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超人、あるいは変化をもたらす者。  作者: えくり
サザブール王国編
31/40

29.領主、あるいは統治するもの。

「ろく……5人とも、よく来てくださった。私がここの領主のレオナルド・フォン・シュヴァールです。王より辺境伯の身分を賜ってはいるが、とくに偉いわけではないので、リラックスしてください」

 緊張しながらリアムに連れられるがまま迎賓館に通された5人を出迎えたのは、想像よりもずいぶんと若い男性であった。

 迎賓館自体も、もっと煌びやかで宝飾の施された空間をイメージしていた現代人5人であるが、ずいぶんと落ち着いた様相である。それは、この地域の経済力を示しているのか、この世界の文化の表れなのか。いずれにしても、いくぶんは緊張がマシになるというものである。

「この度は、お招きいただきありがとうございます。異世界から来ました朱音と申します。そして、こちらから貴洋、和眞、春歌、晴人です。もともとはもう一人いたのですが、ウルムでの仕事がまだあるということで、残してきました。どうぞよろしくお願いいたします」

 そういうと、一同そろって頭を下げる。ぼーっとしている晴人であっても、最低限あわせなければならないところはわきまえている。

「そうか、もう一人も健在であるなら何よりです。ささ、みなさんもおかけになって」

 大きなテーブルの手間に用意されたソファに腰掛けるよう促される。貴族への謁見というよりは、首長への訪問という雰囲気である。まあ、領主も首長のようなものであるから、おかしな話でもないのかもしれないが。

「どうですか? この世界は。そろそろ慣れた頃合いですか?」

「ええ。ウルムでは街のみなさんに良くしていただいて、少しずつ馴染めてきたかなと。ただ、そのウルムを離れたところですので、まだまだ不安は大きいですが」

「そうですか。ウルムは私の所轄地のなかでもずいぶんな田舎ですから、ご不便をおかけしたんじゃないかと思ったんですが。とても良い領民に恵まれたようで良かったです。

 ……さて。私は私で、みなさんに訊きたいことがあります。そして、みなさんのほうでも、私に訊きたいことがあることでしょう。どちらからにしますか?」

 初対面の挨拶も早々に、探り合いのような時間もないまま、本題へと移るレオナルド。そういうものが苦手なのかもしれないし、単に忙しいのかもしれない。

「そうですね。私たちの訊きたいことは漠然としていて取り留めのない可能性がありますから。シュヴァール様のご質問にお答えするほうからお願いいたします」

「では、単刀直入に訊きます。あなた方は何をしにこの世界に来たのですか?」

「……」

 想定外の質問に、顔を見合わせる5人。もう少し当たり障りのないというか、興味本位な質問が飛んでくると思っていた。

「ああ、答えられなければそれでも構いませんよ。それで何か不利益があるということもありませんし」

「……いえ、少し驚いてしまっただけです。まずは前提の話なのですが、私たちは望んでこの世界に来たわけではありません。なので、主体的な目的があるかといえば、ないということになります」

「ええ、存じ上げていますよ。この世界の神官たちに呼び出されたのでしょう? そこで、何らかの神託を受けた。その内容を教えてほしいのです」

「シュヴァール様は、私たちが召喚されたことをご存じでしたよね。どういう理由で召喚されたかは、伝えられなかったのですか?」

「私は教会の会員ではありませんからね。ウルムの教会を使わせてほしいということで、()()の概要を教えてもらいましたが、それ以上のことは何も。まあ、教会からの依頼を無下にすると後が怖いので許可しましたが、領内で何が起こっているかは知りたいのですよ」

「そうでしたか。とくに口止めもされていないので、お伝えしますよ。私たちは、魔王を倒すよう告げられています。魔王を倒す方法として、魔王石を破壊するように、とも」

「……やはり、そうでしたか」

「予想はついていましたか?」

「ええ。ウルムよりさらに東、フロムベルクの森に魔王石があるという言い伝えは、私も聞いたことがありました。ウルムという小さな田舎街に召喚するということはそれが目的だろうと。それに……」

