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超人、あるいは変化をもたらす者。  作者: えくり
序章
4/35

3.仲間、あるいは行動を同じくするもの。

 能力の決定を終えた晴人は、狭い部屋を出た。パトリシアの指示があった通りに廊下を進むと、広いスペースに出た。地面は芝生だが、周囲も頭上も、壁と天井に覆われている。観客席のない東京ドームに近いだろうか。

 そして、その広場にはサークル部員たちがめいめいに散らばったり集まったりして座っていた。どうやらみんなが揃うのをこの場所で待機させられていたらしい。

 そのなかの一人、朱音が晴人に気づき、近づいてくる。

「遅かったわね。晴人が最後よ」

「ああ、すまん。魔法陣に入ったのが最後だったからかな。なんにせよみんな大丈夫そうでよかった」

「優柔不断な晴人のことだから能力選びに時間がかかっただけじゃないの?」

「ああ、それはあるかもしれない。朱音みたいに安直な思考回路じゃないからな」

 嫌味をいい合っている二人だが、仲が悪いというわけではない。というより、同期のなかでもかなり仲が良い二人である。1年生のころからこんな距離感で、この距離をお互いが心地よく思っているのだ。もちろん、友人として。

 男子高出身の晴人からすれば、からっとした性格の朱音は気を使わなくていいから接しやすいし、容姿端麗な朱音からすれば恋愛感情や下心なく、しかも隔たりなく接してくる晴人は信頼できる友人だったのだ。

「みな、集まっとるようじゃの。私はここを司っておる、神じゃ。みな、良き能力を獲得したことじゃろう。しからば、6人のパーティを組み、地上に降りなさい。パーティを組むにあたっては、そこらにいる天使に相談するのが良いじゃろう。みな、この世界を救うのじゃ」

 神と名乗った老紳士はいつのまにか現れ、それだけ言い残すと、どこかへと消えてしまった。全国の校長先生に見習ってほしいほど短い挨拶である。事務的なことは天使たちがやるからそれでよいのだろう。

「朱音、パーティの組み方はどうするつもりだ?」

「さっき幹部で話し合ったんだけど、基本的にはみんなに任せようと思って。異世界で生活するってなったら基本的には仲のいい人といるほうが安心だろうし。それで、能力的な不安があれば天使さんに、人間関係的なことなら私に相談するよう言ってあるわ」

「まあそれが妥当だろうな。じゃあ僕らも好きに組んでいいか?」

「うん、それでいいよ。けど、貴洋くらいしか組みたい人がいないなら残り4枠あけといてもらえると助かるわ。晴人たちなら能力に不安がある人でも預けられそうだし」

「あー、まあいいよ。一応、朱音も誘うつもりだったけど。男女わかれるのがアンバランスなんだとしたら、他の女子よりは、ね」

「何それ、下手な勧誘ね。ま、考えとくわ、ありがと」

 朱音は後輩たちが集まっているところに走っていった。

 一人でふらふらしていても仕方がないので貴洋と合流する。お互いこいつとは組むだろうなと思っていたから、見つけるのは簡単だった。というか、一人でふらふらしている人間が晴人と貴洋しかいなかったのだ。後輩は後輩で、先輩は先輩で、同期の女子は女子で固まっている。同期の男子はというと、晴人と貴洋以外の二人は幹部なので後輩たちの手伝いに行ってしまっている。

先ほどの朱音の言い方からするに、同期男子4人が同じパーティということにはならないだろうから、別にいいのだが。

「よ」

「ああ」

「とりあえず能力の確認からするか」

「まあそれが妥当だろうね」

 そういうと、各々タブレットを提示し合う。

 このタブレットは先ほどパトリシアが操作していたもので、初期設定が完了した後で渡してくれたのだ。今は自分の能力がみられるだけだが、地上に降りたら地図やアイテムボックスの役割をしてくれるらしい。なんとも便利なものだ。

