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超人、あるいは変化をもたらす者。  作者: えくり
ウルム編
22/40

20.危機、あるいは突然訪れるもの。

「さて。今日のルートだけど、どうしようか。」

「また長城のうえを行けるところまで行くんじゃないの?」

「まあそれもありだね。ただ、もし魔物が魔王石に近づくにつれて強くなるんだとしたら、ちょっとずつ慣れていったほうがいい気もする」

「なるほど」

 現在の晴人たちにとってイデュルムの森にいる魔物は勝てる相手であって、十分に準備していけば危ないということはない。

 が、長城のむこう、フロムベルクにいる魔物ことを、彼らは何一つ知らない。彼らだけでなく、ウルムにいる誰もが知らないのだ。

 もしイデュルムの森と同程度なら心配することはない。連日の外泊によって健康を害さないかぎりは楽に目的を達するだろう。

 あるいは長城のこちらとあちらで強さが変わるというのなら判断は簡単だ。フロムベルクでちょっと戦ってみて、勝てそうなら前進すればいいし、負けそうなら撤退してまたスキルを育てていけばよい。まあ撤退できるかという話はあるが、それは常にそうだ。

 面倒なのは魔王石に近づくにつれて徐々に強くなるパターン。どこまでが楽勝で、どこが限界で、あるいはどこからが危険なのか、明らかでない。

 そして先人の記録が残っていない以上は、どのパターンであるかすら自分たちの身をもって確かめるしかない。

「せっかく拠点をつくってもらいましたし、ここでむこうにわたって、ムリそうならここを拠点に鍛錬するっていうのでいいんじゃないですか?」

「そうね」

「その場合は魔物の数の関係でもう少し進んだところに別の拠点を作って1日おきに交代したほうがいい気がするけど、まあその辺はあとで考えよう」

 降りてみたらびっくり、意外と楽勝でしたなんてこともあり得ない話ではない。魔物の分布やら強さやらの理論がまるで分らない彼らには、いずれにしたって未知数である。

「それじゃあ、むこうに降りてみるということで」

しかして彼らの心配は、結論をいってしまえば、杞憂だった。

 長城のこちらもあちらも魔物の強さはほとんど変わらない。多少、出会う頻度が高くなっているような気もするが、それ以外に異なるところがなかった。ともすれば、今どちらにいるのかわからなくなる、くらいには。

 まあフロムベルクの森も、それ自体十分に広い。蟲毒的なことは起きていないらしい。

「そうなると、こんどは退屈だよな」

 何の気なしにつぶやく貴洋だが、その要望はなんとも難しいものである。つまり、戦えば勝てるくらいには弱くて、しかし圧勝しないくらいには強くあってほしい、と。子供の遊びに付き合う大人の手加減くらい難しいものである。

 もちろん、そんなことは当人だって百も承知だろうが。

「どうしよう。私と晴人はいつもみたいに散開してたほうがいいかしら?」

 朱音が春歌に尋ねる。いちおう戦闘の班長というか、責任者は晴人ということになっているのだが、現場での指示はいつも春歌がしている。普段の癖で彼女に尋ねるのは当然だし、晴人だってそれで当然という表情である。

 もちろん、尋ねられた方は戸惑うわけだが。

「そう……ですね。しばらくは安全第一に進みたいので、朱音さんはうちらの近くを進んでください。射線が通りやすいように動いてもらっていいんですが、いざというとき声が届く位置でお願いします」

「了解よ」

「その言い方だと、僕は別行動かな?」

「そうですね。高い位置で少し先を進んでほしいですね。うちの索敵がまだ準備できてないんで」

「あー、なるほど。了解」

 一応パーティのなかで異議が出ないことを確認して、晴人は軽々と木の枝に乗り、前に進んでいってしまった。

 思えば索敵という役割を果たすのは、ずいぶんと久しぶりである。基本的には春歌の使い魔たちに任せていれば十分だった。スピードのみならず火力も高い晴人を索敵に使うのが勿体ないというのもあった。

 そういう意味では、主力として参加しない行進自体が、久しぶりといえる。

(330の方向、250メートル先にイノシシ型。僕にもみんなにも気づいてなさそう)

(了解です)

 途中見つけた敵を報告すると、攻撃することなく先に進んでいく。5人に信頼して任せられるというのは、とてもありがたいことだ。

 自分が活躍しすぎてワンマンにならないように気をつけようと、改めて思ってみたりもする。

 そんなこんなで、彼らは順調に前進した。

 もちろん1日でフロムベルクの森を踏破できるわけもなく、途中で仮拠点を築かなければならない。

目標となる地点まで先に到達した晴人が、あらかじめ仮拠点を建てたうえで、残る5人を待つ。

「ありがとうございます。お風呂も」

「ああ、いや。今日の僕は何もしてないからね。実に平和な一日だったよ」

「全部譲ってもらったからな」

「まあ、無事で何より。あ、和眞。食材だけそこの葉っぱの上においといて」

 まっすぐ歩きながら、途中で魔物と出くわしたらこれを倒す。一定の距離を進んだら行進をやめて拠点をつくる。その日とったもので食事を摂り、即席のお風呂に入って寝袋で眠る。

 わずか2日めにしてずいぶん慣れたようである。

 魔物が想像より攻撃的でないにしたって、ずいぶん安定した足取り。焦る様子もなく、苦戦する様子もなく。このまま順調に、魔王石までたどりつくと誰しも思っていた。


 同じような1日をさらに1回おくった、あくる日。すなわち遠征4日目。

 彼らは何の変哲もない朝をすごした。

 晴人は晴人で、5人は5人で昼食を取り、さらに前進を再開しようと思った昼下がり。

 平和に思えた森のなかで、突如として女性の叫び声が鳴り響いた

「きゃーーーー」

 当然6人は、驚かずにいられなかった。

 この森に自分たち以外の人間がいるということと、その誰かがピンチであるということに。あるいは、その声にどこか、聞き覚えがあったのかもしれないが。

(聞こえた?)