「それに?」

「私への依頼が、ウルム教会と真正同盟の連名だったんです」

「真正同盟?」

 5人がそろって首をかしげる。

「失礼。その辺りのこともまだご存じないのでしたね。では、私からの質問はひとまず以上ということにして、ここからはみなさんの疑問にお答えすることにしましょう。そうですね、さしあたり地理のことをお伝えしましょうか。きっと知りたいでしょうから」

「あ、すいません。その前に一つ、伺ってもいいですか?」

 ここまでのやり取りを朱音に委ねて、隅っこで静かにしていた晴人が、小さく手を上げた。中央に座る朱音から、余計なことを言うなよという牽制の視線が飛んでくる。

「どうぞ」

「魔王を倒す、という僕たちの目標。シュヴァール様にとってポジティブでした? ネガティブでした?」

 その質問を受けたレオナルドは、小さな笑みを口元に浮かべると、少し高い声でこれに応える。

「君は、ハルト君といったかな。とってもチャレンジングな質問で好感が持てます。ええ。お答えしましょう。私にとっては相当ポジティブな情報です。先ほども言いましたが、想定はしていましたから、喜ばしい、というより、安心した、ということになりますが。そのあたりも、地理の話をするなかで、できる限りお伝えしましょう」

「ありがとうございます」


「これを見てください」

 職員と思しき人が、紅茶とお菓子と一緒に運んできた紙を広げながら、レオナルドは話し始める。手書きの簡素なものではあるものの、どうやら地図のようだ。

「私たちがいるサザブール王国が、ここ、大陸東の国です。そして、すぐ北にはメクダール王国という国があり、大陸の沿岸部分を左回りに聖国、妥協帝国、ノヴォーク共和国という国が並び、サザブールのすぐ西にヌラバール王国という国があります。そして、唯一海に面していないのが、先ほど話に出てきた真正同盟という地域になります」

「地域、ですか?」

「少し遠回りな説明になりますが、ご容赦ください。この大陸には、大きく分けて3つの陣営がありました。一つが、旧レグナス家。サザブール王国とメクダール王国、ヌラバール王国の3か国はもともと一つの国でした。それがレグナス王国です。それが分裂してこの3か国となりました。分裂とはいえ、旧レグナス王国を一緒に解体し、統治可能な広さごとに国家としたものです。したがって極めて良好な関係ですし、とても安定しています。

 次に、旧アウレリア連邦。こちらはかなり自由度の高い連邦制を敷いており、経済活動も活発でした。しかし、州ごとの経済格差が顕著となり、ちょっとした紛争ののち、比較的貧困な西部が見捨てられる形で、ノヴォーク共和国とゴルラッド=セグレード二重帝国に分裂しました。帝国のほうは、さらにその内部での主導権争いが続いているようです。

 最後が、ソレア教です。これは聖国の母体ですが、他の地域にもソレア教の信者はいますし、関連施設も多くあります。ちなみに、他にも宗教はありますが、ソレア教ほどの組織力や影響力はありません。

 とまあ、3つの陣営があったわけですが、ソレア教と他2つには決定的な違いがありました。それが、魔族への態度です。

 ソレア教は、その本拠地が魔族領……ここですね、に近いこともあって、かなり魔族に融和的です。まあ、博愛主義というべきでしょうか。これに対して、他の地域では、魔族に関する嫌悪感がかなり強い。魔物の被害が大きいというのもあるかもしれませんし、もっと根が深いのかもしれません。ソレア教以外の宗教もまた、排魔主義を採っています。

 そこで、ソレア教と対立し、圧力をかけるために結成されたのが「真正同盟」です。各国から2人ずつ、各種ギルドといくつかの宗教団体から1人ずつ、現在は計19人で結成された真正同盟会議が母体となって運営されています。

 なので、国ではなく、地域、ということになります。

 先ほどのハルト君の質問にポジティブと答えたのも、そういう理由です」

 本音を言えば、レオナルド自身は魔族の存在に肯定的でも否定的でもなく、それどころか魔族を目にしたことすらない。それは、多くの貴族や政治家も同じことで、だから教義の部分で心の底から対立している人というのは、実は少ない。言ってしまえば、ソレア教に対する警戒の口実でもあるのだ。