 お互いのタブレットに表示された能力はこうだった。


潮見貴洋

基礎能力

HP:100 MP:50 STR:94 DEX:41 VIT:82 AGI:61

応用能力

剣術:LV1 盾術:LV4

固有能力

身体強化 挑発



内田晴人

基礎能力

HP:60 MP:50 STR:33 DEX:117 VIT:30 AGI:103

応用能力

弓術:LV1

狙撃術:LV4

固有能力

念話 遠目



「貴洋は、盾?」

「ああ、いわゆるタンクだな」

「足はやいのにもったいない。ふつうの剣士とかでもよかったんじゃないか?」

「そこはほら、晴人と組むってなったらタンクが必要だろ。お前、どうせ後衛だろうし」

「いやまあそうなんだけど」

 元の世界の晴人も、足が速くて手先が器用だが、筋力があるわけでも体が頑丈なわけでもない。テニスだって、遊びでやるテニスはサークルでもトップレベルにうまいが、ガチの試合になったらふつうに弱い部類に含まれるだろう。

 他方で貴洋は、高校で関東大会に出るくらいには強い。大学でも体育会に誘われたが、体育会の弱い奴になるくらいならサークルで一番になった方が楽しいといってサークルに来たくらいだ。そういう意味では、上には上がいるという言葉は恐ろしい。

「けど、ステータスを見るにスタンダードな後衛ってわけでもなさそうだな」

「まあそうだね。迷ったんだけど。うまく合わせられなくてすまん」

「あー、いや。お前は俺より頭がいいからな。なんか意味があるんだろう。その意味はよくわからんし、わからんくていい気がする。ま、実際の戦いのときに戦略を考えるのも多分お前だしな」

 そこまで信頼されると、晴人としてもくすぐったい。

 実際、晴人と貴洋は同じ大学に進学しているわけで、学部の違いがあるにしたって学力の差はほとんどない。どころか、貴洋のほうが良い点数になるテストだってある。

 それでも、貴洋からすれば晴人は自分より数段頭の良い人間なのだ。それは、記憶力とか真面目さとかによるものではなく、何というか驚異的な合理性があるのだ。そのうち余計なものの一切を捨ててしまうのではないか恐ろしくなるほど、彼は合理的な道筋をみている。

「それで、残りの4人どうするよ」

「さっき朱音と話したんだけど、人数調整とか余った人のケアに使いたいんだと」

「お前、前から思ってたけど朱音に優しいよな。そんなん無視して適当に組んでも良くねえかって思うだが」

「そうか? いやまあ他に組みたい人がいればそうするけど。4年生は4年生で組みそうだし、僕らと仲いい奴は合宿来てないし」

「そもそも、合宿来るのもそうじゃん。幹部じゃない俺らは合宿来ないで旅行に行ってもよかったわけで」

「将暉さんたちに誘われちゃったからなあ」

「……、ま、今はそういうことにしとくよ。余計なこと考えるのもばかばかしいし」

 貴洋としては晴人と朱音の距離感が不思議で仕方がなかったのだ。男女の友情が存在しないと思っているわけではないが、それにしては近すぎる気がするというか。優しすぎるというか。

 とはいえ、晴人としては朱音に恋愛感情などないわけで。しいて特別な感情があるというならばサークルの代表なんていう面倒な役割を担っていて大変だなあ、というくらいか。パーティの件にしても、晴人たちが勝手に組んだら余計面倒になるだろうなあ、とか考えてのことなのだ。

 その点において、晴人の合理性は不完全なものであるともいえよう。いや、いえないか。

 パーティ決めでごちゃごちゃしている後輩たちを眺めながら談笑して、30分くらいが経っただろうか。ようやく決まってきたようで、6人の塊が5つできている。

 そして、どの塊にも属していない10人が晴人と貴洋のもとへと集まってきた。その内訳は、2年の女子が2人、1年の女子が3人、2年の男子が1人、そして同期の幹部である3年の男女が2人ずつである。まさに各グループからあふれた人々という構成だ。

「この12人をどう分けるかだけど、バランス的に3年が2つにわかれようと思うの。晴人、貴洋、私と司、啓介、美穂。1,2年生は能力をみて考える感じでいいかな?」

 とりあえず3年生が2つにわかれた。3年生6人組という方法もないではないが、残った6人に不安があるのだろう。主に人間関係的な意味で。女子5人男子1人は気まずいか。

 晴人としては、朱音だけが役員のパーティから外れるのを心配したが、それを口にする前に思いとどまった。ここに召喚される前に貴洋と話してたことを思い出したのだ。司としてみれば微妙な心境だろう。