(はい。だいぶ小さくですが)

(たぶん僕の方が近くにいると思う)

(行きますか?)

(さすがに)

(了解です。朱音さんに全力で追ってもらって、私たち4人は固まってそちらに向かいます)

(こぴ)

 念話の能力で意思疎通する晴人と春歌。そのやり取りをしながらも、晴人の足は全力で悲鳴の方へと向かっている。

 女の人の悲鳴が届いたということは、そう遠くではないだろう。と、いうことは。そう遠くない距離に、人を襲うことに成功した“何か”がいる。おのずと緊張感に包まれる。

 5分ほどであろうか。

 接近に気づかれない最も速いスピードで、その現場にたどり着いた。

 そこには3人の人影。横たわる男性と、傍らに立つ女性。そして少し離れて対峙する男性。近くにいる2人は、晴人の知っている人たちであった。

 しばらく様子をうかがって、交戦の気配がなかったことから、その女性に近づいた。

「オルネラ」

「っつ。ハ、ハルトさん。助けてください」

 一瞬驚いてこちらを振りむいたのち、再び対峙する男のほうに視線を向ける。かなりの緊張感だが、むこうも隙あらば攻撃、というわけでもなさそうである。ずいぶん不可解な態度だが。

「もちろんそのつもりで来た。ルチアーノは」

「腹部を深く切られて……。このままじゃ出血で」

「間に合いはしたのか、よかった。もうすぐ美波が来る。聖魔法が使えるから、ある程度回復させられるはずだ。それまではポーションを飲ませるしかない」

 そういってアイテムボックスから取り出した瓶をオルネラにもたせる。晴人が男を見張っておくから飲ませてあげてくれ、その意図を組んだ彼女はルチアーノの口元にその瓶を運ぶ。

 ポーション、といっても、ゲームみたいにHPが回復するわけではない。鎮痛作用と解熱作用があるだけなのだ。

 とはいえ、意識は失っておらず苦痛に悶えている彼には、無意味なそれではないだろう。

 同時に、布を取り出して、傷口を止血する。男から目を離せない状況ではそんな作業も難しかったが、晴人の目があるというだけで幾分状況はマシとなった。

「それで、あいつは?」

「魔族、と名乗ってました」

「ルチアーノを攻撃したのもあいつか?」

「はい。けど、初撃をあてて以降は近づいてきません。こっちからも手出しができなくて、膠着状態でした」

「なるほど」

 ずいぶんと不思議な状態のようだ。殺すかどうかは別として、オルネラにも攻撃を加えそうなものだし、そうでないならこの場を去っていそうである。

 が、確かにこちらを見つめるばかりで近づいてこない。晴人としては、応援が到着するための時間が稼げるから悪いことではないが、圧倒的に不気味ではある。

「晴人」

「ああ、朱音」

 音もなく朱音が近づいてきていて声をかける。彼女はそばにいる男女を一瞥して、それがルチアーノとオルネラであることに気が付いたらしい。そして、どういう状況かを把握する。

「すぐに美波ちゃんのとこに連れてきたいわね」

「僕が奴の気を引くから、その隙に後退できる?」

「どのくらい気を引けるかにもよるけど。まあ、美波ちゃんがここに来るよりは安全な途かもしれないわね」

「じゃあ、それで」

「くれぐれも、ムリはしないでね」

 さすがに、オルネラにルチアーノを担がせて後退させるのはムリがある。が、朱音が来れば話は別だ。

 晴人はそっと息を吐くと、正面の男を睨んだままゆっくりと横に移動する。

 魔族を名乗ったらしいその男は、一瞬どちらに意識を割くか逡巡した後、晴人についてきた。大人数を放置することと、この場を離れられることを天秤にかけて、後者を咎めに来たらしい。

 男がついてくることを確認して、晴人はスピードを上げる。ついてこられそうだけど、追いつかれなさそうな速度に。

 背中にただならぬ圧力を感じながら、3人が安全といえそうなところまで走り続ける。

 と、急に男は負うのをやめて制止し、晴人に話しかけてきた。

「少し待ちたまえ」

 もちろん、言われた通りに待ってあげる義理はないのだが、ここで引き返して朱音たちのほうに走られても困る。少なくとも、ルチアーノの治療が終わるくらいまでは。

(いま接敵してるが、みんなは昨日の仮拠点まで戻っていてくれ)

(でも、それだと晴人さんが)

(まあ、僕は大丈夫。いまのところ逃げ回ってるだけだし、追いつかれる感じでもない。とにかく7人の安全が確保できたら教えてくれ)

(了解です)

 それらしき連絡をして、晴人もまた足を止めた。

「貴殿が、召喚されたという異世界の者ですかな?」

「そうだとしたらなんですか?」

「その反応はあたりのようですね。何と運のよい」

 男はどこか嬉しそうである。もちろん晴人からすると、ひどく運の悪い話なわけで。

 反射神経的に苦い表情をつくると、さらに微笑みながらこう言った。

「さて、異世界人よ。交渉をしようじゃありませんか」

気づけば20話ということで。

ペースがはやいのか遅いのかはわかりませんが。

登場人物に親しみを覚えていただけてたら最上の喜びです。


評価☆等もお待ちしております。

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