 翻って晴人たちと言えば、実際に魔族たちを見ている。魔族と協力した、などと言ってはどうなるかわからないので、あえてしゃべることはないが。確かに危険だと考えて排除するのもわかるし、会話できる相手であるから友和を試みるというのもわかる。

 まあ、晴人たちが命じられているのは魔王の妥当であり、他の魔族は対象外であるから、どちらでもいい話ではあるが。どうせ魔王が倒れても、数年もすれば次の魔王が君臨するのであろう。

「そういえば、みなさんは、お知り合いを探しているといってましたね? 具体的にどこにいるとかの目星はついているんですか?」

「おそらく、ですが。このマップ、まだ一部しか書かれてないんですが、その白い部分に黒い点がありますよね。この辺りにいるんだと思います」

「ほう。この装置も気になりますが、マップもずいぶんと綺麗に書かれていますね」

「これは召喚されるときにもらったものです」

「そうでしょうね。少なくとも私は、この世界でこのようなものを見たことがありませんから。おっと、それでお知り合いの場所でしたね。こちらの地図と比較すれば、おおよその位置がわかるかもしれません」

 レオナルドを味方だと決め打ったわけではないが、情報が得られそうなタイミングで、こちらが出し渋っていても仕方がない。そう思ってデバイスを渡すと、レオナルドは熱心に紙の地図と見比べる。縮尺が全然違うし、紙の地図のほうは正確性も怪しいところであるが、この世界の人間ならある程度心当たりのある場所があるのかもしれない。

 別に用意した紙にメモを取りながら、うんうんと唸ること数分。顔を上げたレオナルドが口を開いた。

「おおよその目星はつきました。あくまでもおおよそですが。6つの点はおそらく、5か国と1地域に、それぞれ1つずつあると思われます。とはいえ、遠国まで行った経験も少ないので、具体的な場所まではわかりかねます。

 ただ一か所。ここだけは心当たりがあります」

 そういって指さしたのは、現在いる位置から直線距離で最も近くに位置する点であった。

「これは距離と方角からして、真正同盟のほぼ中央でしょう。となると、そこにあるのは、ブレイデンの地下迷宮でしょう」

「地下迷宮……ですか?」

「ええ。真正同盟の中央の都市、ブレイデンの地下には魔物が多く生息する地下迷宮が存在している、という話です。私も実際に行ったことがあるわけではないので噂レベルですが。そこで名声を上げたり、実力をつけたりしようと、この領地からも何組かの冒険者が向かいました。みなさんのお知り合いも、そこで訓練をしているのかもしれませんね」

 正確には、黒い点は魔王石の位置なのだが、そうだとしても辻褄はあう。サザブールのなかでも魔物が多いフロムベルクに魔王石があったのならば、真正同盟のなかでも魔物が多い地下迷宮にあっておかしくない。

「いずれにしても、この点が真正同盟のほぼ中央に位置することには変わりませんし、真正同盟の情報を集めるのであれば、ハルヴァティエに行くのが正着だと思いますが、いかがでしょう」

 そう提案されて、再度顔を見合わせる5人。

 レオナルドから示された情報がすべて真なら、それこそブレイデンに向かうのが正解なのだろうし、目のまえの彼が嘘をついているようには思えない。というか、嘘をつかれていたらどうしようもない。

 が、ここまで親切に提示されると、裏があるように思えてしまう。行先を誘導しようとしているのではないか、と。

「申し訳ない、警戒させてしまったね。お察しの通り、実はこの話には裏がありましてね。先日、私のもとに、面倒な手紙が来たんですよ。差出人は真正同盟で、まあその時点で嫌な予感がしたんですが」

「手紙……ですか」

「内容は、会議への参加要請でした」

「サザブールからも2名、真正同盟会議の議員になっているんですよね? シュヴァール様が選ばれたということですか?」

「いやいや、さすがに会議側も王国側も辺境伯を議員にしようなんて思わないですよ。国によっては平民の出の文官が選ばれていますから、そことのバランスをとる必要もあります。何より、私もこう見えてそれなりに忙しいですからね。今回は参考人としての参加要請です」