「正直なことをいえば、俺と晴人は1年の女子3人とほとんど接点がない。役員の3人と組んだ方がお互いやりやすい気もするけど」

「そうできたらそうしてるって。彼女たちみんな後衛なの、それも風香と美波は同じ聖魔法。同じパーティは得策じゃないでしょ」

「あー、なるほどね。それはそうだな」

「能力で決めるなら早く決めよう。感情がどうこうって局面じゃないからね。2年の3人はみんな前衛なの?」

「和眞くんが槍術、双葉ちゃんが剣術をもってるね。京香ちゃんは火魔法」

「神田さんは?」

「春歌ちゃんは使役魔法だっけ」

「はい」

「3年の3人は?」

「司が剣術、啓介が斧術、美穂が雷魔法よ」

 全員のおおよその能力を把握したところで、晴人は組み合わせを考える。本当は基礎能力とかも確認したほうがいいのだろうけど、面倒だし、ある程度推測できる。固有能力については、朱音が何も言ってこないということはとくに気にしなくていいのだろう。

 6人のなかから3人を選ぶ方法は20通りしかない。同じ組に入れられない2人がいるというなら12通り。この数なら全部検討してしまったほうが、あれこれ考えるより早い。

「おけ。じゃあ、僕のパーティに和眞、神田さん、あと坂本さんと岩原さんのうちVITの低いほう。これでいいと思う」

「え、なんで?」

「貴洋がタンクだから」

「え? それだとなんでその3人なの?」

 美穂が詳しい理由の説明を求める。役員が考えて決められなかったことをこうもあっさりと決められてしまうと、理由を訊かずにはいられなかった。晴人がいい加減に決めたとは思わないにしても。

 この点こそが、美穂たち他の同期と、貴洋や朱音といった仲のいい友人との違いともいえよう。貴洋たちは、結論を示されればある程度は過程を想像することができるよう知らず知らずのうちに訓練されていたし、想像ができないことは任せることにしているのだ。

 それは、良いことかどうかはさておき、面倒な説明をしなくていいという一点において、晴人の好むところであった。

「あー。まず前衛ね。貴洋がタンクである以上、盾を使う。リーチが長い槍なら盾の後ろから攻撃できるが剣だとこれができない。タンクの価値を活かすなら槍のほうがありがたい。次に、魔法。タンクと槍の組み合わせ的に陣形が縦型になる。後方からの接敵に対応するには使役魔法で目を散開させるのが嬉しい。火力不足で時間がかかるかもしれないけど確実だからね。最後に聖魔法の二人。タンクの貴洋が敵を引き付ける。挑発のスキルもあるらしいし。だとしたら乱戦にはなりづらいはず。初期値のVITはそっちより問題になりにくい。以上」

 晴人の説明は完全なものでも正確なものでもなかった。それに何より、晴人の能力構成に関する情報が含まれていなかった。が、ちゃんと話し始めると説明が長くなってしまうから、もともと口にするつもりがなかった。それでも十分説得的に聞こえる理由だし、美穂たちもあえて否定できるだけの根拠は持ち合わせていないだろう。

 気づいたらパーティが決まっていた後輩は可哀そうといえば可哀そうだが、司たちのパーティに入った3人は仲の良い先輩のほうに入れて、晴人たちのパーティに入った3人は安全な異世界生活を送れることになるから、いずれも甲乙つけがたく良い決定だろう。少なくとも晴人は、そう考えていた。

 晴人たちがパーティを決め終わると、広場に七本の光が当たり、それぞれに魔法陣を浮かび上がらせる。

「では、これから地上に転移させます。皆さんのご活躍を祈っております」

 パトリシアがそういって、晴人たちを魔法陣へと促す。天使に祈るというならわかるが天使が祈るというのも不思議だな、などと思いつつ、彼らはパーティごとに魔法陣のなかに入った。

 広場全体が強い光に包まれ、晴人たちは思わず目をつぶる。

 そして、次に目を開いたときには、そこは異世界であった。

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