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超人、あるいは変化をもたらす者。  作者: えくり
序章
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1.天使、あるいは彼らを導くもの。

 コンコン。

 扉をノックするような音で目を覚ますと、晴人は狭い部屋の中で椅子に座っていた。いつのまに眠ってしまっていたのだろうかと記憶を整理して、奇妙な魔法陣で飛ばされてきたことを思い出した。これはその、奇妙な話の続きらしい。

「どうぞ」

 それが誰かわからないが、外で待たせ続けるのも失礼なのでとりあえず入室を許可する。いや、そんな権限があるかもわからないけれど。

 一瞬、怖い人が入ってくるとか、入ってきた瞬間襲われるのでないかとか考えたりもしたが、目の前のアクリル板が防いでくれるだろう。

 というか、今座っているパイプ椅子にせよ、このアクリル板にせよ、あるいはこの狭い部屋それ自体が、嫌な連想をさせる。

「失礼します。内田晴人さんですね?」

「はい、そうですけど……」

「私はあなたの担当天使、パトリシアです。以後よろしくお願いします」

「はあ、よろしくお願いします」

「あら、意外と落ち着いてますね」

「いやまあ、何もわからないんで。パニックになっても情報を拾い損ねるだけかなと」

 より正確にいえば、パニックになれるだけの情報すらもっていないだけのことだったのだが。あるいは晴人も一介の大学生なれば、目の前の美人に少しでもいい恰好をしたいと思っても、それは仕方のないことだろう。

「あなたの友達たちはもう少し焦ってましたけどね」

「そうですか、彼らも似たような境遇ですか」

 それを聴いて、彼は少し安心する。そう、晴人と貴洋たちとでは、魔法陣に入ったタイミングが違った。その少しの違いが、もしかしたらとんでもなく大きな差となっていたかもしれない、そうだとすれば永遠に会えないどころか、何の情報も得られないまま終わる可能性もあったのだ。

「ええ、あとで会えますよ」

「それは良かった。では、状況の説明をお願いできますか?」

「わかりました。そうですね、端的にいってしまえば、あなたがたは異世界に召喚されたのです」

「あの合宿40人くらいいましたけど、全員ですか?」

「はい、42人全員です」

「それは……大変でしたね」

「それだけ大きな魔法が使われたということです。それで、この世界の神は、あなた方の召喚に際して、使命と能力を与えることにしたのです」

 晴人の表情が少し苦いものになる。召喚されたのはまあいい。よくはないけど、まあいい。能力をもらえるのもメリットが大きい。問題は使命とやら。特別に能力を付与しなければならないほどの仕事。異世界から人を召喚しないといけないほどの仕事。

 大学院まであわせてあと3年ちょっとのモラトリアムが消滅し、しかもおそらく肉体労働。ギリギリまで就労を遅らせつつ、コスパの良い職に就くという計画が吹っ飛んでしまったのだ。文字通り頭を抱えなかっただけでも、晴人としては良く我慢したほうだろう。

「すごく嫌な予感がするのですが、使命というのは?」

「この世界の魔王を討伐していただきます」

「まあ、そうなりますよね。ということは、それができるだけの能力をもらえると考えても?」

「もちろんですとも。とはいえ、天界からできる介入には上限がございます。潜在能力と多少優秀な初期能力を差し上げるのが限界ですから、鍛錬によって成長していただくことが必要になりますが」

 晴人としては納得するに十分な約束だった。いずれ成長することがわかった状態での鍛錬ほど楽しいものはない。なぜなら鍛錬するほど成長できるのだから。現実世界で努力が苦しいのは、それによって成長できているという実感もなければ、今後成長できるという確信もないから。これらが解消されれば、誰だって努力できるだろう。

 しかも今回は42人で協力すれば良いのだ。何なら42通りの能力があれば、いずれか1つが魔王によく通るということだってあり得る。

 というか、42人もの人間を召喚するだけの魔法を行使したのだから、召喚した側もそれなりの成果が見込まれなければ可哀そうである。逆に言えば晴人たちはそれに巻き込まれた側、楽な仕事だったとしてもそこに負い目を感じる必要は微塵もないというものだ。

「ここまでで何か質問はありますか?」

「大きな質問が4点あります。まず、魔王討伐の条件、タイムリミットなどはあるのでしょうか。次に、その世界で死んだ場合、あるいは魔王を討伐した場合にはどうなるのでしょうか。そして、他の部員とはどのタイミングで合流できるのでしょうか。最後に、もらえる能力はどのように決まり、どのように知ることができるのでしょうか」

「まとめてくださってありがとうございます。まず、魔王討伐に条件はありません。死ぬまでに、です。この世界で死ねば、元の世界には戻れません。魔王討伐がなされればその時点で生きている人が元の世界に戻れます。最後の一人、すなわちあなたが召喚された時間に戻れますから、タイムリミットはないともいえますが、年をとれば魔王を倒すのも難しくなるでしょう」

「……失礼、魔王討伐は僕たち42人の誰かの手でなされる必要がありますか?」

「良い質問ですね。必要なことは魔王が死ぬことです、手段も主体も問題となりません」

 晴人のなかで採りうる選択肢が生じては消えてを繰り返す。地上に降り立ってから考えればよい、とも限らない。それこそ、能力との関係でも。

「ではこの後の流れを説明します。残り2つの質問は、この説明で解消されると思いますので」

 そういうと、パトリシアは1枚の紙を取り出し、晴人が読めるように差し出した。アクリル板越しでも読めるように、そして誰にでも理解できるように、大きなフローチャートのようなものが書かれている。

 こういった手際の良さというか、準備の周到さをみるに、異世界から人を召喚するということは、思ったより少なくないのかもしれない。

「状況の説明と使命の通達が完了したら、次は能力の設定に進みます。ここでは担当天使と相談しながら転移者に適した能力を設定することになります。詳しくは後でお伝えしますね。そして、全員の能力が決定したら、みなさんに集まっていただき、パーティを組んでいただきます」

「パーティ?」

「ええ、42人が同じ場所に召喚されるとこの世界のバランスに悪影響が出ますので、6人ずつ7か所に散ってもらいます。もちろん、しばらくすればあなた方もまたこの世界に馴染みますので、召喚後に合流していただくのはかまいません。もっとも、各地に散らばる魔王石を破壊してから合流することをおススメしますが」

 魔王石がどこにあるのかにもよるが、集まってから各個破壊していけばいいような気がする。それをおススメしないということは、それが困難になるような事情が何かあるのだろう。例えば、この世界がびっくりするほど広い、とか。

 まあいずれにせよ、6人1組で動けるのであれば異世界で独りぼっちになる心配もないし、初期の能力不足もある程度補えるだろう。

「パーティの組み方は、能力のバランスなども含めて私たち天使と相談しながらということになります。よほどのことがなければ皆さんの要望通りだとは思いますが……」


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