「しかし、辺境伯閣下を参考人として呼ぶとなれば、その方が難しいのではないでしょうか」

「そうなんですよ。そんなわけで、名代を立てる必要がある、がその人選がかなり難しいのです」

 辺境伯自身が赴くと()()が大きくなるというのは当然のこととして、代理に直系卑属やら皇位継承者やらを出席させたのでは同じことである。が、あまり関係の遠いところを送ってしまっては、辺境伯に対して出席要請を出した意味がなくなってします。

「ところで、議題はどういったものなのでしょう。参考人ということでしたので、もっとも詳しい人を送るのであれば、理由は立つかと」

「そう、その議題もまたとても面倒でしてね。そのまま読み上げますと『大陸各地に召喚された勇者の動向と、今後の取り扱いについて』です」

 ここにきてようやく、先ほどの裏があるという発言につながってくる。

 要するにレオナルドは、晴人たちをこの会議に利用しようとしているのだ。

「そんな顔をしないでください。さすがにみなさんを代理として送り込む気はありません。そんなことをすれば他国や同盟から非難されかねませんし」

「……今はそのように受け取っておきます」

「まあまあ、続きを聴いてください。

……おそらく私は、みなさんが召喚されたウルム教会の統治を任されている身として呼ばれています。しかし、私はみなさんのことを知りません。というか、この領都にいる人間は誰も知りません。ウルムの人が最も詳しいでしょうが、国際会議に出席するにふさわしい身分の人がいません」

国際会議への出席にふさわしくないと言われてしまったエアハルト氏のことを思い出す5人。まあ、国際会議にいるイメージはないか。

「ということで、完全に困っていたところに、あなた方がやってきたわけです」

「しかし、私たちは出席しないのですよね?」

「ええ。むしろ、みなさんには、出席者の護衛をしつつ、その間にみなさんのことを伝えてあげてほしいのです。その代わり、みなさんの馬車も用意いたしますし、出入国の手続もこちらでやっておきます」

「こちらにとても都合のいいお話に聞こえますが。しかし、シュヴァール様。私たちの最終的な目的は魔王を倒すことであり、真正同盟に友人たちがいればそれで終わりというわけにはいきません。往きの護衛は私たちで賄えましょうが、帰りはいかがするおつもりでしょうか」

「ああ、それなら問題ありません。真正同盟には腐るほどの冒険者がいるし、会議お抱えの優秀なパーティもいくつかありますから」

「そうなんですね。ところで護衛は私たちだけですか?」

 貴族のもとから国際会議に出席するなどということになれば、それこそ騎士たちが大行列をなしながら移動しそうなものだが、違うのだろうか。まあ晴人たちにしてみれば、少人数のほうが動きやすくて楽ではあるが。

「まさにその点が、みなさんにご協力いただきたいところなのですよ。私が会議に送ろうと思っていたのが、私の姪にあたる人物です。姉の娘ですので、血縁にはありますが、貴族の身分ではありません。とても聡明でして、将来は外交官か財務官の長官になるだろうと思っています。が、まだ幼い。騎士団と一緒に移動するなかで彼女に取り入ろうとする連中がいても困ります。ですが、みなさんでしたら、取り入るも何も、すぐ次の目的地へと行かれるでしょう?」

 そうなると、帰りの冒険者が取り入る可能性はないのか、という気にもなるが。あるいはその、会議お抱えの優秀な冒険者をよほど信頼しているのかもしれない。

「まあ、そんなわけですから、姪と、まあ補佐官を一人つけて、2人の護衛を依頼できませんか?」

 三度顔を見合わせる5人。念のために確認しただけで、朱音のなかでその結論は決まっているのだが。

「それでは、そのお話、謹んでお受けいたします。いずれにしても、真正同盟の近くに友人たちがいそうで、そこに行く最も確実な道のりがあるのでしたら、これに乗らない手はありませんから」

「それはそれは。どうもありがとうございます。細かい内容や報酬については、後日姪たちがいるときに一緒に確認することにしましょう」

「承知しました」

「出発は3日後です。その前日に顔合わせと打ち合わせを行いますから、明日一日はゆっくり領都の観光でもなさってください。宿はこちらで手配して、この後ご案内します」

「ありがとうございます」

 そういうと、次の仕事があるのか、レオナルドは部屋を後にした。残された5人はしばらくして入ってきた役人に連れられ、宿へと向かうのであった。


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