頼してるんで。だからまあやった方がいいならって感じですね」

「和眞は?」

「オレも春歌と同じ感じっすね」

 晴人と貴洋はともかく、ついさっきまでサークルの代表だった朱音にいきなり対等だと言われても戸惑って当然だろう。

とはいえ責任を負いたくないという意見もまた生命共同体の一員として言いづらい。そんな状況を考えれば美波たちの意見は十分尊重すべきものである。

「じゃあこうしよう。僕たち3人がそれぞれ担当の役職をもつ。で、和眞たちはどれかの補佐をするってことで。まあ誰が誰の補佐になるかは好きに決めてくれていいし、何ならちょくちょく変えても面白いかもしれない。これでどう?」

 パーティ運営に関する情報は補佐する役職の範囲で届くし、仕事をしている以上は意見を言いやすい立場にもなる。さらに先輩と後輩のペアを作ることでパーティ内の距離をある程度均一なものにできる。とっさに考えたわりには有意な案である。

 そして、3年の誰かが死んだとしても、問題なくパーティが運営されることになる。もちろん死ぬつもりもなければ負けるつもりもないが、万が一に備えられることがあるなら、しておくべきだ。

 こういう“嫌な”配慮をくみ取れてしまうことが、朱音には悲しかった。

「わ、私は、それでいいです」

「うちも」

「オレもっす」

「で? 晴人、3つの役職はどうわけるんだ?」

「まあ、権力とは金と軍事力なんていうからね。財務の担当と戦闘の担当を分ければいいでしょう。それとは別に代表者をつくって、これで3つ。どう?」

「それでいいんじゃない? 代表者がなにするかいまいちわからないけど」

「まあ渉外とか、内部統制とかじゃない? 後者はあんまり必要になってほしくないけど」

 現実問題、異世界での生活はおそらくほとんどが魔物討伐に費やされ、しかも依然としてお金が重要になる一方で、それ以外にできることがほとんどない以上この分け方が妥当だった。

 もっとも、緊急の状態になる蓋然性が高い異世界で、権力が分散していることが望ましいかどうかは議論の余地がありそうだが、民主的な国で民主的なサークルを運営していた彼らである、初期の段階でその発想がなかったとしても仕方がなかろう。

「異論がなければこれで。じゃあ誰がどれやる?」

「俺はバトル中は最前衛にいるから戦闘の担当はムリだろうな。で、交渉とかもムリだから財務になるのかな?」

「そうなるね。戦闘の担当は私もパスしたいかな。渉外とかならほら、私かわいいから」

「まあサークルの代表がリーダーってのもしっくりくるしそれでいいんじゃない? じゃあ和眞たちは誰を補佐するか決めてもらっていい?」

「ちょっと、スルーしないでよ」

「了解っす」

「ちょっと……」

 消去法的に戦闘の指揮官に選ばれてしまった晴人だが、彼にとっても好都合だった。念話という固有能力を持っている以上、彼だけが他の人に指示ないし命令をできる場面だって容易に想像できる。他方でお金の管理も偉い人とのやりとりも面倒でしかない。

 もっとも、こういう役割分担がうまくできるからこそ、この3人が同じパーティにいるのだが。

「ということで、うちが戦闘補佐になったんで、よろしくお願いしまーす」

 いつの間にか後輩だけの話し合いが終わったらしく、晴人の補佐には春歌が就いた。

 動きまわる狙撃手を使役魔法使いが保佐する。異世界でなければあり得ないタッグがここに誕生した。同時にそれは、パーティを必要としない最小単位のユニットの誕生でもあった。


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